アレとは、どのアレ?
龍介は直ぐに指示を出した。
「小島小隊長他お三方は、弁当屋へお願いします。瑠璃はそちらのバンで引き続き通信履歴の洗い出しと監視。俺と他お二方は、中華屋へ。佐々木は俺についてくれ。5分後出発。」
一斉に動き出す。
夏目は仕事をしながらそれを横目で見て、楽しそうにニヤッと笑った。
「おーい、本当にいいのかあ?」
夏目に頼まれた調査結果を持って来た香坂が、龍介の走って行く後ろ姿を見ながら苦笑して言った。
「いいんだよ。俺たちだってやらして貰ったろ。」
「まあね。」
「あれが今、どんだけ役に立ってる。」
「確かにそうだったけど、あん時は、俺とお前に渋谷に、青山まで居たし、お前が顎で使える奴らばっかだったじゃねえか。それに、柏木部隊長は優しかったし。」
「小島もうちの中じゃ優しい方だぜ?」
「嘘つけえ。渋谷中隊で小島、なんて呼ばれてると思う。」
「さあな。」
「小鬼だぞ。つまりお前の次に怖えって言われてんだよ。」
夏目は楽しそうに笑って、データに目を通している。
「龍介ならどうにかやるさ。」
香坂も笑った。
「凄え信頼だな。青山並みか。」
夏目は、今度は懐かしそうに微笑んだ。
「いいから早く戻れ。」
どうも青山の認識と、夏目の青山に対する感情は違う様だ。
ここにも夏目の謎が隠されている様だが、それはまた後の話とする。
龍介は八咫烏の黒いSUVを地下通路を飛ばしに飛ばして、中華屋へ向かっていた。
「加納、中華屋の主人のパソコンから、ロシアに居る人間に、メールのやり取りがある。」
「相手は?」
「相手のアドレス辿ってる…。中国人民軍の情報部の人間だよ…。孫小平って男みたいだ…。」
「それ、監視しててくれ。」
「了解。」
出発から10分後には、現地に到着。
小島の方は瑠璃のサポートもあって、難なく弁当屋全員を確保出来たが、問題は中華屋の方である。
到着直前、通信を監視していた悟が叫んだ。
「なんか重いデータ送り始めたぞ!写真じゃないのか!?」
「強行突入だ!。佐々木、パソコンの位置は!?。」
「案内する!」
龍介達は表玄関を蹴破り、突入。
龍介を先頭に、パソコンを手に誘導する悟を守りながら、銃を手に出て来た従業員を特殊作戦用ライフルで殴りつけて、なぎ倒すが如くパソコンに向かって全力疾走。
「加納!奥の部屋だ!」
龍介が奥の部屋に入り、銃を構えたパソコンの前に居た店主らしき男の腕を撃ち、悟がデータの送信を止めたが、写真データは殆ど送られてしまっていた。
「佐々木、相手の居所はロシアなんだな!?」
「そう!ハバロフスク!今、送信完了データ調べてる!」
「ありがと!」
龍介は話しながら龍彦に電話する。
「真行寺本部長!」
「りゅ、龍介!?仕事か!?」
龍彦は面食らっている。
それはそうである。
普段は、
『お父さん。』
としか掛けて来ない携帯だ。
「はい!ハバロフスクに機密が流れた様です。情報局の方で、回収は可能でしょうか。」
「ハバロフスクはモスクワからは、かなり遠い。急ぎか?」
「はい。」
「現地の人間に頼んで、飛行機で飛んでもらったとして、7時間35分かかる。」
「うう〜ん…。」
悟が顔を上げて、切迫した表情で報告した。
「加納一佐の写真、愛車ラグナV6に乗ってる所、厚木の蔵への入り口。全部流れてる。流れてないのは、レポートみたいな文書だけだ。中国語の。」
「本部長、少々お待ち頂けますか。」
「うん。」
龍介は電話から顔を離し、悟に聞いた。
「送られたデータ、転送しそうか。」
「いや、しないみたいだ。その形跡は今の所無い。」
「佐々木、引き続き監視を。」
そして今度は忙しく、無線で瑠璃に呼びかける。
「瑠璃。聞いてたか。」
「はい!」
「ハバロフスクの孫小平、中国に帰るのはいつだか調べてくれ。」
「了解。ー2時間後の飛行機を取ってるわ!」
「ー送って傍受される危険を考えて、直に持ち帰るつもりか…。分かった、有難う。」
龍介の顔は青ざめて見えた。
この緊迫した状況のせいだと誰もが思った。
「小僧〜、どーすんだあ。」
無線から小島の声が聞こえると、龍介は意を決した様な様子で、龍彦にも伝わる様に答えた。
「アレでロシアまで飛びます。本部長、お騒がせしました。」
アレってなんだと、首を傾げる悟に、龍介はやけの様な、八つ当たりの様な、珍しい状態で、怒鳴った。
「てめえ、戦闘ヘリぐれえ乗れんだろうな!?」
「へっ!?そんなもん乗った事無いから、知らないよ!それに、なんで涙目なんだ、加納!」
「アレを操縦しなくちゃならねえ、俺の気持ちがお前に分かってたまるかあ!」
「は…はあ!?」
どうもこの様子を見ると、先ほど青ざめていたのは、緊迫した状況にテンパっていたのでは無い様だ。
龍介はアレとやらが酷く嫌で、憂鬱らしい。
その為の顔面蒼白の様だ。
龍介はその調子のまま、無線でがなった。
「これから佐々木と蔵に向かう!瑠璃は長岡一尉にアレ用意しといてくれって言っといてくれ!小島小隊長!」
「ええ?小僧、アレったあ、なんだ?」
「容疑者の回収お願いします!」
再び登場のアレ。
さてそれは一体何か。




