英学園の土地
「顧問、最近真面目ですねえ。Xファイルの書類整理になんか来ちゃったりして…。オネエちゃんはいいんですか。」
老眼鏡を掛け、黙々とXファイルの部屋で仕事をしている真行寺の下に来た竜朗は、心から感心した様子で言った。
「あんなに顧問時代、書類仕事嫌いだったくせに。」
真行寺は老眼鏡を頭の上に上げ、ギロリと竜朗を見た。
「な…なんか怒ってんですか…。」
「この葉っぱつけて、オネエちゃんは口説けんだろうが!」
「そらそうでしょうけど、それでなんで俺に怒るんですか…。」
「龍介が完全に治るまで、タンザワッシーに貰い続けるとか言うし、付けとけって言うからだ!」
「龍は真面目なんですよ。顧問のお身体が心配なだけです。」
「それ分かってて、龍介には怒れないから、お前に怒っているんだあ!」
つまりは八つ当たり。
竜朗は苦笑しながら溜息を吐いた。
「我慢して下さい。治れば、オネエちゃんとのデートだって、もっと出来ますから。」
「ほんとに全く…。俺からイケメンプレイボーイジジイを取ったら、何が残るっていうんだ…。」
ブツブツ言いながら、書類を見て止まった。
「竜朗…。」
「はい。」
「英学園の前の土地じゃねえのか、これ…。」
「ん?」
真行寺が出したのは、もう50年前の書類で、年代的には、英学園が建つ直前の物だった。
「そうですね…。へえ。化物騒動?」
「戦後のゴタゴタで色々あった時代だったが…。」
竜朗は書類を受け取り、読み始めた。
「軍需工場だったんですね…。
物は飛行機の部品か…。
空襲で焼けて、大勢亡くなって、その後、助けを呼ぶ声やすすり泣きが聞こえて、住民が怖がり…。
って解決しないまんま、英建てちまったんですかね。」
「そのようだな。分倍河原の父上が買い取り、英を建てた…。まあ、地鎮祭とかは、ちゃんとやって建てたんだろうが。」
「それで亡霊も収まったんですかね。龍の学校でお化け騒動なんかあったら、寅が登校拒否になっちまうし。」
「そうだなあ…。まあ、何も無いならいいんだが。」
その頃、寅彦は耳を両手で塞いで、まさしくピーピー叫んでいた。
「寅あ!聞こえねえだろ!?黙っとけ!」
黙らない。
「聞こえない!何も聞こえない!ぎゃー!ぴー!」
龍介は虚ろな目で寅彦の背後に居た亀一とアイコンタクトを取り、亀一は寅彦の首に腕を掛け、直ぐに落として、机に突っ伏させた。
相談に来た同級生が呆然としている。
ここは生徒会室。
龍介は、写真部の存続と部費の確保の為、無理矢理送り込まれ当選。
仕方がないので、亀一達仲間も引き込み、役員に当選させ、放課後はこうして、生徒会室で事務仕事をする日が多いのだが、何故か龍介が生徒会長に就任してから、学内の問題を相談に来られる事が増えた。
どうも、以前解決した英クラブの事件の手腕を買われてしまっているらしい。
今日の相談は、ラグビー部の部室で、すすり泣く声や助けを呼ぶ声が聞こえ、ラグビー部員が使えなくなってきてしまったというものだった。
「無視して使えないの?」
鸞に呆れ返った様子で聞かれ、不貞腐れた様子で返す。
「いや、俺達だって、そんなもん気にすんなって、初めの内は無視してたよ。
面白がってた奴も居る。
だけど、段々酷くなって来て、声はドンドン大きくなって、会話してても聞こえない様な大きさだし、制服の上だけとか、下だけとか、靴下とか、靴とかが無くなって、探しに出ると、あの謎の小屋あんじゃん?
あそこの前で見つかるなんて事が毎回になっちゃってさあ…。
練習どころじゃねえんだよ。もう…。
怖いとかって話じゃねえからな!?京極!」
「あら、それは失礼しました。どうします?会長。」
「そうねえ…。確かにあの小屋は不明だ。
先生達は生徒に近付く事も許さないし、創立以来の生徒会の記録でも、一言も触れられていない。
調べてみよう。
取り敢えず、理事長にあの小屋の謎を聞いてみようか。」
理事長と龍介はメル友なので、直ぐにメールしてみると、理事長も直ぐに返事をくれた。
直ぐなのは納得だ。
何故なら異様に短い返事だったから。
ー知らねえなあ。
その一言。
龍介は、創立者である父上から何か聞いていないかと食い下がってみたが、理事長の返事は、真相には遠かった。
ーあそこは子供達を近付けるな、誰も入んねえ方がいいってそんだけしか聞いてねえんだなあ。悪いな、龍介。
「無くなった物全てが、あの小屋の前で発見されている。
そして、ラグビー部の部室はあの小屋の隣。
犯人が人間だとしても、何か意味があるはずだ。
瑠璃は、ここが出来る前の事を調べて。
俺達は小屋に行ってみよう。」
そんな訳で、生徒会として調査する事になった。