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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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龍介くん、お説教する

亀一は龍介も入る事を考え、到着する時の箱も大きくしてくれていた様で、亀一が伝えて来た場所に全員で固まって立ち、亀一に準備完了を伝えると、呆気ないほどに、気がついた時には、あの箱の中に入った状態で、加納家のリビングに着いていた。


「きいっちゃん、有難う。本当、ごめんな。瑠璃も申し訳なかった。」


到着した途端、龍介が頭を下げると、子供達も頭を下げ、口々に礼を言った。


亀一は蜜柑の前に屈み込んで、穏やかな口調で話しかけた。


「蜜柑。蔵で龍太郎さんが口酸っぱくして何回も言ってたろ?確認し過ぎて壊れたって構わねえから、作ったもんが安全かどうかの確認は怠るなって。」


「あい…。ごめんなしゃい…。」


流石お父さんという感じで、優しく諭すので、蜜柑も素直に頭を下げた。


そして、龍介。

遂に怒るタイミングがやって来たらしい。


「全くだ。おい、お前ら全員、そこ座れ。」


例のお怒り爆発寸前の顔で、全員を見据えて言った。

恐怖に震えながら、リビングの床に正座する子供達。

龍介はその前に座るなり、結構な早口の低い声で話し始めた。

しかも、大きな澄み切った目は怒りに燃えて、座っている。

口を開かなくても、相当など迫力なのに、その上、元々低い声が更に低くなっているから、怒鳴られるより却って怖いかもしれない。


「先ず蜜柑。」


「はっ、はい!」


「きいっちゃんが言ってくれた通りだ。なんだその杜撰な仕事は。

そもそも、こういう危険な発明で、お前1人なら兎も角、友達巻き込むんだから、徹底してチェックして当たり前だろ。

お前は責任感てもんが足りなすぎる。

もし、翔達になんかあったら、どう責任取るつもりだ。そういう事考えてから企画制作に移れ。

そして、自分は完璧だと思うな。ちょっとばっかし、同い年の子より出来る事多くたって、頭良くたって、ミスはする。人間なんだからな。

だから父さんは、確認は怠るなって言うんだろ。天才って言われるあの人ですら、ちゃんとやる事を、お前が端折って良いはずは無い。」


「はい…。仰る通りです…。」


「それから苺。はっきり言って、お前らがやってる事は子供の遊びじゃねえ。失敗したら、命が無えような事やってんだ。引き受けたもん忘れてんじゃねえよ。」


「ごめんなさい…。」


「蜜柑も、そんな大事な部分を人任せにして、ほっったらかしておくな。こういう事やってる人にはあってはならねえ事だろ。」


「はい…。」


「それとこれは全員に言っておく。

翔には言ったが、銃を持って行った花梨ちゃんは褒めておくが、しかし、お前ら一体どういうつもりだ。

お前らの遊びは、子供の遊びの域をとうに逸脱してんだよ。要するに危険が伴う遊びなんだ。

自覚が無え様だからはっきり言っておくが、万が一を丸で考えていない。もし、設定した場所に着かなかったら。着いても、今回みてえに帰って来られなかったら。そういう事を一切考えず、ただレジャーに行く気分で居てどうすんだ。

行った先が無人島ってえのは分かってんだろ。帰れなかった時、何の装備も持って行かず、発信器も置いてっちまって、一体どうするつもりだったんだ。

今回、きいっちゃんと瑠璃のお陰で、お前らは素早く戻って来れたが、きいっちゃん達が難しかったら、救助に何時間もかかるし、方々に多大な迷惑をかける事になるんだぞ。その上、装備何も無しでそれまで生きていられたかも疑問だ。

誰かが助けてくれると思ってたんだったら、大間違いだ。少しでもリスクがある行動をする時は、一人一人が、『自分が全員を守る』って感覚でいないとダメなんだよ。

お前らは責任感も自覚も何もない。何でもかんでも人任せ。んな奴らにイレギュラーな遊び方をやる資格は無え。」


「はい…。」


龍介の言う事は一々尤もで、返す言葉も無い。

それに、今までどんな状況下でも、完璧な装備と行動力で対応し、仲間を守って来た龍介の言葉だけに、多分、誰も口は挟めないだろう。

余りに正論なので、竜朗としずかが苦笑している。


「今度からよく考えて行動する様に。以上。今日はしっかり休みなさい。」


「はい…。有難うございました…。」




龍彦は行きがかり上、龍太郎の病室にいた。

龍太郎は予想通り、インフルエンザだった。

しかも、A型とB型、両方共感染しているというかなり酷い状態で、それを聞いた竜朗が、


「入院させとけえ!!!」


と、主に龍介としずかの為に言うので、入院させて貰う事にし、龍太郎が気が付いたら、事情を話して帰ろうと思っていたのだが、龍太郎は疲労も蓄積されて、そんな酷い感染の仕方をしたのか、なかなか目覚めなかった。

