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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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血なのよね…

龍太郎は、亀一や龍介と違い、平然と操縦し、刻限にシリア上空の爆撃地点に到着させた。


「現地時間03:58、爆撃地点に到着。これより37564ミサイル投下に入る。」


龍太郎が事務的に報告し、ミサイルのスイッチに手を掛けると、その上から龍彦が手を当てた。


「なんの真似だ、真行寺。」


龍彦は何も言わず、ただニヤリと笑った。


「ー半分担ごうってのか。やっぱりお前その為に…。」


「フン。早くやれ。刻限だぞ。」


龍太郎は仕方なさそうに少し笑った。


「投下。」


その言葉と同時に2人でスイッチを押す。


「投下完了。急速離脱。」


龍太郎が機体をフルスロットルで反転させ、シリア一帯を抜け切った時、パーンという耳触りな音が後方から聞こえた。

ドッカーンと爆発する類いの物ではない為、どうなったのかは今の段階では分からない。

ミサイルの効果が落ち着いた1時間後に衛星を飛ばして確認する事になっている。


「皆殺しミサイルか。アメリカ人に意味分からせねえとな。」


「相変わらず、分かるんだな、真行寺。」


「今までで1番分かりやすいぜ。」


龍太郎は苦笑していたが、不意にニヤリと笑った。


「操縦、させてやろうか、真行寺。」


「お前、無事じゃねえかよ。なんで途中で代わる必要がある。」


「してみてえんだろ。」


龍彦の顔が青ざめた。


「してみてえとは言ってねえぞ…。出来るって言っただけだ…。」


「本当にやって見せなきゃ、出来るって事にはなんねえだろ。証明しろ。」


負けず嫌いの龍彦、龍太郎の策に嵌らず、ここでなんとか誤魔化して乗らずにやり過ごせる程、大人でもない。


「やってやらあ。」


まんまと龍太郎の策に乗ってしまい、龍太郎は操縦桿を握りながら、そっと龍彦と座席を代わった。

操縦席に座った龍彦は聞きしに勝る凄まじい振動に声も出ない。


「操縦の仕方は同じ。ああ、吐いても大丈夫にしてあるから、心置きなく吐きたまえ。気絶する前に代わってくれよ。では参ろうか。」


ーこ…、コレ…。こんなの龍介は、往復2時間も操縦して来たのか…。あいつ、バケモンだな…。


「ホレホレ、真行寺君、どうしたのかね。さっさと帰ろう。今日はしずかのビーフカレーなんだから。俺を労って、俺の1番の好物ね。」


「く…、食い物の話すんな…。」


「はっはっはー!サラダはミモザサラダだって言ってたなあ!ミモザサラダと言えば、ゆで卵だねえ!」


吐き気がする時にゆで卵というのは、想像するだけでも、結構来るものがある。


「覚え…てろ…。」


「なあに?真行寺君。ああ、上手い上手い。でも、もう少しスピード上げないと、予定時刻に戻れないよ。ささ、スピードアップ。」


ーうおおおおお…。


スピードを上げれば上げる程、振動は激しさを増す。

龍彦は、吐く事も、気絶する事も無かったが、龍介同様気力だけで操縦し、蔵に着いた時は、魂が抜けたかのように、操縦席から動けなくなっていたらしい。




1時間後に飛ばした偵察衛星や、隣国から調査に出向いた米軍の報告によれば、龍太郎の宣言通り、シリア一帯の全ての人間は消え、電子機器、通信網も全て破壊され、音の全くない気味の悪い世界が広がっていたそうだ。

