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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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面白い展開と夏目の謎

その夜は、竜朗が言ったお楽しみの瞬間を見る為、龍太郎以外の家族全員と下宿人全員でリビングのテレビの前に居た。

ニュースは未だ流れないので、それぞれ雑談していたが、苺はずっと疑問に思っていたらしい事を、龍彦に質問した。


「お父さん。この間にいにと夏目さんが捕まえた人は、シリアの石鹸売ってて、ISISが悪い事して戦争始めたから、石鹸が輸入出来なくなって、お金に困ってたんでしょう?なのに、どうしてISISの味方しちゃったの?」


「なかなかいい質問だ、苺ちゃん。じゃ、龍介分かる?」


「俺も夏目さんの受け売りだけど…。」


「いいよ。言ってご覧。」


「実は、空爆をすればする程、ISISは増えていってるらしいんだ。空爆をされて犠牲になるのは、殆どが一般人。その人達は職も家族も生活の場も奪われ、生きて行く為に、究極の選択を迫られる。難民となって、ヨーロッパに逃げるか、ISISになるかだ。

でも、難民となってヨーロッパに逃げるには、費用が要る。その費用を捻出出来ねえ人は結局、給料が出て、生活が保証されるISIS

に入るしかなくなってしまう。

最近、難民を装ったテロが多発している事で、ヨーロッパの難民の受け入れも悪くなってきているから尚更だ。

石鹸の輸入やってたフリーヤ貿易の社長も、取り調べで喋ったのは、同じだったらしい。

石鹸だけが命綱だったのに、それを絶たれた。会社を畳むにも借金だけが残る状態で、畳めない。

だったら他に職を探せばいいと思うが、そこに付け入る様に、ISISから勧誘の話を受けた。

初めはこいつらのせいでと反発していたが、段々と、空爆のせいなんじゃねえか、アメリカやヨーロッパが悪いんじゃねえかと、洗脳されて行っちまったらしい。

で、どうでしょうか、お父さん。」


「流石夏目君。よく勉強してるな。その通りだよ。だから、今日も帰って来ねえアイツは必死に空爆止めさせようとしてんだろう。」


龍介は、龍太郎の居るべき席を見た。

龍太郎のその努力は、報われる日は来るのだろうか。


「じゃあ、お塩の会社の人は?その人もお金に困ってたの?」


「龍介どうぞ。」


苺は龍彦に聞いているのだが、矢張り、龍彦は龍介に答えさせようとする。

竜朗が笑った。


「たっちゃん、龍の理解力テストなのかい。」


「はい。」


「情報局にはやらねえよ、龍は。夏目が手放さねえもん。」


「そら分かってますけど、これからは特に全部分かってないとダメでしょう。特にイスラム関係は、理解していなきゃやっていけなくなる。」


「まあな。んじゃ、龍。答えてみな。」


「あの社長は、塩の会社なんかやってたが、とんでもねえ軍事オタクだったんだよ。武器持って使って、戦闘やってみてえ、ただそれだけ。日本やヨーロッパなんかでも普通の若者がISISに加わろうとしたり、加わってんのは、大体そんな理由だ。ISISなら、手っ取り早くそれが可能だし、給料出してくれるし、女性は奴隷。馬鹿な男はいい組織に思えるんだとさ。」


「龍介、よく出来ました。苺ちゃん、分かった?」


「うん!」


夜9時になり、ニュース時間に合わせる様に(多分合わせたのだろう)、民自党総裁代理である興梠議員が記者会見をする一報が流れ、画面が民自党本部に切り替わった。

席には、興梠議員を真ん中に両脇には赤松兄弟や、潔白で護憲派としても有名だった議員が並んでいる。


「この度の民自党総裁が主導して計画した、日本人浄化計画などという、奇妙奇天烈且つ、これ程までに人権を無視した事を本気で考え、また、それに追随する民自党議員がこれ程まで多く、国民の皆様には多大なご迷惑をお掛けした事を心からお詫び申し上げます。」


全員立ち上がって頭を下げる。

企業の不祥事ではよく見る光景だし、最近は大企業のトップがこの件で逮捕されたりしていたので、尚よく見る光景ではあったが、次からは戦後初めてという宣言がなされた。


「安藤容疑者が、一連の人権無視をした日本人浄化計画を遂行するに当たり、憲法の改正を唱えていたのだというのは、周知の事実です。又、それを良しとし、賛同していたのが、国民の皆様に選んで頂いた、民自党議員であった事を我々は真摯に受け止め、また反省致しました。

