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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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日常の風景

少し涼しくなって来た11月。

龍介達5人は、久々に秘密基地に集合していた。

忙しくてそのままにしていた事案を片付ける為である。

それは、秘密基地の譲渡だ。

翔達にやるのはいいのだが、問題は中のタイムマシンや、パラレルワールド装置などである。

このままやったら、メンバー中に、蜜柑と苺が居る以上、何をしでかすか、予想すら出来ない恐ろしさがある。

という訳で、それらの危ない装置は亀一が蔵に運び、基地自体も掃除する事になったのである。


しかし、その惨状たるや、なかなか凄い物がある。

何せ、高校生になってから、この間の未来に行った時しか使っていない。

しかもその時も、掃除なんかしていないし、物置の必要なところだけ、サッと拭いただけで終わらせてしまっていた。


「うわあ…。めんどくせ。」


予想通り龍介が呟き、亀一が龍介を睨みつける。


「こんな汚ねえまんまやる訳に行かねえだろ。」


「いいんじゃねえの。使いたきゃ、自分達で掃除させりゃいいじゃん。」


「あのな…。お前が暑い時に、掃除なんかすんの嫌だっつーから、こんな遅くなったんだぞ。その上、掃除は宜しくって、こんな汚ねえまんま引き渡せるか。恥ずかしい。」


「まあね…。」


汚いまま引き渡すのが、いくら年下とはいえ、失礼だという思いは龍介にもある様で、面倒くさそうながらも、朱雀に指示されるまま動き始めた。

しかし、例によって大雑把。

いきなりガシガシと箒で部屋を掃き出したものだから、土煙りの様な物凄い埃で、全員からブーイング。


「龍!自分だけマスクしてるからって、そういう掃き方ないでしょう!?お茶っぱ蒔いてからやるの!」


「本とに全くお前は大雑把過ぎなんだよ!もうここはいいから、寅とタイムマシン類をトラックに積んどけ!」


亀一に命令され、ムス〜っとしながら、返事もせず、寅彦と、重たいタイムマシン類を、亀一が蔵から借りて来たトラックに積む。


「寅、下で大丈夫?」


「おう。」


「んじゃ、せーの。」


実はこのタイムマシン、100キロはあるのだが…。


荷台に乗った龍介が、上から思いっきり引き上げ、あっという間に載せてしまった。


「結構重かったな。」


「つーか、俺支えてただけだぞ、龍…。」


亀一が流石に目を剥いた。


「それ、100キロ超えだぞお!」


「ーえ…。」


「龍…。あんた、その細い身体のどこにそんな馬鹿力が…。」


「いやあ…。」


そして再び床掃除に入る。


「きいっちゃん、水ぶちまけて、デッキブラシかなんかで擦った方が早くねえ?」


龍介が言うと、ほっかむりにマスクといういでたちの亀一が、龍介をジロリと見た。


「それやる前に、これらのでっかい埃だの、ゴミだの掃き出さなきゃデッキブラシに絡みついちまうだろっつーの。いいからもう、お前は外壁でも適当に洗っとけ。」


再び、ムスーっとしながら、バケツの水をいきなり外壁にぶちまけ、デッキブラシで雑にゴシゴシ。


「あれは、絶対駄目亭主になるな…。」


悟が呟くと、朱雀がケロッとして言った。


「でも、龍はお料理は出来るよ。」


「じゃがいもとか、そのまんま入れてんじゃないの?!」


「そのまんまじゃないよ。早く煮えて欲しいからって、凄い小さく切って、ガーって強火で煮るから、ドライカレーチックだけど、美味しいよ?」


「要するに、なんでも早く済まないと駄目なんだな…。」


「そういう事。」


「おおおお!?佐々木!これはこんな所にあっていいのか!?」


外に居た龍介の叫びに悟が出ると、龍介は驚いた顔で小汚く変色した紙切れを持っていた。


「何それ…。」


「英語26点…。こんな点数どうやったら取れるんだ…。」


