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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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やっぱり天然ボケ

龍介が暗い顔で、突然長岡家を訪れた。

まだ夕方の5時位だ。


「どーしたんだ、龍。今日は唐沢とデートだったんじゃねえのか?」


招き入れた亀一が心配そうに聞くと、虚ろな目で、悲しそうに答えた。


「今送って来た…。」


「随分早仕舞いのデートなんだな。まあ、ほら、上がれ。」


リビングに通そうとすると、亀一のシャツを掴んで、すがる様な目で言った。


「お人払いを…。」


「んじゃ、俺の書斎行こ。」


どうしちゃったんだと首を捻りながら書斎に連れて行くと、入るなり、いきなり体育座りをしてまい、その上、壁の方を向いてしまった。


「おお!?ちょっと本当にどうしちまったんだよ。何があった?」


龍介の後ろにしゃがみ込んで、肩に手を掛けると、龍介は世にも可愛い、その筋の人が見たら、速攻で押し倒しそうな目で亀一を見つめて言った。


「きいっちゃん…。俺は堕落してしまった…。」


「ーだっ、堕落だあ!?何をしてそうなった!?」


「ー軽蔑しない?」


「しねえよ。言ってみな。どうした。」


「ーデートで瑠璃に会ったら、瑠璃の胸ばっかりに目が行ってしまう。なんだかモヤモヤと瑠璃相手にいやらしい事を考えてしまう…。こんな事を考えたら失礼だと思っても、次の瞬間には胸見たり、考えている…。」


そして、泣きながら床に倒れてしまった。


「もう俺は堕落してしまったんだあああああ!変態なんだあああああ!」


亀一は思わず笑いだしてしまった。

龍介の周りの人間達の、積年の悩みが漸く解消された事が嬉しかったのだ。

しかし、龍介はガバッと起き上がり、亀一の両肩を掴んで、涙ながらに訴えた。


「何がおかしいんだよお!俺は真剣に悩んでんだぜ!?。きいっちゃんは竹馬の友が変態になっちまってもいいのかああ!!!」


「龍、違うんだって。それが普通なんだよ。」


「ー普通…?変態がか?」


「変態じゃねえの。みんな中学生、高校生にもなったら、そうなんの。お前の失われし煩悩が漸く蘇ったんだよ。」


「ーえ…。」


「普通です。俺が笑ったのは、お前もやっと普通になったのかと、嬉しかっただけだ。」


「じゃあ…、変態じゃねえのか…。」


「それで、女性側が嫌がってんのにとか、通りすがりの人を押し倒したら変態なだけ。好きな女にそういう妄想なんて至って普通だ。健全な男って事。」


「はあああ…。そうだったのか…。それはきいっちゃん、変態呼ばわりして悪かった…。」


「いいよ、もう。」


「ーしかし…。」


「しかしなんだ。」


「矢張り、結婚もしてないのに、そういう事はいかんな…。これは早急に…。」


また普通でない発言が出そうだ。


「早急になんだ…、龍…。」


「結婚せねば!」


「おま…、お前なあ…。」


「よし!結婚する!幸いバイト代は長期休みと普段では波はあるものの、贅沢しなけりゃ、多分生活は出来る!爺ちゃんが家も建てちまったし、住む所も瑠璃が嫌がんなきゃあそこにある!よし、決まり!善は急げ!きいっちゃん、有難う!」


「へ…、は…、龍?」


龍介は、止める間もなく、あっという間に元気良く帰ってしまった。


「あれえ?もう帰っちゃったの?景虎、遊んでくれるって思って、張り切ってたのに…。」


呆然と玄関で見送っていた亀一に、景虎を抱いた栞が来て言った。


「ああ…。煩悩がな…。」


「また無い悩み?」


「いや、蘇ったんだが、結婚前にそれはいかんから結婚するって…。」


「きょ…、極端ね…。龍介君らしいけど…。」


「やっぱアイツ、なんかずれてるよなあ…。」


「そうねえ…。まあ、あれだけ顔が良くて、頭良くて、かっこいいんだから、天然ボケ位酷くないと、バランス取れないからいいんじゃない?」


「まあなあ…。」


亀一は、栞の腕の中でつまらなそうな顔をしている景虎を抱いて、笑い掛けた。


「龍おじちゃんに子供が出来たら、お前が可愛がってやんだぞ?子分だ。」


景虎は、分かっているのか居ないのか、嬉しそうに笑った。


「あがっ!」


「うん。」




龍介はしずかの車をデートで借りたまま、亀一の家から自宅には戻らず、地下通路を飛ばしまくって、八咫烏の地下駐車場に出ると、そのまま銀座へ走りながら、龍彦に電話した。


