助かるぜ!?
エンジンをかける龍介の目の前に、戦闘機が現れた。
微妙にあの宇宙船に似ていて、真夜中の暗がりでは、戦闘機が照らすサーチライトで、漸く戦闘機が居るというのが分かる程度だ。
殺られるかもしれないーそう思った時だった。
戦闘機は宙に浮かんだまま、ハッチを開けた。
中から顔を出したのは…。
「父さん!?」
「龍、無事か!?さっき真行寺からここって連絡が入ってさあ!来たら、丁度、龍が脱出の真っ最中だったから、手伝おうと思って!」
「手…手伝うって…。」
龍介は、改めて眼前に広がる惨状を見つめた。
建物ボロボロ。
という事は、証拠とか、手掛かりになるであろう、犯人グループのパソコンも粉々になり、いくら加来でも復元出来ないだろう。
犯行グループはというと、これまた半死半生。
果たして事情聴取出来るのか、龍介の目から見ても、極めて難しそうだ。
大体、こういうプロのスパイなのだから、喋らないのが前提だろう。
そうなると、パソコンや所持品が非常に重要になって来るのだ。
「父さん!それは有難かったけど、ここまでやっちまったらマズイだろ!?
証拠とか出れば、いい外交材料になったかもしれねえのに、全部壊しちまってどおすんだよ!」
「どうしてそういう親父みたいな事言うのよお。
折角助けたのにい。
大体、龍が車に乗り込む時、あとちょっとで撃たれてたんだよお?
お礼位言ってくれたっていいじゃあーん。」
「それはごめ…。」
龍介が言いかけた時、図書館の黒塗りのSUVが6台、急停車して停まり、竜朗が転がる様に出て来て、やはり怒鳴った。
「龍太郎!アホかてめえはあ!全部粉々にしちまってどおすんだよ!龍に当たりでもしたらどうする気だあ!」
「そんなヘマしませんよーだ!」
龍太郎は無視して、龍介に駆け寄る。
「大丈夫か?怪我無えか?」
「はい。爺ちゃん、ポチは?」
「大丈夫だ。」
竜朗は車に向かって、笑顔で顎をしゃくった。
するとドアが開き、ポチが尻尾を振り回しながら走り出て、龍介に飛びついた。
「ポチ!ごめんな。」
クーンクーンと甘えた声を出して、龍介との再会を喜ぶポチ。
「ちゃんと言いつけ守って、俺を呼びに来たんだぜ?褒めてやんな。」
竜朗も一緒なってポチの頭撫でながら言うと、龍介はポチを抱きしめて撫でた。
「有難う、ポチ。偉かったな。」
すると竜朗は龍介の頭を撫でた。
「おめえもだ、龍。冷静によく頑張った。ちゃんと脱出出来たな。」
「いや、それは父さんが…。」
父さんと聞いて、またラオウになって龍太郎を睨み付ける竜朗。
「おめえはよ…。
いくらこんな山ん中っつったって、自衛隊の演習場も無えとこで、今の音、どうやって隠蔽すりゃいいんだ!
全く後先考えねえんだから!
