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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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取り敢えず一件落着

夏休みが終わり、2学期に入って直ぐの日曜日、竜朗は縁側で、例によって、プロレスの技をかけてるかの様な格好で、ポチの爪を切っていた。


「ポチっ!シャーッて顔すんじゃねえの!」


「爺ちゃん、ちょっといい?」


そこへ愛する龍介が来たもんだから、ポチは尻尾を振り、龍介の方へ行こうと余計暴れるので、龍介もさすりながらポチを抑え込んだ。


「もうちょっとだから我慢しな、ポチ。」


くうんくうん切ない声を出すので、大急ぎで爪を切る竜朗。


「ん?なんだい、龍。」


「この間着させて貰った、図書館のコンバットスーツの八咫烏さ。」


「おう。」


「何故、八咫烏?そして、大鳥居は図書館でなく、何故、八咫烏呼んだのかなと…。」


「八咫烏ってのはなんだか知ってるかい、龍。」


「神武天皇が無事に行幸できる様に道案内したカラスだろ?」


「そう。んで考えてみな。」


「ん〜、日本が正しい方向に行ける様に守るのかな…。」


「その通りだ。じゃあ、何を守るのか。」


「えーと、日本国憲法と、国民でしょうか。」


「その通り。図書館はその為に出来た。八咫烏でいようって事で、八咫烏をシンボルマークに使ったのは、俺の親父だ。」


「へええ、カッコいい。」


「だろう?」


竜朗は嬉しそうだ。

龍介が竜朗の組織をかっこいいと言ってくれたのも、龍介が何を守っている組織なのかも、ちゃんと分かってくれていた事が何より誇らしく、嬉しかったのだった。

しかし、次の質問で、ずっこける羽目に。


「怪しげな雑誌に出てる陰陽道の秘密結社とは関係ねえんだよな?」


竜朗は笑顔を引きつらせた。


「あ、あれはよ…。無えとは言わねえけど、そんなもんあって、今でも実権握ってたらよお…。まあ、あったら楽しいかなって事にしとくかい。」


「成る程…。今の爺ちゃんの答えで実態が掴めた様な…。」


「まあ、科学だけじゃ解決出来ねえ、不思議な物も力も、この世には沢山あるからな。あるとすりゃあ、そっち系だな。」


「はい。」


「ん。で、大鳥居が俺たちを図書館と呼ばず、八咫烏って呼んだのは、古い呼び方だ。図書館に移ったのは、顧問が引退する間近でさ。それ以来、図書館て呼ぶ様になったんだけど、昔は八咫烏って呼ばれてたんだ。」


