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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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気力だけ!

龍介はトイレだと言って、席を立ち、悟に聞いた。


「データは。」


「今、完全消去完了。どうやって出る?」


龍介の記憶では、このホテルにはベランダというものが無かった。

全ての窓が壁にくっ付いているだけで、ベランダを伝って逃げるというわけにも行かない。


「佐々木…。」


龍介の声のトーンが暗い。

なんだか嫌な予感がしながら、悟は答えた。


「はい…。」


「窓から俺が戦闘機から出すワイヤーに捕まる。出来るよな…。」


「いいいい〜?」


「寅なら出来る!」


「ほ、ほんとか、それ…。」


「出来る!つまり、愛弟子のお前に出来ん事は無い!死ぬ気でやれ!」


「え…、ええええ…。」


死ぬ気も何も、孫の部屋は13階だ。

落ちたら確実に、間違いなく、これ以上は無いというほどぐちゃぐちゃになって死ぬ。

龍介は無線を切り、思わず拝んでしまった。


ー佐々木ごめん…。寅でも多分のレベルだ…。いざとなったら、まだ実験してねえアレで必ず拾うから…。


龍介は計画を手短に知らせ、川平に撤収して貰い、孫に挨拶を済ませて、ねっちりとした別れの挨拶攻撃を浴びると、よろける足取りで孫と一緒にエレベーターに乗った。

途中階でエレベーターを降り、階段を駆け上がって、42SZに乗り込んで、孫の部屋の真ん前に移動。


「朱雀、佐々木が撃たれそうになったら頼む。」


「了解。」


つまり、孫の部屋に居る兵士に勘付かれ、悟が射殺されそうになったら、狙撃してくれという事だ。

なるべく居室側の窓からは、何も見えない様にと角度に気をつけながら、龍介は慎重に寝室側の窓の直ぐ近くに、42SZを停止させ、ワイヤーを垂らした。

しかし、ギリギリで近付けても、悟からワイヤーまでは1.5メートルはある。

手を伸ばして届く距離では無い。

つまり、悟は飛び移らねばならない。

しかも、13階だし、42SZの風圧もあり、ワイヤーはあっちこっちに向きも定まらず、激しく揺れている。


「佐々木、俺ときいっちゃんを信じろ。」


「ううう…。」


「必ず助ける。飛べ。」


「分かったよおっ。」


悟はパソコンを背負い、窓からワイヤー目掛けて飛んだ。

しかし、ワイヤーは風に煽られ、さっきとは逆方向に振られてしまった。

落下して行く悟。

龍介は巨大なレバーを出し、その横に付いている赤いボタンを押して巨大な箱の様な物を出し、悟を受け止めた。

この箱も機体同様、肉眼で全く見えず、悟の姿はすっぽりと見えなくなった。


「龍、大丈夫だ。奴ら気付いてない。」


朱雀が言ったが、龍介は返事も出来ない。


「んんん〜!!!!」


と、苦しげな声を上げながら、左手で、さっき箱を出したレバーを支えていた。

実はこの箱を操作するレバー、亀一が開発をサボったのか、いたずらなのか、そこまでの機能が付けられなかったからなのか、理由は分からないが、箱に入ったものの重さは、軽減される事なく、ダイレクトにかかるのだ。

手を緩めたら、箱は横倒しになり、悟は落ちてしまう。

つまり龍介は箱を水平に維持しつつ、これを左手だけで持ち上げねばならないのだ。

機体を上空に停止したままにしておく事は、この間の新宿の様に、人が乗っていない時は可能だが、1人でも乗っていたら、それだけで機体の重さが変わってしまうので、バランスが崩れるという原理らしく、操縦桿から手は離せない構造なので、右手は操縦桿を握っていなければならない。

箱の重さと悟の重さ、合わせて78キロ。

それを利き腕では無い左手1つで持ち上げつつ、右手は操縦桿を握って、機体を安定させておくという事を、龍介は1人でやらねばならない。

事態をなんとなく悟った悟は、龍介に向かって無線で叫んだ。


「加納!さっきのオカマへの怒りをぶつけろ!」


龍介は珍しく、悟に言われた通りにした。

それだけ珍しく、いっぱいいっぱいだったのかもしれない。


「くっそお〜!オカマ死ねえええええ〜!!!!」


渾身の力で箱は無事、42SZの中に収まった。

悟は箱をしまいながら、肩で息を切らせている龍介に言った。


「あ、ありがとね、加納…。」


「いや…。こちらこそ…。では参ろうか…。朱雀、川平さん、有難うございました。これより帰投します。」


「お疲れ、ドラ息子。よくやったな。」


「龍、今日もカッコ良かったよ。ではまたね。」




全て終わり、無事帰路についた龍介からの知らせを受け、夏目のニヤリも出て、八咫烏情報管理部の部屋には、歓声が上がっていた。


「流石龍君だ。やり遂げましたね。」


心配の余り、とうとう情報管理部まで来てしまっていた竜朗に、加来が言った。


「ああ、なんとかな。初めてにしちゃあ上々だろ。みんな、すまなかった。ありがとな。」


渋谷が悔しげに笑いながら言う。


「いや、龍介だから出来たんですよ。アレ乗れたから間に合った。大したもんです。悔しいけど、時期第1中隊長はアイツですね。」


嬉しそうに笑いつつ、竜朗は脱力して椅子の背もたれにもたれかかっている瑠璃の顔を覗き込んだ。


「大丈夫かい、瑠璃ちゃん。疲れたろ?」


「は、いえ、お爺…、あ、顧問!」


わざわざ立ち上がる瑠璃を笑って座らせる。


「いいからいいから。大丈夫かい。」


「はい。私はとっても楽しかったって言うと、不謹慎かもしれませんが、とてもやり甲斐を感じました。

でも、龍と佐々木君どうなっちゃうんだろうってちょっとハラハラしちゃって…。良かったあ、龍が力もちで…。」


「そうだなぁ。鍛えといたの、間違って無かったんだなあ。」


「うんうん。」


「瑠璃ちゃんもサポート有難う。龍にとっちゃ、瑠璃ちゃんのサポートが一番有難かったろ。」




しかし龍介は帰って来てから暫く、左腕の感覚が全く無かったらしい。

まさに気力だけで乗り切った、初の隊長任務だった。


















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