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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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健気なポチ

しずかの事で、竜朗と寅彦にからかわれて家を出て来た龍介は、いつもの様に、ポチに運動をさせていた。

大型犬は、2時間は運動させないといけないと聞いてから、ずっとこうしている。

林の中で、ポチにボールを投げてやって、走らせる。

ポチは飽きもせず、何回もボールを持って走って来る。

その度に褒めて、また投げてやる。


「別に母さん居なくたって、平気だもん。な?ポチ。」


ポチが『そうなの?』と言う顔をしながらボールを取りに行き、いそいそとボールをくわえて持って来た時の事だった。

龍介はその時初めて、囲まれている事に気付いた。

龍介が尾行されている事にも気付かなかったのだから、相当の手練れと見て間違いない。

龍介は、即座に頭を回転させた。

プロなら、電話を掛けたり、連絡を取る素振り見せただけで、阻止する為に襲いかかって来る。

そうしたら、龍介より先に、ポチをなんとかするだろう。

ポチは吠えるし、噛まれたら大怪我だ。

つまり、奴らは出て来る前にポチを殺す。

それだけは嫌だ。

龍介はポチの前にしゃがみ込み、ポチのリードを外しながら静かな声で言った。


「ポチ、悪い奴らが居る。

このままうちに大急ぎで戻って、爺ちゃん連れて来てくれ。

いいな?何があっても止まるなよ?

