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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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不気味な鎧

龍介が帰国する予定の、1週間前に瑠璃が来た。

龍介は練り練ったプランで、毎日瑠璃を楽しませ、喜ばせている。

前半はロンドン市内。

大英博物館や素敵な公園。

夜のライトアップが美しいロンドン塔を見せたり。

一応、龍介は狙われている身の上の為、護衛目的もあり、真行寺としずか、オマケで双子が一緒で、2人きりでは無かったが、しずかの笑ってしまう様な気の遣い方の、遠巻きな感じの付き添いで、瑠璃はとても幸せだった。

いいんだか悪いんだか、龍介は全く恥ずかしがる事も無く、誰の前でも手を繋いで歩いてくれるし、可愛いねと言ってくれるし。




1日で見切れなかった大英博物館の2日目に行った時、中世の騎士の鎧の前で、蜜柑が龍介を呼んだ。


「どうした?」


「なんか動いてるんでち。」


龍介と瑠璃、後ろから真行寺としずか、苺も覗き見ると、確かに、鎧の指が微かに動いている。


「風で震えてるんじゃなさそうね…。」


しずかが周りを見ながら言うと、真行寺は苺と蜜柑を後ろ手に隠して言った。


「障らぬ神に祟りなし。これは神じゃないだろうが、ほっとこう。」


相変わらず、無かった事にしたい真行寺だったが、厄介なニオイがするのは確かだった。


「そうだな。行こう。」


龍介は、女性陣を促し、その場を去った。

だが、立ち去り際に、視線を感じた気がして、振り返った。

勿論、そこに人間は居ない。

しかし、真っ直ぐ前を向いていた筈の鎧が、ほんの少し、龍介達の方を向いている気がする。

それに、さっき感じた視線は、とても嫌な感じがした。

怨念の様なものを感じた。


ー気味が悪いな…。寅の気持ちが少し分かった様な気がするぜ…。




リッツホテルで本格アフタヌーンティーを楽しんで帰宅し、帰宅した龍彦と会話を楽しみながら、しずかの美味しい夕食を食べ、3日目も全て楽しく終わって、瑠璃は寝室に入った。


