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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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龍介が見つけたもの

瑠璃は急いで竜朗に電話を掛けた。


「瑠璃ちゃん!?大丈夫かい!?秋葉原に居んだろ!?」


「はい。私達は離れた所に居たので、全く問題無いんですが、龍が何かを見つけたらしく、追って行ったんだと思うんです。」


「ー主犯か、監視役か…。」


「じゃないかと思うんですよね…。こんな状況下で、私から離れるっていうのは…。」


「分かった。ありがとな。夏目もそっち行かせてるから、龍を追わせる。」


「良かった…。でも、龍、銃持ってます…?」


「アルバイトだから、銃の携帯はさせてねえんだ…。急がせるから。瑠璃ちゃん、そこは本当に安全かい?」


「はい。お店の方もとてもいい方で…。」


「店か。なんて名前の?」


「タニマです。」


すると竜朗は笑い出した。


「そりゃ安心だ。じゃ、ちょっと立て込んでるから、また後でかけるからな。」


「はい。」


瑠璃は電話を切り、窓の外を見て、未だ怒っている、自分の2倍はありそうな体型のおばちゃんを見つめた。


ーそりゃ安心て…。八咫烏の関係者なの…?混んでるから、他探そうって龍が言って、たまたま入ったはずなのに…。そうだとしたら、龍って、本当に神様に愛されてる人になるけど…。


しかし、龍介は他を探そうと言った割に、探す様子もなく、秋葉原も知らないはずなのに、迷わずこの秋葉原の外れの喫茶店に入り、特に躊躇する事なく、おばちゃんに瑠璃を預けている。

それに、この店、考えてみたら不思議な店だ。

ちょっと離れているとは言え、ゴールデンウィークだというのに、客は龍介と瑠璃の2人だけなのに、都内で経営が成り立っているのだから。


ーんん〜?これはもしかして、アルバイトで、何か情報を得たのかしらん…。


龍介を心配していても、少なくとも、今は龍介の力にはなれない。

心配して、ここを出て、なんらかのサポートをと思っても、却って足手まといになってしまうのも分かっている。

だったら、龍介の無事を祈りつつ、気を紛らわせているしかない。

泣いて待っていたりしたら、龍介の重荷になってしまう。

出来たら、お帰りなさい、お疲れ様でしたと、笑顔でかっこよく、戦国時代の女性の様に迎えたい。

そう考えた瑠璃は、このタニマという店について、調べる事にした。

すると、なんとなく、からくりが分かった。

タニマは、分倍河原理事長のレストラングループだったのだ。

前に調べた時、分倍河原理事長のレストラングループは、八咫烏や情報局員が使っている節があると分かった。


ーそういう事なのね。納得。それで大丈夫なんだ…。で、アルバイトと雖も、八咫烏で働き始めた龍は、それを知らされているので、万が一の時を考えて、なるべく、分倍河原レストラングループのお店に入る様にしてる訳ね…。


