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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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怪しい蜜柑

龍治と謙輔も高卒認定試験で無事全ての科目に合格し、加納家にも幸せなクリスマスが訪れた。

家でのクリスマスの翌日は、勿論、瑠璃とのクリスマスデート。

ディナーの席で早速龍彦から聞いた夏目の英時代の話をして、瑠璃を笑わせていたが、瑠璃は突然泣き出した。


「どした…。」


龍介がチェックのハンカチで涙を拭いてやると、にたあ…。

そしてまた泣くという忙しい事になりながら言った。


「だって、夏目さんと美雨さんの事が切なすぎて…。

なんだか青山さんがロマンチックな雰囲気は台無しにしちゃった感はあるけど、でも、大好きな人が死んじゃうかもなんて思ってる夏目さんも辛いだろうし、美雨さんだって、大好きな人を遺していくと思うと、辛いだろうし…。」


「そうだな…。俺も、もし瑠璃がって思ったら、泣けて来る。」


それを聞いてまた、にたあ…。

龍介苦笑。


「狭心症の発作って、やっぱりとっても辛いものなの?」


「うん。母さんに聞いたら、痛みも呼吸が出来ない様な苦しさも、心臓病の中で断トツ1位なんだってさ…。美雨ちゃんが発作起こすと、俺でも死んじまうんじゃねえかって思う苦しみ方で、怖かったから…。夏目さんもしんどいだろうな、それ見てるのも。」


「そんなに…。なのに、あんな明るく…。」


瑠璃は殆ど美雨を知らない。

龍介と仲良くなった頃には、美雨はもう夏目と同棲してしまい、加納家を出ていた。

なのに、そんなに心配して、悲しんでくれているのが、龍介には嬉しかったし、瑠璃の優しさを感じて、また好きになった。


「でも、最近、担当の先生が変わったら、投薬が上手いらしくて、凄え調子いいらしいんだ。発作も殆ど起こさなくなったって。」


「本と!?それは良かった!良かったねえ!」


いい事も、我が事の様に喜んでくれる。

矢張り、瑠璃はいい子だ。


「ありがと。瑠璃。」


「ううん。あ、そうだ。他の方は今、どうなさってるの?」


「麗子さんは、ロシア担当チーフエージェント。中身夏目さんだけあって、優秀な人みてえだ。香坂さんは八咫烏で情報官。渋谷さんも八咫烏て感じだな。青山さんと麗子さんだけ情報局って感じ。」


「そうなの。美雨さんも図書館に行ってるのよね?」


「週3日位な。」


「龍、八咫烏って呼ぶ様になったのね。」


「だって、その方がカッコ良くねえ?」


「確かに。」


珍しくちょっと子供っぽい龍介に笑ってしまう。


「それに、爺ちゃんのお父さんが付けたし。

後、大人達は八咫烏っていう方が慣れてて、俺たちが子供だったから、わざわざ図書館て言い換えてたみたいなんだ。最近、もうその必要がなくなったからか、大人もみんなそう言ってる。」


「そうなの。じゃあ、私もそうしよっと。でも、話は元に戻るけど、青山さん、入った当初はそんなだったのに、最終的には虐めっ子の悪い奴を、夏目さんと一緒に吹っ飛ばしたり、なんだかんだ言いつつも、いい片腕になってるよね。」


「そうなんだよな。夏目さんてああいうキャラだから、素直に表さねえだけで、多分、青山さんの事は、大事な仲間だと思ってるし、そういう意味で、頼りにしてたと思う。

青山さんて聞いてると、ドMっぽいから、需要と供給って感じなんじゃねえの?」


「龍、そういうのに、需要と供給って…。」


2人で笑っていると、龍介の携帯に立て続けに2件LINEが入り、その通知を見た龍介の顔が強張った。


「龍?どうかした?」


「ーなんか嫌な予感がすんな…。」


「ーというと、蜜柑ちゃんか長岡君?」


龍介は情けなさそうな、泣きそうな顔で瑠璃を見た。


「なんで分かんだよお、瑠璃い…。」


「龍に嫌な予感を浮かばせる人材というとね…。」


「あああ…。」


「どうしたの?」


「蜜柑。これから秘密基地で仲間とお泊りだと。2件目は翔。蜜柑は必ず守りますからご安心下さいって…。でちになってるし、怪しすぎる…。」


「冬休みだし、お泊まり会位するのでは?場所もあるし。」


「どうかな…。苺は兎も角、蜜柑は仲いいからって、四六時中一緒につるんでってタイプじゃねえんだ。昨日も今日も朝からずっと一緒に居て遊んでた。いい加減、いつもなら離れたがる。」


「ああ。龍と同じなのね。」


「そう。それに、あいつは寝る時は、風呂入って、ベット入って、きっちーちゃんに囲まれてじゃねえと、なかなか寝られねえの。好き好んで、あんな布団も無えところで寝るとは思えん。」


