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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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夏目くんの日常5

にこやかに入って来た中2の3人は、腕組みして、真正面に座り、3人を威嚇以外何者でも無い世にも恐ろしい目で睨み付けている夏目を見て、固まった。


「あ、あの…!」


「却下っつったろ。」


「どっ、どうしてですか…。ええっと、その、愛校精神の何がいけないんでしょうか…。」


夏目はそう言った中2の青野という男を更に睨み付けた。

青野はもう既に泣きそうになって、後ずさっている。


「愛校精神が悪くて却下って言ってんじゃねえ。クラブの活動内容と趣旨がしっかりしておらず、不明瞭だ。なのに、設立資金の額も要求している部室もデカイ。んな得体のしれねえもんを許可出来るか。大体、その旨しっかり書いて返答しただろうが。一回読んだだけじゃ分かんねえ馬鹿なのか、てめえは。」


「でっ、ですから、直接お話しして、ご説明すれば、趣旨がお分かり頂けるのではないかと…。」


夏目は腕を組んだまま椅子の背もたれに背中を預け、ニヤリと不敵に笑った。

しかし、目は完全に怒っているのだから、怖いなんてもんじゃない。


「聞いてやる。言ってみろ。」


青野の後ろの2人は半泣き状態になっていた。

小声で青野の制服の裾を引っ張りながら、もう諦めようと言っている。

しかし、青野は図々しいのか、ただのアホで、夏目の恐ろしさに気付かないのか、震えつつも、小声で答えた。


「ここで引き下がってどうすんだよ。大丈夫だよ。」


ちっとも大丈夫じゃないのにと思うと、麗子達は思わず笑ってしまった。

1人、青山だけがハラハラしているが、もう助けようが無いので、ほおっておくしか無い。


「早く言え。」


「あ、あの…。設立資金の主な物は、ビリヤード台やその他の備品です。」


「だったら、ビリヤード部にすりゃいいだろ。」


「いや、ビリヤードをやる為のクラブではなくてですね。ほら、よくアメリカの映画とかドラマであるじゃないですか。カレッジクラブっていうんですか。みんなで楽しくやろうという趣旨で…。」


要するに彼らは映画やドラマでよく見る、あのビリヤードをやりながら、新入生歓迎会がどうだとか話したりしている光景を思い浮かべて、まず形から入ろうとしているらしい。

夏目の青筋が2本たち、美雨が笑いながら言った。


「大抵そういうのって、新入生歓迎会にしても、単なる虐めだったり、学内で幅だけ効かせて、ロクな集団に描かれてないよね。」


同意する麗子達。

確かにと、唯一味方してくれそうだった青山まで言うと、青野は慌てて必死に弁解し始めた。


「いや、そんな事はしません!愛校精神をみんなで高め、学校の役に立つ事をやろうと…。」


言葉の途中で、夏目がドスを効かせてどこからどう見ても、脅しているようにしか見えない状態で言った。

相手はまだまだ子供な中2である。

青野の後ろの2人は恐怖の余り、既に泣いている。


「その学校の役に立つ事ってえのを、具体的に言ってみろ。校内のトラブルに関しては、生徒会が対応してる。小さなくだらねえ事から、大きな事までな。

それ以外で役に立つったあなんだ。そんな遊びながら何が思いつくってえんだ。

てめえら、小人閑居して不善を為すって知ってるか。

暇持て余して、形だけカレッジクラブに憧れて、のんびり玉突きなんかしながら思い付く事なんざ、ロクなもんじゃねえって相場が決まってんだ。」


そして、席を立ち、3人の前に立って、眼光鋭いまま見下ろした。

どこから見ても不動明王。

後ろの2人はガタガタ震えて、とうとうしゃくりあげて泣き出し、青野の目からもボロボロと涙が溢れ始め、鼻水まで垂らしながら、夏目を怯えた目で見上げている。


「殺されるよ…。もうやめようよ、青野…。」


青野は返事すら出来ない状態の様だ。

夏目はそのセリフを地獄耳で聞くと、ニヤリと笑った。

笑っているというのに、尚更怖さが増してしまうのは、こめかみと額の、怒りの青筋のせいかもしれない。


「そうだな。俺がこの学園にいる間に、そんなクラブ作ってみろ。死んだ方がマシって位、剣道部でしごいて、そんな馬鹿な事、2度と考えねえ様にしてやるぜ。」


「しゅ…、しゅみましぇんでしたあ…。」


泣いていて、何を言っているのか分からない状態だが、3人はペコペコと、コメツキバッタの様に頭を下げて、一目散に生徒会室を出て行った。


生徒会長は大体そんな感じ。

ど迫力で、なんでも一刀両断して来た。

但し、それは、馬鹿相手の時だけだった。

真に助けを求められた時の夏目は、夏目本来の優しさと配慮を存分に発揮していた。


英の生徒は、昔も今も、割と干渉し合わない雰囲気で、色々なタイプの子が居ても、変わっているからと言って虐めたりもせず、それはそれ、これはこれという感じで生活していた。

だから、虐めというのは殆ど無い学校だったが、稀に起きると、先生方が総出で厳しい指導に当たって、生徒達も積極的に巻き込み、親にもバシバシと言いという感じで解決してしまうので、生徒会に泣きついて来るという事もあまりなかったのだが、その子は英の生徒にしては、とても気が弱いタイプだったのだろう。

