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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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忍耐のデートで…

年明け、竜朗の指示通りに内閣改造をした安藤政権は、初っ端から閣僚の相次ぐ不祥事や失言で、徐々に支持率が下がり始めた。

大鳥居の組織も無くなり、竜朗が完全にマスコミに対する圧力を排除し、公安、内調も一掃され、マスコミも安藤政権や、改憲の意向やそれを進める安藤達、改憲派を叩き始めた。

憲法の改正案を精査すると、日本人浄化計画の考え方も浮き彫りになった。

社会で不要な国民には人権は保証されないなどの12条の改正がその一端だった。

安藤が推し進めて来た経済政策も、一部の大企業と金持ちにしか恩恵は行かず、一般庶民の生活は逆に苦しくなるばかりで、忍耐強い日本人も、遂に、やっぱり駄目じゃないかとそっぽを向き始めた。

安藤が大鳥居を亡くした状態でも、なんとか政権を維持し、民事党内での発言力が高かったのは一重に改憲断行と日本人浄化計画のお陰だったからに他ならない。

日本人浄化計画は、大鳥居無しでは裏工作も、なんらかの技術を使うという事も出来なくなったが、憲法改正やその他の政策で、ジワジワと彼らが無駄と思う国民を排除して行く方向の様だ。

それもマスコミが叩き始めた事で、民事党内からも、選挙対策の為にも改憲は声高に言わない方がいいのではという声も出始める。

そんな数ヶ月が過ぎ、龍介は無事に東大文1に。

瑠璃は夏目と同じW大の法科。寅彦、鸞も同じ。

悟はM大の法科。朱雀も同じ。

亀一は防衛大。

龍治と謙輔は頑張りの甲斐あって、志望した一橋大に滑り込んだ。

双子達も無事英に合格。

皆に桜が咲き、大人達がホッとして、新しい年度になった4月。

安藤総裁を掲げる民事党は、2つの地区の補欠選挙で、野党連合に大敗した。

安藤はそれでも民事党総裁と首相の座に踏み止まった。

改憲とそれに伴う日本人浄化計画への執念の凄まじさか。

そして竜朗は、大鳥居の一件の時に、安藤にもう1つ指示を出していた。


「安保法通しちまったんだから、日本もテロの標的になるぜ。俺達だけじゃどうにもならねえ。正規の警察組織でもしっかりやっとけ。」


安藤は、大鳥居の遺産のお陰で、これも素直に従った。

実際、危機感は持ってはいたらしい。

テレビのニュースでも、その訓練の様子は公開されている。


そんな状態で、4月末のゴールデンウィークを迎えた。


龍介は瑠璃とデートをしていた。

しずかの車を借りて、瑠璃の行きたい所に連れて行くと言うと、瑠璃はもじもじと恥ずかしそうにした後、可愛い声でそっと言った。


「アキバ…。」


龍介の笑顔は引きつった。


ーやっぱしそう来たか!!!


という思いが駆け巡る。

でも、寅彦とそんなに毎回行くのも気が引けるのだろうとは思う。

要するに鸞とのデートに乱入する訳だし。

それに、あのお姫様の鸞が、嫌な顔1つせず、寅彦のアキバ通いに付き合っているのだから、自分も付き合わねばとも思った。

しかし、デートなのにアキバ。

一体自分はパソコンの、増してウィンドウズ系の、龍介にとっては、ガラクタの山でしかない物を見て、一体何をしていればいいのかという思いもある。


「い…いいよ…。アキバ行こう…。」


結果、笑顔が引きつってしまったのだ。

瑠璃は龍介のその顔を見て、今にも泣きそうな目をして、龍介を見上げた。


「い、いいのよ…。龍が嫌なら私…。」


しかし、武士に二言無しと龍太郎にも説教した様に、一度約束した事を一貫して守り抜く事は、龍介のポリシーでもある。


「いや。武士に二言無し。行こう。但し、俺、良く知らねえから道案内はお願い。」


瑠璃は嬉しそうに、満面の笑みで敬礼した。


「了解!」




アキバに着いて、ヨドバシの駐車場に車を停めるなり、瑠璃は動き出していた。


「龍、まず、パーツ屋さん二軒回るからね。」


お茶をしてからという時間すら惜しいらしい。

それにもう、瑠璃の目の輝きが違う。

龍介は休憩しようとも言えず、頷いて、瑠璃の道案内に付いて行った。

瑠璃が早速、ガラクタの山を物色し始めるが、店員はいらっしゃいませも言わない。

まあ、冷やかしも多そうだし、瑠璃の話では、パーツ屋には偏屈な店主も多いらしいので、そんなもんなのかなと思いながら、龍介は他に目をやったが、他の店はみんな、どぎつい女の子のイラストが描かれた看板ばっかりだし、目のやり場にも困る。

どうにか違う所を見つけても、マザーボードだのを見ていても、面白くもなんともない。


ー参ったな…。ここまでつまんねえのかよ…。


龍介はそんなに好きじゃないが、パソコンが全く駄目な、門外漢という訳ではない。

でも、矢張り、瑠璃が好むのは相当ディープな部分らしく、どうあがいても興味が持てない。

かと言って、瑠璃1人置いて行って、どこかで待っているというのも、なんだか心配で出来なかった。

方々にある、巨乳で童顔の可愛い女の子のイラストと、瑠璃は近くない事もない。

しかも、その辺りを歩いている男共は絵に描いたようなむさ苦しくて臭い男ばっかりで、野獣の檻の中に瑠璃を置いて行く様な気がする。


ーアレが目当てで来てる奴らが、アレに近い瑠璃見たら、本物だ!って連れてっちまうかもしれねえしいい!


