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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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居ない…

加納家では、夜中になっても、龍介が帰って来ず、瑠璃も帰って来ないと、瑠璃の母から連絡があったので、ちょっとした騒ぎになったが、2人の発信機の指し示す場所が、秘密基地である事から、どうしようかという相談に移っていた。


「蜜柑達を監視してるなら、そういう連絡をしてきそうなものよね。」


しずかが言うと、龍治が真っ青な顔で立ち上がって叫んだ。


「やっぱ、様子見に行こう!なんかあったのかもしれない!」


しかし、竜朗は複雑な表情。

笑ってんだか、苦しんでるんだかという感じ。

龍彦はニヤニヤとイケメン台無しのいやらしい笑みを浮かべて、タバコを吸っているだけ。


「お父さん!行こうって!」


「龍治、龍介も年頃です。」


「は…。」


「秘密基地は二つ。一つに蜜柑ちゃん達を押し込めば、もう一つには2人きり…。うははは!ああ、良かった!遂に龍介にも煩悩が戻りましたね!お義父さん!」


「うう〜ん…。」


それで複雑な表情も納得が行ったが、嬉しそうな龍彦に竜朗は言った。


「いや、それならそれでいいんだけどよ…。まだ高校生だし、瑠璃ちゃんのお母さんになんて説明すんだい、たっちゃん…。」


「それもそうですね。お義父さんはなんて説明したんですか。高校生の分際で妊娠させた時は。」


「うぐっ!」


龍治は今漸く、竜朗の複雑な表情の意味の全貌が分かった気がした。

我が身を振り返ると、人の事は言えないしと、龍介の煩悩云々より、そっちで悩んでいたのだ。


「もう!瑠璃ちゃんのお母さんに申し訳が立たねえから、迎え行くぞ!」


「お義父さんが失くしちまった龍介の煩悩が復活したのを邪魔すんですかあ?」


竜朗、もう泣きそう。


「たっちゃああん!」


「はーい。」


「なんだって今日はそんな意地の悪い事ばっか言うんだああああ!」


「いや、つい、しずかと2人きりを悉く邪魔された思い出が過ぎってしまいましてねえ。」


この年になるまで恨みに思われるのだから、竜朗は余程の事をしたと思われる。


「だからごめんてえ!娘可愛さなんだよお!」


「娘可愛さが分かれという人が、よそ様の大切なお嬢さんを、大して好きでもないのに妊娠させて…。」


「たっちゃああああん!!」


「はいはい。では迎えに行きましょう。」


龍治と謙輔は愕然としつつ、竜朗と龍彦の後ろ姿を見送った。


ー凄え人なのに…。凄え人なはずなのに…。お茶の間で婿さんに、黒歴史ほじくり返されて泣いてる…。




本当は凄え人なはずなのに、見る影もなくなっている竜朗は、発信機が指し示す元ポチの小屋の方の玄関のノブに手をかけ、真顔になって龍彦の顔を見た。


「たっちゃん、鍵開いてるぜ。」


「それに電気も点いてませんね。」


2人は急激に焦り始めた。

いちゃついているなら、鍵は閉めているだろうし、蜜柑達が寝ているにしても、そういった防犯教育は、普通のご家庭よりもかなりしている。

当然、鍵は閉めて寝るだろう。

どっち道、あまりいい状況には思えない。


「龍!瑠璃ちゃん!開けるぞ!」


懐中電灯で照らすと、そこには絵の様にぴったりくっ付いて熟睡している龍介と瑠璃が、毛布をかぶって寝ているだけで、蜜柑達の姿は見えない。

龍彦は電気を点け、竜朗は2人に駆け寄って、息を確認した。


「2人とも眠らされてる…。」


「だって、龍介は麻酔系の薬は効かないんじゃ…。」


「と思ってたんだが、ほら、この手の甲の針の痕見てみな。なんか打たれたんだ…。」


「ー隣見て来ます。蜜柑ちゃん達の発信機の信号は隣ですよね?」


「うん。」


龍彦は行こうとして、玄関で立ち止まった。


「お義父さん…。子供達全員の靴がここにあります…。」


「えっ!?」


龍介と瑠璃に気を取られて気付かなかったが、確かに、玄関にはきちんと揃えられた、5人分のスニーカーと、龍介のクラークスのワラビーと瑠璃の可愛いベージュの靴がある。


「一応見て来ます。」


「頼む。」


龍彦は、もう一つの秘密基地の玄関を開け、電気を点けたが、発信機の信号がここから出ている理由は直ぐに分かった。

その部屋は、龍介達同様物置にしている様で、工具や訳のわからない研究機材などが置いてあったが、その中の棚に、2人の腕時計が置いてあったからだ。

勿論、ここには誰も居ない。


「どこ行っちまったかな…。誘拐の線、考えておいた方が良いですかね、お義父さん。」


時計を手に戻って来た龍彦が聞くと、逆に竜朗が聞き返した。


「どう思う?たっちゃんは。」


「正直薄いと思います。腕時計も、隠す様に、棚の奥に、2つ揃えて置いてありました。

賊は誰かと考えると、今現在、国内にはもう大した脅威は無い。あるとすれば、加納一佐絡みでしょう。となると、以前、龍介を誘拐した様な海外のプロです。

そうなると、足手纏いになるターゲット以外の子供達全員連れ去るのも、発信機の入っている腕時計をこんな直ぐ見つかるところに隠すのも、稚拙過ぎて妙です。プロのやり方じゃありませんので…。」


「やっぱ、蜜柑がなんかやらかしたんだよな…。でも、多分、タイムマシンじゃねえんだよ。」


「そうなんですか。」


「うん。だって、時間旅行して、向こうで何日過ごしたって、こっちが居なくなってんのなんか分かんねえ内に帰って来ちまうもんだもの。」


「そうなんですか…。向こうでなんかあったとかでもないんですね?」


「あったとすりゃあ、存在消されちまってる筈だから、靴だの腕時計だの証拠品も無え筈だ。あいつらの痕跡が残ってんのはタイムマシンなら、無事な証拠。」


「詳しいんですねえ…。」


竜朗は何か思い出したらしく、途端にラオウになってしまった。


「ー佐々木の倅がよ…。まあいい。今はちゃんとしてっからな…。」


「じゃあ、その機械で何かって事なんでしょうかね。」


龍彦は竜朗の後ろにある、50センチ四方の金属の箱を指差した。

それにはダイヤルやらスイッチやらと、何かの機械が付いている。


「かもな…。でも、これがなんなのかってえのは全然分かんねえな…。龍太郎呼ぶしかねえか…。」


「でも、そのままにしといたら、朝になったら、帰って来るんじゃ…。勝手に入って、楽しみ奪うのも、なんだか可哀想な気もしますが…。」


「まあ、確かに、龍と瑠璃ちゃんに薬盛った以外は、今ん所問題起こしてねえからな…。迷惑はかけねえって言った蜜柑を信じた方がいいのか…。うーん、朝まで待ってみるか…。」


相手が蜜柑だけに、悩む所ではあったが、竜朗と龍彦は龍介達を背負って連れ帰り、しずかとも協議の上、一応朝まで待ってみる事にした。





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