相談する人間違えてる…
月曜日、龍介が赤松に報告すると、赤松は自分の事の様に嬉しそうに笑った。
「そりゃ良かったな。で、会えたのかな。」
「昨日会ってるはずだ。真二もバタバタしてたのか、連絡は無いが、多分大丈夫だろう。」
「そっか…。でも、戦争って本当嫌だな…。人の考え方までおかしくして、人生狂わせて…。戦争行っても行かなくても、悪影響があり過ぎる。」
「まったくだな…。俺も今回の件で、改めて、当時の日本にいる人達の話聞いて、そう思った。ヨシ子さんもミチ子さんも、15や16で、学校にも行けず、工場勤めさせられて…。」
「本当だよな。」
亀一が赤松を見つめて、何か思いついた様子で言った。
「お前、総理大臣になれよ。」
「はあ!?長岡、何言ってんだあ!?」
ところが、龍介を始め、、全員で納得した様子で頷いている。
「赤松だったら、いい国作れる。是非是非。」
「是非是非って、お前がなりゃいいだろう、加納。」
「俺は裏方に回りますんで、是非是非。」
「何が裏方だ!」
亀一がコソコソと他の3人に言った。
「龍が国防長官で、赤松が総理大臣なんて面白いな。」
瑠璃も楽しそうに笑う。
「そうね。正義の国家が出来そうね。」
言えている。
2人共、頑なに曲がった事が大嫌いだ。
その後、両親とヨシ子さんに付き添われて、生徒会室とラグビー部の部室に正規のルートでお詫びにを兼ねた挨拶に来た真二は、祖母と大叔母の再会を報告し、大叔母は祖母を看取る為、真二の家に泊まっているのだと嬉しそうに言っていた。
手土産まで持って来て、もういいという程、4人で礼を言ってくれた後、真二にまで赤松と龍介は言われていた。
「お兄さん達、総理大臣になってください。そしたら、戦争が起きて、大叔母さんみたいに悲しい目に遭う人が居なくなるから。」
と…。
「赤松…。赤松真太郎っつーんじゃねえのかい?」
竜朗にそんな事を言われたと話すと、一頻り笑った後、首を傾げながら聞いた。
「そう。赤松真太郎。なんで知ってんの、爺ちゃん。」
「数年前の総理の赤松さん、あの人の息子だよ。」
「えっ!?結構話してるつもりだったけど、全然知らなかった!」
「まあ、赤松さん、総理やった後、政界引退しちまったからな。
あの人は人気のあった総理だけに、後継げだのなんだの、面倒だから、敢えて話さねえんだろう。」
「はあ…。びっくりだな…。赤松さん、俺好きだったし…。」
「俺も。いい政治家だったな。カリスマ性もあるし。
今、後継いでる長男もいいけどな。若えのに、言いたい事言って、親父の若え時そっくりだ。」
「随分年が離れた兄弟なんだね。」
「息子3人居るんだが、全員、母ちゃん違うのよ。全員と離婚したんだが、子供も全員引き取ってんだ。珍しいけどな。」
「そうだね。へえ…。そうだったのか…。じゃあ、赤松総理もあり得なくは無えのかな…。」
「どうかね。地盤は兄貴の真之介が貰っちまってる。
一から始める事にはなるから、兄貴よりはやりづれえだろうがな。
ま、本人にやる気と資質がありゃあ、どうにかなんだろう。」
「ふーん…。カリスマ性はあると思うぜ?人気者だし、みんな信頼してる。
あんま喋んねえけど、間違った事は言わないし、こうと思ったら、ズバッと言って、行動する。
そういや、赤松元首相と似てるかもしれないな。」
「ほお。龍がそんなに褒めるとは、珍しいな。」
「俺、そんな辛口?」
「いや、別にそういう訳じゃねえが、今まであんま亀一や寅以外同級生の事は話さなかったし、そう重きを置いて見てるようにも見えなかったからさ。」
「まあそうだね。確かに赤松は一目置いてる。」
黙ってパソコンをいじりながら聞いていた寅彦が笑った。
「龍と赤松は、英の数少ない女子のアイドルなんですよ。」
「ほお!アイドルかい!大変だな、そりゃ!」
揶揄う気満載の竜朗を、横目で睨む。
「でも、龍には唐沢が居るから、少し人気は低いかな?」
「なるほどなあ。」
「爺ちゃん、なんでそんな面白そうなんだよ。」
「だって面白えんだもん。全然女の子に興味も無えし、迷惑がってる龍がモテモテなんてよ。」
「そうかなあ。」
「鸞ちゃん…。あの真太郎様ファンクラブと、龍様ファンクラブ、どうにかなんないのかしら…。」
瑠璃は、鸞の家に遊びに来ていた。
また夏休みが始まると、フランスに行ってしまい、会えなくなってしまうからだ。
「何か嫌がらせでも受けてるの?」
鸞が捕獲銃に手をかけながら聞いた。
ーどうして私の周りの人は物騒な人ばっかり…。
「ち…違うんだけど、丸で柊木さんが一杯いるって感じなの。
うちの学校の女子生徒、総勢35人の内、私と鸞ちゃんとすずちゃん以外、全員どっちかに入ってるでしょ?
