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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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かっこいい龍介の煩悩は…!?

「龍、方針は?」


しずかが聞くと、龍介はきっぱりと言った。


「瑠璃を奪還は勿論だが、この森を元に戻し、今後、女の子を攫ったりしないよう、亡霊全てを殲滅。」


しずかはニヤリと笑うと、真行寺に言った。


「そうこなくっちゃね。じゃあ、龍達3人と私が森に入り、お義父様とデビット、デビットのおじいちゃまは、ここで出て来ちゃった亡霊を始末。

瑠璃ちゃんパパは、双子と栞ちゃんをお願いします。で、いいかしら?お義父様。」


「いいよ。そうしよう。」


龍介は、勇ましく小型ランチャーを担いでいるしずかを若干心配そうに見た。


「母さん、大丈夫か?森に入るまで持ってってやろうか?」


亀一も、寅彦も頷くが、しずかはにっこり笑った。


「大丈夫よ。伊達に双子の母親はやってないんだから。力だけは自信あります。

それにあんた達は接近戦。

こんな物持ってて、いきなり襲いかかられたら、隙ができてしまうわ。

大丈夫、大丈夫。」


うーんと、納得行かないながらも3人は先頭に立ち、森に入った。




4人が森に入ると、森の中はざわつき始めた。

木々が龍介達の来訪を亡霊達に知らせているかの様だ。

そして、矢張り大挙して現れた亡霊達。

しずかが後ろから、亀一達特製の水晶の粉で出来た弾の入ったランチャーを放つと、亡霊達はかなり弱まった。

龍介達がすかさず特製の剣で、何度か斬り付けると、亡霊達はキラキラする粉になって、空に昇って行く。

亡霊達が来る方向へそうやって斬り進んで行くと、傍に目をやった龍介が笑いだした。


龍介の視線の先には、地面に大きな文字でこう書かれていた。


『この先に龍の役に立ちそうな剣があります!瑠璃』


瑠璃という署名の横には、瑠璃がいつも手紙やカードなどで描いている、瑠璃の似顔絵があり、絶対罠では無いのが分かる。


「唐沢、例の剣、見つけといてくれたんだな。」


寅彦も笑いながら言うと、亀一も笑って言った。


「流石、龍の嫁。」


しずかも笑顔で頷く。


「ほんとね。」


龍介も笑顔。


「だな。」


亀一達を残し、龍介は矢印の方向の繁みに入った。


そこは異空間に見えた。


そんな能力も無い、龍介にですら、辺り一帯が清浄な空気に包まれているのが分かる。

剣らしき物は、蔦に覆われていたが、その周りには美しい花が咲き、小鳥のさえずりが聞こえている。

瑠璃の文字がまた地面にある。


『これです!多分、悪霊退治に入った人が持って来た物だと思います。あの人達はこれをとっても怖がっていたので、きっと良いものよ。』


と、ハートマークと瑠璃の顔。


ー瑠璃、有難う。


龍介は心の中でそう言い、思わず微笑んでしまいながら、剣の(つか)に手をかけた。

不思議な事に、蔦は剣からスルスルと自然と離れて行き、地面からすんなり抜けた。

龍介の来訪を待っていたかの様だった。

悪霊征伐に来た者には協力的に出来ている、そんな感じだ。


龍介が繁みから出て来ると、直ぐに3人が戦っているのが見えた。

龍介は走り出て、取った剣で、亀一の背後に迫っていた亡霊を叩き斬った。

亡霊は、一瞬にしてキラキラの粉に変わって消え去った。


「凄え威力だな、そっちは…。」


感心する亀一に、龍介はさっき、デビットの祖父とその友人からリサーチした事を教えた。


「ここに入ったマクラーレン家の末っ子は、凄い弱かったから、剣を作った人が水晶を騎士の剣の倍以上入れて、(まじな)い師に妖魔退散の術をかけて貰った、特別な物だって話だった。

見つかって使えれば、千人力だって。」


「確かにそうねえ。」


しずかがランチャーとマシンガンで亡霊をバカバカ撃って援護しながら普通の口調で言った。

3人はもう言わないが、内心、流石元スパイと舌を巻いている。


龍介が二刀流で、しかもそんな効果の高い剣を使ってだから、さっきよりも遥かに効率良く、大量の亡霊共を斬って進めた。


「瑠璃ー!」


「瑠璃ちゃーん!」


「唐沢ー!」


4人で呼び始めると、初めて聞く様な大声で、瑠璃が叫んだ。


「ここでーす!もう!観念して、離しなさいっつーの!」


「ならんぞ、姫!リチャードの甘言に乗ってはいかん!」


残りの亡霊は側近と、王様と王妃の6人位になっていた。

瑠璃を囲んで、必死に守っている感じだ。


龍介は剣を構えるのを止め、王と向き合った。


「あんたの大事なクララ姫は、リチャードと一緒に、マンチェスターの方の田舎町に行って、洋服屋をはじめ、子宝にも恵まれ、幸せに暮らし、60歳位でリチャードが亡くなると直ぐに亡くなったそうだ。

ずっと仲の良い夫婦だったんだって。

子孫がまだ残っていて、その人に電話で話を聞いたが、未だにその洋服屋は繁盛してるし、ご先祖のクララ姫とリチャードの幸せっぷりは、ずっと語り継がれているそうだ。」


「そんな…、そんな筈は…!」


「クララ姫はとっくの昔に死んでるんだ。幸せにな。

あんたらも怨念にすがって、そんな姿で罪も無い女の子を攫って、危険に晒してないで、成仏しろ。」


「クララ、聞いてはならんぞ!」


瑠璃を王と王妃が離すまいと抱きかかえる。


「その子はクララじゃねえ!瑠璃だ!現代の日本人だ!いいから返せ!」


最後の側近の4人が襲って来たのを、3人が斬る。


ーおおお!かっこいい!