「うわああああ!止めて!触らないで!ゴミゴミ!」


悟は親に見せられないテストを隠していたらしい。

龍介から奪い取ると、後で燃やす物が入っているトタン缶に破いてから丸めて放り込んだ。


「大丈夫?八咫烏入るなら、情報官でも、法律の他、語学も必須だぜ?」


本気で心配する龍介を必死に睨む悟。


「大丈夫だよ!もうこんな点数取ってないよ!これは中1で、偶々なの!それ以来、こんな点数取ってません!じゃなきゃ、古淵高校入れなかったよ!」


「ああ、そう。ならいいけど。」


適当にやった為、もう暇になっている龍介に亀一が叫んだ。


「今度、屋根の上やっとけー!」


「はいはい!」


そうこうしている内に、秘密基地二つは、建設当初とまでは行かないが、かなり綺麗になった。

疲れたのもあって、綺麗になった竜朗が作った方の、元ポチの小屋に全員で寝そべってみる。


「狭っ!」


口々に笑いながら言う。

それはそうである。

あの頃、150センチ位だった龍介、亀一、寅彦は176センチになったし、朱雀も170センチ。

悟は相変わらず豆だが、それでも、166センチはある。

ギチギチ状態で床に並ぶと、自ずと建設した時の事が思い出された。


「龍が俺の指示通りにやらず、適当な調達をして来て、ブロックを埋め…。」


亀一が話し出すと、寅彦が続けた。


「佐々木の親父の猫の骨と、パラレルワールド装置を見つけてしまい…。」


勿論、朱雀も。


「悟の家に初めて届けに行って、悟との縁が出来…。」


というなり、亀一の眉間に皺が寄った。


「いいんだか悪いんだかな…。」


「申し訳ありませんでしたねえ!その節はご迷惑ばかりお掛けしました!」


「まあ、今となっては良かったんだろう、多分。俺も人の事言えた義理じゃねえしな。龍には迷惑かけたし。」


「でも、懐かしいねえ…。」


朱雀が幸せそうに言うと、それぞれしみじみと思い出し、懐かしい気分に浸っていたのだが、ずっと黙っていた龍介は突然起き上がり、なんの脈絡も無く言った。


「腹減った。」


「加納!今、しみじみと、終わった子供時代を懐かしんでたんだろ!」


悟が言うと、朱雀も責めた。


「そうだよ!全くもう、ムードも何も無いんだからあ!そんな事じゃ、いつか唐沢さんにふられるよ!?」


「だって、昼飯の時間、とうに過ぎてんじゃん。腹減った。」


多分、龍介はあまり覚えていないのだ。

それに、前だけを向いて只管己の道を突き進む龍介にとって、来し方を振り返って懐かしむという行為自体が、あまり好きではないのかもしれない。

それが分かっている長い付き合いの亀一も、笑いながら起き上がった。


「んじゃ、俺、コレ蔵に持ってとくから、先に食いに行ってろ。」


「降ろすの1人じゃ無理だろ。俺も行く。」


結局、腹が減ったと言い出した龍介が亀一と一緒にトラックに乗り込んでしまった。


「王さんの中華屋にいるぞー。」


寅彦が言うと、ニヤッと笑って手を挙げて、行ってしまった。


「加納は懐かしがるとか、嫌いなんだな。」


「だな。さあ、今日は当たりか、外れか。」


3人は商店街の中華屋に向かった。

そこは王さんという、強面の中国人がやっている中華屋で、何故かラーメンだけ、お試し価格の様に安い。

そのお値段、500円。

しかも、王さんが作った日だと、都内の高級店に負けない美味しさ。

しかし、息子の下手くそが作ると、目も当てられないものとなる。

従って、いつも賭け気分で行かなければならないのだが、高校生のお財布には優しいし、当たりだったら、頗る美味い。

その上、竜朗と王さん夫婦は昔からの知り合いなので、龍介達が行くと、餃子もサービスで付くのだ。


亀一達は、割と直ぐに合流した。

ラーメンが来た時には、店に入って来た位だ。

その前に、店の前を爆音がしたから、多分亀一が改造まで加えた愛車をぶっ飛ばして来たのだろう。

ラーメンを持って来たのは王さんだったから、5人のテンションは上がる。


「おう!龍ちゃん!」


