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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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ナンパじゃなくて…

その後、池は綺麗に埋め直され、見た目は元に戻ったものの、亀一が土壌を調べた所、池が出来た所から、2メートルの周囲の土からは、有害物質が出てしまい、園芸部の畑は、1年間のお引っ越しを余儀無くされてしまった。


だが、考えてみれば、龍介が策を講じなかったら、あの化け物は、いずれ池から出てきて、生徒達を襲ったかもしれないし、周辺の限られた範囲の土壌汚染程度の被害で済んだのは、ラッキーだったと言えるかもしれなかった。

その土壌汚染も、一年位で元に戻る類いの軽いものらしいし、寅次郎の方で中和剤の様な物を撒いてくれたので、実質、既に無害にはなっている。

畑のお引っ越しは念の為という事だ。


しかし、原因や化け物の正体に関しては…。


「やっぱ、父さんが木っ端微塵にしちまったから、分かんねえのか…?」


1週間後、寅次郎と話したと言う亀一に、幾分顔色を悪くして龍介が聞くと、亀一は苦笑しながら答えた。


「まあな…。寅次郎さんの方でも、画像やモニタリングしてたデータでしか分析出来ねえから、かも知れないのオンパレードになっちまったそうだが、データから行くと、あの化け物は、生命体だった。

内臓とかの有無は分からねえが、自力で意思を持って動いていたと考えられる。

この辺りに産業廃棄物や不法投棄の形跡は無えが、身体を作ってた機械類を見える範囲で分析すると、高度成長期の頃の古いもんらしい。

今の物は逆に無い様なので、あの頃の適当な捨て方で地球が怒ったのかなあ、まあ、真相は千石君のせいで闇の中だよ、フフだそうだ。」


「可哀想に…。報復されてんのかな…。父さんに頼んだばっかりに…。」


寅彦が嫌そうな顔でボソッと言った。


「あの叔父さん、陰湿だからな。単純に叱責とかじゃねえだろうな。」


「どんなんだか、想像つかねえな…。


「俺は想像したくもねえよ。」


直球勝負の寅彦が、寅次郎を厭う理由が、なんとなく分かる気がした。

ちょっと鬱陶しい人とはいえ、千石が可哀想になる。


結局、化け物の正体も、何故、機械などの無機物が生命体になったのかも、不明のままだったが、寅次郎が言う様に、地球が怒ったというのが、意外と1番近い様な気が、龍介達にはした。

Xファイルで、不可思議事件に触れているが、謎の生命体の出現は結局の所、異常気象や人間が勝手な事をしたせいで起きている。

異常気象だって、元はと言えば、人間が排ガスや熱量を出すせいだし、人間がしでかしたツケが回って来たのだと思うのだった。




音楽祭が終わると、2週間後の土曜日には、スポーツ大会である。

龍介は、目安箱の投書で、唯一、掲示板に返答を書けなかった問題を、主将訓示として話す事にした。


「生徒会室の目安箱に、スポーツ大会の部活対抗リレーを止めて欲しい、それが出来ないなら、夏目元主将を来させないで欲しいという要望が入っていたが…。」


どうも剣道部の半数が結託して、あの投書をしたらしく、期待に満ち溢れた目で、龍介を見ている。

副主将の寅彦が肩を揺らして苦笑しながら、龍介の横顔を見た。

龍介は困った顔で、そのメンバー見つめて、続けた。


「確かに、部活対抗リレーは、剣道部は圧倒的に不利だし、夏目元主将が現れては、負ける訳にも行かず、困難を極めた競技となるが、伝統的に受け継がれ、また観客も楽しみにしている部活対抗リレーを、伝統ある英学園部活動二枚看板の内の1つである、剣道部の我儘で、廃止にするわけには行かない。

又、部員可愛さにお忙しい合間を縫ってお越しくださっている夏目主将に、来ないで下さいと言える人間がこの世に居るとは思えない。俺だってそれだけは、死んだ方がマシ位嫌なので、君たちの気持ちは痛い程よく分かるが、英学園の剣道部部員としての誇りと名誉にかけて、引き続き健闘して欲しい。」


ガックリと項垂れる、投書したと思われる面々。

龍介はそれらを気の毒そうに見つめた。


「ごめんな。こればっかは力になれない。では稽古を始めよう。」




運動部の部活がある日は、瑠璃と鸞は2人で先に帰る。

今日は横浜で寄り道して、お茶をしていた。


「龍介君、剣道部の人達に、例の件、訓示したのかしらね。」


「多分ね。」


「本当、大変よねえ。生徒会長に剣道部主将に、写真部部長だっけ?しかもどうして引き受けちゃうのかしら。人がいい上に、容量が大きいのね。」


「そうね。器は大きい人だわ。」


「ところで、剣道部の副主将は、きいっちゃんじゃないのね。寅だなんてびっくり。」


「加来君は実は昔から長岡君より上手なのよ。加納家に住むようになって、稽古時間が増えたから、完全に差がついちゃったって、長岡君が言ってたわ。」


「んふふふー、そうなんだあ…。」


鸞は嬉しそうにニンマリしている。


「ラブラブなのね…。加来君と…。」


「うふふ。そうなの。2人っきりってかなり確認してからだけど、綺麗だなとか、可愛いんじゃないかとか言ってくれるようになったしね。

龍介君が言ってくれたお陰か、手も離さずに繋いでいてくれるようになったし。」


「良かったねえ。まあ、赤松君に1回取られたっていう危機感みたいなのもあるんじゃない?」


「ああ、なるほど。それはあるかもね。」


2人が仲睦まじくカフェで話していると、学生服の男子生徒2人が近付いて来た。

この制服は、確か、県内で英に並んで頭がいいとされる、私立高の制服だ。

確かカトリックで、スーツっぽい紺色の上下に、水色のネクタイと、こんな感じだった気がする。


「英学園でしょ?その制服。」


ーむむ?ナンパ?


