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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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寅と鸞恋の行方…

龍介は唸りっ放しになり、とうとう一緒に居た竜朗に笑われ、相談者の寅彦にまで苦笑されていた。


寅彦は昨日、帰宅すると、龍介と竜朗に、鸞を助けたが、泣き止まなかった件を相談していたのだ。

竜朗は唸る龍介の肩を叩き、話し始めた。


「まあ、確かに女の涙は難しいな。

未だに俺にも分かんねえ事は多数ある。

だが、状況から見て、1つ言えるのは、鸞ちゃんは後悔してるって事じゃねえかな。」


「後悔…ですか…。」


「うん。寅は、鸞ちゃんの危機に迷わず駆け付けてくれて、助けてくれた。

そんないい奴を傷つけちまったってのが1つ。

もう1つは、やっぱり寅が好きだって気付いたのかもしれねえ。」


「え?なんで俺が?」


「他のと付き合ってから、前のが好きだったって気づくってのは、若い内はよくあるもんよ。」


「はああ…。そうなんですか…。」


龍介が唸りながらも参加し始めた。


「じゃ、爺ちゃん、寅にも再びチャンスが?」


「かもなって話。俺だって女心は詳しくねえもん。聞いてみなけりゃ分かんねえよ。」


「寅、聞いてみたら?」


「聞いて、また玉砕したらどうしてくれんだよ。立ち直る自信なんかねえぞ。」


「そこは瑠璃にリサーチさせるから…。大丈夫そうだったらさ。」


「有難う…。でも龍、赤松は大丈夫なのか。」


「ーえ…。」


龍介の顔から血の気が引いた。


「お前、なんだか知らねえけど、赤松に恋愛問題の相談役にされてんだろ?俺が泣きつかなくなったら、今度は赤松に泣きつかれるぞ。」


それはそうかもしれない。

しかも泣きつかれた所で、龍介にはどうしてやる事も出来ない。

何も対策がとれないというのは、龍介にとって1番困る形である。

この1番困る形で頼られるのは、この間もそうだったが、えらい疲れる消耗の仕方をする。

しかも龍介は門外漢な事と来てるから、尚更だ。


「でも、俺は寅も鸞ちゃんも幸せになって欲しい。

見てると、1人の人に、本気の人が2人とかは、お父さんと母さんと父さんという三つ巴から見ても、よくある事に思う。

渦中に居る人は大変だろうが、致し方ない事なので、寅は寅で精一杯やってくれたまえ…。」


「なんで急に吉行局長みてえな口調になってるんだよ、龍…。」


龍介はスクッと立ち上がると、なんの脈絡も無く言った。


「では、明日は朝からチェロの練習なので寝る。」


本当に二階に上がってしまい、寅彦は竜朗と顔を見合わせ、吹き出した。


「今分かったぜ。あの吉行のなんの脈絡も無く、突然寝るっていうのは、動揺隠してたんだな。」


「そうなんですね。正直者の龍が間近でやるの見ててやっと分かりました。厳格な口調も感情隠す為だったんですね。」


「だな。甥っ子で判明しちまったな。」


一頻り笑い、竜朗はタバコに火をつけ、寅彦を見つめた。


「で?寅はどうするね。」


「ーそうですね…。まあ、鸞の出方見ましょうか。それ次第。」


「ん。そうしな。」




翌日、栞と優子の応援を受けながら練習を済ませ、夕方帰宅すると、瑠璃が来ていた。

寅彦に用があった様で、リビングで寅彦と話している。


「でね、鸞ちゃん、その足でぬいぐるみ抱えたまま赤松君に会いに行ってね。」


「ーえ…。また抱えたまんま歩きまわっちまったのか?しかも、横須賀まで?」


「そ、そうなのよ…。大きいだけに、見られる、見られる…。でも、なんか考え込むと、あの子を抱えてないと、落ち着かないんですって。」


「は、はあ…。」


それはあげた者冥利に尽きるが、想像するだけで、なかなかにおかしな感じである。

鸞は尋常でなく美しい。

ファッションも、京極仕込みのフランス育ちのせいか、頗るお洒落で、もうそれだけで目立つというのに、更にあのピンクのうさぎは体長50センチはある。

それを遊園地帰りでも無いのに、高校2年生の美少女が抱いて、電車に乗っていたら、衆目の的になるのは自ずと知れる。


「唐沢…、一緒に居てやったのか…。」


「え、ええ…。乗りかかった船ですから、腹を括って、一緒に横須賀まで行き、見届けましたよ…。」


「ごめんな…。」


「だ、大丈夫です…。」


横から龍介が瑠璃の頭を撫でる。


「偉い偉い。ありがとな。」


そしておデコにチュ。


瑠璃は沈痛な面持ちからいつものデレデレ顔に…。


ー唐沢…。デコッパチにチュじゃ悲しいと言ってなかったか…。

龍も化石だが、唐沢は仏様だな…。

つーか、龍…。

恥ずかしげもなく、俺の目の前で…。

矢張りこれはいやらしい意味は一欠片も無えな…。


「でね。鸞ちゃん、相当言いづらく、苦労してたけど、なんとか赤松君に別れて欲しいと言えたの。」


「へえ…。で、赤松は?」


「ああ、それが…。」


瑠璃の表情が曇った。


「諦めねえってか。」


「そうなの…。鸞ちゃん、綺麗なだけでなく、いい女ってやつなのね。

赤松君、鸞ちゃんと付き合って、鸞ちゃんを知れば知る程好きになってしまったんですって。

お姫様かと思ったら、男を立てるのが上手いし、心遣いがさりげなくて心地いい。

優しくて可愛くて、お姫様なのも大好きだって。

もう他の女の子なんか考えられない。

例え鸞ちゃんが加来君が好きでも、意外と俺様な加来君に振り回されそうで、心配で堪らないし、離したくないって、あんなに喋る人だったのかってびっくりする位、説得し始めちゃって…。」