ISISの脅威はこれで一時的には去った。

シリア政権に肩入れしていたロシアは少々ゴタツいたが、ロシアを黙らせるネタも持っていた為、そこも結局は落ち着いた。

ISISに呼応していた中東の国々も、空爆の威力に恐れをなして、声を潜める様になり、大人しくなった。

暫定的と言わなければならないが、中東に関しては平和になったと言っていい状況ではある。

しかし、その分、中国とロシア、北朝鮮の動きは活発化して来ている。

特に中国は、ISISの心配がなくなったせいか、アジア地域の勢力拡大に更に躍起になって来た。

それに伴って、中国やロシアが入れて来るスパイも一気に増え、八咫烏も、海外でその動向を監視している情報局も忙しい。


だから、龍介は今日も大学で講義が終わるなり走りだした。

ドSの夏目が、講義が終わる2分前に突然メッセージを入れてくるからだ。


ー後、3分で赤門に着く。


つまり龍介は1分で、赤門に到着していなければならない。


「加納君!今日こそ合コンに!」


こういう時に限って、この間から合コンの客寄せパンダに龍介を引っ張って行きたい、吉田という男が立ちはだかる。

龍介は本当は吉田を背負い投げしたい位だったが、その間も惜しい。

吉田の腕の下をするりと抜けて背中で叫びながら走って行った。


「既婚者連れてったってしょうがねえだろお!」


吉田は目を点にして固まった。


「え…。加納君、いつの間に既婚者に…。」


すると、龍介と取る講義が殆ど一緒の、風間が笑った。


「夏休みに結婚したんだ。話通り、可愛い奥さんだったよ。」


「え!?お前、呼ばれたの!?」


「一応、呼んでくれた。なかなかアットホームないい式だった。父にも久しぶりに会ったし。」


「はああ…。あんなかっこいいのに、勿体無い…。って、なんで加納君の結婚式で、君とお父さんが久しぶりに会う訳?」


「僕の父は加納君のバイト先の上司でね。僕、実家出てるから。」


「へえ…。国会図書館だっけ?」


「そう。」


「それにしちゃあ、随分忙しそうだよね…。」


「加納君の直属の上司が厳しい人って話だよ。」


「はああ…。本の整理も大変なんだな。国会図書館レベルになると…。」


「その様だね。」


実は、この龍介の大学での友人、風間透は、龍介の友人でもあり、竜朗がこき使っているあの風間の年取ってからの末息子でもある。そして更に言えば、世にも奇特な男でもある。

というのも…。


「あ!透君だあ!加納君はもう居ないのかしらあ~!」


心の声全開のまりもと付き合っているらしいのだ。

しかも、まりもの方は、まだ龍介が好きと来てるし、それもしっかり心の声の叫びで聞こえて、わかっているので、周りはよく平気だなと思うのだが、透は結構平気な顔をしている。


「加納君はバイトらしくて帰ったよ。」


「じゃ、デートする?今日はどこ行くのかな?」


「まりもちゃんは講義は?」


「今日はもう終わりなの。」


「そう。お腹空いてる?」


「うん!どこ行くのかな?今日はパスタが食べたいな。」


「じゃあ、イタリアン行こうか。」


「いや~ん!透君、どうして分かるのお~!?」


苦笑してまりもと行く、透の後ろ姿を見送る吉田…。


「どうしてもこうしても、聞こえてるって…。なんか同期は不思議な奴多いよなあ…。」




そして、その不思議の最たる者として認識されている龍介は、夏目の乗る八咫烏のSUVに轢かれそうになりながら、無事、赤門に到着していた。

息を切らせて車に乗り込んで来た龍介を見た夏目は、ニヤリと嬉しそうに笑う。


「中隊長、もう少し、時間に余裕を見て頂けませんでしょうか…。」


「俺の楽しみを奪うのか。」


「う…。」


矢張り、龍介を困らせて、楽しんでいるらしい。

運転していた新城が笑った。


「しょうがねえよ、龍介。愛故だ。」


「はあああ…。あ、容疑者確保の帰りですか。お疲れ様です。」


そうらしいのだが、それには答えず、夏目は窓の外を見ながら言った。


「加納一佐はどうだ。」


「なんとか…。特に変わった様子は見せません。真行寺の父が付いて行って、結果的に笑いをとってしまったのが、良かったらしく…。」


夏目が目を伏せた。

龍彦は、魂が抜けた状態で身動き1つ出来なくなり、蔵の自衛官が助け出そうとすると、涙目で叫んだそうだ。


「いま動かしたら、内臓が出る!しばし待て!」


出るはずの無い内臓が出ると言い切ってしまう辺りに、辛さは現れているが、それにしても、面白過ぎる表現に、深刻に打ち沈んだ蔵が爆笑の渦になったそうだ。


「なんであの人はかっこいいままを貫かねえのかな…。」


「さあ…。」


新城がバックミラー越しに、龍介を見ながら笑って言った。


「龍介もそうだから、血なんじゃないですか。」


「けど、真行寺元顧問は違うんじゃないのか。」


しかし、そう言った側から夏目は思い出した様子で、首を横に振った。

龍介に対する、超過保護お爺ちゃんの真行寺は、どこからどう見てもお笑い系以外の何者でもない。

そして龍介を見る。

確かに、龍介も、どんなにカッコよくても、最後は笑いを誘う事をやってしまう。

夏目は腕組みして唸ってしまった。























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