「王さーん!良かった!王さんだあ!会えて嬉しいぜ!」


「そんなに喜んでくれるの!ありがとね!」


喜びの理由を、王さんは何故か気付かない。

最近客が減った理由も、当たり外れが大きいからというのも分からないらしく、竜朗に会うと、客が減ったとぼやいているらしい。

竜朗が息子の料理がまずいからだとはっきり教えたのだが、矢張り分からないらしい。

こんな美味しい物を作る人が、あのまずさと、才能のなさが分からない筈は無いのだが、息子に盲目なのだろうか。


今日は王さんだからと、チャーハンや青椒肉絲なども頼んで、贅沢な昼食を楽しんでいると、悟が言った。


「長岡、Z3買ったんだよね?アレかっこいいけど、2人乗りじゃなかっけ?景虎君、どうすんの?」


知っていそうな龍介と寅彦が笑っている。

亀一は沈痛な面持ちで答え始めた。


「ーかっこいいし、ずっと欲しかったもんだから、仕事の往復とか、偶にある栞とのデートに使い、景虎と一緒の時は、親父かお袋の車を借りればいいと買ってしまったんだが…。案の定、お袋に、あのトーンで、『ちょっといらっしゃい。』って御説教部屋に呼ばれたから、お袋には『貸してやるから!』と言った所、お袋の御説教はなくなり、ホッとしたのもつかの間、何故か景虎抱いて、拓也がちょっと来てと言うんで、何かと思ったら、お前…。」


「まさか、拓也君に御説教されたの?」


「そうなんだよ…。あいつ、凄えんだよ…。正論ばっかしブツブツブツブツ…。ちょっと口答えしようもんなら、10倍になって返ってくっからな…。ああ、恐ろしい伏兵だ…。」


「なんて怒られたの…。」


悟が更に聞くと、悲しそうにラーメンをすすりながら答えた。


「『お兄ちゃんは父親としての自覚が足りな過ぎる。蔵でお給料もらって、Xファイルのバイト代があるからって、いくら中古とはいえ、車なんか買っちゃって。しかも、2人乗りだなんて。景虎の為に貯えておこうとか、生活費入れようとか思わないのか。』とね…。」


「うーん、素晴らしい正論だ…。」


「ええ。太刀打ち出来ませんよ…。ところで、龍は車買わねえのか。独身貴族よ。」


「買いたいけど、うち、もう駐車場が一杯なんだよ。お客さんが来るとかも考えると、俺の車まで置けない。右側の子供用の庭を潰して駐車場にって案も出たんだが、苺と蜜柑が泣いて反対するんで、うるさいので止めた。」


確かに加納家の駐車場は満車状態だ。

竜朗のアウディ、龍太郎のラグナV6、しずかのRB-7、龍彦のアストンマーチンDBR。

そして、来客が多い家だし、万が一にも備え、2台分位は空けておくとなると、もう置き場所は無い。


「そういえば、左隣の家、買い取ったんでしょ?あそこの土地、どうすんの?。そこに停めればいいんじゃないの?」


朱雀が聞くと、龍介は何故か黙った。


「どしたの?龍。」


寅彦が笑いながら代わりに答え始めた。


「龍と唐沢が結婚したら、あそこに家建てて住まわせるんだと。だから、あそこは龍の名義にしちまったんだよ。先生が。」


「じゃあ、いいじゃない。どうして黙るの、龍。」


「結婚して住む所位、自分で決めたかったなと…。そんな全部決まっちまってたら、瑠璃も嫌なんじゃねえかと…。」


「唐沢さんにまだ話してないの?」


「無い…。なんか言いづらい…。徐々に周りを固めてって、気がついたら、身動き取れなくしてるみたいに取られるんじゃないかと…。」


「そんな事無いんじゃないの?唐沢さんは龍に夢中じゃん。」


すると、亀一が言った。


「いや、そういう問題じゃねえな。それって、加納家とは地続きな訳だから、同居だろう。俺んとこは、しょうがなかったのと、栞とお袋の仲がいいし、栞が出て行きたくねえってレアケースで、丸く収まってるが、通常、同居ってのは、女の方は嫌がる。逆だったら、男だって、いい気分じゃねえだろう。龍の場合、同居しか選択肢が無えわけじゃ無え。結婚しよう。家はもう爺ちゃんが建ててくれたのが、うちの敷地内にあるからってのは、龍の言う通り、策に嵌められたって気分にさせちまうだろうな。」