「ーで…。鸞は…。」


「ごめんなさいって泣き出しちゃったので、赤松君も今日のところは引き下がるって言ったけど、アレは諦めて無い感じではある…。

でも、鸞ちゃんは頑張って、お付き合いは白紙には戻せたはずよ。」


「そっか…。有難う…。」


そして鳴る龍介の電話。


「う…。このタイミング…。」


予想通り、電話は赤松。


「あああ…出たくない…。」


そうは言っても、赤松の恋愛問題の愚痴は、何故か龍介が担当になってしまっているのだから、聞かねばなるまい。

英学園の高2で、彼女持ちなんて、龍介、亀一、寅彦又は赤松だけなのだから。


龍介は電話に出ながら、虚ろな目で寅彦と瑠璃に手を振りながら、二階の自分の部屋に上がって行った。




「そんで2時間も聞いてやってたのか。大変だな、お前も。」


「どおしてきいっちゃんに相談しねえんだ、あいつ…。」


翌日もチェロの練習の為、朝から長岡家へ行き、龍介の目の下のクマを心配した優子に説明しながら、赤松の相談を受けた話をしていた。


「俺、そんなに赤松と仲良くねえもん。

寅は張本人だし、そうなると、龍しか残ってねえじゃん。彼女持ちって。」


「はあ…。参った…。もうしょうがねえから聞いてるだけになってしまったが、どうしても諦められねえんだと。」


「流石、京極さんのお嬢さんね。男を虜にしちゃうのねえ。」


「と、虜って優子さん…。まあ、でも、寅もそんな様な事言ってドヨドヨしてたし、そうなんだろうね…。」


そして、その日の夜も赤松からの相談なんだか愚痴なんだかの電話はかかり、龍介の目の下は墨でも塗ったように真っ黒になってしまった月曜日の放課後、龍介がパニックに陥る新たな事件が起きてしまった。


「ちょっと2人きりにしてあげましょうよ。」


今日は生徒会役員会である。

生徒会室に行く前に瑠璃がそう言うので、龍介達は、寅彦と鸞を先に行かせ、そっと生徒会室の外で見守る事にし、頃合いを見計らって入る事にした。


「赤松と別れたって聞いたけど…。」


「うん…。勝手だって怒られるかもしれないけど、私…。」


「うん。」


「寅が誰よりも大好きって分かったの。右往左往しちゃってごめんなさい…。」


「もうどこへも行かない?」


「うん。行かない…。」


「じゃ、俺も気をつける。」


ほっとした様に微笑む鸞の手をとり、近付く2人の距離。

何故そんなにガッツリ掴んでいるかといえば、当然の様に、瑠璃が予め龍介に設置させておいた監視カメラ映像を出して、こっそり3人で見ているからである。


「ああ、良かった、一安心だな。」


亀一がそう言った瞬間、思わず亀一と瑠璃は目を見開き、画像を凝視。

龍介は目をかっぴらいて、頭を抱え、真っ青になってしまった。


「寅がきいっちゃんになっちまったああああー!!!」


「おおお!これは鸞ちゃんがいいって言ったも同然だぜ!。上向いて目え閉じたもん!」


「はあああ!鸞ちゃんいいなあ!チューよ!これが本物のチューよお!」


そう。

2人はキスした。

そこへ、折悪しく、赤松が生徒会室に飛び込んでしまい…。


「それは…無いんじゃないか…。鸞ちゃん…。」


「真太郎君!?ご、ごめんなさい…。」


「俺には嫌だって言ったのに!?」


「ごめんなさい…。」


「俺と別れた翌々日には加来とより戻した挙句、そんな事を!?なんて女なんだ!」


「ごめんなさい…。」


鸞を庇うように寅彦が立ちふさがり、赤松と寅彦の睨み合いになってしまった。


「赤松、申し訳ないが、そういう事だ。鸞の事は諦めて、これ以上責めないでやってくれ。」


「カッコつけた事言ってんじゃねえよ!」


飛びかかる赤松。

しかし、寅彦に殴りかかったら、怪我をするのは、赤松の方だ。

校内で流血事件、しかも生徒会室でとなったら、少々まずい。

龍介は咄嗟に2人の間に入り…。


ーボカっ!!!


素人と舐めていたが、意外と赤松のパンチは強く、顎の横ら辺と、良いところに入ってしまった龍介は、薄れ行く意識の中で、宙を飛んでいる気がした。

遠くの方で、瑠璃や仲間達の叫ぶ声が聞こえる。


「加納!ごめん!大丈夫か!?」


「ー赤松…。許してやるから、鸞ちゃんは諦めてくれ…。」


丸で最期の言葉の様に言い残し、龍介は気を失った。






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