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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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夏目くんの日常3

元ホテルは、一応まだ窓や雨戸はどうにかある状態だったが、床などは当然崩れているし、土だらけだ。

夏目は入るなり美雨以外の全員に指示をし、雨戸を閉めさせ、自分は大きなテーブルの上にビニールシートを敷いて、そこに美雨をいきなり抱き上げて寝かせ、自分のパーカーとウィンドブレーカーを掛けた。


「寝とけ。」


「夏目君、ごめんなさい…。」


「具合悪い時にごめんは要らねえ。いいから寝てろ。」


そう言って、少し笑ってから、泣きそうな美雨の頭をくしゃっと撫でた。

その目はとても心配そうに見えたと、後に美雨は青山に言ったらしい。


麗子が付いている間に今後の対策を練る。

担任の貝塚先生に連絡を取ったが、方々の生徒がSOSを出しており、先生が車で回収に回っているらしい。

夏目の班は他の班と離れているので、ちょっと後回しになってしまうとの事だった。

貝塚先生とは、あの龍介の担任の、穏やかに静かに怒る、何か色々知ってそうな、あの貝塚先生である。


「加納はどうだ。大丈夫か。」


「今、ニトロ入れて、西条が付いて横にならせてます。」


「救急車とかの必要は無さそうか?」


「はい。」


「じゃあ、ごめん。そういう訳で、パニック状態の子達が先になっちゃうけど、必ず行くから。夏目、頼んで大丈夫かな?」


「問題ありません。」


電話を切ると、渋谷が苦笑している。


「この程度でパニックとは、うちの学年はお育ちがいいのが多いんだな。」


「その様だな。」


麗子が来た。


「眠った。本とはかなり辛かったんだろう。薬で楽になったら落ちる様に眠った。」


「そうか…。で、さっきの涙の痕は…。」


夏目が先ほど美雨の目の下を触ったのは、涙の痕があったからだった様だ。


「ーロクな奴に会って来なかったんだな。私も聞いて、腹が立ち、思わずそこら辺の枝を折ってしまったが。」


それで麗子のそばに枝が何本か落ちていたのかと合点が行ったが、それは枝というにはかなりの太さがあり、直径にしたら、4センチはありそうな物だった。


「西条さん…、アレ、両手で折ったの…?」


思わず関係無いと思いつつも青山が聞いてしまうと、麗子は当たり前だと言わんばかりに答えた。


「片手だ、馬鹿者。」


夏目を含め、他の2人もなんでそんな事を確認するんだという顔をしている。


ーううう…、お父さん、ごめんなさい…。帰ったら、ちゃんと訓練受けます…。こいつらに馬鹿にされるのだけはなんか嫌だ…。


「それで?」


夏目が促すと、麗子は不機嫌そうに話し始めた。


「達也達が行った後、泣くんだ。気にしなくていいんだと言ったら、有難いんだと言って泣いていた。なんでだ、当たり前の事だろう。達也が言った通り、我々は仲間だと言ったら、今までは迷惑がられるか、特別扱いされていると嫌味を言われるかしか無かったと。だから、全ての課外活動に出た事は無い。修学旅行さえ辞退したんだそうだ。だからこんなにいい人達は初めてだから、申し訳ないやら有難いやらで、涙が止まらないと…。酷い奴らだ。」


「ー東京の学校だろ?どこだ。」


「聖ヨハネ学園という所の小学校だそうだ。小学校の内は共学で、附属の中高は女子のみ。あまりに同級生の扱いが酷いし、程度も低いし、そいつらの殆どが中高に上がるっていうので、英を受けたらしい。ご両親が亡くなったのは、卒業式前だったか。」


「そう。それで俺の師匠が引き取った…。それで師匠としずかさん、卒業式で睨み疲れて帰って来たのか…。」


「達也、復讐してやるか。」


「調べ上げて、全員死んだ方がマシって思わせよう。」


「調査は任せろ。」


香坂までパソコンを出して言った。

渋谷もノリノリの様子で、頷きながら指を鳴らしている。

仲間思いで、大変美しい友情だが、あまりに物騒で、青山は言葉を失っていた。

しかし、それでも、皆同様、腹が立つのには変わらない。


「本と酷いな…。病気なんて本人の努力でなんとか出来るもんじゃないのに…。」


夏目の顔は暗かった。本当は優しいという部分が、また垣間見えた気がした。


「しかし…。まあ、台風じゃいくら馬鹿でも来ねえとは思うが…。」


夏目が室内を見回しながら、不意に言った。

それは、青山も気になっていた。

室内の壁には、暴走族だか、ヤンキーだか知らないが、そんな様な組織名の様な落書きがしてあるし、タバコの吸殻やビールや飲み物、お菓子の空袋などが散乱しており、不良の溜まり場というのが、一見して分かる。


