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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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新手の敵!?

龍彦は、再び、ロシア大使館に乗り込んでいた。

今度は有無を言わさず、警備の制止を振り切り、仕事中の大使の執務室に乗り込む。


「ゴンチャロフのボスは誰だ。」


「わ…私は知らない。ただここを使わせてくれと言われただけで…。」


「嘘だな。」


龍彦は電話を取り出した。


「吉行局長にかける。」


「ま、待て!」


「待てない。少年の命がかかってるんだ。」


龍彦は敢えて我が子とは言わなかった。

龍太郎の実子でないとばれたところで、龍太郎が龍介を目に入れても痛くない程可愛がっているというのは、周知の事実だ。

その上、龍彦の実子と知られたら、龍介の危険が大きくなるだけ、そう判断したからだった。


大使は目に怒りを滾らせながら、龍彦に迫った。


「いつまでも、そんな脅しで私を言うなりに出来ると思っているわけではあるまいな、ミスター・ドラゴン…。」


「ああ。あんたはこれが終わったら、裏から手を回して、俺を殺しにかかるだろうな。

だが、そんな事は長いスパイ生活で予測の範疇だ。

あんたが出されて困る証拠の原本は、厳重に俺も手の届かない所に保管されてるし、コピーは無数に点在している。

俺にもしもの事があれば、どっからともなく表に出て来る事になってる。例え事故死でもな。」


大使は引きつった笑みを見せて、精一杯強がっている様子で言った。


「ふん。流石ミスター・ドラゴンだ…。

しかし、私は本当に計画は知らないし、ゴンチャロフが誰の指示で動いているのかも知らない。」


「信じると思うか。軒先き貸して、外交問題に発展する事案なのに、詳細知らねえなんて。」


「それは本当なんだ。モスクワは、私にも話してくれない事は多いし、そもそも、今回の日本人亡命だって、有力な情報を持った人間の亡命だという事しか聞いていない。」


「だが、あんたは何かを知ってる。俺を甘く見んなよ。」


大使は俯いた後、龍彦を見据えて言った。


「私はゴンチャロフが連絡を取っていた人物は知っているが、それを教えるには、それなりの見返りが無ければ出来ない。」


「あんたの立場なんか、俺の知った事じゃない。α文書の件、表沙汰にされたくねえなら、なんとかしろ。」


無線で聞いていた真行寺は渋い顔になった。


「龍彦。なんか出してやれ。でないとお前が狙われるぞ。」


それは龍彦も分かっていた。

こういう場合、スパイ同士で情報交換するのがセオリーだ。

いくら弱みを握っていても、それだけに頼ってしまったら、逆に命を狙われる。

龍彦が今回それをしないのは、その情報交換にはそれなりに時間がかかるからだ。

信用出来ない情報とは交換して貰えないから、こっちも、その情報が本当だというのをある程度見せなければならない。

しかし、日本から葉っぱをおでこに着けながら駆けつけてくれた父も、それを頼んだのであろう佳吾も、龍彦がこういった無茶をする事を心配しての事だろうというのも分かっている。


「ミスター・アダリョフ。時間が無いんだ。交換する情報が真実という証拠を付ける暇すら惜しい状態だ。俺を信用して貰えるか。」


「こちらも確たる物は何も無い。私の耳で聞いただけだ。いいだろう。」


「中東地域で拡大してきているISlSだが、幹部の1人がロシア人の元諜報部員のパリシニコフというのはご存知か。」


「ー本当か。」


「ああ。顔は変えているが、確かにそうだ。

寝返って、ロシアの情報を流している。

先だっての未遂に終わった西側諸国へのミサイル攻撃に使われた潜水艦と戦闘機はロシア製。

だが、ロシアは関与を否定している。

うちとCIAで調べた所、パリシニコフが手引きして、ロシアの軍事基地から奪わせ、ロシアに罪をなすりつけようとした事が判明した。」


その事実は、掴んではいても、西側は伏せている。

ロシアとの関係が完全に無いという確証が無いからというのと、外交カードにする為だ。

だが、現場では、確証を持っている話だった。

パリシニコフは、完全にロシアを裏切っている。

それはロシアから出た経緯からも分かるし、ISISでの細かい様子でも、二重スパイの可能性はゼロに近いと、現場の誰もが判断出来る状態だった。

だから、これを教えてしまうというのは、ロシア側にミサイル問題の対処法を教えてしまう様なものなのだが、ロシア側にしてみれば、ミサイル問題でガタガタ言われる口実を無くす事が出来るいい情報の筈だ。


