池の熱源現る
程なく、自衛隊が到着した。
「龍介君、ここ?
ーて、どおしたの!?それえ!
あはははは!」
ずっと前に、瑠璃が動物の声が聞こえる様になってしまい、その治療の為、龍太郎の手筈で蔵に入ったものの、何の計画も無く、行き当たりバッタリで、陸自の秘密研究所に行く際、危うく撃たれそうになった時に知り合った人だった。
「千石さん…。言わないで下さい…。」
「葉っぱって事はタンザワッシー関係だろ?
その葉っぱ、凄い効果があるって、真行寺顧問の葉っぱ見せてもらって、スポックが驚いてた位だから、直ぐに剥がせるようになるよ。
しっかし笑えるなあ。
最強のイケメンの龍介君のほっぺに葉っぱとはね!」
あの、どんな病気の薬でも作ってしまう宇宙人スポックがびっくりするとは、相当なものだろう。
確かにもう痛みはなくなり、腫れも随分ひいている。
普通の治療では、あり得ない速さかもしれない。
しかし、面白がられている事には変わりない。
「なんでみんなそこまで面白そうなんだ…。」
「だって龍介君て、いっつもムカつく位かっこいいんだもん。イケメン台無しの時くらい、腹いせに笑わせてくれよ。」
千石と呼ばれた陸自の彼は、部下に指示しながら、バキュームカーの様な物から太いホースを出し、池の有毒物質を吸い上げ始めた。
寅彦と瑠璃に加え、陸自研究所から来た研究員もモニターしている。
龍介と亀一は、池の側で、直に池を監視していた。
次第に池の側面が見え始めた。
ネジ穴の様に、渦巻き状の削り跡ができている。
丸で下からドリルで掘り進んで来たかの様だった。
「なんか機械で掘ったみてえだな…。」
龍介が呟く様に言った側から、モニターしていた3人が次々に叫んだ。
「離れろ!熱源が凄え速さで上がって来るぞ!」
「退避して下さい!」
「龍!長岡君!危ないわ!」
しかし、その声を聞いた時には既に遅かった。
その熱源は、龍介と亀一の目の前に居た。
それは凄まじい悪臭を放つ、機械の塊だった。
自転車、冷蔵庫、なんだか分からないモーターの様な物、発電機、エアコンの室外機、そんな物が一塊になって、頭に大きなドリルを付けた怪獣の様ないでたちで、龍介達の目の前に立ち上がる様に居た。
背の高さは20メートルはありそうだ。
幅だけでも、5メートルはある。
それが大きな口を開けた。
歯は、電動ノコギリの様に見えた。
「伏せて!」
千石達がホースを放し、自動小銃を構えると、その化け物は千石達に向かって、泥水の様な物を吐いた。
恐らく、この池の水と同じ、有害物質だろう。
千石達は避けながら撃ったが、全く効いていない。
龍介がレーザーソードで斬りつけて漸く効いたが、切れた所はまた塞がり、化け物は暴れ始めてしまった。
四方八方に有害物質の泥水を吐き、この場から出ようとしている。
龍介は、化け物はこの被害を学校外に広げるつもりだと、咄嗟に思った。
「このエリアから出すな!千石さん、ランチャーは!?」
「あるけど、ここで撃ったら、学校の建物がタダじゃ済まない!」
確かに、この池の向こう側には、中等部の建物がある。
「IH銃は!?」
「一丁ならあるけど…。龍介君!?」
龍介は千石からIH銃を奪い取る様に取ると、かなり至近距離まで走って進みながら撃った。
「学校の裏の山まで誘い出す!そこでランチャーで始末つけましょう!」
「龍介君、危険だ!俺たちがやる!戻りなさい!」
千石が叫ぶが、化け物は既に龍介をターゲットに、所々がIH銃で溶けた身体で、怒り狂いながら、撃ってはすばしっこく逃げる龍介を追い始めてしまっている。
「龍〜!」
心配のあまり仲間達が叫んでしまうのも無理は無い。
龍介は今の所上手くかわしてはいるが、ギリギリの所に、鋭そうな歯と有害物質の攻撃が入って来ている。
裏の山まではかなりの距離がある。
その間に、いつ攻撃を受けてしまうか、龍介の身体能力をもってしても、かなり危ない賭けだった。
それでも龍介はやるしか無いと思っていた。
思うより先に身体が動いていた。
ここにいる仲間達を、そして学校を守らなくては。
亀一は来年には父親になる。
亀一に何かあったら、栞だけでなく、赤ちゃんにも会わせる顔が無いーそう思って、全神経を全身に走らせて、撃っては逃げるを繰り返していた。