そうすると、かなりの確率で、トイレとか、至る所で龍のファンクラブの人に会う訳よ。」
「ふんふん、なるほど。それで?」
「でね、聞かれるのよ。
どんなお付き合いをしてるの?
優しい?
デートはどこへ行くの?
どんな事お話しするの?
加納君の好きな食べ物は何?
誕生日は、星座は、血液型は、家族構成はとお!」
「うざいわね…。」
「うざいのよお!極みよお!
夏休みになって、ホッとしちゃうわよお!
大体、私にはのろけられる事柄が少な過ぎるじゃないのお!
嫁は瑠璃って言われただけじゃないのお!」
「まあ、そうね。そうなると、ただ根堀り葉掘り聞かれても、苦痛なだけと。」
「そうなの。」
「でも、仕方ないわね。モテる男と付き合った人の運命かもよ?
うちのお母さんも、お父さんと付き合ってる時、それだけでなく、嫌がらせまで受けて大変だったって。」
「嫌がらせ!?酷いね!誰に!?」
「仕事関係の大使館の人とか、外国の同業者の人とか?
うちのお父さん、元々プレイボーイだったから、お母さんと付き合う前までかなり乱れてたそうだから、その嫉妬みたいなのもあったらしいし。」
「はあ…。想像を絶するわね…。龍がプレイボーイでなくて良かったわ…。」
「まだマシとは言えるけど、でも大変ねえ…。やっぱり一回捕獲しちゃって、懲らしめとく?」
矢張り捕獲銃に手をかける。
「いい!いいの!大丈夫!聞いてもらったら気が晴れたから!」
ーああ、この人達は本当にもう…。相談した私が馬鹿だったんだわ…。
この間、龍に言いかけたら、あの不敵にニヤリ顔で『落とし穴に落とすかあ!?』って楽しそうに言ってたしねえ…。
どうして平和的解決ってのが1発目に出てこないのかしら…。
其は即ち、お育ちと血筋故である。
「ところで、瑠璃ちゃん。私も相談があるの…。」
珍しく、鸞が言いづらそうに話し始めた。
深刻な事かと、瑠璃も居住まいを正し、真剣に聞く態勢になる。
「どうしたの?何かあった?」
「あのね…。どっから話せばいいのかな…。結論…は出てないしね…。」
「そういう時は、回りくどくなっても、順を追って言ってみて?」
「うん…。じゃあ、お言葉に甘えて…。
実はこの間の事件の時、大阪に行って、とうとう寅と喧嘩になって、龍介君の仲裁でどうにか収まったという話はしたと思うんだけど…。」
瑠璃の顔色が悪くなる。
「龍の仲裁に問題が!?」
瑠璃が龍介の浮世離れした感覚で、またポカをやったのかと、勘違いして心配しているのが分かった鸞は、吹き出しながら首を横に振った。
「違うのよ、瑠璃ちゃん。
意外とちゃんと仲裁してくれたわ。
女の子との付き合い方も、お父さんにお爺ちゃんといういい先生が居るからか、よく分かってるし。」
「そう…。良かった…。それで…?」
「でもね…。寅は気を付けると言った通り、出掛けても手は繋いでくれるけど、なんか渋々っていうか…。
知り合いにばったり会ったりすると、パッと手を放すし。
別に大した事じゃないのかもしれないけど、なんかねえ…。
それに、やっぱり私、あの大喧嘩の時点で、ちょっと冷めてたのよね。」
「冷めちゃってたんだ…。」
「今思うとね。お化け恐怖症が情けないって思い始めた位からなんとなく…。」
「うんうん…。そっか、そっか…。」
