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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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龍介到着

亀一が瑠璃を自慢の愛車である、ブラックシルバーのBMW Z3に乗せて長岡家に到着すると、景虎を抱いた栞が『おかえりなさい。』と走って来て、亀一が抱き止めるように抱っこすると、ちゅ~。

景虎のほっぺにもちゅ。

思わずいつもの癖でそうしてしまい、瑠璃がいる事を思い出し、はっとなって振り返ると、瑠璃の目は線になり、口はへの字の苦悶の表情をしていた。


「りゅ、龍は相変わらずか…、唐沢…。」


コクンと強く頷く瑠璃を不憫そうに見ながら、亀一は何故か謝ってしまいつつ、自分の書斎に通した。


「じゃ、じゃあ、データを渡すから、プログラミングを頼む。」


「了解。」




龍介はその頃、いきなり浜辺の蜜柑達の前に現れて、全員に驚かれていた。


「ぎゃああ!お兄さん!も、申し訳ありません!有難うございます!」


翔は怯えてるんだか、謝っているんだか、感謝して喜んでいるんだかよく分からない。

蜜柑と苺は龍介を見るなり、駆け寄って抱きついて泣いた。


「にいに、ごみんなしゃあい!」


「全く。何やってんだ。だから言わんこっちゃねえっつーんだ。

今きいっちゃんが戻る機能を作ってくれてる。

きいっちゃんの事だから、んな時間はかかんねえと思うが、10分、20分で出来るもんじゃない。

それなりのつもりでいようぜ。」


「あい。」


そして直ぐに花梨を見ると笑った。


「有難う。冷静に守ってくれてたんだな。」


サソリや毒ヘビの死骸の位置と、花梨のいる場所から、全て花梨が撃ったと直ぐに分かったらしい。

それが分かると、一義は、安心しつつも青くなった。


ーやっぱ伝説の男だあ…。弾道まで分かっちまうんだな…。

しかし、こんな面倒かけてどんな報復が来るんだろうかあ~!


「で?水の確保は出来たか?」


取り敢えず、今はお咎め無しの様だ。

翔が答えた。


「来た時に見つけた、ここから少し登った所に川があるんですが、なんの装備も持って来てないので、安全確認も出来ず、汲んで来るものも何もなくで、実質何もしてません。すみません。」


当然の事ながら、上機嫌では現れていない上、龍介の目は更に座ってしまった。


「お前ら、ここが無人島だから、わざわざイレギュラーな方法で来たんだろ?

てぇ事は、それなりのリスクや想定外の事が起きる事も計画の内に入れて、装備整えてくんのが当たり前だろ。

俺たちはどっかの観光地行く時ですら、最低限の装備は整えてから行った。

増してイレギュラーなやり方で行く時、行き先がどんな場所だか分かんねえ時は、3日は何も無くてもやり通せるだけの装備は背負って行ったぜ。世の中には、絶対安全なんてのはねえんだよ。」


「すみません。」


「説教は後にするとして、取り敢えず水だな。翔と一義で行って、大丈夫なら、これに汲んで来い。

花梨ちゃん、不肖の妹達はここでテント作り。いいな?」


「はい。」


翔に水質検査のキットと折り畳み式のタンクを渡し、女の子達に指示しながらテントを張り始めた。

蠍や毒蛇の侵入を防ぐ装置まで付けながら、テキパキと無駄無く動く。

その間来る蠍や毒蛇を一発で撃ち殺しているのだから、目がいくつ付いているのだろうという感じ。


「お兄さん…、本と凄いわ…。」


花梨は双子に言ったが、双子は顔色をなくして、黙々と作業を続けている。


「どしたの?」


「にいに、すんごい怒ってる…。」


苺が言うので、龍介の横顔を見たが、花梨には、無表情だが、いつもの格好いい龍介にしか見えない。


「え…?アレで凄い怒ってるの?」


蜜柑が若干震えながら言った。


「怒るの、すんごく我慢してると、ああいう顔になるのよ…。無表情は怒ってない時でも、考え事してるとかであるけど、あのこめかみの青筋と、眉間の青筋っていうか、血管…。」