龍は勿論だけど、加来君も凄いかっこいいじゃない!全然怖がってないし!

鸞ちゃん、これ見て見直してくれないかなあ…。

ああ、録画出来ればいいのに…。


瑠璃がおっとりとそんな事を思いながら見ていると、しずかがそれを察した様に、ニッと笑って、頭にくっ付いている、カチューシャの様な物を指差した。


「おば様!カメラなの!?」


「そうよん!3人の勇姿はバッチリ録画してあるわよん!

外に繋がってるから、栞ちゃんも見てるよ、きいっちゃん!」


「う…、そ、そう…。」


途端に恥ずかしくなった亀一だったが、その側近達を倒し、王夫婦だけになると、森の中が変わったのが、亀一にも分かった。


「凄え清々しい感じになったな。」


「だな…。あれ…。なんか空から降りて来るぜ…。」


同意した寅彦が空を指差すと、瑠璃の様な女性が眩しい位の白っぽい光に包まれ、降りて来た。

傍には、龍介に似た男性が居る。

でも、2人共、はっきり言って、龍介と瑠璃より容姿は劣っている。


「クララ!」


王夫婦が瑠璃から手を離した。

龍介はその隙にサッと瑠璃の腕を掴み、2人から離れる。


光の中の女性は言った。


「父上、母上、勝手に城を飛び出し、リチャードと夫婦になってしまい、本当にごめんなさい。

でも、リチャードは、私がウィリアムズ家の者とは関係無しに、私を愛してくれ、謀略も阻止しようとしてくれたのです。

でも、その甲斐もなく…。

リチャードはマクラーレン家に愛想を尽かし、私もまた、私の気持ちを分かろうともしてくださらず、直ぐ戦に走る父上達のやり方が嫌になり、2人で遠くの町へ行きました。

そして平民として、本当の幸せを知りました。

それも、随分昔の話なのです。

私も父上達も、とうの昔に死んでいるのですよ。

ですからもう、父上達も、こんな事は止めて下さい。

私と一緒に参りましょう。

他の者達も待っていますよ。さあ…。」


クララが手を差し伸べると、王夫婦も手を出し、そして他の亡霊達と同じ様にキラキラの粉になって消えた。


クララはそれを悲しそうに見ると、龍介に向き直った。


「あなた方にも大変なご迷惑をお掛けしました。

本当にごめんなさい。

でも、お陰様で、ウィリアムズ家の者は、全て天に召されました。有難う。」


「ー粉になって消えて、あの人達はどうなるんですか…。」


クララは暗い顔で目を伏せた。

リチャードがいたわる様に、クララの肩を抱く。


「あの人達は、悪い事をし過ぎました…。

生きている人を亡き者にしたり、困らせたり、怖がらせたり…。

私達と同じ所へは行けません…。」


「地獄へ行くのですか…。」


「そうですね…。そう呼ばれる所です…。」


クララはそう言うと、気をとり直した様に微笑んだ。


「仕方ありませんわ。

では…、本当に有難う。

あなた方にはきっといい事があるでしょう…。」


そして、リチャードと共に手を振りながら消えてしまった。

辺りの様子は、さっきよりも更に、別の森の様に清々しいものになっていた。


「なーんだ。なんかご褒美くれるんじゃねえのか。」


亀一が苦笑しながら言うと、しずかが訳知り顔で偉そうに言った。


「世の中、そんな甘くないのだよ。亀一君。でも!」


しずかは瑠璃の頭をゴシゴシ撫で、満面の笑みを浮かべた。


「怖かったでしょうに。本当によく頑張ったね。剣まで見つけてくれて。有難う、瑠璃ちゃん。」


「ーいいえ。お散歩したいとか、トイレとか適当な事言って、探してみたら、すんなり見つかったんです。

あそこだけ、空気が美味しかったから。」


「そっかあ…。あ、では、私らはこの辺で…。ね?」


なんだか意味深な笑顔で亀一と寅彦を促し、不自然に先に行ってしまう。

また、例によって面白い感じで気を遣っているらしい。


龍介は全く理解していない様だが、でも、瑠璃を嬉しそうに見つめると、抱き締めた。


「来てくれると思ってたの。」


「当たり前だろ。ああ、無事で良かった。」


「龍…。」


瑠璃は勇気を振り絞って、この機に乗じて、言ってみる事にした。


「ん?何?」


「キ…キスしても良くってよ!?」


すると龍介は驚いた顔の後、にっこり微笑んだ。


「本当?いいの?実はずっとしたいって思ってた。」


ーそれなら早くしてくれればいいのにいいいー!


目を閉じる瑠璃。


しかし、次の瞬間衝撃が走る。


ーな…なぬううう〜!?


キスはおでこだった。


放心状態の瑠璃に笑顔で言う龍介。


「このデコッパチの可愛いおデコにしたくてさあ。

ー何?どうかした?嫌だった?」


「い、嫌でない…。う、嬉しい…。」


瑠璃は苦悶の表情で、目を線にして、龍介の胸に顔を埋め、涙を浮かべた。


ーデコッパチ、気にしてるのに…。

しかもこれだけって…。

ああああ〜!!!なんだか納得行かないいいい〜!!!


龍介の煩悩、17にして未だ戻らず。



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