やっぱり当たり…
しかし、夜も遅いので、これから3人で集まってどうこうは出来ない。
龍介は取り敢えず、情報官2人に指示を出すに止めた。
「弁当屋の事、もう少し深く探ってみよう。
瑠璃は弁当屋の店主に関して。
佐々木は弁当屋の取引先。
無理しないようにちゃんと寝て、取り掛かるのは明日。明朝9時。うち集合。いいか?」
2人共、キリっとして頷く。
特に瑠璃のやる気は半端じゃない。
そもそも、瑠璃も八咫烏でアルバイトはしたかったし、実力を知っている加来も雇いたがっているのだが、瑠璃の父が心配の余り反対しており、まだ実現していないのだ。
その為、瑠璃はいつも実力を持て余しているから、まさに、この時とばかりなのだろう。
龍介は苦笑しながら瑠璃の頭を撫でて、顔を覗き込んだ。
「瑠璃は親父さんが心配するから、あんま深入りすんなよ?
正直、俺も、佐々木が睨んだ通り、なんかあると思ってる。
なんかあるとすりゃ、結構ヤバい話になる。そしたら外す。いいな?」
瑠璃のほっぺがまたプク〜っと膨らんだ。
でも、龍介が笑いながら突くと、途端にデレデレ。
龍介をうっとりと見つめている。
ー唐沢さん…。いくら加納が更にかっこ良くなったからって、どうしてそれで全てどうでも良くなっちゃうんだ…。いかんだろ…。
悟の苦悩は兎も角、一応そういう事に決まって、龍介は瑠璃を送り、その日は解散した。
龍介は一応、夏目に電話で報告した。
そういう訳で、こっちで別働隊として動くからバイトには行けないというのも、伝えたかったからだ。
「ー佐々木は誰に報告したって?」
「梶井さんだそうですが。」
「ー佐々木の直属の上司はアイツなのか。」
「はい。」
夏目にしては珍しく、なんとなく含みのある言い方だった。
「梶井さんが何か。」
「あいつは前にも見落として…、つーか、見落としなら兎も角、『いいやこんなの』って独断で報告上げず、危うく機密が流出する所だった。今度やったらクビって話がある男だ。」
「ーじゃあ、益々表立って動かない方がいいですね?これが本星だったら、梶井さんクビに…。」
「龍介。」
「はい。」
「八咫烏は国を守ってる。顧問も常日頃から、どんな些細な事でもおかしいと思ったら、徹底的に調べろと仰っている。」
「はい。」
「それが出来ねえ奴は、八咫烏にいる資格は無えんだよ。
俺達は、一般公務員よかいい給料貰ってんだ。
それは国民の税金だ。
俺たちは国民に食わして貰ってんだ。
顧問の訓示も守らず、適当にやってる人間は、八咫烏に居る資格は無え。」
「はい。」
「俺から加来さんに話通しとく。八咫烏でやれ。その方が効率がいいし、直ぐ動ける。」
「はい。有難うございます。」
「但し、お前も知っての通り、俺は護衛準備で手えいっぱいで手伝えねえ。お前が指揮してやるんだ。
人員は第1中隊の手隙の奴を使え。こっちも話は通しておく。
いいな。」
「はい。」
「ーそれと、瑠璃ちゃんは、親父さんが八咫烏に来るの反対してんだろ。連れて来るなら、親父さんの許可取ってからにしろ。」
「そうですね。そうします。」
電話を切った後、2人に予定変更を告げ、龍介が2人をしずかの車に乗せて行く事にし、瑠璃には夏目から言われた事を伝えたのだが、なんの連絡も無い。
なんだか嫌な予感がしつつも朝迎えに行くと、矢張り揉めていた。
「お父さん!私は行くっつったら、行くのよお!」
「危ないからダメって言ったでしょお!?そんな言うなら、お父さんの所にバイトに来なさいって言ってるじゃないかあ!」
「お父さんの所なんか嫌!捜査みたいな事したいの!私は!」
「いくら龍介君が居たって、八咫烏なら、現場に出る事だってあんだよ!?危ないでしょお!?お父さんは反対です!」
