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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
30/174

繋がった

瑠璃は異臭を放つ男に抱えられ、家の壁を抜け、空を飛んでいた。


ー夢だ…。夢だわ、これは…。


しかし、顔に吹き付ける風も、自分を抱えている男のじっとりと湿った冷たい感触も、腐臭の様な鼻をつく臭いも、超リアル。

間違いなく、現実に起きていると思わざるを得ない。


瑠璃は恐る恐る、男の顔を見た。


ーふんぎゃあああー!!!目ん玉が無いいいいー!!!


そうなのだ。

よくよく見れば、男達は皆、朽ち果てた身体に鎧を纏っているだけの姿で、目玉は無いし、髪も方々抜け落ちている。

部分的に肉も落ちて、骨になってるし…。


「姫、如何なされた…。もう暫くのご辛抱ですぞ…。」


瑠璃を抱えている男が、古いブリティッシュイングリッシュで言った。


「ー姫!?私を誰かと勘違いしてるって事!?

にしても、あなた達、死んでから相当経ってるよね!?

そしたら、その姫とやらも、相当な状態になってるはずで、私程はピチピチ生っぽくはないんじゃないかな!?」


頑張って英語でそう言ってみると、男達は笑った。


「姫は相変わらず、ご冗談がお好きな様だ。我らは死んでなどおりませんぞ。」


ー何いいい!?いや、どっから見たって、これ以上は無いって程、完全無欠に死んでるってええ!!。


瑠璃が心の中で叫んでいると、その男は急に苦しみ始めた。


「ひ…姫を…。」


そう言って、隣の男に瑠璃を渡す。


「如何なされた!?クラーク殿!」


「先程の(まが)つなるものが…。」


そう言いながら、クラークと呼ばれたその男は、身体も鎧もあっという間に灰になって行き、消えてしまった。


「クラーク殿ー!」


泣き叫ぶ、他の4人の男達。


「クラーク殿まで亡き者にし、姫にあの様な禍つなるものを持たせたは、矢張りあの隣国の王子めか!」


ー禍つなるもの…?禍々しいものって事よね?

そんな悪いもの私、持って無いはずだけど…。

あ、もしかして、これは悪い物だとか言って、あのオッさんが慌てて私から奪い取った、お母さんに貰ったネックレスと、龍の水晶の指輪の事!?

何言ってんのよ!

あれが嫌、アレに触ると成仏したって事は、あんた達が禍つなる者なんじゃないのおおおー!


「ちょっとお!失礼な事言わないでよ!

アレはねえ!お母さんと龍がくれた大事なお守りなんだからあ!

アレがダメって事はあんた達が汚らわしい物って事なの!

さっさと成仏しなさい!」


成仏が英語で何と言うのか分からなかったので、成仏とそのまま言ってしまうと、男達は、悲しそうに顔を見合わせた。


「姫はすっかり変わられてしまった…。

それもこれも、あの憎っくき王子が吹き込んだ嘘のせい…。

姫、ご安堵なされませ。

もう直ぐ城に着きます。

姫の本当のお母上にもお会い出来ます。

そうなれば、全て思い出される事でしょう。」


「憎っくき王子って誰よ!」


「リチャード・マクラーレンでございます。

あなた様を攫い、今日も一緒に居て、あなたの手を拘束していた…。」


「こ…拘束!?あれは手を繋いでくれていたの!

それに、彼は、リチャード・マクラーレンじゃありません!

加納龍介です!」


「リチャードと、仰っているではありませんか。」


「龍介!リチャードじゃなくて、龍介です!」


「いえ…。リチャードとしか聞こえません。矢張り、姫様は…。」


言葉に詰まり、泣く。


ーんもおおおおー!こっちが泣きたいわよお!

耳悪いの!?

耳…。

あ…、無い…。


男の耳は朽ち落ちた感じで無くなっていた。


「私はしかとこの目で見ましたぞ。

あなた様を拘束し、私を邪悪な目で見据えました。

しかし、あそこで見張っていて、本当に幸運でした。

漸くあなた様を見つけられた…。」


ー邪悪な目って…。

龍は目付きが鋭いだけです!

でも、見張ってたって、何かしら…。

昼間っからうろついて見てたのかな…。

ていうか、そのリチャードさんとかいう人も、龍と似てるのかな…。

だから誤解されてんのかしら…。

それにしても、攫ったとか、一体何…?