「ー血管…。」


花梨は龍介が持って来た、小さいながらも、居場所を煌々と照らすライトの下で、よくよく龍介の顔を見た。

確かに血管がその二ヶ所に浮き出ている。


「本とだ…。アレが怒りの現れなの?」


「そうなの…。怒るの我慢してると、無表情の上、血管出ちゃうの…。はああああ…。にいにが怒り時が来たって思った瞬間の事考えただけで、泣きそうだよお…。」


蜜柑がそう言って、双子が震え上がっている所に、龍介がいきなり背後から声をかけたので、双子は飛び上がっている。


「終わったのか。」


「おわっ、おわっ、終わりました!」


どもる所まで同じな双子。

DNA、恐るべし。


龍介は双子達と花梨が閉じた繋ぎ目をチェックすると、ライターで火を起こし、焚き火を作った。

一切喋らないし、勿論、少しも笑わないし、そう言われてみると、怒りを抑えている感じは、花梨にもヒシヒシと伝わって来た。


ーはああああ…。確かに怖いわね、こりゃ…。私も怒られるのかな…。そらそうよね…。危険なんか何も想定せずに、こんな所まで来ちゃったんだもの…。銃だけじゃね…。


とても話し掛けられる雰囲気でも無いので、花梨は黙っていた。




翔達が戻って来て、水の確保も無事確認出来た所で、龍介が持って来たカップラーメンを作る。

龍介は済ませて来たのか、それは食べず、沸かしたお湯の余りで自分でコーヒーを淹れて、それを飲みながら、蠍などの対処。

矢張り、龍介は一言も喋らないので、必然的に、非常に重苦しい食事となった。


「お、お兄さん…。」


勇気なのか馬鹿なのか、翔が話し掛けると、龍介はギロリと翔を見た。


「なんだ。さっさと食え。」


もうそれだけで、凄い迫力。

流石、夏目を敬愛する弟弟子といった所だが、未だ小学生の翔達には、死んだ方がマシなんじゃないかと思ってしまう恐怖感である。


「す…、すみません…。後でいいです…。」


「食ったら、交代で見張り。いつ何時、他の生物が襲って来るとも限らねえし、きいっちゃんから連絡があるかもしれない。俺はずっと起きてていいから、お前らの内1人づつ出る様に、ローテーション組め。」




見張りの初っ端は翔だった。

龍介の隣に遠慮がちに座り、怒りを抑えたど迫力の横顔の龍介を見つめた。


「お、お兄さん…。怒ってますか…。」


龍介は無表情のまま翔をジロリと横目で見た後、周囲に目を配りながら、抑揚の無い喋り方で答えた。


「この状況で怒らねえ長男が居たら、会って話してみたいもんだぜ。」


「でっ…ですよね…。本当に申し訳ありません…。」


「ー俺はこういう事して遊ぼうとした事を怒ってる訳じゃねえ。スキルがあれば、使いたくなるし、俺たちも渋々だが、過去だのパラレルワールドだの、洞窟探検だの行った。だけど、その時は、少なくとも、俺ときいっちゃん、寅の3人は、装備は完璧に整えて行った。

しかし、お前らはなんなんだ。

誰1人として、何も持って来てねえってえのは、どういう事なんだ。

そんな奴らに、こういう危険が伴う遊びをする資格は無え。

大体、銃だって、花梨ちゃんしか持って来てないなんて、あり得ねえだろ。

丹沢にピクニックだって持って行ったぜ、俺たちは。」


「はい…。仰る通りです…。」


「お前、蜜柑を守るって言ったな。」


「はい…。」


「自分の身も、最低限の命の確保も出来ない様な状態で来たら、誰も守れない。よく覚えておけ。」


「はい…。肝に銘じます…。それであの…。」


「なんだ。」


翔はすがる様なうるうる目で龍介を見ている。

龍介には、その質問内容は聞かずとも分かった。


「婿に推挙の話なんぞ、白紙だ。」


「ああああ…。やっぱり…。」


龍介がほんの少し笑った。


「まあ、先は長い。今後の精進次第だろう。」


「はい!頑張ります!蜜柑だけでなく、全員を守れる男になります!」


「そうしてくれりゃ、俺もこんな事はしないで済む。」


「はい!」




空が白みかけた頃、亀一から連絡が入った。

龍介到着から3時間後の事だった。






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