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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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山本確保…しかし…

龍彦は直ぐに大使の執務室に通された。


大使はあまり待たせる事も無くやって来て、龍彦を見ると、不敵に笑った。

勿論龍彦も不敵な笑みで返しながら、探り合いの様な握手を交わす。


「ミスター・ドラゴン…。CIAから日本に戻ったとは聞いていたが…。で、今日は何の御用かな。ただのご機嫌伺いとは思えないが。」


「あなたもお忙しいだろうから、単刀直入に申し上げる。

ここに居る山本一太という男性を引き渡して頂きたい。

彼は日本の国家機密に関わる情報を握っている。

亡命だろうがなんだろうが、日本国として、出すわけには行かない。」


「そうは言われても、彼は日本が嫌だと、このロシアの領土であるロシア大使館に逃げ込んで来た。

お渡しするのは人道に関わる。」


「人道ねえ…。あなたがそういう取って付けた儀礼的な事しか言わないなら、こっちも言わせて貰おうか。

あの件、ロシアの大統領に直接お話ししてもいいんだが。」


大使の顔色が一瞬にして青くなった。


「ロシア大統領は、KGB出身でしたね。

いくら昔の事とは言え、あなたがした事を聞いたら、ただでは済まさないんじゃないんですか。

イギリス駐在大使なんてやっていられなくなる。

下手したら投獄?

ああ、いやいや、この世から消えて失くなるって線の方が濃いかな。」


「き…君の様な下っ端日本人エージェントと、大統領は直接お話しなど…!」


「出来るんですよ、それが。

私の叔父、誰だかご存知ですよね?吉行佳吾です。

彼は、KGB時代の大統領を知っているし、友人関係でもある。

持ちつ持たれつ的なね。

叔父に頼めば、直ぐに会えるでしょう。

増して、用件が、未だにくすぶってるα文書の件といえば…。」


大使は完全に顔色を失くしていた。


「ま、待ってくれ…。私の一存ではどうにも…。」


「早くして下さい。お宅の工作員に全て話してしまう前に。」


龍彦は、山本がまだ全部話していないと踏んでいた。

彼の妻子はまだ日本に居る。

こういう危険な出国をするのなら、妻子の安全を確認出来てから、切り札は出すからだ。


「ちょっと待っていてくれ…。」


大使が中座した時、龍彦の電話が鳴った。

近藤だ。


「どした。」


「図書館からの知らせだ。まずい事になった。

妻子は新潟に旅行中だったんだが、船でロシアに渡った事が判明した。

家の中も、もぬけの殻。

手紙類を庭で燃やした形跡があったそうだ。」


となると、時間が無い。

山本は直ぐにでも情報を出してしまう。

しかし、大使はなかなか来ない。

ここでデビットと2人で、山本を攫ってしまう事は、龍彦なら出来ない事は無いが、後々のリスクが大き過ぎる。


「高坂、大使館の裏に張ってろ。」


「了解。」


指示を出し、手に汗を握りながら1分1秒惜しみつつ、大使を待っていると、30分後、漸く戻って来た。


「も、申し訳ない、ミスタードラゴン…。その…。」


口籠る大使に代わる様に、高坂から連絡が入る。


「逃げたぜ。ゴンチャロフと山本。只今追跡中。」


龍彦は出口に走りながら大使に凄んだ。


「貸し2つだ。でかいぜ。山本から情報が出てたら、あんたはただじゃおかねえからな。」


車に走り込み、急発進すると、早速近藤から道案内が入る。


「ロンドンブリッジ方面向かってる。」


「了解。」


すると、デビットが笑った。


「なんだよ。笑ってる場合か?」


龍彦はデビットの笑いの理由が分かっている様子で、一緒に笑顔になった。


「人が悪いわね。あの大使さんのせいじゃないじゃない。ゴンチャロフが勘付いて、山本連れて逃げたんでしょ。」


「そうでも、貸しにしときゃいつか役立つ。」


「α文書もその手?」


「いや、アレは本と。こっちには証拠もある。」


「ねえ、α文書ってなんなの?MI6でも把握出来てなかったのよ?」


「それはアメリカとロシアの秘密。」


「じゃあ、ドラゴンは日本にも流してないの?α文書の内容…。」


「してねえよ?CIA時代の機密は漏らせない。」


「はああ…。もしかして、それでCIAにも貸しを作ってるの?」


「まあ、貸しでもあり、爆弾でもある。

使い様、或いは、流れによっちゃ、俺もヤバイって事だな。

ー見えたぜ!」


ゴンチャロフの乗る車が見えた。

しかし、橋の真ん中より先で、橋は上がり始め、通行止めになったばかりだ。

龍彦は他の車を縫う様に、猛スピードで追いかけ、上がりかけた橋に入ってしまった。


「ドラゴン!?俺たち、周り込んでるから、無茶すんなよ!?」


高坂の声が聞こえたが、龍彦はスピードを緩める事なく、ジャガーXJRを疾走させ、既に上がって、隙間の空いた橋を飛び越えてしまった。

ドカンと着地し、坂とは言えない様な急こう配を下り、ゴンチャロフの車の後ろにピタリとつける。


「あああ…。あなたと居ると、寿命がいくつあっても足りないわ…。」


「まだまだ。」


ゴンチャロフは当然の様に撃って来た。

龍彦はデビットにハンドルを任せ、身を乗り出して、タイヤを撃つ。


「危ないわよ!?そんな身を乗り出してえ!」


実際、ゴンチャロフの弾は頬を掠め、血が出ている。


しかし、あっという間に4本のタイヤ全てを撃ち抜き、ゴンチャロフの車は、工場の建物の腹に横にスピンしてぶつかって止まった。

龍彦は車を急ブレーキで停めると、銃を構えながらデビットと走り出て、ゴンチャロフを拘束。


「ドラゴンだったかな?いい腕だな。だが、少し遅かった様だ。」


「何…。」


「宇宙開発に、クラリスシステム。

その中心人物は加納龍太郎。

航空自衛隊の幕僚監部一佐。住所は神奈川県相模原市…。」


龍彦はゴンチャロフの顎を殴って気絶させると、震え上がっている山本を見据えた。


「あんた…。全部喋ったのか…。」


「ロ…ロシアはいい人ばっかりだ!日本やアメリカが間違ってるんだ!」


「どこまで喋った!」


龍彦の剣幕に恐れをなした様子で、山本は目を逸らしながら、ボソボソと言った。


「加納龍太郎一佐の知ってる事全部…。

離婚して奥さんと子供2人は離れちゃって、全然会ってないし、奥さんは別の暮らしをしてるけど、愛息子だけは一緒に住んでて、凄い自慢の息子さんでって…。」


龍彦は山本も殴って気絶させてしまうと、竜朗に電話を掛けながら、苦しそうに呟いた。


「龍介…。」


デビットが心配そうに龍彦の横顔を見つめていた。



















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