イケメン爺さん、葉っぱで見る影も無し
真行寺は気絶していた様だ。
気がついて、起き上がりながら目を開けると、タンザワッシー達が真行寺を囲んで、顔を覗き込んでいた。
ふと、額の上に何かが貼り付けてあるのに気付き、手に取ると、それは、ハーブの様ないい香りのする葉っぱだった。
タンザワッシーの1匹が真行寺が手にしている葉っぱを咥え、またそっと額にくっ付けた。
そういえば、実は打ってから1週間経っても、時々痛みを感じていた、たんこぶが少し小さくなり、痛みも和らいでいる。
「たんこぶ…、治してくれてるのか…。」
真行寺が戸惑いながら聞くと、タンザワッシーは頷いた。
なかなか友好的で、優しげなタンザワッシー達だが、何故、自分がタンザワッシーの巣にいるのか、どうやってここへ来たのかは、サッパリ分からない。
「あのー、ここはどこ?」
話が通じそうなので、聞いてみたが、タンザワッシー達は、
「あおんあおん!」
としか、真行寺の耳には聞こえない言葉で答えてくれるだけで、全然分からない。
「参ったなあ…。」
真行寺は、おでこに葉っぱを付けたまま、立ち上がり、辺りを見回して、更に言葉を失った。
そこは、絵や再現CGで見た世界だった。
恐竜の世界だ。
多種多様な恐竜が、タンザワッシーの巣であるこの小高い丘の下の平原にいっぱい居て、なんだか仲良く暮らしている。
しかも、それは、よくよく見ると、クレヨンで描かれた様なタッチの絵なのである。
そして、画用紙の終わりの様に、突然この世界は切れている。
「な…、なんなんだ、ここは…。」
やはりタンザワッシーは、
「あお、あお、あおーん!」
と口々に言っている。
ー何言ってんだか全然分かんねえなあ…。うーん…。
しかし、何かを必死に訴えているようにも思えた。
「ー何か、困ってる事でもあんのかな?」
長い首を激しく縦に振って頷き、矢張り、
「あおん!あおん!あおーん!」
真行寺は固まり、苦悶の表情を浮かべた。
ーわっかんねえー!!!。
その頃、龍介は、真っ白な顔になりながらも、動揺する寅彦と亀一に指示を出していた。
「寅はじいちゃんに連絡してくれ。きいっちゃん、瞬間移動や、パラレルワールドに移動した形跡は無えか調査しよう。」
しかし、真行寺とタンザワッシーが居たところには、焦げ跡も無いし、寅彦が録画していた映像をくまなく調べたが、パラレルワールドに移動する時特有の音も、画像が乱れる様な見た目も無かった。
「画像見る限り、瞬間移動に近いだろうが…。どこ行っちまったかだな…。それに、ここら辺に、瞬間移動装置も、条件も無い。」
「うーん…。タンザワッシーに触れた途端消えたんだよな…。タンザワッシーに寄るもんだろうな…。」
「でも、俺たちも、タンザワッシーに登ったぜ?」
「けど、グランパみてえに、素手で触ったりはして無い。飛び乗って、タンザワッシーには触らず、網かけて、また飛び降りた。」
「そうか…。じゃあ、タンザワッシーがどこから来たのかだな…。なんか丹沢湖に住んでるんじゃ無さそうだもんな…。」
「そこだ…。どっから来たんだか…。そもそもあのタンザワッシー、なんか現実離れしてなかったか?」
「現実離れ?」
「なんか顔も可愛くて、漫画チックでさ。」
「ーそういやそうだな…。あんな恐竜、知られてねえしな…。」
「うん…。なんかそこがどうも引っかかって、今までに無いパターンなんじゃねえかなと思ってんだ…。
ああ…、グランパが心配だ…。
あり得ねえ事は無かった事にしてえタイプだからな…。
受け入れなきゃなんねえとなると、メンタルが…。」
龍介の心配通り、ある意味真行寺は窮地に陥っていた。
「あおおおん!あおおん!」
と、只管必死に訴えるタンザワッシー達は、真行寺へのもてなしと、その訴えている何かを頼む、前金のつもりなのか、真行寺の前に果物や木の実を並べ、あおんあおん言っている。
ーううう…。これはやっぱり、認めたくは無えが、紛れも無い現実なんだよな…。
よくよく見たら、タンザワッシー達も、果物も木の実も、みんなクレヨン画みてえじゃん…。
はああ…。これは、どうしてやればいいんだ…。
何言ってんだか、俺には全然分かんねえよ…。
こんな良くしてくれてんのに、分かんねえから帰るとも言えねえし…。
アメリカのワカランチンだの、中国の動向に腹立ててる方が未だマシだったな…。
帰れたら、もうXファイルは降りよう…。
ああ、そうじゃなくて、ここからどう帰るかが問題…。
しかし、きっと俺を連れて来たのには、この必死にあおんあおん訴えてる悩み事を解決して欲しいからだよな…。
龍彦か龍介なら分かってやれるかもしれねえが…って、ああ!そうだ!龍介を呼びに行こう!
「ごめんな、俺はいくら言われても、よく分かんねえんだ。だけど、さっき一緒に居た孫なら分かるかもしれねえ。龍介って言うんだ。連れて来よう。それは出来る?」
タンザワッシーは頷くと、真行寺に捕まれという様に、短い足を出した。
真行寺が捕まると、タンザワッシーは首をぐいっと伸ばした。
その次の瞬間、真行寺は冷たい水中に居た。
ーふごごごご!息があああ!年寄りだぜ!?俺!この冷てえ水!心臓止まっちまうよ!
そして、タンザワッシーは出現した時同様、丹沢湖に、ザッパーんと派手な水音を立てて現れ、真行寺を蹴り飛ばす様に、岸に放り投げた。
ベチャっと無残に陸地に腹ばいで着地する真行寺。
もう色男爺さんの影も形もない。
驚いたのは、龍介達だ。
再び現れたタンザワッシーが真行寺を放り投げたのだから。
「グランパ!?大丈夫か!?」
龍介達は、直ぐに真行寺を保温シートで包んだ。
真行寺は歯をガチガチ言わせながら語りだしたが…。
「りゅうしけ、付いてきでぐれないが…。ダンザワッシーが何かうっだえてるんだが、ざっばりばからない…。」
龍介は真行寺が無事だった事にほっとしつつ、心の中で苦悶した。
ーグランパ…。何言ってるんだか、全然分かんねえし、そのおでこの葉っぱは一体何…?化け狸の真似?どうしちゃったんだもう…。
「グランパ、取り敢えず、あったまって、歯が鳴るの収まってから聞くから。で、タンザワッシー。」
龍介はタンザワッシーを見た。
タンザワッシーも、何かを訴える様なうるうる目で、龍介を見つめている。
「何か話がある様だけど、グランパがあったまるまで待っててくれるか?」
真行寺は寅彦が持って来てくれた、ポットの熱々コーヒー飲みながら、目を点にしていた。
ー俺はあんなに苦労して、漸く何か話があるって分かったのに、何故、会っていきなり分かるんだ、龍介ええええー!!!
それも龍介の七不思議。