彼らが二次元の女の子しか愛せない、実際の女性には興味が無いのが大多数であるという事を、龍介は知らない。


ー全くもう…。危険区域だ…。


しかし、瑠璃が行く店に入る人は、驚くほど人を見ない。

ハンターの目をして、周りには一切目を向けず、品物に集中している。


ーここ来ると、人が変わるのか、元々人間恐怖症の変わった人しか来ねえのか…。


いつの間にか、龍介は人間観察をして、時間を潰していた。

あまりに集中して見ていたのか、瑠璃が前に立ったのも気付かなかったほどである。


「龍。次行っていいかしら?」


「おう。」




それから結局、5軒位付き合わされ、ゴールデンウィークのせいか、どこも混んでいたので、2人は、少し外れにある、小さなビルの2階の喫茶店に入って、漸く食事と飲み物にありつけた。

その名も『タニマ』。

確かにビルの谷間にある感じだし、なかなかのネーミングセンスである。

食べ物も美味しいし、テーブルクロスは赤いギンガムチェックで、ノスタルジーな可愛らしさもある。

2人が食べ終え、瑠璃が次に行きたい所を話し始め、龍介が心の中で、『まだ行くのか〜!』と叫びながら、必死に笑顔でいた時だった。

駅周辺の1番栄えている辺りで、ドカーンという大きな爆発音がした。

龍介は直ぐに単眼鏡を出して、その様子を見たが、その後、立て続けに、駅と、歩行者天国のど真ん中で爆発が起きた。

タニマからは、50メートル程先に中央通りが見え、駅は方向的に分かる程度に見えている。


「何?」


瑠璃が龍介に寄り添う様にして聞き、お店のおばちゃんも窓から覗きながら『何かしら…。』と不安そうな声で呟いている。

龍介は単眼鏡で見た状態から推測を立てた。

1番栄えて、人が多かった最初の爆発が起きたのは、イベントを開催するスペースが入っているビル。

そして、次の中央通りの歩行者天国。

その二ヶ所の様子を見ると、爆発はものの見事に、人が集まっている所の、ど真ん中で起きている。

つまり、爆弾はタイムリーにそこで爆発した。

そして、そこからその爆発直前に立ち去った人間も居ない。

遠隔操作という事も考えられるが、人の動きは流動的で、常にその場所に人間が集まっている訳では無い。

その動きを予測して、爆弾を設置したとしても、機会を待っている間に、爆弾の存在に誰かが気づいてしまったり、鞄などだとしたら、移動されてしまう可能性もある。

そうなると、手っ取り早くて、確実なテロの常套手段は1つしかない様に思えた。


「自爆テロじゃねえか…。アメリカと合同演習はしてるし、南シナ海にもここぞとばかりに配備してる。空爆には表立って参加してねえけど、アメリカの要請で、空母は出してるって話だ。敵と見られても不思議は無い。」


おばちゃんも聞いていたらしく、怒りながら口を挟んで来た。


「だからニュースでテロ対策の訓練とかやってたんだね!政治家は私らが狙われるって分かってたって事じゃないか!だから安保改正なんか駄目だっつーんだよ!」


驚かないおばちゃんに、逆に瑠璃は驚いたのだが、龍介は驚いた様子も無く冷静に返した。


「そういう事ですね…。」


龍介は暗い声で言い、単眼鏡で何かを見たらしく、顔色を変えた。


「龍?」


「酷え…。」


瑠璃もおばちゃん同様、窓から外を覗き込んだ。

爆発した所から大分離れた所にも、人が何十人も倒れており、酷く苦しんでいる様子で、のたうちまわっている感じだ。


「爆風だけじゃないの?どうしてあんな…。」


「ー釘爆弾だよ。爆弾の中に釘いっぱい入れてるんだ。爆発したら、釘は四方八方に飛んで行って、被害が無かったはずの人にまで刺さって、苦しめ、当たり所が悪けりゃ死ぬ…。」


「なんて事すんだろうね!」


おばちゃんは怒り、瑠璃も顔色を失くしていた。

龍介は瑠璃を心配そうに見て、頭を抱きかかえ、どうするか考えようとして、何かを見た様子でまた止まった。

しかし、今回は立ち上がってしまっている。


「瑠璃はここに居なさい。すみません。ちょっとこの子お願いします。」


龍介はおばちゃんに瑠璃を頼み、五千円札をテーブルの上に置くなり、足早に出て行ってしまった。

龍介の姿は、窓から直ぐに見えたが、路地裏の方に入って行った。


「龍…。何か見つけたの…?」


瑠璃は呟きながら考え、そして気付いた。

あの龍介がこの混乱の最中、瑠璃を置いて出て行く理由はただ1つである事に。













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