爺ちゃん連れて来て、助けて貰うんだ。

俺は大丈夫だから。分かった?」


ポチは不安そうな目で龍介を見つめた。

龍介はポチの頭を撫でて、安心させる様に、微笑んだ。


「大丈夫。ポチが走って、直ぐ爺ちゃん連れて来てくれれば、大丈夫だから。いいな?」


リードを離すとポチはダッシュで林を出た。

誰も追おうとはしない様だ。

ホッとしながら、龍介はポチを追う様に見せかけつつ、林を出ようと走り出した。

しかし、賊は直ぐに動き出す。

ポケットからパタパタ竹刀とレーザーソードを出しつつ、ポケットの中で、iPhoneのボイスメモをオンにして落としたフリをした。

こういう時の為に、ボイスメモの場所も、起動してから押す場所も、見なくても出来るようにしてある。


龍介を捕らえようと襲いかかって来た1人は、パタパタ竹刀で叩いて怯ませ、もう片方の賊はレーザーソードで腕を斬ろうとし、逃げられた。

龍介のその動きを見て、相手もただの子供では無いと理解したのか、今度は6人一斉に来た。

足に2人、腕には2人づつ。

軍人レベルに鍛えられていそうな男、6人によってたかられては、流石の龍介も太刀打ち出来ない。

パタパタ竹刀も、レーザーソードも手から落ちた。


「てめえら何者だ!ロシア人か!」


1人の男が、ロシア語訛りの英語で尋ねた。


「加納龍介だな?」


龍介はわざとロシア語で答えた。


「そうだったらなんだ。」


男はニヤリと笑って、ロシア語で答えた。


「ほお、軍人並みに他国の会話も学んでいるのか。」


「俺の質問に答えろ。」


「ふん。可愛くないガキだが、一緒に来て貰おう。何、殺しはしない。まあ、お前の父親次第だがな。」


別の男が注射器で薬を打った。


「何打ったんだか知らねえが、俺は麻薬系の薬は効かない。

それよりお前らの目的はなんだ。

俺を人質に取って、父さんから情報を得て、どうする気だ。」


「お前は知らなくていい。そんな事より静かにしててもらわないとな。」


男はそう言い終えない内に、龍介の鳩尾(みぞおち)を殴り、気絶させた。




竜朗は、そのまま寅彦と話していたが、玄関にドカンと何者かが当たる音で話を中断し、驚いて玄関を開けると、ポチが居る。


「ポチ!?1人かい?龍は?」


ポチは竜朗のシャツの袖を咥え、ぐいぐい引っ張る。

ただならぬ様子を感じ取る竜朗。


「龍になんかあったのか!?」


寅彦も出て来て、ポチに前を走らせ、必死に走って付いて行く。

加納家から少し離れた林に着くと、ポチは必死に何かを探し始めた。

竜朗と寅彦も龍介の名前を叫びながら探すと、竜朗は龍介のGショックを、寅彦はスマホを見つけた。


「先生…。」


寅彦が不安そうに言いかけた時、ポチが龍介のパタパタ竹刀を咥えて持って来た。


竜朗はポチの視線の高さにしゃがみ、ポチに問いかけた。


「龍は誰かに襲われたのかい?」


ポチは悲しそうな顔になって、しょんぼりする様に、顔を下に向けた。

竜朗は切なくなった。

大好きな龍介を救う為、ポチは懸命に家まで全速力で戻って来て、竜朗をここへ連れて来た。

恐らく、龍介の言いつけを守って。

龍介にしてみたら、助けが間に合うとは思っていなかったろう。

ポチに危害を加えられるのを防ぐ為の手段だ。

でも、ポチは竜朗を呼んでくれば、龍介が助かると信じて走って来た筈だ。

竜朗はポチの頭をゴシゴシと撫でて、ポチを抱きしめた。


「偉かったな、ポチ。おめえが悪いんじゃねえんだ。ごめんな。」


寅彦がスマホを見せながら、竜朗に焦った調子で言った。


「ボイスメモが残っています!」


2人で聞く。

龍介と男の会話がしっかり入っていた。


竜朗が図書館に電話をしようと、スマホを取り出すと、電話が鳴った。


「たっちゃん!?」


「お義父さん、龍介が攫われる可能性が高いんです。」


「ーもうやられた…。」


龍彦は絶句した。


「たっちゃん、これは俺の責任だ。こっちで必ず無傷で見つけ出す。」


「ーいえ。」


龍彦は静かな声で言った。


「山本逃した俺の責任です。こっちで必ず突き止めます。」


それだけ言って、龍彦は電話を切ってしまった。




龍介が気が付いたのは、ギシギシと鳴る安物のベットの上だった。

室内というか、そこはパーテーションで仕切られた、元オフィスの様な場所で、事務机等の類いが、乱雑に置かれていた。

手足は結束バンドで拘束されている。

窓はあるが、鉄格子が付いている。

防犯の為、元から付いている様だ。

壁には古ぼけたポスターが貼られていた。

『~の田ネギ使用!ネギの浅漬け!』

と書かれ、~の所は破れてしまっていて、分からない。


ーネギを使った商品を作ってた会社の跡かな…。

ネギの浅漬けってなんか不味そうだな。それで潰れたんだな…。

まあ、それは置いといて…。

田ネギ?下仁田ネギの事か?

下仁田ネギ使用ってわざわざ書くって事は、ここ、群馬県じゃねえの?


龍介はベットから立ち上がり、窓の外を見た。

とても環境がいいところらしく、雪に覆われた木々以外は何も見えない。


ー雪深いな…。でも、木の生え方が、関東甲信越地方の生え方だ…。やっぱ群馬県だな…。


先ほどの男が、ビデオカメラを手に数人の男と現れた。


「お前の親父にビデオメッセージを送る。助けてくれと訴えろ。こっちは日本語分かるからな。妙な事言ったら、直ぐに殺す。」


一瞬、龍介は、ここで殺されてしまった方が、龍太郎の迷惑にならないのではないかと思った。

だが、そんな事になったら、龍太郎も龍彦も、そして竜朗でさえも、正気では居ないかもしれない。

以前、変質者の家に迷い込んで、脱出した事件の後、龍彦も龍太郎も、竜朗も言っていた。

龍介が誰かに殺されたら、全人生を賭けて、その犯人を殺すと。

3人は身を持ち崩し、殺人者になるか、相手が相手だけに、下手をしたら、戦争を起こしてしまうかもしれない。

やはり、ここで死んでしまうのは、あまり得策ではなさそうだ。


龍介は疑われずに、少しでも情報を伝える術を考えながら、カメラの前に座った。














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