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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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怪しい雲行き

竜朗は、しょっ中首相の安藤と喧嘩している様だ。


「だからあんた。その安保改正は、アメリカの言いなりじゃねえかよ。

あいつら、自分の国が経済的に厳しいから、軍事費削減してえだけなんだって。

んな事本当にやっちまったら、憲法違反だって国民の総スカン買う上、アメリカにも見捨てられるぞ。」


「憲法違反ではありませんし、これは対等な軍事同盟にするという私の悲願でもあります。

見捨てられるのではなく、関係性がより厚くなるものです。」


「あのね。アメリカが攻められてるからって、自衛隊が助けに行って、戦争に参加するってえのは、立派な憲法違反だろうがよ。

日本は戦争放棄してんの。書いてあんの、憲法9条に。

自衛隊が武器使っていいのは、自国を攻撃された時のみでしょお?

それにねえ、対等になるって事は、その分、もう庇って貰えねえって事なのよ。

すぐ分かるよ。あいつら、二言目には、『同盟国なんだから、しっかりやってくれ給え。』って言うぜ。

あんた達が必死に食らいついてるTPPだって、基地問題だって、もう容赦しねえって事なの。」


「ー加納さん、あなただって、そんな日陰の大臣をやる事もなくなるんですよ。大手を振って、国防長官として…。」


「国防長官が大手を振って活躍出来る国っつーのは、物騒な国って相場が決まってんだあ!

あんたのやりたい安保改正は、戦争したい法案じゃねえかよ!

秘密保護法かさにきた言論弾圧もいつまでも出来ねえぞ!

経済界の上の方と繋がって、あいつらにだけ金入る様に、円安にし続けて味方につけたって、所詮あいつらは、一握りなんだよ!

国民甘く見んじゃねえ!」


ブチっと切って、iPhoneを投げ捨て、タバコを蒸気機関車の様に蒸す。

眉間の皺はラオウよりも深い。


「大変だね、爺ちゃん…。」


「あそこまで言う事聞かねえ首相は初めてだな。親父はマトモな政治家だったのに、爺様に傾倒しちまって…。」


安藤の祖父は、安保条約を締結した首相だった。

子供だった安藤に、おとぎ話を聞かせる様に、不平等条約だと吹き込んでいたらしい。

祖父の汚名を晴らし、日本とアメリカを対等な関係にする。

それが安藤の悲願らしい。


「アメリカと対等な関係って、要するに、自衛隊が軍になって、列強と同じ様に、戦争だってなったら、ガンガン行くって事だろ?」


「そういう事よ。高校生だって分かってんのに、どうするつもりだい…。まあ、確かに、アメリカ任せじゃ立ちいかねえ事も増えては来てる。」


「中国?」


「中国は正面切って攻撃はして来ねえだろうけどな。そこまで馬鹿じゃねえ。

でも、ほら。湾岸戦争の時、日本は金だけ出したろ?にしたって、凄え額だ。

あれで国家の借金がドンと増えたって言ったって過言じゃねえ。

でも、叩かれた。

だから今度は自衛隊を出した。

そしたら、現地で、武器使えねえってんで、自衛隊員が危険に晒された。

実際何人か殉死してる。

ロシアや中国の領空領海侵犯でスクランブルかかって出撃する現場の自衛隊員だって、相当おっかねえ思いしてんのも事実だ。

確かに、なんとかしねえとならねえ側面はある。

だけど、それいいよ、武器使っていいよって事にしたって、日本には、軍法が無え。

つまり、軍法会議が開かれるような事態になった時、刑法で裁くしかなくなる。」


「それは…。例えば、現地で誤って民間人を殺したとか?」


「そう。業務上過失致死で裁かれる事になる。

つまり個人の罪になっちまって、国は守ってくれねえのよ。

そういう法整備もしっかりさせねえ、憲法の論議もしねえ内から、安保だけ変えるなんて乱暴過ぎだっつーの。」


ずっと黙って聞いていた寅彦が唸る様に言った。


「ああ、やっと分かった気がします。

俺も、安藤の安保改正は戦争したい法案に聞こえてたし、憲法違反だとも思ったけど、でも、なんで安藤は改正したいのかもよく分からなかったし、改正の問題点も、はっきりとは分からなかった。