従って、無事戻って来たという報告のメールは、病室で受け取った訳である。


龍太郎が目を開けた。


「インフルエンザ、A型とB型のハイブリッドだってよ。入院しとけってさ。」


「ああ…。そうだな…。龍やしずかに移ったら大変だ。蜜柑でも死んじゃう騒ぎで大変だけど…。そんで、どうなった?」


「取り敢えず、龍介が先に蜜柑ちゃんが作った装置で現地に飛び、面倒見てる間にきいっちゃんと瑠璃ちゃんが帰って来るシステムを制作。3時間後には、蜜柑ちゃんの装置で無事に全員帰って来て、龍介の説教をくらい、解散したってさ。」


「ーん?蜜柑は帰るシステムは作ってなかったのか。」


「ああ、ごめん。そうらしい。」


「何をやっとるんだ、あいつは…。」


「話によると、苺ちゃんが引き受けたものの、忘れてしまい、結局2人共忘れてしまってたんだそうだ。」


「全くもう…。亀一と瑠璃ちゃんにも迷惑かけちゃったんだね…。

しかし、亀一も結構やってくれちゃってたけど、でも、あの子は昔から完璧主義だし、穴は無い様に十分気をつけてたから、危ない事やってるって分かってても、あんまりこういう心配した事なかったな…。龍も居たし…。うちの双子はなんでああなんだろうか…。先行き不安だ…。」


「という様な事を、龍介に迫力満点で説教されたらしいから、結構懲りたんじゃねえか。」


龍太郎は何かを思い出したらしく、急に悲しそうな顔になって、話し始めた。


「ー龍のお説教ってね、怖いのよ…。静か〜に青筋立てながら、目を座らせて言うからさ…。あのお前さん譲りのでっかい目ん玉が、凄い怒って、座りまくってんのよ。ど迫力なんてえもんじゃ無いよ。」


龍彦は想像したのか、笑っていたが、ハッと真顔になった。


「なんであんた知ってんだ。」


「ー俺も説教された事が…。」


「ーへえ!?」


「初めての夫婦喧嘩というかなんというかがあってね…。」


「龍介が説教するような原因だったのか?」


「いや、そん時親父居なくてさ。居たら、親父に俺が怒鳴られておしまいだったんだろうけど…。」


「原因は…。」


「しずかさあ、せんべ好きじゃん。」


「せんべ?ああ、煎餅ね。それで?」


「それ知った上杉がさ、淡平のせんべの詰め合わせくれたんだよ。しずかにって。」


淡平という煎餅屋は、銀座近辺にある老舗で、確かにしずかの大好物だった。


「へえ。それで?」


「で、それ、子供たちはあんま好きじゃねえし、美雨ちゃんもせんべ食わないし、親父はもうしずかの好物はしずかの物って感じだろ?。俺も、しずかが貰ったんだから、しずかが食べなって言って、食べなかったから、しずかは大事に食べてたんだけどお…。」


「うん。」


段々予想がついて来たが、面白そうなので言わないでおく。


「俺、夜中に仕事してて、腹減って来て、ちょっと貰ったら、凄え美味かったもんだから、残り半分以上あったの、全部食っちまったんだよ。」


「全部!?」


「そう。全部。そしたら、泣いて怒っちゃってさあ。この辺じゃ手に入らないのに、なんて酷い、食べたいならそう言ってくれれば、仲良く食べたのに、なんで半分以上、全部独り占めで食べちゃうのかなあって…。

竹刀持って来ちゃって、道場来いって、えらい剣幕。双子っちは怯えて泣くし。そしたら龍がね…。」


「うん。」


「『父さん、ちょっとそこに座んなさい。』っつって。」


やっぱり、面白そうだ。


「『他に食うもんが無い訳でも無いし、お菓子なら他にも、父さんの好きなポテチとかいくらでもあったろうに、なんでよりにも寄って、母さんが自分にご褒美って感じに1日1枚と決めて、大事に食べてたせんべ食っちまうんだ。それも残り全部だなんて。食いたいならきちんと断るべきだし、母さんにやって、父さんは要らねえって言ったんだから、そらねえだろ。武士及び男子に二言無しだろ。何をやってんだ。』って、呆れつつ、そういう感じのど迫力で説教されたのよ…って、笑いすぎだろ、お前!」


「いやあ、原因も面白いし、龍介の説教も一々正しくてさあ。いくつん時?」


「龍がまだ9歳か10歳か…。」


「あははははは!ガキにそんな正論言われて、説教されたのか!」


「はあ…。あの当時で、あの迫力だったからね。今じゃもっと怖いんだろうし、あの子達も生きた心地しなかったろう。」


「なら安心だ。もうやらねえだろ。じゃ、俺は帰る。」


「はい…。うがい手洗いしてね。ありがと…。」


「病気だと、不気味に素直だな。じゃあな。」


病室を出ようとした龍彦は、ふと立ち止まり、背中で言った。


「あんま無理すんな。40過ぎてんだから、若い頃みてえな無茶は効かない。

インフルエンザのハイブリッドなんて、よっぽど栄養足りてねえか、疲れてるかのどっちかだろ。

栄養はしずかの料理のお陰で足りてんだから、原因は疲労。

しずかと龍介に、あんま心配かけんじゃねえ。」


そして、返事も聞かずに出て行ってしまった。

本当なら、龍彦の立場なら、病院に連れて来るだけで帰ってしまえばいいのに、わざわざ付き添って、今日の報告をしてから帰る辺り、やっぱり、優しく出来ている。

龍太郎は微笑むと、黙って布団を被った。







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