入る前、龍介が抱っこして、お休みと言ってくれたのが幸せ過ぎて、崩壊した顔でベットに横になる。


ーああ、幸せ過ぎる…。

いいのよ。龍に煩悩が無くたって。

こんなに優しく大事にしてくれるんだもん。

私、一生このままだっていいわ。

子供なんて居なくてもいいし。うん。


気分は最高潮だったが、流石に身体は疲れているらしく、直ぐに眠気が襲って来て、気がつかない内に眠っていた様だ。

眠っていたのは、目を覚ました事で気がついた位、深い眠りだった。

でも、何故、目を覚ましたのか。

それは、肌に纏わり付く様な冷気のせいだった。

冷房は入っているが、効きすぎているという程ではないし、冷房の冷気とは全く別の物だった。

べったりと、湿った感じの、気持ちの悪い冷気だったのだ。


瑠璃は目を開けた。


誰か居る。


「誰…?龍?」


いや、龍介よりも大きい。

それに、(ひざまず)き、(かしず)いている様だ。

よく、外国の古い時代の映画で、家臣が上の人間にする様な感じで。

それに、1人や2人では無い。

5人位は居る。


「どっ、どなたですか!?」


瑠璃は飛び起き、布団を抱えて叫んだ。

するとその5人の大男はたち上がり、瑠璃に近付いて来た。


「いやああああー!龍!助けてえええー!!!」




龍介は瑠璃の悲鳴に飛び起きた。

瑠璃の部屋に走ると、龍彦夫婦に真行寺も瑠璃の部屋に走っている所だった。

全員銃を構え、龍彦がドアを蹴って開けると、瑠璃の部屋は静まり返っていた。


「瑠璃!?」


龍介がベットに駆け寄る横で、しずかが灯りを点けたが、そこに瑠璃は居なかった。

ベットにも、クローゼットにも、バスルームにも…。


「瑠璃!?」


「瑠璃ちゃん!?」


龍介としずかは、庭に出て瑠璃を探したが、瑠璃はおろか、誰の侵入の痕も無い。

そもそも、龍彦の家は警報機が凄まじい勢いで付いているし、監視カメラの量も半端な数ではない。

ネズミ一匹、侵入しても分かるようになっている。


戻ると、監視カメラの録画映像をチェックしていた龍彦も青い顔で言った。


「何も映ってない…。侵入者も瑠璃ちゃんも…。」


「そんな…。だって、確かに助けを求める声だったぜ?て事は誰かに連れ去られたんだ。」


「それは俺もそう思う…。しずか、なんかあったか?」


しずかは辛そうに青白い顔で首を横に振った。

龍介の脳裏に、ふと、昼間見た、あの不気味な鎧が浮んだ。


「お父さん。」


「ん?」


「俺が調べる。寅呼んでいい?大丈夫そうなら、きいっちゃんも。」


龍彦は、龍介の、瑠璃は自分の手で助け出すという決意がありありと見て取れる燃える目を見て、ニヤリと笑った。


「そうしなさい。必ず見つけだせよ。

協力出来る事はなんでもする。

デビットとしずかは貸してやる。

それに親父も居れば、まあ、一個小隊位にはなんだろう。」


「宜しくお願いします。」


フランスも真夜中だったが、龍介は直ぐに寅彦に電話を掛けた。


「唐沢が?!」


「そう。そんで、状況から見て、相手は人間じゃねえかもしれない。寅の鬼門関係かも。それでも協力してくれるなら、手伝って欲しい。」


寅彦は暫く黙った後、意を決した様に、はっきりとした口調で言った。


「ー行く。鬼門克服してやる。組長に頼んで、出来るだけ早く着ける様にするから、待っててくれ。」


「ありがと。助かる。」


続いて亀一に掛ける。


長岡家は、ちょっと前から下宿人の宇宙人2人が、2人暮らしを始めて居なくなっているので、栞はもう一緒に住んでいる筈だった。


「きいっちゃん、大変な所申し訳ねえんだけど…。」


「いや、それは行かねば男が(すた)る。出来るだけ早く行けるルートで行くから待ってろ。」


2つ返事で快諾してくれた。

2人の友情に胸の奥が、じんとしてしまう。


龍介は2人が来る前に、出来るだけ状況を調べておこうと、瑠璃の部屋の捜査にかかった。

しずかと真行寺も手伝う。


ベットの上の布団は、飛び起きた様に乱れている。

誰かが来たのに気付き、飛び起きたのだろう。

床を丹念に見ると、シダ植物の様な葉っぱと、湿った土がいくつかあった。


「この辺に、こういった感じの物がありそうな地面は無いわ。全部舗装されているもの。」


「だよな…。飛んできたんだろうか…。」


大分、摩訶不思議事件に慣れてしまったのか、真行寺もそう言った龍介に続いて言った。


「或いは、瞬間移動か?」


「そうだね…。これはどこの物か分かれば、多少は目処が着くんだけどな…。」


「デビットに頼んで、MI5のお友達に分析して貰いましょう。」


しずかが土と葉っぱを、慎重に証拠品袋に入れながら言った。


「お願いします。」


今度は窓の状態を見てみた。

中からしっかり施錠されており、こじ開けられた様子も無ければ、警報機のセンサーを切った形跡も無い。

矢張り、外から侵入した形跡は無いと思った方が良さそうだ。


ベットを捜査していた真行寺が、ベットの上にあった、鎖の引き千切られたネックレスを見つけた。

ペンダントヘッドは、ハート型の紫水晶。

瑠璃が母から護身用に貰ったからと、いつも身に付けていたものだ。


龍介はそれを受け取りながら、布団に隠れていた、もう1つの物も見つけた。


「これも…。」


龍介が手に取ったのは、龍介が山梨の山奥で採取して来て、武器に出来る様な程カットをして貰って作った、水晶のハート型の指輪だ。


「なんか付いてるな…。」


指輪にも、ネックレスにも、血の様な物と、茶色い皮の様な物が付着している。


「それも調べて貰いましょう。」


しずかに言われ、そのまま証拠品袋に入れる。


「私、瑠璃ちゃんのお母様に連絡しておくわ。」


「うん…。お願いします。」


瑠璃にとっての、護身用アイテムが遺されていた。

これも、龍介の不安を募らせる。

瑠璃はどこに、誰が連れ去ってしまったのか。

冷静に動きながらも、龍介の心は、不安と焦りでいっぱいだった。





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