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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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夏目くんの日常1

夏目は昔からあまり口数が多い方では無いし、『友達を作るぞおおお!!!』と、気合を入れまくっているわけでは無いが、気がつくと人が集まっているという具合だった。

龍介同様、「なんか頼りになりそう」「なんか信用できそう」と、思われるのかもしれない。

そんな訳で人望もあり、友人で困った事は無かったが、先生にもそう思われるのか、龍介同様、本人の意向に関わらず、長の付くものは全部やらされた。

そもそも、夏目と龍介が大幅に違うのは、その見た目から滲み出るど迫力である。

龍介は目つきは鋭いものの、顔の美しさもあってか、見るからに恐ろしげな感じはしないが、夏目は見るからに恐ろしい。

従って、気の弱い子は先ず寄って来ない筈なのだが、何故か青山とは中高の6年間も交尾(つる)む羽目になった。

そう。

青山は、非常に気が弱く、物静かなタイプで、父親が図書館で当時顧問をしていた真行寺の片腕という地位にあっても、医者を目指すという、非常に大人しい男だった。

夏目も勿論うるさいタイプではない。

寧ろ、同級生のバカ騒ぎを嫌がり、声も出さずに凍りつかせる得意技を持っていた。

中1で同じクラスになり、席も近かったが、夏目と青山は特に会話するでも無く、青山の夏目への第一印象は、

『なんかおっかねえ奴。』

であり、夏目の青山に対する第一印象と言えば、全く無かった。

そう。夏目の目には、青山は入っていなかったのである。

その2人が近付いたのは、同級生の悪ふざけが原因だった。

休み時間、率先して友達も作れなかった青山は、1人静かに本を読んでいた。

そこに、ふざけ合いが嵩じて、男3人が揉み合いながら騒ぎつつ、青山の席に雪崩込んで来て、青山の読んでいた本を吹っ飛ばした。

それのみならず、3人は吹っ飛ばした本を気付かずに揉み合いながら蹴ったり踏んだりしていた。

前の席に座っている香坂の話を聞いていた夏目はそれを見て、立ち上がるなり大股で歩いて行き、その楽しげにガキっぽくふざけ合っている2人の胸ぐらを掴み、1番暴れて他にも迷惑を掛けていた奴の脚を引っ掛けて転倒させると、2人の胸倉を掴んで、持ち上げながら言った。


「中1にもなってバカやってたいんなら、校庭でやれ。人に迷惑かけんじゃねえ。」


目つきは鋭いなんてもんじゃない。

それが全身から怒りの炎を発しながら片手で同じ位の体重の男の胸ぐらを掴み、持ち上げている。

丸で、不動明王である。

その上、中1時代からドスの効いたダミ声で言うもんだから、その3人は生きた心地はしないし、その場にいたクラスメート全員が凍り付く迫力だった。


ーこいつには逆らわない方がいい…。


全員に共通の認識が芽生えた瞬間でもあった。


「は、はい!」


3人が半べそで返事をすると乱暴に手を離し、青山の所に本を拾って持って行って、青山が礼を言うと、一言ボソッと言った。


「先生、死んじまってんだよな。」


青山はバッと夏目を見た。

青山が読んでいたのは、夏目漱石の『こころ』だった。

結論はどうなるのか、やっぱり先生は死んでいるのだろうか、でも生きていて欲しいとか思いながら読んでいたのに、いきなり結末を言うのか、この男は!

という、抗議の目で見たつもりだったのだが、夏目は全く意に返した様子も無く、何事も無かったかのように席に着いてしまった。


ーなんなの!?なんなのこいつはああああああ!!!


いい奴なのかと思いきや、読書の楽しみを奪い取る男…。

それがファーストインパクトだった。




だから、良くして貰ったものの、なるべくだったら付き合いたくは無かったのだが、運悪くというかなんというか、青山は夏目と同じ班になってしまった。

英の不思議な所で、クラス替えはしても、課外活動その他を共にする班は6年間一緒という凄いルールがあり、青山は祈りも虚しく、夏目と一緒になってしまった。

班は親が同業という事で決められた様だった。

夏目の他に、香坂という眼鏡を掛けた頭のいい男の親は、情報局で北米担当をしているらしい。

渋谷という柔道体型といった感じで、がっしりした男の親は図書館らしい。この2人は夏目ともよく話していて、渋谷に関しては、小学校時代から一緒らしい。

そして夏目は最初の一件で、クラスのオピニオンリーダー的存在に位置づけられ、青山とは剣道部でも一緒。そして父親は、内調の次期室長で、青山の父とは懇意にしているらしい。

男は、青山を含めてこの4人。

そして、女の子は2人。

1人は西条麗子。

あの、西条副局長の次女である。

背丈は夏目と変わらず、160センチ近くあり、スタイルも良く、日本人離れした感じの凄まじい美人である。栗色の髪も長くて、モデルの様な出で立ちだが、中身が完全に男というのは、直ぐに分かる。

何せ口調が軍人の様なのだ。

実は、夏目とは家が近いらしく、幼馴染らしい。

そしてもう1人は加納美雨。

長い髪に華奢で小柄な体型。澄んだ黒目がちの美しい瞳と、全て可愛らしくこじんまりした感じで、見るからに可愛らしく、入学した途端、全校のアイドルになった子である。

両親が亡くなり、図書館で部隊長をしている加納竜朗が叔父でもあったので、引き取ったそうだ。

この子だけが班の楽しみだなと青山はその時思ったが、それが原因で死ぬ思いをするとは思いもよらなかった。




「青山さんて人も、美雨ちゃんが好きだったの?」


龍介が聞くと、龍彦は笑った。


「まあ、青山だけでなく、みんなそうだったんだろう。他にそんな可愛い子もいなかったみたいだし。」


「でも、麗子さんて人は?綺麗なんでしょ?」


「ああ。すんげえ綺麗。西条さんに似ると、女の子だと、あんなに綺麗になるのかってびっくりする程。でも、中身本当に男っていうか、夏目君だからな…。」


「は…。中身夏目さんな女の人…?」


夏目を敬愛している龍介でさえ、それはドン引いてしまう。


「そう。まあ、その内話の中に出て来るから。」


そしてまた龍彦は話し始めた。


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