始末書書いとけええええ!」
龍太郎は何も言わず、ちらっと龍介を見て、安心しきった、心の底から喜んでいる笑顔をすると、ハッチを閉めて、飛び立ってしまった。
「あんにゃろ…。
どうも、1番初めの下仁田ネギの浅漬け工場跡から、半径20キロ圏内を、図書館の連絡を傍受しながら、ずっと戦闘機飛ばしながら探してたらしい。」
龍太郎の作った戦闘機なら、地上の人間だけでなく、建物内部の人間を感知する事も可能だ。
しかしそれをやりながら飛ばし続けるというのは、神業に近いし、物凄く疲れる。
「心配かけちゃったな…。やっぱ俺、イギリス行った方がいいのかな?爺ちゃん…。」
竜朗はクスッと笑うと、龍介の頭を撫でながら抱え込んだ。
「もう遅えな。そういう心配があっても、龍太郎は龍にだけは、側に居て欲しいのよ。勿論、俺もだ。
離れてる寂しさと、こういう心配、どっちがいいって、こういう心配の方がマシって今回の件で気付いちまった。
だから龍がイギリス行きてえってんなら兎も角、そうじゃねえなら、こっち居てくれ。」
「うん。」
龍介と微笑みあった次の瞬間に、竜朗は苦虫を噛み潰したかの様な顔つきになり、憎々しげに呟いた。
「全くあの野郎…。また証拠だのなんだの、全部消してくれやがって…。ただじゃおかねえ…。」
それを察知したのか、龍太郎はそれから暫く帰って来なかった。
行かないつもりだったが、龍彦には相当な心配をかけ、また大変な仕事をして貰ったという事で、龍介は礼を言いたくて、春休みはなんとか用事をやり繰りして、イギリスへ行った。
龍彦は龍介が言葉を発する前に、龍介を抱き締めた後、くしゃくしゃの笑顔で龍介の頭を撫で回した。
「お父さん、有難うございました。」
「いいや。何も。
今回ばっかは、あのバカのした事の方を支持しちまうぜ。
俺も向こうに居たら、叔父さんみてえにランチャーで、1発や2発ぶち込んでただろうからな。」
「でも、父さん、爺ちゃんに凄え怒られてたよ。物証が全部パアだって。」
「まあ、そこは痛いけどね。でもお前も凄いね。相変わらず冷静で。流石俺の息子。」
龍介が苦笑しながら、龍彦に肩を抱かれたままになっているのを、幸せそうに見た後、漸く自分の父親を見た龍彦は吹き出した。
「なんだ藪から棒に。もう葉っぱは無いぞ。」
「だからだよ。終わったのか。貰った枚数。」
「そう。漸く。これでやっと人前に出られる。血圧もほぼ正常値。」
嬉しそうな真行寺に龍介が難しい顔になって言った。
「けどさあ、ほぼだろ?まだ足りねえんじゃねえかな。タンザワッシーに貰って来よう。」
途端に真行寺は真っ青になった。
「やめてくれ!もういい!もう大丈夫だから!いやマジで!」
「そうかなあ…。」
「そうだっ!」
その日は蜜柑がネッシーを捕まえると言うので、そのまま全員でネス湖に行った。
もう日も暮れて来て、人気もなくなり、ネッシーも当然ながら出て来ないので、蜜柑を説得し、そろそろ帰ろうかと岸に着き、車へ向かおうとした時の事だった。
ザッパーンと懐かしくもびっくりな、タンザワッシーが現れた。
「タンザワッシー!?なんでここに!?」
驚く龍介に笑顔でご挨拶。
勿論、相変わらず、あおんしか言わないが。
「へえ。これがタンザワッシーなのか。可愛いなあ。」
龍彦が言うと、龍彦の方を向いて、あおんとご挨拶。
「あ、こんにちわ。父の龍彦です。」
「あおんあおん!」
「名前はあおんちゃんなの?」
しずかが聞くと、首を振り、小枝で岸に平仮名でコウタと書いた。
「あ、コウタ君!そうだったわね!ごめんね、コウタ君。」
「あおあおん。」
「気にすんな?」
龍彦が通訳すると、頷く。
そしてやはり、真行寺に衝撃が走る。
ーだからなんで分かるんだってえー!!!
「どうしたんだ、タンザワッシー。また何か困った事でも起きたのか?」
龍介が聞くと、左右に首を振り、小脇に挟んだ葉っぱを咥え、真行寺の前に置いた。
真っ青になって、後ずさる真行寺の腕をガッシと掴み、龍介は満面の笑みで言った。
「持って来てくれたのかあ!」
「あおん!」
「有難う!タンザワッシー!」
「あおん!」
龍介に頬ずりし、何故か蜜柑と握手をして、タンザワッシーはまた消えた。
「良かったね、グランパ!これで完全に治るぜ!?」
可愛い孫の、可愛い笑顔だが、真行寺には悪魔の微笑みにしか見えない。
「りゅ、龍介、勘弁してくれ…。本当に、飲みにも行けないし、色々困るんだって…。」
「健康になった方が良いじゃねえかよ!また欠かさず着けるんだぜ!?」
「うおおおおお…。そりゃ無いぜええ…。」
もう泣きそうな真行寺。
それを見て、大爆笑の龍彦夫婦。
龍介にもやっと平和が戻った。
1人、真行寺に心の平和は訪れないが…。