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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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目安箱の中

赤松は龍介に、目の下のクマも含め、相当の被害を与えてしまった事が申し訳なくなり、鸞の事は諦めると言った。


「だが、もし今度不幸にしたり、泣かせたりしたら、そん時は鸞ちゃんがどう言っても、俺は介入させて貰う。いいな、加来。」


「ああ。」


という訳で、龍介が気絶している間に一応の解決はみた。




「龍介君…。ごめんなさいね…。物凄いご迷惑をお掛けしてしまったわ…。」


イケメン台無しに、頬が腫れ、おたふく風邪の様になってしまった龍介に、鸞が小柄な身を更に縮めて、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいんだよ。元の鞘に収まって良かった。このまま仲良く、幸せにお願いします。」


笑顔で答えてくれる龍介に真剣に答える鸞。


「はい。もう2度と迷子になったりしません。寅に捨てられない限り、付いて行きます。」


寅彦が困った様な顔で照れ笑いをするのを、亀一が肘で突いてからかっている。

それを幸せそうに見た後、瑠璃が保健室から持って来てくれた保冷剤で頬を冷やしながら、生徒会長に戻った龍介は、副会長の亀一に聞いた。


「では仕事に掛かろう。学園祭の方はどう?」


「今の所、問題なし。実行委員の方でやれてるので、特に生徒会が動く必要は無い。

尚、演劇部の方から、生徒会役員に出演依頼が来てるが。」


鸞が面白がって聞く。


「へえ。演目は何?」


「織田信長だと。信長に龍、濃姫に鸞ちゃん。お市に唐沢。家康が俺。黒田官兵衛に寅だとよ。」


誰かが何か言う前に、龍介が無表情に一刀両断。


「却下。次。」


皆、苦笑。


「学園祭関係は以上。後は目安箱だな。」


と、生徒会室前に設置されているポストの中身をデスクの上に開ける。

2つ折りの目安箱用の紙が3枚程出て来た。


「先ず、1枚目…。『スポーツ大会の部活対抗リレーを止めて下さい。止められないなら、夏目元主将が来ないようにして下さい。』」


亀一が読み上げると、爆笑が巻き起こる。

唯一、沈痛な面持ちの龍介が、情けなさそうに言った。


「それ、モロ剣道部の奴じゃねえかよ…。両方共無理に決まってんだろ…。次行こう。」


「『あの小屋はなんですか。中1尾川。』」


「珍しく名前書いてあんだな…。小屋に関しては、近々理事長が朝礼で話す事になってますって、書いといて。」


「はーい。」


龍介は書記の瑠璃に言った。

一応、目安箱に入っていた事の回答は、生徒会室前の掲示板に張り出す事になっている。


「次は…。ん?池?」


「何、きいっちゃん。」


「『学校の裏手、園芸部の野菜畑の近くに突然池が出来てしまいました。

初めは小さな水溜りだったのに、日を追うにつれ、どんどん大きくなり、池になってしまっています。

園芸部しか入らない場所ではありますが、底が見えなくなって来ているので、危険な気がするので、お知らせします。』だと。おっかねえ上に謎めいてんな。」


「そら問題だな。見に行こう。」




早速見に行くと、確かに、もはや水溜りでは無い、直径4メートル位の池が出来てしまっている。


龍介はしゃがみ込んで、池を見つめた。

透明度は非常に低く、水は濁っており、目を凝らしても、底は見えない。

試しに石を入れてみると、相当深くまで沈んで行った様に思えた。


「きいっちゃん、正確な深さ、調べられるか?」


「今、機材が無えな。明日持って来よう。水質は、科学部の備品で調べる。」


「お願い。中1とかのちっちゃいのがはまったりしたら事だ。

直ぐ学校側で塞いで貰って、立ち入り禁止にしよう。

問題は原因だな。

どんどんでっかくなってるって書いてあったから、寅は監視カメラを設置。

どんな風にでっかくなって行ってるのか探ろう。瑠璃はそのサポートに入れ。

鸞ちゃんは、園芸部の人間にどの位の速度で池になったのか、俺と明日から聞き込み。

じゃ、俺は校長室に行って来る。」


龍介が指示を出し、全員が動き始めたその時だった。


ザッパーンという音と共に現れたのは…。


「タンザワッシー!?そんな深えのか!?ここは!」


驚く龍介に、言葉を失う仲間達。

だが、タンザワッシーは深刻な顔で(に龍介には見えた)、龍介を見つめ、やっぱり、


「あおん!あおん!」


と言っている。


「どうしたんだ。何かあったのか?愛子さんがまた断筆とか?」


タンザワッシーは首を横に振り、龍介の腫れた頬にそっと触れて、深刻な顔でビシッと首を伸ばした。


「あおん!」


「俺の怪我、心配して来てくれたのか!?大丈夫だよ。ありがと。直ぐ治るから。」


龍介がタンザワッシーの顔を撫でると、タンザワッシーは深刻な顔のまま首を横に振り、小脇に挟んだ葉っぱを出して、龍介の頬に貼り付け、ご機嫌良く言った。


「あおん、あおん!」


「い…。これ着けておけと…?」


ご機嫌良く胸を張るタンザワッシー。


「あおん!」


「いいい…。いいよ、そんな…。大丈夫だよ…。」


タンザワッシーは怒った様な顔で首を横に振り、龍介を説得。


「あお、あお、あおん!あおん!あおん!あおーん!」


一生懸命、治るから貼っておけと言っているというのは、タンザワッシー語がよく分からない亀一達にも分かり、笑いを堪えるのに苦労している。


「じゃあ、明日の朝には剥がしていい…?」


タンザワッシーはブンブンと首を横に振る。


「あおん!あおん!あおん!!!」


「ええ?腫れが引くまで剥がしちゃダメって?」


「あおん!」


力強く頷くタンザワッシー。


「だってさ…。明日音楽祭なんだよ…。

葉っぱ着けて、2CHELLOS弾いたって、全然かっこ良くねえじゃん…。

笑い取りたくて、きいっちゃんと練習してた訳じゃねえしさあ…。

頼むよ…。

明日の朝には一回取っていいだろ?」


タンザワッシーは首を横に振り、あおんあおん言って、許してくれない。

思えば、龍介も恥ずかしいから頼むと、涙ながらに懇願する真行寺に、無理矢理葉っぱを着けさせていた前科がある。

自分だけ恥ずかしいからと逃れるのはズルいし、タンザワッシーの真心を無下にする訳にもいかない。


「わ…わかった…。

お父さんもわざわざイギリスから来てくれるのにと思うと、死んでしまいたくなる位恥ずかしいが、致し方ない…。

治るまで着けておきます…。ありがとう、タンザワッシー…。」


若干涙目の龍介に頬ずりし、タンザワッシーはご機嫌で一言。


「あおん!」


「ところで、タンザワッシー、この池、なんで出来たか知ってる?」


タンザワッシーは小首を傾げた。


「あおん?」


分からないらしい。


「いいんだ。ごめんな。有難う。」


「あおん!」


タンザワッシーはご機嫌な笑顔で消えた。


タンザワッシーが消えると、亀一達は堰を切ったように笑い出した。


「龍、真行寺グランパに、ざまあみろって言われるの請け合いだぜ。」


言った亀一を睨みつけるが、葉っぱが頰っぺたについていては、いつもの迫力の5分の1程度しか無い。


「もう。俺の葉っぱはどうでもいいから、さっさと動く。

明日は音楽祭だから、余り動けない。

今日出来る事は全部やっとくように。」


「はーい。」





















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