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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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チェシャ猫か?

「きいっちゃん、アイツだ。」


龍介は、10人中、7人目の男を見つけた様だ。

つまり爆弾を抱えている男の筈である。


「了解。」


人混みに紛れつつ、慎重に男に近付いたが、格好が格好だ。

しかも亀一は棺桶の様な箱を持っているので、ただでさえ目立つ。

なので、当然気付かれた。

駈け出す男に、


「止まれ!」


と怒鳴るが止まらないので、龍介が男の両手両足を、見えない様な素早さで撃ち、倒れされ、直ぐに拘束しながら、爆弾を確認。

身体にビッシリと爆弾を巻きつけている。

龍介が駆け付けた警察官に連行を頼んだ時、夏目も、もう1人を同じやり方で確保していた。

撃つのを躊躇して、爆弾のスイッチを押された事を考えると、警察では考えられないこのやり方で確保するしかないのである。


後1人。

決行時刻まで2分を切った時、龍介は頭に叩き込んだテロリストの顔の、最後の1人である男が、龍介達を見て、ポケットから何かを取り出し、握り締めようとしているのを見た。

男との距離は約10メートル。

龍介は亀一から箱を奪い取るように貰い受け、20キロはあるその箱を持って、全力疾走しながら叫んだ。


「退避しろ!」


もう撃った所で間に合わない。

下手したら、撃たれた衝撃で手が動いて、スイッチを押してしまうかもしれない。

龍介と亀一が走り、龍介が箱から手を離し、その男の腕に手を掛けた瞬間、男はスイッチを押した。

亀一が横倒しになっている箱の蓋を開け、龍介が暴れる男を箱の中に突っ込み、蓋を閉めた。

しかし、それだけでは済まない。

この箱は3箇所のロックを掛けねば、爆弾は完全に中だけで終わらず、外にも被害が出てしまう。

手早くロックを2人で掛けながら、亀一が言った。


「龍、俺達は退避する暇は無えぞ。」


龍介はニヤリと笑って最後のロックを掛けながら答えた。


「あんたを信用してるぜ、きいっちゃん。」


龍介には、この箱は大丈夫だという確信があった。

この念には念の亀一が、わざわざここまで運んで来てくれたものである。

例え、実験をしていなくても、これは完璧だと自信があるから持って来たのだと、亀一を子供の時から知っている龍介には分かったのだ。

失敗する可能性が少しでもあれば、亀一は持って来ない。

そう思った。

だからいざという時は本当に使う気で、亀一に持たせていたのである。

また亀一の方も、短い間にも、龍介のその熱い信頼が分かり、胸が熱くなっていた。


ロックを掛け終えた瞬間、ズンという重い音と共に、箱が揺れた。

男がスイッチを押してからそれまで、僅か12秒。

ギリギリだった。

ハッと気がつくと、夏目が龍介達の真後ろに立っていた。

2人を見て、無表情で言う。


「よくやった。撤収。」


「はい。」


「帰ったら取り調べになる。お前はバイトだから取り調べには出られねえ。」


すると亀一がサラッと言った。


「んじゃ、乗ってくか?」


「へ?何に?」


「ステルスだよ。」


「ああ!そういや、アレ、どうしたんだよ!」


「そのまま上空に居るよ。」


「ええ!?」


外に出て見ると、確かに、亀一が降りて来たロープは下がったままだ。

そう言えば、あまりの奇異な登場の仕方で忘れていたが、来た時も音は全くしていなかった。

その上、操縦士が降りても、上空で待機しているとは、最早戦闘機の概念から逸脱してしまっている。


「流石きいっちゃんだな…。凄えもん作ったな…。」


「その代わり、俺と龍太郎さん以外、乗ると吐く。持って行こうとした米軍の人間も全員ダメだった。」


「マスクん中で吐いたら…。」


「悲惨だぜ。」


「ーだよな。」


事後処理を終えた夏目が来た。


「龍介、どうすんだ。」


「ではここで失礼します。」


夏目は龍介の肩をポンと叩いて、去り際の背中で言った。


「お疲れ。」


「はい。お疲れ様でした。」


その様子を見ていた新城がコソコソとやって来て、ニヤニヤしながら小声で言った。


「隊長、お前が箱から離れる暇が無えって真っ青んなって、退避しなかったんだぜ?」


「ええ!?」


「隊長が死んだらどうすんですかって、こっちは大乱闘。ツー訳で長岡三尉、助かった。有難う。」


「ああ、いや、そんな…。」


バンに乗ろうとした夏目が新城を見ている。

新城は慌てて戻りながら、龍介達に手を振って、バンに向かって走って行った。

夏目達のバンに向かって、龍介は頭を下げ、亀一は敬礼して見送ると、亀一がニヤニヤしながら言った。


「愛されてんねえ、お前。」


ところが、からかっているのに、龍介は嬉しそうに笑った。


「おい、そんなだからホモ疑惑なんか出てんじゃねえのか?」


「はあ!?。何だそりゃあ!」


「蔵にまで伝わって来てるぜ。龍と夏目さんはホモじゃねえかって位仲がいいって。」


「えええええ!?ふざけんな、気色の悪い!」


「俺が言ってんじゃねえっつーの!」


怒鳴り返した後、亀一は不意に微笑んだ。


「何?」


「ん〜?いや、あの一言は嬉しかったなとね。」


「ん?」


「俺を信じるって言ってくれたのがさ。」


「当たり前だあ。」


龍介がニヤリと笑ってそう言うと、亀一は照れくさそうに微笑んだ。


「さて。じゃあ、操縦させてあげようか、龍介君。」


「いっ!?」


「お前が乗りこなせるステルスと同じだから。こういう事、今後も起きるかもしれねえだろ。そしたら、八咫烏だって乗りこなせた方がいいだろ。ツー訳で、はい、おいで。」


実は、このステルス、あり得ない設計の全てが操縦席の下に入っているらしいのだ。

主な原因は、外に音を出なくする為の装置らしい。

普通は外に出るはずの爆音を吸収する為なのか、横揺れと縦揺れに斜め揺れという、独特の凄まじい振動を起こしている。

だから操縦士は吐くという事だ。

その代わり、もう1つの席は戦闘ヘリ程度の揺れらしい。

だから龍介も乗って帰る気になったのだが…。


「い、いいよ…。今日は疲れてるし、吐いたら迷惑だから…。」


「大丈夫だ。あまりに乗る奴、乗る奴が吐きまくるんで、マスクが勿体ねえし、窒息しちまったらえらい事だって加納一佐と話して、操縦士のマスクには、掃除機機能が付いてて、吐いたら、吸い込んでゴミ箱に捨てられる仕様になってる。

安心して吐いて良し。」


「吐いて良しって、好き好んで吐きたかないぜ!?」


しかし、亀一は先にロープを伝って登ってしまい、龍介を手招きしている。

下から見ると尚も怪しい光景だ。

ニタニタ笑っている亀一の顔と手だけが、夕空の下に浮かんでいる様にしか見えないのだから。


ーなかなかに不思議なもん作るよな、きいっちゃんは…。つーか、チェシャ猫か…。


乗りたくはなかったが、八咫烏の黒いバンはもう居ない。

柏木もさっき到着した様だが、塩の会社の家宅捜査に入っていて、忙しいし、夏目隊の龍介が手伝うのは、夏目の許可が要る。

しかし、龍介はもう帰ると言ってしまったのだから、それは認められないだろう。

後に残っているのは、特殊班という、後片付け専門の部隊と、警察だけだ。

残念ながら、帰る方法はこれしかない。

龍介は溜息を吐いてから、ロープを掴んで登り始めた。














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