武器の効果
瑠璃は暗い森に連れて行かれ、朽ち落ちた何がなんだか分からない状態で、冠も斜めにしか被れない、骸骨だか、ゾンビだか分からない者に囲まれていた。
姫が帰って来たと喜びながらご馳走だと言って出て来たのは、葉っぱと花だったが、喉も乾いたし、何かの足しにはなるだろうと、花の蜜をすすっている。
ーこの人達には、お肉とかに見えてんのかしらねえ…。
葉っぱとお花だけなんだけど…。
まあ、虫が出て来なくて良かったけど…。
にしても臭い。
言葉遣いや、言ってる事から考えると、相当古い時代の人達だろうから、執念だけで動くにしても、身体は骨になっているのが当たり前で、まだ肉がある事の方が、寧ろ不思議な状態かもしれない。
ー中世とか、まだ大英帝国に纏まってない頃の人達なのかなあ。
しかし、何を恨んでこんな事に…。
リチャードさんとかいう人が、私だと思ってるお姫様を攫ったとか言ってたよね?あの関係?
しかし、外国のお化けって、なんか凄いわね…。
やる事強烈よね。
生きた人間攫って、空飛んで来ちゃうんだもんね。
「あのお…。リチャードさんて、そんな悪い人なんですか。」
瑠璃がそう聞くと、全員がピクリと肩を震わせ、怒りの形相に変わった。
「あのリチャードめが、姫をたぶらかし、マクラーレンの城へ連れて行ったのだ。
我らは当然、姫を取り返しに行った。
ところが、それは全て計算づくの事だったのだ。
姫を甘いマスクでたぶらかし、マクラーレン城へ連れて行き、我らが取り返しに来るのは、全て奴らの策略だったのだ。
我らを罠にかけ、ここで皆殺しに…。」
そして泣く。
「うーん…。それは悪い人ですね。」
「そうであろう!?
だから、姫はここから離れるでないぞ!
ああ、良かった!やっと分かってくれて!
姫は正気を取り戻したぞ!」
今度は喜ぶ家臣と王妃。
ー単純だなあ…。
だから罠に嵌ったんじゃないのかなあ…。
それはさて置き、龍の事だから、大体掴めてるよね。
そろそろ来てくれるかもしれないし、私も何か役に立つ事しなくちゃ…。
先ずは聞き込みだわね。何かヒントがあるかも…。
「あの、それからあなた方はずっとここに居て、姫を探していたんですか。」
「そうなのだ。姫かと思うたら、死んでしまったりしてな…。
なかなか本物の姫は見つけられなかった…。」
「罪も無い女の子を殺しちゃったの!?」
瑠璃が咎めるように言うと、皆、しゅんとなってしまった。
「殺すつもりはなかったのだ…。ただ、何も食べてくれなくてな…。弱って行ってしまったのだよ…。」
瑠璃は目の前に広がるご馳走という名の、葉っぱと花を見つめた。
ーまあ、これが食事じゃ、私が餓死するのも時間の問題でしょうけどね…。
「この近くに住んでる人達は入って来ないの?」
そんな悪さをするのだったら、お祓い屋が討伐に来そうなものだと思って聞いたのだった。
「何人かは来たが、皆追い払った。
ここは我らの城だからな。
だが、あのマクラーレンの末っ子が連れて来た騎士には…。
随分我らの仲間も亡き者にされた…。」
ーこの人達の亡き者って、つまり成仏って事よね?成仏させられた人が居たんだ…。
「全く…。あの様な禍々しき物まで置いて行きおって…。許しがたい…。」
ーこの人達の禍々しいは、良いものだわ…。龍の役に立つかもしれない。
「それはどこにあるんですか。私が行って、排除してあげます。」
亡霊達は、血相を変えた。
ー様に見えたというのが、正確か。
何せ、顔色も何もあったものではないのだから。
「それはいかん!折角見つけた姫に大事があっては堪らん!
ギュスタフ、呉々も、あの剣に姫を近付けてはならんぞ!?」
「はっ!」
ー剣なのかあ…。益々龍の役に立ちそうな…。これは意地でも見つけておかなきゃ!
亀一が、デビットの実家の納屋を借りて、剣の分析をし始めてから暫くして、しずかが瑠璃の父と、置いて来る訳に行かない双子と栞を連れてやって来た。
瑠璃の父、凄い事になっている。
首から、ありとあらゆるお札やお守りをぶら下げ、スーツケースには、着替えなんか入って居らず、全部水晶だの、アメジストだのの天然石がギッシリ。
「おじさん…、その格好で飛行機に…?」
龍介が思わず聞いてしまうと、瑠璃の父は、焦点の合っていない目で答えた。
「うん!だって外国のお化けなんて、何が効くか分からないじゃないか!
カミさんは連絡つかないし、どうしたら良いかわからなくてえええ!」
完全に気が動転してしまっている様だ。
まあ、確かに、愛する娘が外国でお化けに攫われたなんて聞いたら、龍介でもこんな風になるかも…しれない…?
少々疑問ではあったが、龍介は気をとり直して謝った。
「本当に申し訳ありません。大切なお嬢さんをお預かりしておきながら、こんな事になってしまって…。」
「いや、お化け相手なんてどうしようもないよ。それより、瑠璃の為に、色々と有難う。」
龍介がどう答えようかと迷っていると、亀一が入って来た。
「分かったぜ。剣には大量の水晶が練りこんである様だ。
表にも、大分剥げてはいるようだが、くっ付けられていた跡があ…。」
亀一が言い終わらない内に栞が亀一に飛びついた。
その飛びつき方がなかなか凄い。
首に手を回し、背の高い亀一に、まさしく助走を付けてジャンプして飛びついて、両足を亀一の腰に巻きつけて、ぴったり。
「し、栞…。それ、お腹の子に良くないから、止めようって話したろ…。」
「まだ大丈夫じゃない?寂しかったのっ。」
ピトーン…。
亀一は情けなさそうに、栞をそのまま抱っこして、幼い子を諭す様に言った。
「栞、あのね、これから唐沢救出の為に、これの複製作んなきゃなんねえし、弾丸に応用したり、色々忙しいんだけど…。」
「お邪魔しないから大丈夫よお。ちょっと寂しかっただけ。」
そう言って、ズルズルと落ちる様に降りると、しずかの後ろに引っ込んだ。
「なんか妊娠してから、やけに寂しがりになったっていうか、甘ったれになったっつーか…。」
亀一がぼやくと、しずかが笑った。
「なんだか不安になるものなのよ。私もそうだったわ。旦那さんは責任とって、たっぷり甘えさせてあげないと。」
「はい…。」
武器の効果の理由は分かった。
瑠璃の父が持って来た全ての天然石を使っていいと言うので、亀一は双子と瑠璃の父に手伝って貰い、早速複製と、元の剣の修理、そして、弾丸への応用に取り掛かった。
龍介と寅彦は、デビットの祖父と、その友人に、森にご先祖様が入った時の話を細かく聞き、デビットと真行寺、しずかと共に装備を整える。
夕暮れ時、全ての準備が整い、龍介達は森の前に立った。