先生にも友達にも言えず、ずっと悩んでいたらしく、目安箱に投書して来た様だ。

更衣室や教室移動などの時、戻って来ると、困る物が無くなっているのだそうだ。

例えば、体育から帰って来たら、制服のズボンが。

他の授業から帰って来ると、次の授業の教科書がという様に。

そして暫くすると出て来る。

彼は中2。

龍介同様、先ずその子に話を聞きに行った時も、夏目はぶっきら棒ながらも心配そうに、話を聞き、先生に言っていいかと許可を取った上で、教室内と、男子更衣室に隠しカメラを設置する許可を副校長から取って、犯人探しをした。

その結果、犯人はあの、お馬鹿の青野だったもんだから、夏目の怒りは倍増である。


「またてめえか!」


教室にズカズカ入って来るなり、ドスの効いただみ声でそう怒鳴るものだから、青野は飛び上がり、20センチ位床から浮いた。


「な、なんの事ですかあ…。」


もう、青野は夏目の顔を見るだけで涙ぐむ様になっていた。

全校集会で夏目が壇上に上がると、貧血まで起こすらしい。


夏目は香坂を顎でしゃくり、香坂はパソコンの画面に、隠しカメラの映像を出した。

青野と、あの時も連んでいた2人が、楽しげに悪そうなヘラヘラ笑いを浮かべて、被害者の子の制服や教科書を奪い去っている様子が映っている。


「なんでこんな事やってる!理由を言え!」


「だ、だって…。」


「だってなんだあ!」


夏目の怒りは凄まじい。

不動明王も、鬼も通り越して、まさに閻魔大王である。

夏目は強くて、ドSだが、弱い者虐めや、汚い真似、嫌がらせの類いは大嫌いなのだ。


「こいつ、生意気だから…。」


「生意気だあ!?てめえ何様のつもりだあ!」


「す、すみましぇん!ごめんなさいいい〜!!!」


「謝る相手が違うんだよ!てめえ、先生から聞いたが、これが初めてじゃねえらしいじゃねえか!その性根、俺が叩き直してやる!副校長の許可は下りてる!今直ぐ体育館来い!」


「ひいいいい〜!」


逃げようと這い出した青野のズボンのベルトをガシッと掴み、夏目は例の不敵にニヤリの顔で、青筋を4本位立てながら言った。


「自分で行けねえんなら、連れてってやるぜ…。」


「ひっ…!」


そして、友達を見捨てて逃げようとしている2人にも怒鳴る。


「てめえらもだ!」


夏目は青野のベルトを掴んで片手で引きずって歩き出し、他の2人も麗子と渋谷に同様に引きずられて体育館に連れて行かれ、取り敢えず、防具は着させられ、竹刀は持たされたものの、夏目と青山に3人まとめて吹っ飛ばされ続けた。

虐めの加害者になるのは2度目の彼らは、今度やったら、退学と言われており、英学園はそういった事は脅し文句で使わず、本当にやるし、その際の転校先に渡す書類には、虐めの加害者で退学にしましたとしっかり書かれてしまうので、夏目がしごかなくても、ある意味、制裁は受ける事は決まっていた。

しかし、夏目はそれだけでは生ぬるいと言った。

物を隠され、他にも色々と酷い事をされて来た子の心の傷を、少しでも軽くしてやりたかったのだろうと、後で美雨が解説していたが、実際そうなのだろうと、一緒に稽古でしごいていた青山にもわかる気がした。

日頃あまり喋らない夏目は、剣圧で3人を吹っ飛ばす度に、それらしき事を言っていたからだ。


「やられる方の気持ちが、てめえらなんぞに分かるか!」


「てめえらも転校先で同じ目に遭って来い!」


「なんも悪い事してねえ奴をただ単に気に入らねえからと汚ねえ真似で苦しめるなんざ、最低だ!てめえらは虫以下だ!存在価値が無えのはてめえらだ!」


青野達が犯人と分かった時、被害者の少年は下駄箱や引き出しに投げ込まれていたメモを見せた。

そこに『お前なんか存在している意味が無い。』などと、酷い事が書かれていたのである。


やり方は強烈だったが、夏目の真心はその少年には熱く通じた様だ。

全て終わり、青野達が転校した後、彼は涙ぐみながら、生徒会室に来て、礼を言ってくれた。

そして、夏目にこう言った。


「夏目生徒会長は、鬼だって噂でしたけど、本当はとっても優しい、弱きを助けるヒーローだったんですね。」


夏目の顔はびっくり顔のまま固まってしまい、仲間が笑いだすと、真っ赤な顔で怒り出した。


「うるせえ!お前ももう泣き寝入りすんな!」


「はい。もっと色々話して、友達も作ります。」


「そうしとけ!」


「本当に有難うございました。」


「分かったから、もう帰れ!」


余程恥ずかしかったらしく、夏目の顔は暫く赤みが取れなかった。




「夏目さんらしいな…。でも、やっぱり純粋に鬼じゃなかったんだな。貝塚先生が名生徒会長って言った意味が分かった。」


龍介が笑顔で言うと、龍彦も笑顔で頷いた。


「俺も大好き、夏目君。ちょっと不器用な感じが可愛くて。」


「ー夏目さんを可愛いと言って許されるのは、お父さんぐらいだろうな…。」


「そうかねえ。」


「そっか…。でも、折角夏目さんが設立を潰してくれて、言い出しっぺも退学したってのに、英クラブは出来ちまったんだなあ…。」


「そうだね。まあ、生徒会長も、夏目君や龍介のような子ばっかりなるとは限らないから、適当に任期を終えた人の代とかに許可しちまったんだろうな。

でも、夏目君が却下したクラブを、龍介の代で廃部にしたってのは、なんだか面白い縁だね。」


「うん。」










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