「そうなの…。秘密基地の様子は?何やってるとかは探ってないの?」


「それはしちゃいかんかなと思って…。爺ちゃん達も、俺たちの基地の外に、防犯対策の監視カメラを設置しただけで、中を探るとかは絶対にしなかった。

だから、俺も、それはしちゃいかんかなと思うし、爺ちゃんも実際、林の方見ながらラオウになってるだけで、調べたりはしてないからさ…。」


「そうね…。確かに、子供のそういうのは邪魔したくないよね…。」


「うーん…。けどなあ…。なんかこの翔が大丈夫だと念押ししてくるのが、却って怪しいんだよなあ…。」


「帰りに差し入れって言って、覗いてみましょうよ。」


「そうだな。ごめん、付き合わせて。」


「いいの。」




基地のある林に入った途端、蜜柑が後手に玄関を閉め、元ポチの小屋の方から出てきた。

このタイミングで出てくるというのは、外にある監視カメラの画像を繋いで見ていたからだ。

そこまでの警戒、もうそれだけで怪しい。


「どったの、にいに。」


「差し入れのクリスマスケーキ。安売りしてたから…。」


不信感全開の龍介ににっこり笑う蜜柑。


「ありがとお!」


「入れてくんねえのかよ。」


「今、花梨がお着替え中なんでち。」


「嘘だな。パジャマになんか着替えたら、寒くて寝られねえだろ。それにあっちの基地は無人だ。つまり、翔達が一緒に居んだから、着替えなんかしねえだろ。でちんなってるし。」


「翔達はもうにいにのせいでぼろ家になってる基地の方で寝たんでち!ここには居ないんでちのよ!」


「俺のせいってのは余計だろうが!いいからそこを開けなさい!お前がなんか良からぬ事を企んでんのぐらい分かってんだあ!

苺、居んだろ!にいにの言う事が聞けねえのか!翔!てめえ、婿に推挙の話、なくなってもいいんだな!?」




その頃、中では花梨が慌てていた。


「ちょっとどうすんのよ。やっぱり、あのお兄さんにはバレちゃってんじゃない、ちょっと翔…。」


ところが翔は、二者択一の窮地に陥り、頭を抱えてしまって、それどころではない。


「どうしよう…。今お兄さんに付いたら、絶対蜜柑に振られてしまう…。かと言って、お兄さんに協力しなかったら、蜜柑との結婚をお兄さんが先陣切って反対する…。そしたら、加納家で誰も逆らってなんかくれる人は居ない…。ああああ!どうしたらいいんだああ!!!」


花梨は虚ろな目で翔を見て、ダメだなと諦めると、一義を見たが、一義は今更やっても無駄な隠蔽工作をやっていた。


「カズ…。今更そんなシーツとかで隠したって、あのお兄さんなら一瞬で見破るんじゃないのお?」


「うるせっ!命が惜しけりゃ、お前も手伝え!あの人は、あの伝説の男だぞ!本気で怒ったら、何すっか分かんねえだろうがよ!」


ところが、実の妹の苺はニコニコと笑っている。


「苺ちゃん、そんな余裕かましてて大丈夫なの…?」


「大丈夫よ。そろそろ蜜柑が手を打つから。」


「え…?それは一体どういう…。」




頭に来た龍介は、蜜柑を退かそうと抱き上げようとした。

しかし、蜜柑の脇の下に両手を入れた瞬間、手に何かチクっと刺さった。

蜜柑は注射器を手にしている。

龍介はニヤリと不敵に笑った。


「おあいにく様だなあ。俺は麻酔系、麻薬系は効かねえんだよ。」


「ん。知ってる。」


「じゃあ、何打ったんだ…。」


言いながら、龍介はバタンと倒れてしまった。

瑠璃は真っ青な顔で駆け寄り、龍介の頭を抱きかかえると、泣き叫ぶ様に蜜柑を問い詰めた。


「蜜柑ちゃん!大事なにいにに何すんの!」


「瑠璃たん、これは高濃度ハーブだから怪しいもんではないでちよ。8時間もしたら、お目目ぱっちりいい気分で起きるので、大丈夫。でも、これで、合成麻薬や麻酔が効かないだけと分かったので、大怪我で手術なんて時も安心できるって分かったじゃない。良かった、良かった。」


「そういう問題じゃありませんよ!そもそも一体何を企んでるの!?」


「大丈夫でち。蜜柑はもう、以前のご迷惑をお掛けする蜜柑ではないでち。安心していいでち。」


「ーでちになっとるやんけえええ~!!。安心出来るかあああ~!!!」


流石、龍介が嫁と決めた女。

怒り方がどんどん龍介になっているが、蜜柑はにっこり笑って、隙を狙って、瑠璃にも注射をしてしまった。

哀れ、瑠璃も龍介の上に折り重なる様に倒れて、眠ってしまう。


蜜柑はニヤリと笑い、玄関を開けて言った。


「こっちは片付いたよ。カズ、監視カメラの映像、ちゃんと差し替えておいたでしょうね。」


「へえへえ。仰せの通りに。」


「おし。そしたら、ここににいにと瑠璃たんを運んで。風邪ひいたら大変だから。」


全員で多少引っ張りつつ龍介を運び入れた。

龍介は多分、60キロ位しか無く、一応、龍介達程ではないにしろ、そこそこ鍛えている翔と一義には、重さはそう感じないが、背の高さがあるので、持ち辛いのである。

瑠璃は軽いので、一義と翔の2人でそっと持ち上げて運び入れる。


「折角だから、くっ付けといてあげよう。その方があったかいだろうし。」


蜜柑がそう言って、女の子3人で、あーでもないこうでもないとやり、龍介の腕枕で瑠璃を横に向かせ、更に龍介の余った手を瑠璃の背中に回して、ラブラブカップルの完成。

3人で拍手。

蜜柑は満足そうな顔で言った。


「我が兄ながらこの美しさ。瑠璃たんも可愛いから、絵になっておるのう。では作戦開始。カズ、監視カメラ、元にお戻し。」


「了解。」


















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