そういう事なんですね。」


「そうなんだよ。だから、俺も、手続き踏んで、ちゃんとやるなら、自衛隊が軍になるのも致し方ねえかなと思う部分もある。

まあ、俺の立場だと、色々キナ臭え事も耳に入って来るんでな。

軍になっちまった方が、龍太郎達もやりやすい面もある。

が、しかしだ。憲法9条、変えていいですかって話から始めるのが筋ってもんじゃねえのかい。

それで国民が総出で嫌だって言ったら、この話は無し。

でも、だったら、米軍基地も存続させなきゃなりません。

税金も上げます、アメリカの日本防衛の為の軍事費を肩代わりしなきゃなのでって説明して、どっちがいいですかってね。

民主主義ってそういうもんじゃねえのかい。」


「ですね。よく分かりました。」


「ー話は変わるが、龍は春休み、本当にイギリス行きはいいのかい。」


龍介は今年は春休みはイギリスには行かないと、大分前から言っていた。


「うん。写真部の高3の先輩が2人も引退してしまい、写真部は遂に3人になってしまった。

部長になってしまったし、かっこいいビラを作って、新入部員を募集せねば、写真部は廃部の危機に…。

よって、春休みはその対応に追われるので、暗室作業及びビラ作り。」


「そっかあ…。たっちゃん寂しがるだろうに…。早く戻って来られると良いんだがな…。」


「そうだね…。」


「でも、しずかちゃんにも会えねえのは辛いだろ、龍。」


竜朗が少しにやけて言うと、途端に仏頂面になる。


「平気だよ。母さんにちょっとぐらい会わなくたって。もう16なんだからっ。」


そしてポチと散歩に行ってしまった。

竜朗と寅彦は無言で顔を見合わせ、笑う。


寂しくない筈が無い。

本人には全く自覚は無い様だが、しずかが家に居る時、龍介は二言目には母さんだったし、姿が見えないと、真っ先に探していた。

ポチ並みに。

ポチが龍介が居ないと、ボロボロなのも、しずかが居ないせいが大きい。


「寂しいくせに。龍も意地っ張りですね。」


「しょうがねえな。病的な負けず嫌いだからな。しずかちゃんも、たっちゃんもそうだから、ありゃ遺伝だろう。」




その頃、噂の龍彦は、邦人捜索の作戦真っ最中だった。

厄介な人間がイギリス出張中に拉致されたのだ。

彼は、大手コンピューターシステムメーカーの技術者である。

そして、龍太郎の宇宙開発の仕事を手伝っている民間人だ。

厚木基地ルートの蔵には出入りしているし、龍太郎とも接触し、クラリスシステム開発にもかなり関わっており、龍太郎が開発しているパソコン関係にはかなり近い。

国外に出たのを機に、拉致にかかった様だ。


「ドラゴン!トイレ前の画像出た!」


情報官の声で、パソコン前にチーム全員が集まった。


山本という、その技術者は、今から1時間前にトイレに入り、そこから行方をくらましている。


こうなったら厄介だからと、入国から今まで、龍彦達が監視していたのだが、何故かその監視に気付き、監視を巻いて、携帯をわざわざ別人の鞄に忍ばせたりして、行方をくらました。

龍彦達は、山本だけを監視しているわけではないし、彼は特に怪しい点が見られなかったので、携帯のGPSと通話を監視している程度だった。

だから、行方不明発覚が1時間後になってしまったのだ。


1時間前にトイレに入った山本の後、清掃員が大きな掃除カートで入り、5分後にカートを押して出て来たのが映っているが、山本本人は映っていない。


「近藤、この清掃員は?」


「顔認識にかける…。清掃員じゃねえな。」


工作員リストにヒットはしないが、ロシア人の様だ。


「厄介なのがお出ましになったな…。

山本は密かにロシア側とコンタクトを取ってたのかもしれねえ。

高坂と敷島でちょっと深く探ってくれ。

近藤、清掃員の足取り。」


近藤が監視カメラの映像を繋ぎ合せる。


「もう清掃員のかっこじゃねえが、このロシア人と、帽子を目深に被った男が、ホテル裏の車に乗ってる。山本が持ってたパソコン鞄と同じ物持ってるぜ。」


「ー山本だな。どう見てもグルの様だ。脅されてる様子は無い。マズイな…。近藤、この車の行方を洗え。」


「了解。」




龍彦はデビットと車で出て、近藤が監視カメラ映像から割り出す道案内で、山本の足取りを追っていた。


車はロシア大使館に停まっていた。


「手出し出来ないわよ、ドラゴン。どうするの?」


そう聞くデビットに答えようとした時、山本を調べていた高坂達から連絡が入った。


「ドラゴン、山本の奴、図書館の事前審査でも全く引っかからなかった筈だ。恐らく、この半年足らずで、突然変わっちまってる。」


「どういう事だ。」


「半年前、娘が交通事故に遭いそうになったのを、アメリカ人に助けられてる。

以降、このアメリカ人と交流を深めている様だが、このアメリカ人、よくよく調べてみると、ロシア人。

ロシア本国では死んだ事になってるバリバリの工作員だ。ゴンチャロフ。

ドラゴンも知ってるだろう?」


「CIAが始末したはずだ。」


「だよな。ところが生きてた。

顔中大やけどで、整形しまくって、顔は確かにアメリカ人だが、骨格がゴンチャロフだった。

99パーセント間違い無い。」


「恩に着せる様な事して仲良くなって…。工作員がよく使う手だ。娘の交通事故も自作自演だろう。メールや通話に不審な点は無かった…。紙媒体の手紙か?」


「多分な。」


「図書館に連絡して、山本の家宅捜査して貰ってくれ。俺はここに乗り込む。」


デビットが目を丸くし、電話の向こうの高坂も言葉を失っている。


「亡命だって言われたらどうすんだ、ドラゴン…。それにそこはロシアの領土だぜ…。」


「そん時はそん時。」


龍彦はニヤリと笑うと、外に立っている警備の人間に、にっこり笑って話し掛けた。


「大使にお会いしたい。日本国外務省、英国駐在員真行寺龍彦と言えば、お分かりかと思います。」


笑顔だが、目はとてつもなく戦闘的。

いかにも元KGB風の警備員は、訝しげに龍彦を見ながら電話を取った。








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