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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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絶体絶命…かも?

龍介は、怯えた目で、陶の留置所を覗いた。


「あの…。」


ー瑠璃~!!!怖いよおお!!!


これ程までの恐怖は、今まで感じた事が無い。

しかし、その怯えた目が、龍介の意に反して、非常に可愛いので、陶は龍介をハンターの様な目で見た。


ーうっ!きゅ、給料だ。そうだ…、給料だ…!。


「さっきの男との話は聞こえたよ。」


「聞いてたんですか…。」


「そんな所に居たら、話も出来ない。入ったら?」


嫌だが、仕方がないし、それが目的でもある。

龍介は怯えながら入った。


「そんなに震えて。あの男は、君に暴力を振るっているんだろ。何故一緒に居るんだ。」


「怒った時以外は優しいから…。」


「だけど殴るのは良くない。こんなか弱い君を。」


モニタリング一同、吹き出す。

か弱いとは対極に居る男なのだが、見た目が細いので、筋肉質は触らないと分からないらしい。


陶は場所をずれて、龍介をベットの上に一緒に座らせた。


ー怖い…。人間てこんな怖いのか…。


龍介は恐怖の余り震えている。


「こんなに震えて…。あの男が怖いんだね。」


ー違うわあ!あんたが怖いんだあ!


「君は本当にここの人間なのかい?警官には見えないけど。」


「ぼくは事務です。現場には出ません。」


「そうなのか。」


「あの…。話してくれませんか…。」


「あの男のためかい?」


ーいいや!給料の為だ!


そう思って、思わず睨みつけそうになったのを抑え、龍介はすがるようにして言った。


「だって…。少しでも聞かないと、僕また…。」


「暴力を振るわれるの?なんでそんな奴と付き合ってるんだ。あの男は、確かにハンサムだったが、君みたいな可愛い子なら、他にいくらでも居るだろう。」


「ーでも…。」


次のセリフが喉につかえて出て来ない。

しかし、言わねば話は先に進まない。

龍介は葛藤の余り、泣き崩れながら言った。


「だけど、僕は達也を愛してるんだ!。」


モニタリングしている夏目の全身には鳥肌が立ち、卒倒寸前だが、龍介も真っ青な顔で、気絶しそうになっており、もう情けなさの余り、本当に泣いている。

しかし、これがかえって功を奏した。


陶は龍介の背中を撫で、髪を撫でて、猫なで声を出し始めた。

龍介は払いのけて殴り飛ばしそうになるのを必死に堪えつつ、涙目のまま陶を見つめた。


「私なら、君にそんな悲しい顔はさせないよ。」


「だけど、僕は達也からは離れられない。」


「愛してるから?」


「それもあるけど、でもそれより、達也は僕が何処に逃げても見つけてしまう。見つかって連れ戻されたら、もっと酷い目に遭う。だから…。」


「私はスパイだから、絶対に見つからない方法を知ってるよ。」


食いついて来た様だ。後一押しである。


「ーだったら、一緒に逃げてくれる?」


「本気かい?」


龍介、心の中でガッツポーズ。


「あなたが本当の事話してくれて、達也に言ったら、向こうは忙しくなる。その隙にあなたと一緒に逃げる。どうかな?」


「ー嘘の情報で良くないか。」


「そんなの直ぐバレるよ。達也はあんな人だけど、頭もいいし、能力はとても高いんだ。それに、僕はスパイやこの関係の人と付き合うのはもう嫌だ。あなたがこの仕事から足を洗う気が無いなら、僕は一緒に逃げない。」


陶は考え込んだ。

もう一押しである。

女性すら口説いた事もなく、増して相手は男だが、龍介は給料と瑠璃の顔だけを考えながら頑張った。


「お願い。なんでもするよ。あなたの言う通りに…。」


もう泣きそう。

しかし、陶は生唾を飲んだ。


ーうわああああ!食われるううう~!!!瑠璃、助けてえええ!


「ー分かった。この仕事は辞めて、君と誰も知らない所へ逃げよう。」


ーやったぜ!コンチクショウ!


万歳して、そのまま殴りそうになるのは只管我慢し、話を聞く。


「実は、銀行の貸金庫に預けてあるんだが、王将軍から貰った一年計画書があるんだ。それに詳細が書いてある。

その話に入る前に言っておこう。

実は、南沙諸島の埋め立てと軍事施設建設は、ダミーではないが、世界の目をそっちに向けさせる為なんだ。」


「他に何かしてるの…?」


「している。先ずは、朝鮮半島を手中に入れる。」


「経済的に?」


「それは勿論だが、工作員をかなりの数入れている。準備が整ったら、一斉に最新兵器を投入して、一気に掌握し、中華人民共和国とする。」


「そんな事したら、韓国に関しては特にアメリカが…。」


「だから、南沙諸島なんだ。実際、米軍はかなりの数をあっちへ投入し、我々を牽制しようとしているだろう?」


「うん…。」


「だから、その準備の中に、南沙諸島やインド、その他諸々、要するに日本以外のアジア圏、全てを掌握するというのが入っているんだ。その軍事蜂起をいっぺんにやったらどうだ。アメリカも手が出ないだろう。」