瑠璃は警戒して身構え、鸞は捕獲銃の安全装置を外しながら、鋭い目つきで答えた。


「そうだけど、何か?」


鸞の鋭い目つきに腰が引けながら、気弱そうな眼鏡男子が言った。


「そ、そんな警戒しないで…。あの、加納龍介って男、知らないかな。」


「知ってたらなんなの?」


「英で不思議な事が起きると、なんでも解決しちゃうってホント?」


「だからなんなの?私たちはあなたを知らないのに、いきなり級友の事を洗いざらい喋れる訳ないでしょう?

先ず名乗りなさい。

その上で、どうして加納龍介君に用事があるのか、きちんと説明してから、質問して来て。」


高校生2人は、完全にびびった状態で、鸞に勧められるまま、2人の前の席に座った。

瑠璃は2人を犯罪者でも見る様な目で見ながら、パソコンを広げている。


「ぼっ、僕は越田大希って言います…。彼は横田麻人。聖ガブリエル学園高校の2年です…。」


瑠璃が直ぐに2人の情報を出した。


「越田大希君、理系では学年トップ。帰宅部ね。横田麻人君は、文系でトップか。同じく帰宅部で、クラブは共に鉄道研究会…。」


思わず、鸞と瑠璃は、2人を異質な物を見る様な目で見つめてしまった。


「鉄ちゃんてやつかあ…。なるほどって感じするわねえ…。」


瑠璃が呟くと、いきなり写メる鸞。


「ら、鸞ちゃん!?」


「お父さんとお爺様と寅に、これが鉄ちゃんよって知らせるの!」


2人の男子生徒は、悲しそうに目を伏せた。


「鉄道マニアをそんな目で見なくたって…。」


瑠璃が一応とりなす。


「ご、ごめんなさい…。

知り合いで見た事が無かったもんだから…。

で、えー、学校内で特に問題を起こした事は無しと。

小学校は同じ横浜市内ね。

内申書もいい感じ。

大人しく真面目って、内申書も、通知表にも書いてあるわ。」


2人はいきなり調べ上げられ、面食らっているが、鸞は冷静に言った。


「素行には問題無しね。で、どうして加納龍介君を知ってるの?」


「実はこの間の化け物とのバトル、見たんだ。

そしたら、ギャラリーの中に、英の子が居て、『加納先輩、凄え!かっこいい!』って言ってる子が何人か居たから、聞いたら、なんでも解決してくれる人だって…。」


「はああ…。なるほどねって、あら?あの化け物に関しては、箝口令が敷かれてるはずだけど?」


再び、鸞に疑惑の目で見られ、越田は泣きそうになりながら、懸命に反論した。


「なんか公安て名乗る人が来て、釘刺されたので、誰にも言ってません!」


監視カメラ、その他で、あの現場を見ていた者は直ぐに突き止められ、竜朗の指示で、公安が自宅に口止めに行っている。


「ならいいわ。で?ご用件は何?」


2人は顔を見合わせ、急に口籠った。


「なんなの?早く言って。私たちそろそろ帰らないと、其々の婚約者や親や祖父が心配しちゃうの。」


「こ、婚約者…?」


「いいから、早くして。」


「あ、はい…。あの、鉄道マニアがあまりお好きでないみたいだから、言いづらいんだけど…。

この間、2人で京急に乗って、写真撮ったりしてたんだ。そしたら…。」


横田が一枚の写真を出した。


先頭車両の電車内から、運転席、そして前方の線路を含めた風景の写真なのだが、大きくドーンと、オレンジ色の何かが写っている。


「これ、何回撮っても毎回出ちゃうんだ。雑色出て、直ぐのところで写すと必ず…。」


そう言った横田に、鸞が聞く。


「毎回って事は1度や2度では無いという事ね?」


「うん。もう3度目なんだ。」


「そう…。

実は、私たちは、龍介君と同じ生徒会役員なの。

だから龍介君が問題解決に当たる際は、サポートメンバーなの。

という訳で、この話は一応承っておくわ。

でも、正直言って、あまり緊急性は高いとは思えないし、深刻な感じもしない。

これからスポーツ大会に、学園祭と、私たちも結構忙しいの。

もしかしたら、力にはなれないかもしれないわ。」


男子生徒は顔を見合わせ、越田が食い下がった。


「確かに、緊急性は高くない。

酷く困って、日常に差し支えるって話でも無い。

でも、こういう写真になっちゃってるの、僕らだけじゃないんだ。

みんな言ってて、鉄道マニアのネットでも話題になっちゃってる。

このまま行くと心霊スポットだとか言って興味本意の人が集まりだしたら、僕らの純粋な鉄道活動に支障が…。」


純粋な鉄道活動というのがよく分からないが、確かにお化け騒ぎは、あまり良くない気もする。

京急にも迷惑だろうし、普通に電車を利用する人にも迷惑になるだろう。


「分かったわ。一応話はしておく。これは預からせて頂戴。」


鸞が言うと、2人は揃って頭を下げた。


「宜しくお願いします…。」

















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