脅迫メール
龍太郎の下に、脅迫メールが届いた。
早速、図書館で加来が画像と音声分析をしながら、全員で見る。
龍介は手を前に拘束された状態で、ベットの上に座っていた。
怪我をしている様子は無い。
「父さん、こいつらの言う事を聞いて下さい。
でないと、俺は殺されます。
俺は生きて、また父さんと旅行に行って、雪だるまを作ったり、下仁田ネギの浅漬けが食いたいです。
だから助けて下さい。」
無表情に言う龍介は、言わされている感がアリアリだが、それにしても、気になるフレーズがある。
「龍はネギってあんま好きじゃねえし、ネギの浅漬けなんか食った事は無え…。これ、ヒントだな。」
竜朗が言うと、龍太郎も頷き、言った。
「一緒に旅行に行って、雪だるまを作った事もありません。」
強引にくっ付いて来た寅彦が直ぐに検索をかけて言った。
「群馬の山奥に、下仁田ネギの浅漬けってもんを作ってた工場があった様ですが、潰れてます。」
「群馬県…。なら、雪は深い…。そういう事かい。流石だな、龍。」
ビデオは覆面の男に切り替わった。
「この可愛い息子の命が惜しいなら、指定のアドレスに、クラリスシステムと宇宙開発のデータを全て送れ。
8時間以内だ。それ以上経ったら殺す。」
加来が画像と音声の解析を終えた。
「龍介君の声と本人で間違いありません。
また、声の響き方から見て、かなり広い密閉空間ですから、寅の言った通り、工場跡という線は濃いですね。
画像が細工された形跡は無し。
また、この端っこに映り込んでいるポスターの様なものを、調べてみた所、下仁田ネギの浅漬けのポスターでした。
この会社は2年前に潰れて無人です。
1時間前のものですが、衛星で確認した所、SUVが3台確認出来ました。」
「直ぐ急襲班送れ。」
そこに聞き覚えのあるいい声が響いた。
「多分もう居ない。」
「吉行…。」
知らせ聞きつけて、佳吾が来てくれた様だ。
「我々と同業者なら、人質を取っている場合、居所は1時間弱、ないしは2時間毎に変える。」
「1時間弱じゃあ、追跡し終えた時には、もう居ないって事んなるぜ…。」
「その通り。それが狙いだ。どこから突き止められるか分からんからな。だがしかし、穴もある。」
「穴ってえのは?」
「綿密な計画通りに事を進める。
そこに穴があるんだ。
次の移動時間、場所、全て事前に計画し、準備をしてから事を起こす。
だから、敵側は何時何分に何処にいるか、突発事項が起きた時の避難場所はどこか、全て把握しているんだ。」
「その尻尾を掴みゃあいいのかい?車の手配にアジトの手配の…。」
「それより手っ取り早い事を龍彦がやっている。龍彦の報告を待て。」
「ーまさかたっちゃん、敵のボスから聞き出そうっていうんじゃ…!」
「その通り。」
「危険だろ、それ!」
「龍彦も長年日米両国でエージェントをして来た男だ。保険はいくらでもある。それを使う。」
「ー吉行…。スパイの保険てえのは、使いようによっちゃあ、自分の首絞める事になんだろ…。」
「そうだ。しかし、それしか手は無い。」
「たっちゃん…大丈夫なんだろうな…。
自分の為にたっちゃんにもしもの事があったりしたら、龍は生きていけねえぞ…。」
「そこは私も不安に思っている。
あの子は昔から無茶をするからな。
という訳で、念の為、義兄さんが長岡君の戦闘機でイギリスに飛んだ。」
真行寺には、直ぐに連絡したが、図書館から車で20分の所に住んでいるのに、ここに来て居ないので、どうしたのだろうとは思っていたが、それで合点が行った。
真行寺がついていれば、まず間違いは無いだろうが、それでも竜朗の心配は募る。
しずかもきっと、気丈に振る舞いながら、激しく動揺している事だろう。
ーしずかちゃん…。たっちゃん、ごめん…。
竜朗は心の中で2人に謝りながら、捜索の指示を出すしかない。
「加来、ダメ元でいい。衛星で犯人の車追ってくれ。」
「はい。」
そして、はっと気が付いた。
「龍太郎は?」
「あ…あれ…?さっきまでここに…。」
柏木が焦った様子で答えたが、誰も気付かない内に、龍太郎は消えていた。
土台目立たない男で、誰にも気付かれずに消えるのは、昔から得意ではあった。
竜朗は咄嗟に電話をかけようとしたが、竜朗のデスクの上に置いてある龍太郎の携帯に気付く。
「あんの野郎…。何しでかす気だ…。」
龍介は、新たなアジトに連れて行かれていた。
ー察知される前に移動すんのか…。
それにこいつら、えらく統率がとれてるし、素人っぽいのは居ない…。
お父さんと同じ業種かな…。
かもな。同じ匂いがする…。
龍彦は父親としては、理想的で、本当にいい父親だし、性格もいいが、スパイとして第三者的に見ると、二癖も三癖もあり、一筋縄ではいかない、底が知れない感じがする。
それと同じ感じが彼らからはする。
ーこれは仲良くなって~なんていう甘い作戦は通じねえよな…。
かといって、ただ単にこうして待ってたら、8時間経っちまう…。
その前に父さんがデータを出したりしたら…。
出しちまうかな、父さん…。
いや、いくらなんでもそれは無いか…?
そかし、完全に否定も出来なかった。
龍太郎は龍介をもってしても、何をするか分からない男なのだ。
次にアジトになった所は、廃工場だった。
よくもまあ、こう人気無い、無人の場所を見つけるなと感心すらしてしまう。
やはり、龍介の居場所は、パーテーションで区切られている。
しかし、監視カメラは無い。
ーパタパタ竹刀とレーザーソードは無いが…。
龍介はジーンズのポケットの更に奥をまさぐり、ニヤリと笑った。