我々、残った民自党議員は、これより、民自党を解体し、新たな党を立て直します。

党名は民政党です。

この度の一連の不祥事を戒め、『民主主義の政治を行う党』という意味を込め、つけました。

我々民政党は、従来の憲法を守り、またそれを遵守する事を、国民の皆様にお約束いたします。

また、不甲斐ない事ではありますが、民政党は衆議院議員数112名と、大変少ない状況です。

仮に皆様のご指示を得られたとしても、単独政権は厳しい事が予想されます。

そして、今は国の危機です。

元総理は犯罪者となり、内閣総辞職。

国内で初の自爆テロも起き、その際、中国とロシアの戦闘機が領空侵犯をしたとの情報もあります。

世界情勢も大変緊迫しております。

それを踏まえ、わが党は、現在野党である民心党と協力していきます。

選挙に勝っても負けても、協力体制は変わりません。

政策の違いは細かい部分ではありますが、国と国民の皆様を守るという、その大筋が同じであれば、不可能な事は無いと先般、民心党岡ノ谷代表との会談で合意致しました。

この国難を乗り切る為、党を超え、一致団結して、この国難に臨んで参りたいと思います。

尚、細かい政策に関してのご質問は30分後に予定しております、民心党との合同記者会見でお答えしたいと思います。」


記者の質問が始まり、龍彦はニヤリと笑って、竜朗の膝を突いた。


「やりましたねえ、お義父さん。」


「いやあ、俺は知らねえよ。」


「嘘ばっかし。陰で糸引いて、手え打たせたくせに。」


「んな事言ったら、たっちゃんだって知ってたろ?」


「さあ、どうでしょうか。俺は海外専門なんで。」


一癖、二癖の竜朗と龍彦の2人は兎も角、確かにこれは面白い。

そして、このまま行けば、日本はやっといい国になる。

そんな気がした。




そして、空白の内閣を埋める為、公示後2週間というスピード選挙で行われた、衆参同日選挙は、新党となった民政党が立候補した現職議員全てが当選するという健闘は見せたが、勿論過半数には満たなかった。

しかし、与党となった民心党は、内閣の半数に民政党議員を起用し、宣言通り、一致団結の協力体制で新しい内閣を旗揚げした。

民政党としては、はなからそのつもりだった様だ。

実際、候補者は募っていない。

即席で募った候補者で失敗したくなかったのだろうと竜朗は言っていたが、それも竜朗のアドバイスだろうと、龍介でも分かった。

赤松元首相は、それで不祥事までは行かないが、波に乗り、数を補う為だけに、候補者選びをし、若干失敗している。

当選した途端、失言を繰り返したり、問題を起こす様な者まで出してしまい、そのせいで、赤松首相の退陣後、急速に民自党の支持率は下がってしまった。

その轍を踏まえたのだろうと思えた。

党名を変え、人員が一掃されたが、民政党は正に首の皮1枚といったところだ。

小さなスキャンダルでさえ、命取りになる。

それよりも、野党ともきっちり協力し、まずは国難に対峙した方が、長い目で見たら、遥かに民政党の支持率は上がる。


赤松の兄2人は、それぞれ、環境相と文部科学相となり、興梠は、副総理となった。

総理は民心党代表の岡ノ谷代表。

彼も、竜朗の信頼があるいい政治家の様だ。

政策も、国民に約束した通り、良いものになって来ているし、もう憲法改正などという声は全く聞こえなくなった。



漸く、明るい兆しが見えた7月。

龍介はもう試験も終わり、夏目の機嫌が悪くなるからなるべく来いと、新城に脅されて、その日も八咫烏のアルバイトに来ていた。

朝はなるべく早めに行き、夏目が龍介にやれと言わんばかりに残している報告書の下書きを、報告書の体にして出す為、パソコンに向かっていると、いつもの様に夏目が現れ、龍介の頭をポンと叩く。

龍介が挨拶すると、『おう。』とだけ言い、隣に座って、煙草に火を点け、定時レポートに目を通し始めるのが、いつもの夏目だ。

その『おう。』が龍介がいる時の方が普段より機嫌の良い声だと新城達は言っており、それも含めて、ホモ疑惑が出ているのだが、その日の夏目は違っていた。

まず、頭ポンも無く、いきなり椅子に座った。

龍介や他の部下が挨拶すると、『おう。』とは言うのだが、それが歴然と分かる元気の無さ。

しかも煙草に火を点けるなり、深い溜息。

流石に龍介も心配になり、夏目の顔を覗き込む様にして聞いてしまった。


「何かあったんですか…。」


「ーいや…。」


うんと言っているに等しい否定。

これは何かあった。

しかし、言わないところを見ると、家庭内の問題らしい。

政権に問題も無く、今のところ、テロ容疑者が入って来たという報告も出ていない。

日本が護憲派に戻り、戦闘体制でない事が世界に知れ、安藤政権の折に出た、核を持つという話も首相が完全否定した事で、世界の日本を見る目も変わったし、空爆援護の空母や補給船も出さなくなった事で、一先ず落ち着いている。

新城は、龍介と夏目隊を集めて言った。


「先月もあったろ。ほら、顧問室に昼飯、龍介と呼ばれたのに、結局、仮眠室で鍵閉めて食ってたろ。あの日も、今日の朝の中隊長と同じだったぜ?」


「そうだよな。お前、知らねえの?なんか聞いたりしてねえ?」


本多に聞かれた龍介は、首を横に振った。


「龍介さえ知らねえ…。なんか興味深いぜ…。

今日は暇だ。徹底的に調べよう。まずは弁当だな。んな所で食うって事は見られたくねえ弁当なんだ。でも、普段は普通に食ってんだろ?龍介。」


「はい。普通に一斉のせで開けて食ってます。うちの母の弁当より綺麗で、中隊長の好物ばっか入ってます。」


「やっぱ弁当だな。よし、調べよう。そして、何故、そんなに中隊長を悩ます弁当が月に1度あるのかもな。」


新城達は楽しそうだが、龍介は嫌な予感しかしない。

しかし、身分としては1番下であるし、反論して諌めなければならない重要な問題でも無いので、渋々乗った。













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