「で、昨日。赤松君に呼び出されてたでしょ?私。」
「ああ、部活前ね。」
「うん。」
「なんの用事だったの?」
「実はね…。」
その頃、龍介は赤松と会っていた。
やはりイギリスに行ってしまうので、借りた本を返すという用事だったのだが、そこで龍介は、目が点になり、思考を失う爆弾発言を聞いてしまった。
「俺…。京極さんが好きなんだ…。」
と、赤松が赤い顔で俯きながら言ったのだ。
「いい!?ら…鸞ちゃんには寅があああ!」
「分かってる…。だから、幸せなら諦めようと思ってた…。
でも、この間、ばったりデート中にあった時、京極さんは幸せそうには見えなかったんだ…。
だから…。」
「だっ、だから…!?」
「昨日、好きだと言ってしまった。幸せじゃないなら、俺と付き合ってくれと…。」
「えええええー!?」
龍介、大パニック。
彼のキャパシティを完全にオーバーしているカミングアウトに、もう我を忘れ、ムンクの叫びなったまま固まってしまうしかなくなっている。
「ら、鸞ちゃん…なんて…?」
「少しだけ考えさせて欲しい、確かに幸せには思えなくなってきているし、俺の事は結構好きなタイプだからって…。」
「なぬうううー!?寅はどうなっちまうのおおー!?」
赤松に聞く事では無いのだが、思わずそれしか頭に無い状態になり、叫んでしまった。
「親友だもんな、心配だよな…。ごめん…。」
赤松に冷静に謝られ、少しだけ、龍介の頭も回った。
「ああ…いや、こっちこそごめん…。赤松には関係無かったな…。」
「いや、俺の方こそ、加納に相談する話じゃなかった…。加来は親友なのに…。ごめん…。」
「いや、それとこれとは別問題。いいんだ…。でも、相談て…。俺で役に立つのか…?」
「だって、唐沢さんと付き合ってるじゃないか。」
「う…。」
だからと言って、恋愛問題には全くの門外漢で、瑠璃が時々、悲しそうに目を伏せているのも薄々気付いてきているし、竜朗が泣きそうなりながら、神棚と仏壇に向かって、『龍に煩悩を戻してやって下さい…。』とブツブツ言っているのも知っている。
段々自分は、事、恋愛においては、普通の男では無いという事は分かって来ているので、瑠璃と付き合っているからと言っても、赤松の役に立てそうに無いのは自明の理な気がする。
「あ、赤松…。俺は…。瑠璃と付き合ってても、恋愛という物がなんだかサッパリ分かってないし、周りにはお友達同士の域を出ないと嘆かれているので、到底、お役には立ちそうにないんだが…。」
赤松はクスッと笑った。
彼はあまりバカ笑いはしない。
「そうなのか…。可愛いな。でも、いいじゃないか。健全で。」
「は、はあ…。で…、相談とは…?」
「脈あるだろうか…。
ていうか、気が気じゃないんだ。
明日の終業式の直後には、親父さんが迎えに来て、フランス行っちまうだろ?
出来たら、答えを明日聞きたい。
でも、考えさせて欲しいと言われたのに、せっついたりしたら、それだけで、嫌われてしまうかもしれない。
ここはジッと耐えるべきなのか、待てないと言うべきなのか、どっちがいいんだろうかと…。」
龍介は、再び、ムンクの叫びになりながら、心の中で叫んだ。
ーどっちがいいんだろうかって…。
んな事分かるかあああああー!!!
俺こそどうしたらいいんだああああー!!
誰か助けてえええー!!!