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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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龍太郎の決断

しずかと龍彦は、瑠璃の両親と近所の料亭で会食をしていた。

龍介が夏休み中に式を挙げて結婚すると、やたら急いでいるし、未だ学生という事で、あまり形式ばった事はせず、親同士、細かい打ち合わせも兼ねて、会食しようという事になったからだ。

しかし、席は爆笑の渦である。

すっかり立ち直った瑠璃の父もヒーヒー言って笑っている。

その理由は言わずもがな。

龍介のプロポーズである。


「やだ、あの子、本当にやったのお!?」


「やってたわよお!もう見せたかった!」


「ああ、面白え。まさか本当にやるとはな!もっと言っときゃ良かったな!」


「そうですよ、真行寺さん!僕も後から考えてもう1つと思いました!歌うとか!」


「いや、それは良いですね!あいつ音痴だから!」


そしてまた爆笑。

龍介、すっかり笑い者である。

暫く笑って、打ち合わせも済むと、龍彦は煙草を吸うと言って、庭に出た。

しずかが横に立ち、龍彦の横顔を見上げている。


「ん?」


「龍太郎さんの事、心配してるのね。」


「ーしてねえよ、あんな奴。」


「いや、してる。龍太郎さんが発ってから、ずっとそんな顔してるわ。」


「……。」


龍彦が黙ってしまったので、しずかも黙ると、龍彦は不意にボソッと、聞き取れない様な声で言った。


「なんでああひっ被る…。そこまで自分の事、苦しめなくたっていいだろ…。」


しずかは黙ったまま、龍彦と手を繋ぎ、空を見上げた。


「ー龍太郎さん、辛い時とか寂しい時とか、いっつも空見てた…。きっと今も見てるわね…。」


龍彦は何も言わなかったが、同じ様に空を見上げ、しずかの小さな手を握った。




フランスに到着すると、そのまま会議に突入した。

護衛で中に入った龍介は、その時初めて、龍太郎が飛行機の中で言った事の真意が分かった気がした。

今日の会議は先ず、龍太郎が作った新兵器の発表からだ。

龍太郎がプロジェクターに画像を出しながら、説明を始める。


「これは所謂、電磁パルス爆弾です。

しかし、ダメージは電子機器だけではありません。

地上は元より、地下600メートル、山の内部、爆弾を落とした半径5000キロメートルに渡る地表面、全てに存在する電子機器と生命体だけに反応し、生命体は一瞬にして消滅。電子機器は破壊されます。敵方兵器も然り。通信通話、全て麻痺。しかし、建物は破壊されません。」


会場内が騒めく。

今の所、電磁パルス爆弾は、範囲も狭く、電子機器の破壊しか出来ないものしか開発されていない。

米軍が広範囲の物を開発中だったが、それさえも上手くいっていない。

しかも、生命体にまで反応し、建物は壊さないなどという未知の物は、開発着手さえ出来ていない。

正に前人未到の代物だ。


「本当にそんな事が可能なのかね。」


米国防長官が、驚きを隠せない様子で聞くと、龍太郎はあっさりと頷いた。


「勿論、実験はかなり小規模で、 ラットでしかやっていませんが、今申し上げた通りの結果になりました。これです。」


龍太郎が使用前の動画を出した。

砂漠とコンクリートで出来た家、山、地下にもラットが入っている、箱庭の様な感じで作られた町が映っている。

画面は切り替わり、小さな爆弾をその真ん中に配置した様子が映る。


「ビデオの模型の大きさは直径5メートル、地下の深さは2メートルで作っています。山の高さは3メートル。角度を変えますと、この様に、山にも地下にもラットとPCが入っているのが見えると思います。」


模型の上から金属製の蓋をし、起爆スイッチを外から押すと、中で、パーンという甲高い音がすると同時に、地下のラットも山の中のラットも、地表や建物内にいるラットも、全てのラットが、自ら爆発したかの様に血飛沫だけ残して消えた。

中に設置したPCを出すと、全て壊れている。

しかし、建物は全くの無傷だった。


拍手と歓声が上がるが、龍太郎は不機嫌な顔のままだ。


「この残酷極まりない兵器を、本当に空爆で使うおつもりなら、たった1つで、シリア一帯、及び、ISISが潜伏していると見られる全ての地域にこの効果が得られます。

しかし、この兵器を落として、起爆スイッチを入れるには、普通の戦闘機では、落とした戦闘機も被害を被ります。探知されない低空飛行は以ての外。かなりの上空から、しかも一気に逃げる必要があります。

そうなると、この爆撃で使用出来る機体は、ただ1つ。

世界で今の所、3人しか操縦出来ない42SZを使用するしかありません。

我が国は空爆への直接参加はしておりませんが、これに関しては、私が参加するより他に手はありません。

その辺りの裏工作はお得意の方にお任せしますが、これを使うという決定が出た場合、私が落とします。

それ以外には、この爆弾の使用は不可能です。

以上の事を踏まえて、ご決断下さい。」


龍太郎は、爆撃を行うには、42SZでしか不可能だという事以前に、この爆弾を作った以上、最後まで責任を取るつもりなのだと、龍介には分かった。

爆弾を作って、他の人間が落としたら、その罪悪感は、落とした人間も背負う事になる。

この爆弾の威力は凄い。

為政者達には理想的な代物かもしれない。

だが、全ての生命体に反応し、それを消滅させるという事は、罪も無い子供達も同様に、無残に殺す事になる。

そこが、一生を狂わす様な罪悪感の源になるだろう。

そんな罪悪感を、作った人間として、他の人間に背負わせる訳に行かない、そう思ったのだろう。

本当に優しい龍太郎なら、そう考える。

龍太郎が一番納得が行っていない行為なのにだ。

そして、そこまでやったら、龍太郎の狙われる危険は、今までとは比べものにならない程増すだろう。


ー父さん…。そこまで背負う気なのか…。


龍太郎の決断を知った龍介は、溢れ出る涙を必死に堪えるしか出来なかった。




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