龍介は、なるべく馬鹿そうな言い回しを考えながら、質問した。


「中国とロシアは仲良しだよね?ロシアには相談したりしていないの?」


陶は、笑いながら龍介の頭を撫でて、顔を覗き込んだ。

その目は、いやらしいオッさんが、若い女の子を見る目と同じだ。

気色悪いわ、殴りたくなるわをまた堪えて、見つめ返す。


「君は可愛いね。頭もいいんだな。そうだよ。これにはロシアの協力は不可欠だ。その密約書は王将軍が保管している。私が持っているのは、その写しだ。」


「どうしてあなたはそんな重要書類を持っているの?」


「私はスパイだ。万が一、国に裏切られた時の事も考えておかなくてはならない。この書類は言わば、保険だよ。」


「ふーん…。貸金庫に…。」


「そう。」


「その貸金庫の鍵は?」


「それは君でも教えられない。」


「保険だから?」


「そうだね。君と逃げるにも必要だ。」


その書類は欲しい所だが、無くても、この情報だけで、かなりの収穫である事は確かだ。

龍介は、これ以上の詮索は却って疑われると踏み、貸金庫の鍵の話は終わりにした。


「他に、達也たちが喜びそうな、あなたの知ってる事はある?」


「そうだな…。」


「例えばさ…。そのアジア各国に潜入している、いざという時の工作員の名簿とか。」


「うーん、それは私は持って居ないな。王将軍だ。

スパイ同士は、例えば、A国に潜入している責任者は、A国の中にいる者は知っているが、他のC国やB国に誰が何人というのは知らない。

責任者以外は、自分が潜入している国に、誰が入っているかすらも知らされない事になっているんだ。」


「そうなんだ…。」


「これじゃ足りないかい?」


「ごめんなさい…。それだけだと、外国部門の人に報告して終わりになっちゃうから、達也たちは忙しくはならないんだ…。」


そして、泣き崩れて見せる。


「やっぱり、達也から逃げるなんて無理なんだ…。」


陶は慌てた様子になった。

内心ニヤリの龍介。

しかし、モニタリングルームでは、夏目は大忙しである。

佳吾と竜朗に同時に連絡を入れたり、もう一度、アジトに隊を向かわせ、貸金庫の鍵の捜索に入らせたりしている。


「龍介、よくやった。もう少しだ。頑張れ…。」


珍しく、夏目がそんな事を口走ったのは、オカマに扮して、厳しくもおぞましい体験を共にした仲という熱い友情かもしれない。


「ーじゃあ、日本に潜入している仲間の情報を教えよう。」


「それはいいね!そしたら、ここには殆どの人が居なくなるよ!」


「これは記録には残してない。私の頭の中にあるだけの情報だ。」


「じゃ、書いて。」


龍介がレポート用紙とペンを渡すと、陶は指を動かしながら、書き始めた。

膨大なデータを記憶する時、こういう記憶の仕方をする人間がいるというのは、龍介も聞いた事があるが、直接見るのは初めてだ。

陶の記憶量は確かに常人では考えられない量であり、そういう記憶術も必要なのが納得出来る。

しかし、つまりは、大変な量が潜入しているという事だ。


「有難う。他には無い?」


「もう無いな。我々はテロはやらない。やる時は一気にドカンだ。」


「日本もその内、そうするつもりだった?」


「アジア圏の掌握が終わればね。でも、日本の場合、加納龍太郎はいるし、当分先だろうな。今回出された計画には入っていなかったよ。」


後は、この情報が本当かどうか、確認しておきたい。


「あなたは本当にスパイを辞めてくれるの?」


「勿論だ。」


「だって、中国のアジア圏征服が嬉しいんでしょう?」


「何度も言うが、私はスパイだ。

世界各国に行っているし、日本に来てからも長い。

だから分かるが、そもそも、アジア圏の掌握なんか出来る訳ないだろう。

最新鋭と歌っているが、加納龍太郎が繰り出す武器、兵器に比べたら、直ぐに壊れるオモチャだ。

もし、仮にアジア圏の征服が出来たとしても、第三次世界大戦が始まってしまう。ロシアと中国対G7のね。ロシアの国力は落ちている。負け戦もいいところだ。」


「だって、他の人に、『もう直ぐ、中華帝国が実現する。』って言ってたんでしょう?」


「他の奴らは馬鹿なんだよ。君と違ってね。無能で馬鹿で、中途半端な忠誠心だけだ。

そういう事を言えば、その気になって、仕事にも身が入る。それだけの事。

私は冷めた目でずっと見ていたよ。世界を知っているからね。」


陶という男は、龍介に迫るホモでなければ、敵味方の関係であっても、龍介にとって、好きな人間だった気がした。

間違っている事を自国がやっていても、言えない国のスパイとして、職務は果たしつつも、それが馬鹿げた事だと分かっている、頭のいい、有能な男ーそう思えた。


「じゃあ…。コレ、達也に届けて来るね。」


立ち上がろうとした龍介の手を、陶がいきなり掴んだ。

そして、調べる様に触りはじめ、龍介にも、モニタリングルームの一同にも不安が過る。


「君、気弱で、か弱いゲイの真似をしているけど、本当は銃を持って、相当な訓練をしている兵隊だね。」


バレた。

いや、もしかしたらこの男、大分前に気づいていたのかもしれない。

モニタリングルームにも衝撃が走り、いざとなったら、龍介を救出出来る様に、夏目隊は突入準備態勢に入っている。

龍介の首筋に冷や汗が流れ始めた…。












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