「あなたを信じよう。ミスター・ドラゴン。ゴンチャロフが連絡を取っていたのは、ボクダノフという男だ。」


真行寺と一緒に大使館のすぐ側のバンに居た近藤が早速調べて、龍彦の無線に告げる。


「軍部の諜報部一筋の男だ。なかなか手強いぜ。」


ところが、龍彦は微笑んだ。


「ボクダノフ。右頬に大きな火傷の跡がある男だろ。」


「知っているのか。ボクダノフを。」


驚く大使に不敵な笑みを返し出て行く龍彦。


「CIAでロシア担当やらせて貰っててよかったぜ。」




龍彦は、バンに戻るなり、いきなりロシア語で電話を掛けた。


「久し振りだな。ボクダノフ。」


「ドラゴン?今、少々取り込んでるんだ。また今度な。」


「あら。命の恩人にそれか。俺の命の危機には助けてくれんじゃなかったのかよ。」


「危機なのか?どうした。」


「愛する妻の大切な息子が、命の危機に晒されてる。俺の命の危機も同じだ。」


「ー加納龍介か…。加納しずかの再婚相手は君だったのか。」


「そういう事。開放しろとまでは言わない。場所だけ教えてくれればいい。」


「んん〜。ドラゴンの頼みとあっては断れないが…。」


「タダでとは言わない。山本はくれてやる。」


「ヤマモトを?いいのか。」


実は、ヤマモトは大した情報は持って居ない。

主にクラリスシステムや宇宙開発陣頭指揮を取っていたのが、龍太郎で、龍太郎との関わりは多かったが、クラリスシステムや宇宙開発に関しては、ほんの端っこの方しか知らない立場で、山本が捕らわれても、そうでなくても、その内漏れるであろうと思っていた範囲の事しか知らない。

それ以上の情報に接触する機会も権限も無く、真行寺が飛んで来る間に近藤が山本のパソコンくまなく調べたが、知られて困る情報も無かったので、いざとなったら、龍介の居所と山本は交換条件に出すと、竜朗の許可を貰っていた。

だが、今の所、ボクダノフはその事は知らない。

しかし、ボクダノフも百戦錬磨のスパイである。

笑いながら言った。


「山本は大して知らないんだろう?」


「そりゃそうだよ。しかし、加納一佐は、息子を人質に取られたって、喋らないし、データも出さないぜ?」


「まあそうだろうな。調べた所、彼は覚悟を決めている様に見える。かなり仲の良かった奥さんと実の子まで手放しているんだし。」


「その上、何をしでかすか、誰も想像出来ない破茶滅茶な男だ。いきなりミサイル撃ち込まれなんて可能性の方が大きいぜ。」


「あー、それは困るな。実は今回の拉致、俺は乗り気じゃなかったんだ。リスキーだし。」


「何、らしくねえ事言ってんだ。じゃあ誰の命令なんだよ。」


「それは勘弁してくれよ。分かった。場所は教える。」




龍介は、しずかが作って置いてくれた、ポケットの奥にある更に小さなポケットに指を入れ、ある物を取り出した。

ポケットの入り口は、男にしては、少し細めの指の龍介の指が、やっと先だけ入る様なポケットであったのと、ジーンズの硬い布地でカモフラージュされて、拉致グループも気が付かなかった様だ。

しずかがわざわざこの大きさにして、ジーンズに付けたのは、その為だった様だ。

これは龍太郎が作ってくれたボールペンの半分程度の長さの、見た目は小さな万年筆だが、クリップ部分を押すと、レーザーソードになる。

勿論、ナイフ程度の大きさでしかないが、これの切れ味は、いつも持っているレーザーソードの比ではない。

いつものレーザーソードの方は、確かに切れるが、龍太郎が大きい物だから流石に危険と思ってか、出力をかなり抑えており、包丁程度の切れ味だ。

だが、このナイフは、軍用そのままである。

力も入れず、叩き斬る事も無く、サッと斬るだけで、骨までスパッと斬れる。

龍介は、男たちの目を盗み、そっと手足の結束バンドを切ると、パーテーションの陰に隠れた。

男の1人が龍介の姿が椅子から消えた事に気付き、近づいて来る。

バッと後ろに回り込み、喉元にレーザーナイフを突きつけてロシア語で言った。


「あんたらが拾ったレーザーソードとは訳が違うぜ。このまま引けば、胴体から首が離れる。車まで案内しろ。」


男を盾にし、片手で男の首に腕を回してレーザーナイフを頸動脈に突きつけ、片手で、男が持っていた銃を構えて歩き出すと、全員が固まった。

だが、龍介の隙をハンターの様に探している。

龍介の耳の後ろに緊張の汗が流れる。


ー車に乗り込む時が1番やばいな…。


分かってはいた。

だから細心の注意を払って、最後まで男の首にレーザーナイフを突きつけて、盾にしながら乗り込んだ。

その時だった。


ーええ!?


ズドーンという轟音と共に、龍介の目の前から、監禁されていた建物が炎に包まれて消え、龍介を取り囲む様に出て来ていた犯人5人が、爆風で吹っ飛び、盾にしていた男は気絶してしまっていた。


ー何!?どういう事!?新手か!?


龍介は新たな敵の襲撃と思い、急いでエンジン掛けた。






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