寅彦は連絡してから2時間後に来てくれた。

早速、龍介は気になっていた事を調べてもらう事にした。


「実は、大英博物館にあった、中世の鎧が動いてたんだ。

今思うと、俺か瑠璃を見てた様な気がする。

あの鎧の出処と、今どうなってるか調べて欲しい。」


寅彦の顔色は悪かったが、乱れる事なく、まず、大英博物館の監視カメラに侵入し、画像を見せる。


「今の映像はこの通り。そのまま動いてねえ様だ。」


「本当だ…。普段通りだな…。あの時とは、顔の向きが違う…。」


「お次は出処か…。

16世紀初頭。ウィリアムズ家の衛士の持ち物。

えー、このウィリアムズ家というのは、跡継ぎが居なくて、失くなってる様だ。

その為、結構遺品がそこら中に出回ってるらしい。」


「ウィリアムズ家…。どこにあったんだ、その家っていうか、当時だから城か。」


「湖水地方みてえだな…。ウィンダミア湖のほとりにあった様だ。」


「そっか…。」


「なんか分かった?」


「いや、ごめん。全く繋がらねえ…。」


「仕方ねえよ。まだネタが少なすぎる。」


しずかが、ホットミルクとショートブレットを持って来て言った。


「さっきの証拠品、デビットにお願いしといたけど、時間かかるし、きいっちゃんが来るにも、後11時間はかかるでしょう。

これ食べて、無理矢理でも寝ておきなさい。」


「ありがと…。母さん、瑠璃のお袋さんは?」


「それが…。」


しずかの表情が曇った。


「やっぱ怒ってた?」


龍介は責任を感じていた。

瑠璃を預かったのに、こんな事になってしまったからだ。

それは、しずか達大人達も同様だろう。


「いや…。連絡がつかないのよ。」


「え…。居ないって事?」


「そうなの。瑠璃ちゃんのお父様に聞いたら、瑠璃ちゃんが1週間も居ないならって、本格的に山籠もりしちゃったそうで…。」


「や、山籠もり!?」


「う、うん…。なんか、修験道みたいな修行を時々なさってるらしいのね。

瑠璃ちゃんが学校の旅行とかで居ないと…。

でも、精々2日位だから、簡易的に滝浴び位にしてるそうなんだけど、1週間もあるならって、山に入っちゃって、携帯の電波も届かない様な所にお一人で…。」


「いいい~!?」


流石に、真行寺と龍彦まで、龍介や寅彦と同じ素っ頓狂な声を出して驚いてしまった。


「でも、取り敢えず、お父様には連絡ついたから、朝一でこちらに来て下さるそうよ。

なんか…、うちにあるありったけの天然石と、お札的な物持って来るって…。」


「外人のお化けに効くの、母さん…。」


「し、知らない…。取り敢えず、天然石は効くんじゃ…。」


龍介達は首を横に捻りまくりながら、しずかに出された物を胃に流し込む様に入れ、来る瑠璃捜索の為、頑張って寝た。




亀一は栞連れで到着した。

あれから直ぐ、飛行機に飛び乗ってくれた様である。


「ごめんな。新婚旅行だって、付いて来ちまって…。」


謝る亀一に微笑むと、龍介は栞をソファーに座らせながら言った。


「その方が良かったよ。

いきなり1人にしちゃ申し訳ねえなと思ってたから。

大丈夫ですか、栞さん。

疲れたでしょう?少し休んで下さいね。

母さん。」


「はいはい。私居ますから。

栞ちゃん、こっちのお部屋で少し寝てなよ。かもん、かもん。」


「いえ、私、大丈夫です。」


「ダメよ、無理しちゃ。それに、妊娠中はいくら寝ても眠いものなの。沢山寝ると、お子様に栄養が行くのよ。」


栞がしずかに促されてリビングから出て行くと、すれ違いにデビットが来た。


「検査結果よーん、Jr.。」


「あ、有難うございます!」


寅彦は会った事があるので、分かっていたが、亀一はデビットに会うのは初めてなので、そのオネエっぷりに衝撃を隠せない。

デビットの方は全く気にも止めず、亀一を舐め回す様に見つめた。


「あら。好みだわ、この子。ちょっと冷たい感じがするイケメンね。」


「デビットさん、きいっちゃんだよ。」


「あら!なんだあ!しずかに本気出してたガキかと思ったら、パパになるっていう?!つまんないのー!」


「つまんないですか…。」


オカマにつまらないと言われても、構わない筈なのだが、男としてつまらないと言われている様な気がして、若干傷付く。


「つまんないわよ。パパなんて興味無し。ドラゴンは別だけど。」


「なんで龍の親父は別なんですか…。」


「ドラゴンはパパになって、益々いい男に磨きがかかったから。

ま、君もそう言われるように頑張んなさいな。

で、検査結果だけど、まず、土とシダ植物ね。

あれは、私の故郷のウィンダミア湖の近くの森の物と判明したわ。」


寅彦と龍介は顔を見合わせた。

ウィンダミア湖という部分が繋がった。


「昨日、大英博物館で動いて、俺か瑠璃を見てたみたいな鎧が、ウィンダミア湖にあった、ウィリアムズ家の物だって分かったんだ。」


「ウィリアムズ家…。あそこは酷い没落の仕方したらしいのよね…。

あ、そうだわ、水晶やアメジストに付いてたものだけど、アレは人間の皮膚と血液ですって。

焼けた鉄みたいなものに触れて、酷い火傷を負って、皮膚が焼き付いちゃった状態に近いらしいんだけどお。」


「うん。」


「相当昔に死んだ人間の物。

つまり、死体の皮膚ですって。

だから、一応検査技師の子が、DNAも調べてくれたんだけどね。

彼は門外漢だから確定じゃないとは言ってたけど、中世の人間のDNAじゃないかって。」


龍介は、それを聞き、直ぐに言った。


「信じ難い事実だが、一応、全てはウィンダミア湖の周辺に繋がってるな…。

デビットさん、ウィンダミア湖に連れてってくれる?

それと、ウィリアムズ家の没落に関しても教えて下さい。」


「じゃ、道中教えるわ。

双子っちが居るからしずかは無理ね。グランパは?」


「勿論行くよ。」


「じゃ、行きましょう。」





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