「お父さん!結婚申し込む時の指輪って何!?」


「………。」


龍彦、あまりに急な展開に、返事もできない。


「お父さん!急いでんだよ!」


「はああ!?結婚申し込みって、龍介、なんだ、どうしたんだ!?」


「いいから、さっさと教える!」


「それは婚約指輪だろ。」


「どんな指輪買えばいいの!?」


「ええっと…。誕生石か、ダイヤだろうな…。多分。」


「因みにお父さんは?」


「誕生石やったよ。はー、成る程。瑠璃ちゃんに結婚申し込むのか。」


「ん。」


そこで突然、龍彦のいたずら心がムクムクと湧き出した。


「そしたら、ちゃんとスーツ着てって、花束持って、膝まづいて、指輪見せて、『結婚して下さい。』って言うんだぞ、龍介。女心鷲掴みだあ。」


「本当?」


「本当。おやり。俺もそれでしずかをゲット。

お義父さんの反対もしずかが押し切ってくれたんだから。

お前学生だし、いくら稼ぎがあっても、向こうのご両親に反対される可能性がある。

そん時に、瑠璃ちゃんがどれ位こっちに傾いてるかが鍵だ。

その為にはドラマチックな演出が物を言う。」


「分かったあ!ありがとお!」


電話を切ると、しずかが意地悪い笑みを浮かべていた。


「もう、また純真なあの子騙して。そんな演出、龍彦さんしなかったでしょう?」


「当たらずとも遠からずだろ?」


「瑠璃ちゃんがドン引かないといいけどね。」


そして2人は異質な気配に気が付いた。

なんと、龍治が真剣に何かをメモしている。


「りゅ…、龍治?」


しずかが声を掛けると、龍治は真剣な目で顔を上げた。


「一般社会の、一般的な結婚の申し込み方だろ?覚えといた方がいいかと思って。」


龍治の感覚が普通になるのは、もう少し先の様である。




瑠璃の誕生日は4月だ。

龍介は、瑠璃の誕生石のダイヤモンドの指輪で、瑠璃に似合いそうな、上品で可愛いデザインの物を選んで買い、サイズは知っているので、直しを頼んでいる間に花束を買って、喫茶店に入り、煙草休憩で、一応、自らを落ち着かせたつもりになって、指輪を受け取り、また車を飛ばしまくって、家に戻り、龍彦がこの間買ってくれた濃紺の三つボタンにダブルポケットのスーツに着替え、また車を飛ばして、瑠璃の家の呼び鈴を押した。


「へ!?龍!?どしたの!?忘れ物!?」


インターホン越しに瑠璃の驚いた声が聞こえる。

さっき別れてから、まだ1時間半しか経っていない。


「話したい!」


「あ、はいはい。ちょっと待って。」


一階の入り口が開き、家の玄関を開けた瑠璃は、龍介の格好を見て、また驚いた。

真夏に正装など、よほどの事がない限りしない暑がり、面倒くさがりの男が、スーツのボタンを全部締めた状態で着て、ネクタイまできちんと締めている。

俳優よりかっこいいが、さっき別れたばかりなのに、何事か…、である。

その上、龍介は玄関でひざまづいたので、瑠璃は驚きの余り言葉も出ず、目をかっぴらいて固まった。

そして龍介は花束を差し出しつつ、指輪の箱を開いて見せながら、叫ぶ様に言った。


「結婚して下さい!」


龍介に出そうとアイスコーヒーを用意していた瑠璃の母はグラスを落として割り、父はやっぱり解析不能の言語を叫びながら泣き崩れた。

聞こえるのは瑠璃の父の雄叫びだけ。

龍介は緊張の汗をかきながら、瑠璃の答えを聞くべく、ただひたすら(かしず)いていた。







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