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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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寅彦と鸞

龍介達が補足してやりながら、真二が説明し、聡と2人で丁寧に謝ると、赤松達は笑って許してくれた。

のみならず、赤松は真二の頭を撫でながら言った。


「大叔母さんがこの下に埋まったままなら、俺たちが掘り返そうと思ったけど、生きてらっしゃるなら、本当に良かったな。説得して、お婆ちゃんと再会できるよう、祈ってるぜ。」


「はい!有難うございます!」


真二達も、赤松の清々しさに感激している。

その上、ラグビー部員は全員で頷きつつ、笑顔で、頑張れよと、口々に励ましているし、龍介達まで気持ち良く、心が洗われるようだった。

流石、紳士で有名な英学園のラガーマン達。

英学園のラグビー部や、授業でのラグビー指導では、兎に角、「ラグビーは紳士のスポーツだから、卑劣な得点の取り方したら、それは勝ちではない!」というのを、技術的なものより先に叩き込まれる。

ラグビー部員達にはそれが生活全般、考え方にまで、染み付いているらしい。

それは結構有名な話で、英学園のラグビー部出身というと、大学の推薦や就職も有利だったりするらしい。

ついでに言うと、英学園の剣道部もそういう意味で有名である。

今時レアな、侍魂、大和魂を持ち、潔く、紳士的とされる。

確かに、顧問の指導は、技術的な物より、精神論、武士道精神の指導が多い。

中でも、赤松は、元の性格の良さもあって、尚更だ。

だから、龍介は珍しく名前をちゃんと覚えているのかもしれない。


同い年の中でも一際背のでっかい、全員176センチ以上という、高校生の集団に見送られ、真二達は柵を外して出て、亀一から借りた道具で、ちゃんと溶接し直して、また頭を下げて帰って行った。