「はあ…。大変なんだね。結婚て。うちの師匠も大変みたいだけど。」


龍介はこれ幸いと言うように、話題を変えた。


「ああ、修行の旅、どうだった?」


「勉強になったよ。流石、伝説のスナイパー、一本杉師匠。1.6キロ先の缶だって撃てるんだ。それには緻密な計算が必要。スナイパーって、数学と物理なんだよ。風向きや風圧だけじゃない。地球の自転まで考えなきゃいけないんだ。」


「凄え。かっこいい。」


「うふふん!なんか龍にかっこいいって言われると、嬉しいね。」


「いや、かっこいいよ。そもそも、スナイパー化してる朱雀って本当、かっこいいもん。」


ウンウンと一同が頷き、朱雀が踏ん反り返ったところで、さっきの話に戻す。


「そんで、一本さん、何が大変だって?」


「あれ、龍、お父さんから聞いてないの?」


「離婚歴3回ってのは聞いたけど?」


「今度4回になったの。」


「またあ?それ、多分、お父さんも知らねえよ?」


「なんか上手く行かなくなっちゃうんだって。」


「お父さん曰く、一本さんに原因があるって話だけどな…。でも大変だな。別れたりくっ付いたり…。」


「師匠…。いい人だけど、確かに勝手気ままかもしれない…。家庭を持つタイプじゃないかも…。」


「うーん…。」


なんだか暗くなってしまったので、悟が話を車に戻した。


「寅師匠、車は?持って帰って来ないの?」


寅彦はフランスで一目惚れしたプジョー306マキシを買ってしまい、実質、寅彦が居ない間は整備を兼ねて、京極がブイブイいわせて乗り回しているらしい。

半分以上、京極が出資してくれたから、文句も言えない様だ。


「組長があんな気に入ってんのに、今更持って帰ってこられるか…。それに、持って帰って来るのだって、相当額掛かるし…。まあ、大学生になったら、半分は行けるだろうから、いいよ、あっちで。」


食べ終わると、龍介が秘密基地の鍵を翔に渡しに行くというので、みんなで行く事に。


翔は予想通りと言えばそれまでだが、目を輝かせて喜んだ。


「一応、掃除はしてあって、朱雀が作ってくれた、棚とテーブルは残してあるけど、まあ、好きに使って。」


「有難うございます!本当に有難うございます!」


「翔…。」


龍介がやたら真剣な眼差しで、翔をじっと見つめて、手を取った。


「は…はい…。」


「蜜柑と苺には呉々も気を付けてくれ。俺たちの目が無えのをいい事に、何をしでかすか知れたもんじゃねえからな…。」


「だ、大丈夫です。その辺は、一義はああいう性格ですし、俺も目を光らせてます…。」


「頼んだぜ。このまま何も起きなかったら、お前の力量を認め、蜜柑の婿に推挙してやるから…。」


そう言われるなり、翔は更に目を爛々と輝かせて、胸を張り、キッパリと答えた。


「はい!命を懸けて頑張ります!」


何故蜜柑にあそこまで一生懸命なのか誰にも分からない。

龍介は、極めて不可思議な謎に直面したせいか、ずっと気になっていたもう一つの謎を思い出した。

帰宅して、早速、しずかとイチャイチャして忙しそうな龍彦を捕まえる。


「お父さん、夏目さんがなんで鬼生徒会長って言われてたのか、知ってる?」


「おう。青山から聞いた。」


「聞いてたんなら、早く教えてよ。」


「ごめんごめん。帰って来てから忙しかったから、そのまま忘れてしまった。では、教えよう。」


龍彦がニッと笑って、龍介を目の前に座らせ、話し始めた。





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