「うるさい!クソ親父い!」
クソ親父発言には、流石の龍介も驚いてしまった。
瑠璃はそういう汚い言葉は使った事が無い。
しかし、逆に、よっぽど頭に来ているのだろう事はよく分かる。
「く…クソ親父!?瑠璃い!なんて事言うんだよお!酷いよお!」
泣き崩れる瑠璃の父…。
これまたびっくりだが、更にびっくりな事に、瑠璃の母が無表情に龍介達から離れ、瑠璃の手を引いて、龍介に渡し、父に背中で言った。
「どこに居たって、危険は付き物。危険な目に遭って、死ぬか生きるかは、その人の運不運。
瑠璃は不運な子じゃないんだから、大丈夫。やりたい事はやらせてあげないと、一生恨まれるわよ。
という訳で、龍介君、お願いしますね。」
「よろしいんですか…。」
「ええ。いいです。鬱陶しいから、私も出掛けます。」
鬱陶しいとまで言われてしまった瑠璃の父は、床に倒れて、未だ泣いている。
「うう〜、瑠璃がクソ親父ってえ…。クソってえ…。うううう…。」
瑠璃の父、意外とウェットコンディションになりやすいタイプらしい。
八咫烏に着くと、夏目が話を通しておいてくれたお陰で、情報管理班の一室に、場所を作っておいてくれていた。
「佐々木君、よく気が付いたな。」
加来がわざわざ出迎えてくれた。
梶井は今日は非番で居ない様だが、出てきたら、面白くないのは確かだし、バイトにクビの原因を作られたとなったら、何らかの遺恨を残しそうである。
それが悟や瑠璃に行くのが、龍介は心配だった。
「梶井さんは…。」
「ーう〜ん…。これで当たりだったら、クビだなって顧問は仰ってるし、俺も、これは十中八九当たりだと思ってる。
だから、彼の行く末はほぼ確定だけど、なるべくちゃんと話して、納得して貰う形にするから。
龍介君の心配は、梶井が逆恨みして、佐々木君や瑠璃ちゃんに被害が及ぶ事だろう?」
「はい。」
「それは無い様にするから、安心して集中して。」
「有難うございます。宜しくお願いします。」
2人が早速、昨日龍介が指示した事を調べ出した間に、龍介は地図を広げて、八咫烏のデータにある弁当屋の建て物の見取り図や、敷地内の記録を見始めた。
「ー弁当屋の建て物の割に、敷地が随分でっけえな…。」
配達車を置いておくにしても、弁当屋の建て物の周囲ぐるりと、3メートルは取った建て方をしている。
駐車場用というよりも、周囲から距離を取っている様にしか見えない。
公的機関に提出されている書類には、一階が調理場と、搬出場。二階は居住スペースになっているだけだが、なんだか妙な感じだ。
「龍、こっちもなんだか奇妙な感じだわ。店主だけど、顔が違うの。」
「顔が違う?」
「そう。高校時代から掘っくり返して調べてたんだけどね。高校時代の時と、今の時と丸で顔が違うの。それにこの人、元は鹿児島県の人よ。」
瑠璃が今現在と高校時代の顔写真を出してくれたので、見比べてみたが、高校時代の顔と今の顔は丸で別人だし、骨格も違って見える。
「瑠璃、写真の骨格、合うか見てくれ。整形したとしても、骨格と目ん玉だけは変わんねえだろ。」
「はい。」
瑠璃が写真のサイズを合わせて、重ねてみたが、全く合わない。
「マッチ率0パーセントって、コンピュータも言ってるわ。」
「写真撮ってた男は?」
瑠璃が確認すると、矢張り、若い時と今は別人である事が判明し、更には、他の従業員も別人だった。
「成りすましてんのか…。この5人の経歴、もう少し深く洗ってくれ。」
「はい。」
別人がその人物に成りすまして生活している。
しかも、1人2人の話では無い。
従業員5人全員がである。
この日本で、これはただならぬ事だ。
もう、当たりかもしれないではなくなって来た。
龍介は若干の緊張を隠しつつ、2人の調査結果の報告を待った。