そう考えると、アルバイトを始めた春休みから、デートの時に入る店が変わった。

アルバイトを始めてから入った店、全てを調べたが、予想通り、全部、分倍河原レストラングループだった。

瑠璃が納得していると、なんの気配もなく、おばちゃんの声が直ぐ後ろからした。


「あら。お嬢ちゃん、随分と勘がいいじゃない。情報官志望?」


「ふおおおお!?いつの間に!?」


「ふふん。太ってたって、動きは俊敏なのよん。ま、あなたの事は、アタシが守ってあげるから、ここで大人しくしてましょ?」


「は…、はい…。」


ーこのおばちゃんも、八咫烏なのかしら…。


瑠璃のその疑惑が見えたのかの如く、去ろうとしたおばちゃんが言った。


「あたしゃ八咫烏じゃないよ?元警官。」


「はっ…、はあ…。」


なんだか謎めいたおばちゃんである。


ーそれであの発言だったのね…。普通のおばちゃん、とっ散らかって、あんな事言えないもんね…。




龍介は単眼鏡で惨状を見つつ、周りを見ていた。

その時、このタニマがあるビルの道路の向かい側に男が立っているのを見た。

男は、アラブ系だった。

そして、その男はその惨状を、顔色1つ変えず、当たり前の事の様に観察し、路地裏を抜けて行った。

龍介はその男の姿形をしっかり頭に叩き込み、タニマを出て、後を追っていたのだ。

監視役だか、この3件のテロの主犯なのかは分からない。

でも、その様子から、なんらかの関与はしていそうに思えた。

龍介は慎重に身を隠しつつ、気配を消して、路地裏に入り、男の左に曲がる後ろ姿を捉えた。

龍介は直ぐには追わず、携帯画面を鏡にして、男が入った路地裏を確認した。

男は尾行が無いか、ねっちりと確認している。


ーやっぱ、ただの素人じゃねえな…。


そして確認が終わると、男は小さな雑居ビルに入って行った。

龍介は、窓から仲間が確認している事を想定し、裏から回って、ビルの窓の死角に入り、ビルの中に入った。

エレベーターを見る。

表示は、最上階の5階で止まっていた。

今度は5階のポストの表札を見る。

表札には、フリーヤ貿易と書いてある。

フリーヤとは、アラビア語で、『自由』という意味だ。

ポストには、他にアラビア語的な名前の表札は無く、横文字を一生懸命使った感じの、小さな日本のゲーム会社といった感じの名前ばかりだ。

龍介は、加来にフリーヤ貿易を調べてくれる様、メールをした。




「顧問!龍介君が突き止めたフリーヤ貿易ですが!」


加来は念の為、先に竜朗に報告していた。


「おう!なんだ!」


「当たりかもしれません!一月前に、シリアから4人の男を就業ビザで雇い入れてます!」


日本は難民の受け入れはしていない。

受け入れ国では、難民に化けたISISの組織員がテロを起こす事件が相次いでいる。

コネを使って雇い入れる形にしたという可能性は非常に高い。

万が一、自爆テロを起こした3人の身元が割れても、自爆テロなら死人に口なしで、なんの問題も無い。


「経営者は?」


「アサマディ・モハメド。10年前にシリアから来日し、日本人の妻が居ます。シリアの石鹸の輸入がメインですが、ISISの台頭で、石鹸の輸入が滞る様になり、一時的に倒産の危機に陥りましたが、ここ数ヶ月は、石鹸の貿易が無いにも関わらず、一定の収入があります。振り込み先は今、寅に辿らせてます。」


寅彦は、事件が起きて、竜朗が行くと出ようとすると、手伝うと言って、一緒に図書館に来てくれていた。


加来の報告が終わると同時位に、その寅彦が駆け込んで来ながら言った。


「すんげえ迂回してましたが、出元はISISです!」


「よーし!でかした、寅あ!」


竜朗は、一瞬迷った結果、夏目にだけ電話した。


「今どこだい。」


「後10秒程で龍介の所に着きます。」


「ん。男が入ったフリーヤ貿易の資金提供者は、ISISだ。踏み込んで良し。」


「了解。龍介戻しますか。」


竜朗は絶句した。

どう考えても、大人しくハイと言って、戻るとは思えない。


「ー達也、出来んのかい…。」


「無理ですね。あいつが相手じゃ、落とそうにも時間がかかる。」


「ーだよな。銃渡して一緒に入ってくれ。」


「了解。」




夏目はそれを予想して、龍介の分の特殊作戦用ライフルと、八咫烏のコンバットスーツの上だけ、バンから出る時に持って走っていた。


龍介が待っているビルに面した路地の手前で夏目は止まった。


「香坂。」


八咫烏で情報官をしている、青山同様、夏目と6年間一緒だった香坂は、すぐ近くのバンでサポートに入っている。


「監視カメラはすり替えた。窓に人間は立ってねえな。」


「了解。」


あっという間に第一中隊長まで行ってしまった夏目は、部下の5人に手振りで指示を出し、ライフルを構えたまま素早くビルへと向かった。














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