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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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瑠璃、渋谷に会う

龍介がスッキリした顔で戻ると、隊員達が笑顔で龍介の肩を叩いて出迎えてくれた。

でも、それだけ。何も言わない。

とても有難く感じた。

しかし、龍治は泣きそうな顔で龍介の前に立った。

渋谷に「さっさと来い。」と怒られているのに、龍介の前から動かない。


「兄貴、早く行った方がいいよ。大丈夫だから。」


「ほんとかああ!?俺は、お父さんにどう顔向けしたらいいんだかあ!」


「なんでそうなるんだ。そういうのは全部折り込み済みで許して貰ってるバイトだし、お父さんだって、バイトでイギリス行って、俺ぐらいの時はもう…。」


泣き崩れそうな龍治に渋谷が切れる。


「クビにすんぞ!真行寺!いいからさっさと来い!」


「ほら。早く行って。兄貴は兄貴の仕事しないと。ね?」


龍介に促され、渋々龍治が行くと、香坂がパソコンを探っている横で、事務所内にあったファイルを見ていた夏目が言った。


「アイツは、スキルは高えが、向かねえんじゃねえか…。この仕事。」


それは龍介も感じていた。

龍治には一般的な仕事の方がいい気がする。


「そうですね…。ちょっとお父さんも交えて話してみます。」


「おう。で、瑠璃ちゃんはいいのか。」


「あっ!いけね!」


「タニマなら心配無えだろうが、もう帰らねえならそう言っといてやれ。渋谷についでに送って行く様、言っとく。」


「はい。有難うございます。じゃ、すみません…。」


龍介は部屋から出ると、瑠璃に電話を掛けた。


「龍?無事!?」


「大丈夫。ごめんな、急に出て…。」


「うん!大体知ってる!」


「爺ちゃんに聞いた?」


「うん。今お電話あって…。お、お、お…、おちゅかれさまでしたあ…。」


涙声になってしまっている。

ずっと心配して待っていたのだろう。

でも、頑張ってそう言ってくれる所が、なんとも可愛らしくて、龍介は自然と微笑んでしまった。


「ごめんな、心配させて…。」


「だいじょうぶう!」


「後、ごめんついでにもう1つ。後始末に残る事にした。渋谷さんて人が送って下さる様に、夏目さんが手配して下さってる。兄貴と謙輔さんが居る隊だから、そこで待ってて。」