「やきもち?あんな子供相手に?」


帰り道、龍介は瑠璃と2人で用事があると言って横浜駅で3人と別れ、カフェに入って、軽めの食事を頼んで話を聞いていた。


「うん…。

でも、ほら。加来君、多分自信無いのよ。

鸞ちゃん二言目にはお父さんだし、お化け関係では醜態晒してるし。

それに、鸞ちゃん、加来君がやきもち妬いてるって分かってて、真二君の手を握り返して、行ってあげるって言うし…。

加来君の不甲斐ない所にちょっと腹立てて、意地悪しちゃったみたいなのよね。

真二君の方も、美人で、優しくしてくれた鸞ちゃんに、恋心みたいなの、持ったっぽいし。」


「恋心!?なかなか強烈な捕獲のされ方したのに!?」


「それは私もそう思うけどさあ…。」


「はあ…。分かった…。」


「だから、大阪行き、2人が喧嘩にならない様に、気をつけてあげて?」


「うーん…。」


それは、龍介には、かなり難しい任務だった。

大体、今聞いた話も、現場に居たが、全然分からなかったし。


「喧嘩にならねえようには、自信無えな…。なったらなんとかするよ。」


「う、うん…。」


頼んでおきながら、瑠璃も龍介には無理だと思った。


「ところで、寅と鸞ちゃんは上手く行ってねえの?寅からは、そんな話も聞かねえけど。」


「ちょっと最近鸞ちゃんがねえ…。」


「寅がお化け怖がって騒ぐから?」


「そう…。情けないわって。」


「うーん…。まあ、確かにあの寅はなあ…。でも、お化けに遭遇は、そう滅多やたらには無えだろ?」


「とは思うけど、私達、便利屋さんみたいな事してるから、意外と多いんじゃない?」


「ああ、まあそれはそうか…。でも、鸞ちゃんにフラれるぞって脅しても、怖いもんは怖いだろうしな。」


「そうねえ…。ところで龍って怖い物ってあるの?」


龍介は困った様に笑って、瑠璃を見つめた。


「なあに?」


「瑠璃とか、大事な人に嫌な事や危険が迫るのが怖い。死んじまったらとか考えるだけで、泣きそうになる。」


瑠璃は身悶えしながら、顔を崩れさせてにやけまくった。


「いやあーん。龍ったらあー。」


「そういう面白い顔も好き。」


ハッとなるが、また直ぐにやけまくる。

寅彦と鸞の深刻な問題の話のはずが、いつの間か、お幸せな話になってしまった。


「瑠璃は?」


「は…。私?」


「あんま動じねえじゃん。」


「そうねえ…。

うちの母があんな感じで、しょっ中、あら、妖怪がいるとか、あら、変なのが居るとか言ってたから、お化け関係は大丈夫だけど…。

でも、普通に怖いよ?変態とか痴漢とか、ヤクザとか…。」


「そりゃだって、瑠璃は特に何か訓練してる訳じゃねえんだもん。それでいい。

寧ろ、怖いもん無しで向かって行っちまう鸞ちゃんの方が、端から見てると怖い。」


「だから京極組長は、ああいう武器を特注で頼んだのね。」


「だろうな。力じゃ男には勝てない。接近戦はヤバイ。」


「そうなのよ。そこなのよ。」


「ん?」


「鸞ちゃん、怖い物無しでしょ?だから余計、加来君に怖い物があって、乱れるのが許せないんじゃないかと思うの。」


「本当に無えの?怖いもの。」


「この間聞いて、何か言いかけたんだけど…。なんだったんだろう…。」


「あるにはあると?」


「そうみたい。でも、怖がってる所なんて見た事ないから、其処彼処(そこかしこ)にゴロゴロしてそうな

物が、怖いものではなさそうな…。」


「そっかあ…。寅は他の事では頼もしいんだから、折り合いつけてくれるといいんだけどなあ…。

そして、出来たら寅ももう少し頑張ってくれるとなあ…。

うるさくてしょうがないぜ。仕事になんねえし。」


「ふふ。確かにね。」




翌朝、真二を3人で迎えに行ってやり、新横浜から新幹線に乗った。


新幹線に乗るなり、寅彦は不機嫌そうにパソコンを開き、ヨシ子さんの居場所を、とっくに調べ上げた携帯電話番号から割り出しにかかった。

真二は楽しそうに鸞の隣に座って、手まで繋いだまま、車窓の風景を見たり、鸞と話したりしている。


「お姉さんみたいに綺麗な人って、見た事ないです。兄ちゃんもびっくりしてたでしょう?」


「それでびっくりしてたの?困るわあ…。」


毎回こうだが、得意になってしまうのが頂けないような気もするが。


「うん。本当綺麗。」


「嬉し。真二君、ちゃんと言ってくれるから。」


と、ジロッと寅彦を見る。

その目を見て、とうとう寅彦が切れた。


「あんだよ。言えばいいってもんじゃねえだろ。」


「言わなきゃいけない事もあるのよ。」


「分かってんならいいじゃねえかよ。」


「そういう問題じゃないの。分かんない人ね。」


「大体その手はなんだよ。真二の家出てからずっと繋いでんじゃねえかよ。」


「悪い?大体、寅は恥ずかしがって手も繋いでくれないじゃない。そのくせキスしていいかなんて、スケベな事言うんだから。」


「あれ以来言ってねえだろうがっ。」


「お父さんに言いつけられたら困るからだけでしょ。」


「鸞!」


「何よ!」


どんどん険悪ムードになって行く。

流石に龍介でもまずいと分かるし、真二も怯えている。


「ら、鸞ちゃん…。なんでそんな一々喧嘩腰なんだよ…。寅もそこまで怒らないの…。」


そう言いながら、鸞が寅彦に相当不満を抱えているのは分かって来たが、何故本題をはっきり言わないのか、龍介には分からない。

鸞はいつもはっきりきっぱり言うし、回りくどい言い方なんかしない。

そこが敵も多ければ味方も多いという状況の原因だが、龍介はそれが嫌だと思った事は無いし、多分、仲間内は、誰も思っていない。

はっきり言っても、鸞は人を貶したり、馬鹿にするような事は言わないからだ。

だが、今のはちょっと嫌味だし、トゲがある。


睨み合っている鸞にそっと言った。


「ちょっと後で話そうぜ。そういう回りくどい言い方は余計な諍いを招くだけだ。」


「うん…。」


鸞は寅彦から目を逸らし、悲しそうな目になって、窓の外を見た。

その鸞を、真二が心配そうに見ている。

龍介は寅彦にも小声で言った。


「寅らしくねえぞ。真二だって不安なんだよ。この年で、大叔母さんの説得に当たらなきゃなんねえんだから…。おばあちゃんの期待背負ってさあ。」


「ーああ。」


「寅あ?」


「ちょっと俺も後で聞いて…。」


「うん、そうしよう。」


なかなか重苦しい空気のまま、大阪に着いた。






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