「まあ、来たら厄介だから、一応そのつもりでいろ。青山。」


「はっ!?」


「お前、一応剣道部なんだから、自分の身位は自分で守れ。」


「ええ!?」


しかし、龍介と違って、夏目は優しい言葉などかけない。

のみならず、不敵にニヤリと笑って、凄んだ。


「ーああん?」


「ーわ…、分かったよ…。」


言ってる側から、ガチャガチャドカドカと、ガラの悪い連中が入って来る音が聞こえ出した。

夏目は美雨が寝ている隣室に走り、麗子他3人は立ち上がって、構える。


ーあああ。平和的解決とかは考えないのかな。


青山の思いも虚しい様だ。

青山はその辺にあった鉄パイプを両手で持ちつつ、蹲った。


一方、夏目は美雨が寝ている部屋に入り、美雨を起こそうとしたが、美雨は既に目を開けていた。


「誰か来たの?不良?」


「んなとこ。ここから出るな。直ぐ片付ける。」


「でも、多そう。」


確かに声の感じでは、10人以上はいそうだった。


「舐めんな。問題無い。」


夏目はニヤリと笑って、美雨を安心させた。

それでも美雨は心配そうな顔をした。

自分が恐怖を感じるといった不安からでは無い。

夏目を気遣っている。


「気をつけてね。」


「ああ。」


夏目が部屋から出た途端、絵に描いたような田舎の不良、凡そ20人が現れた。


「なんだてめえら!ここは俺たちの縄張りなんだよ!」


「勝手に使ってんじゃねえぞ、こらあ!」


縄張りだのと、ヤクザの様に精一杯粋がった事を言うので、青山以外の全員が笑いだすと、不良は当然怒り狂った。


「舐めてんじゃねえぞ!ガキがあ!」


口々に言って殴りかかって来たが、夏目達は武器らしいものも持っていないのに、不良が繰り出したパンチを掴んでそのまま投げたり、足払いで転ばせたりして、不良達は全く歯が立たない。

夏目と麗子に関しては、足払いというより、痛烈な蹴りを入れており、投げた奴らの事も腕を捻ってから投げていて、2人に蹴られたり、投げられたりした奴らは、『痛え痛え。』と半べそ状態で動けなくなっている。

恐らく骨が折れている。

そして2人はとても楽しそうだった。

そんな顔、中学になってから見た事ないよという程に。

香坂に投げられた1人が逃げようとしたのか、間違えて美雨のいる部屋のドアを開けてしまった。


「なんだよ!すげえ可愛い子いんじゃん!」


人質にとでも思ったのか、美雨に近付いている。

実は青山は、部屋の隅で鉄パイプを握りしめて蹲っていただけだったが、美雨の一大事となったので、慌てて飛び出した。

しかし、弱い者虐めが大好きな不良達には、直ぐに弱いと見抜かれ、飛び出すなり、ターゲットになってしまった。


「夏目えええ!助けてええええ!」


青山は叫んだが、夏目の返事は冷たかった。

夏目は美雨の下に走りながら、こう叫び返した。


「てめえなんざ知るか!そいつはやる!」


「ーなっ、仲間じゃないのかよおお!」


夏目は走り出し、返事もせず、不良達を薙ぎ倒しながら美雨の部屋に飛び込んだ。


しかし、驚いた事に美雨はそこら辺にあった鉄パイプを手に、既に1人、1番先に美雨の部屋に入った男を気絶させており、隙の無い構えで、他3人と相対していた。

夏目が入ると同時に、1人に羽交締めにされてしまったが、夏目が直ぐに2人を殴ってのしてしまい、美雨も思い切り羽交締めにした男の鳩尾に肘鉄を食らわせ、その男が蹲った瞬間に夏目が顎に蹴りを入れて気絶させた。


「やるな。でも大丈夫か。」


褒めつつも美雨を心配する夏目に、美雨は慌てた様子で奥を見ながら言った。


「それより青山君が。」


青山は囲まれて、ボコボコ寸前。

しかし、他の3人は、自分達を襲って来る奴らで手一杯で、助けられない。


「ああ、忘れてた。」


夏目は面倒そうに美雨が持っていた鉄パイプを拾い、走らずに大股で歩いて行くなり、青山を殴ろうとしている男の首筋を打って倒れさせ、立て続けに同様に後2人を倒した。

そして、世にも嫌そうな顔で青山を見た。


「なんなんだてめえは。それでも男か。」


「かっ、加納さんは!?」


「加納は立派に1人のして無事だよ。何やってんだよ、てめえは。」


「は…。」


夏目の顔を見ると、こめかみと額に青筋を立てて凄まじい勢いで怒っている。


「はじゃねえ。帰ったら、剣道部でしごきまくってやるぜ。」


青山は死ぬかもしれないと本気で思い、実際何度か剣道部の稽古中に、これはあの世かと思うような星を見たらしい。









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