「私こそごめんなさい。有難う。夏目さんにも宜しくお伝えして?」


「うん。じゃあ切る。」


「はい。気をつけて。」


瑠璃とただ普通に会話をしただけなのに、瑠璃の声を聞いただけで、ものすごくほっとしている。

その事に気づいた龍介は、電話を切らずに瑠璃の名を呼んだ。


「瑠璃。」


「ん?」


「有難う。ほっとした。」


「んん?」


「じゃあな。」


電話が切れた途端、おばちゃんが「いらっしゃい」と言うので、振り返ると、コンバットスーツ姿の見知らぬ男性が居た。


「ごめん、おばちゃん。食ってけねえんだ。」


「仕事終わったら来なさいよ?」


「はいはい。」


おばちゃんと会話しながら、見知らぬ男性は瑠璃の前に立ち、愛想よく笑った。


「ほお。君が鬼の夏目が愛して止まない龍介の彼女か。しずかさんの若い頃と似てんな。」


「ほえ!?あ、あ、あ、唐沢瑠璃です。渋谷さんですか。」


「そう。渋谷。聞いた?」


「はい。お手数おかけして、申し訳ありません。」


「いやいや、ついでだから。じゃ、行こうか。」


おばちゃんに礼を言い、バタバタとついて行きながら、瑠璃は気になった事を聞いた。


「龍のお母様のお若い頃をご存知なんですか。」


「勿論写真でだけどな。顧問の部屋に飾ってあんだよ。お若い時から今に至るまでのしずかさんの写真。」


「そ、そうなんですか!?」


「そう。その倍、龍介の写真が。」


「可愛がっていらっしゃるんですね、やっぱり…。」


「その様だ。まあ、分かるけどな。龍介は、ずば抜けて優秀な上、性格が可愛い。あの夏目を虜にすんだから。」


「虜…?」


「虜でいいんじゃねえかなあ。何せ龍介がバイト来ねえと、なんか機嫌悪いって話だし。夏目と龍介にはホモ疑惑も出てるらしいぜ。」


「ホッ…!?」


「いや、冗談だけど。それ位、夏目の信用が厚くて、優秀で、2人の息はピッタリって事。やっぱ、こういう仕事は気が合う合わねえ、すげえ重要だからさ。」


「そうですよね…。相棒に命預けてるんですものね…。」


「お、分かってんじゃん。」


「龍の受け売りです。だから、夏目さんが背中を預けてくれたって、凄く喜んでたんですよ、龍。」


「相思相愛だね。やっぱ、疑惑は満更嘘でも…。」


「ええええ…?。」


どちらも、物凄くそういうのは嫌いそうなのだが。

そして瑠璃は渋谷という名前を聞いたのが初めてでない事に、漸く気づいた。

普段なら直ぐに思い出すはずなので、矢張り、そこは龍介を心配するあまり、動揺してしまっていたのかもしれない。


「渋谷さん、夏目さんと6年間ご一緒で、生徒会にもいらした…。」


「おう。知ってたあ?そう、その渋谷です。まあ、青山程苦労はしなかったけどな。思い出話聞きたきゃ、帰り道の無駄話で教えてやるよ。」


「是非お願いします!」


渋谷は人懐っこく、誰とでも仲良くなれるタイプで、瑠璃も気楽に話せる。

非常時だからこそ有難いキャラクターだ。

ところが、バンに乗ると、龍治が暗い顔で座っていて、なんだか空気が重い。


「お兄様…、何かあったんですか?」


「あ、瑠璃ちゃん…。龍介さ…。今回の突入で、初めてテロリスト射殺したんだ。どんなにショックだろうと思って…。だから同じ隊に入りたかったのに…。俺が居たら、龍介にあんな思いは…。」


瑠璃もそれはショックで、心優しい龍介を思うと、心配で堪らなくなった。

龍介が『ほっとした。』とわざわざ言った意味も、それなら合点が行く。

しかし、それを口にする前に、渋谷が龍治を睨みつける様にして怒り出した。


「周りが、ンな風にガタガタ言うもんじゃねえ。こういうのはいつかは通る道だし、1人で乗り越えるもんだ。仕事なんだからな。

龍介は1人で乗り越えられる男だし、その手助けはもう夏目がやった筈だ。俺たちが行った時には、いつもの龍介に戻ってたろ。かえって、周りが心配したり、妙に慰めたりしたら、逆効果なんだよ。」


「だけど、隊長!」


「いいから黙っててやれ!瑠璃ちゃんも。心配だろうが、龍介がなんか言わねえ限り知らん振りしてやってくれ。」


「はい…。」


「真行寺。」


「はい…。」


「お前、この仕事向かねえよ。優しすぎだ。大鳥居もな。顧問や本部長に恩義感じて、ここに居る気持ちは分かるが、顧問や本部長は、そういう事で、感謝の気持ちを実感する様な、薄っぺらい方達じゃねえ。今日はこのまま帰って、身の振り方考えな。」


渋谷と楽しい会話が出来ると思っていたが、とんでもなく、暗く重苦しい車内になってしまった。

長い帰り道になりそうだと思っていると、渋谷が突然、一転して明るい口調で、瑠璃に中高の思い出話を始めてくれた。

渋谷の話術で他の隊員も含め笑い始めて、車内は一気に明るくなった。


ー凄い人…。流石夏目さんの親友って感じね…。


龍治の思い悩んだ横顔が気になりつつ、感心する瑠璃だった。




その頃、夏目隊は新たな問題発生で、バンに急ぎ戻っていた。

香坂がチェックしていた、先ほどのアジトのパソコンから、銀座と新宿、そして渋谷でもテロの計画とアジトがある事が判明したからだ。

バンに飛び込んだ所で、寅彦から無線が入る。


「ざっと調べた所、新宿が1番面積が広いし、シリア系外国人の雇い入れ数は10人です。購入物品は調査中ですが、爆弾原料や釘の仕入れ数が他に比べて桁違いです。塩の会社なのに。」


「本命だな。経営者は?」


「日本人。ただ、数年前にイスラム教に入信してます。」


「ー了解。新宿に向かう。渋谷と銀座は?」


「小島隊、大迫隊が名乗りを挙げてます。柏木さんは新宿に応援に向かうとの事です。」


「分かった。」


夏目は無線が終わると、全員に言った。


「八咫烏創設以来初の激しいドンパチが予想される。訓練通り、十二分に気をつけて、各自全力を出し切れ。香坂、アジトの見取り図出せ。作戦会議に移る。」


「了解。」


全員が緊張した面持ちで頷いた。








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