「そうなんだ。なんか八咫烏の方がかっこいいのにな。」


「そらそうだが、日常会話で、八咫烏って出て来るっつーのも変だろ?大体、職場の事、なんて呼べばいいんだって、みんな困ってたんだよ。特に子供が小せえ内は。」


「ああ、そらそうだな。爺ちゃんは八咫烏にお仕事に行きましたって外で言っちまったら大変だ。」


「だろ?訳分かんねえもん。」


話している内に、ポチの爪切りも終わったので、龍介が持ってきてくれたアイスコーヒーを飲みつつ、煙草に火を点ける竜朗。

何故か龍介はジーっと見ている。


「どしたい。」


「いや、なんか最近、一息つきたい時に、煙草の匂い嗅ぐと、凄えいい匂いに感じる…。」


竜朗は慌てて煙草を揉み消した。


「未だ駄目よ!?高校生だからな!?」


「爺ちゃんは真面目に20歳過ぎてからですか?」


「そ、そう!」


頗る怪しいが、竜朗の立場と名誉の為に、一応そういう事にしておく。


「組閣を爺ちゃんの言う通りって、無能な人ばっかにするって事?」


「それもあるし、閣僚に留まらず、民自党議員のスキャンダルは、こっちでもばら撒くし、そもそも、安藤から大鳥居が消えたってのは、永田町を駆け巡ってる。

安藤に与してた奴らは大半が逃げてくぜ。

それに、大鳥居は、安藤だけじゃなく、安藤の日本人浄化計画だの、改憲だののメンバーも表沙汰に出来ねえ裏工作に絡んでる証拠も残しといてくれた。

つまり、俺たちは相当数の国会議員の弱みを握った事んなる。アホしか馬鹿な事は出来ねえな。」


「そうなんだ…。損得だけで生きてんのかね、国会議員て。」


「大方はな。稀に違うのが居る程度。」


「嫌な世の中だあ…。」


「本当だよな。申し訳ねえ。」


「爺ちゃんのせいじゃねえじゃん。」


「そうでもさ…。そんで、どうだい。謙輔と龍治の勉強は。」


「凄え頑張ってるよ。このまま行けば、11月の試験、全教科合格出来んじゃねえかな。」


「おめえはどうなんだい、龍。」


「ああ、さっき結果が来てたな…。この間の模試は合格安全圏だったぜ?」


「おお。そりゃ凄えな。大したもんだ。」


会話が終わると、龍介はまた質問した。

結局色々と関わってしまっているから、心配なのだろうと、竜朗にも分かっている。


「大鳥居は沢山証拠を残してくれてたんだよな。自衛隊や内調、公安、外務省の裏切り者は?」


「ぜーんぶ書いて残してあったよ。証拠までセットにしてな。だから一掃出来た。」


「本とはいい人って気がしてなんねえな…。」


「ーそうなんだよ。産まれた家が運の尽きってだけで、本当は頭のいい、優しい男だよ。だから、最後まで悪党でいようとしたんじゃねえのかな。」


「悪い事した責任を全部ひっ被るみたいに、人に恨まれて死にたかった?」


「そう。惜しい男だったよ。」


「爺ちゃん、なんで分かったの?」


竜朗は、寂しそうな表情から一転して、おどけた顔で笑った。


「亀の甲より年の功ってな。」


龍介は、それだけでは無いと知っている。

ニヤっと嬉しそうに笑って、竜朗を見た。


「ーやっぱ凄え人なんだ、爺ちゃんは。」


照れ隠しなのか、竜朗は縁側に立ち上がりながら言った。


「さて。久しぶりに3人で散歩行くか。もう護衛も要らねえし。」


「うん。」


3人の内の1人に数えて貰ったポチは、目を輝かせて、龍介の膝の上に載せていた頭を起こし、いそいそと立ち上がった。




いつもの雑木林でポチを放して、竜朗と話しながら散策していると、久々に地下から突き上げる様な激しい揺れを感じた。


「まーたやりやがったか、あの野郎!今度こそ柏木に殺されるぞ!」


犯人は自ずと知れる龍太郎だが、今度は柏木なんてもんじゃない、鬼を通り越した閻魔大王の夏目が居る。

ただでは済まないだろう。


「父さんはまた急ぐ開発抱えてんの?」


「まあね…。国家間で色々な。さ、そろそろ帰ろう、ポチ。」


呼ばれていそいそとポチが戻って来て、帰宅。




今日は平和な1日かと思ったが、珍しく龍太郎が夕食時間に帰って来た。

しかも凄い顔で。

顔の片側半分がま紫になって、倍位に膨れ上がっている。


「どうしたの!?龍太郎さん!」


しずかが心配して、夕食を並べる手を止め、駆け寄り、皆、呆然と見ていたが、1人、龍彦が笑いだした。


「夏目君にやられたんだろう。『てめえ、この忙しい時にどういうつもりだ。余計な仕事増やすんじゃねえ。』って、ボカーン。」


「えええ!?」


龍治と謙輔は顔色を変えて驚いているが、難なく予想がついてしまう、龍介と寅彦は苦笑。

竜朗に至っては、ザマアミロと言わんばかりに、せせら笑っている。

龍太郎は、龍彦に刃向かう元気も無い様子で、覇気もなく答えた。


「そうなんだよ…。ちょっと口答えしたらさあ…。」


「なんて口答えしちゃったのよ…。」


しずかが氷を持って来て冷やし始めると、ダイニングテーブルの自分の席に座り、話し始める。


「いや、真行寺が言ったみたいに怒るから、『ここは何作ってると思っとるの?戦闘機だよ。戦闘機ってのは大きいんだよ、夏目君。物が大きければ失敗すればボカーンと行くでしょう。』って言ったら、あっと言う間に俺がボカーン…。避ける暇もなかった…。」


「もう…。達也君にそんな言い訳…。火に油を注ぐだけじゃないの…。」


「はあ…。俺もチキンのトマト煮食べる…。」


「そのほっぺで食べられるの?」


「片側無事だから大丈夫…。」


しずかが龍太郎と一緒にかえって来た蜜柑の分を取りに行くと、龍介が言った。


「そんで今日は早く帰って来れたの?」


「ん。長岡が面白い顔過ぎて、笑って仕事にならんから帰ってくれというので。まあ、実際亀一が手伝ってくれる様になったから、仕事は随分楽にはなったけどな。蜜柑も役に立つ様になったし。」


夏休みが終わっても、今日も一緒に蔵に行っていた蜜柑は、もう席に着いて、龍介の分を食べ始めていた。


「色々学んだでちよ。もう大丈夫でち。にいにや爺ちゃんに怒られる様な事はないでち。」


竜朗が横目で蜜柑を見る。


「でちになってんのが気になるけどよお…。そう願いたいぜ。」


しずかがトレーに蜜柑と龍太郎の分を持って来て止まる。


「蜜柑!?にいにの食べてんの!?」


「俺がいいよって言ったんだよ。」


「いや、だって…。」


しずかは龍太郎の皿を置いた後、龍介の前に、キティちゃんのカレー皿に盛られたチキンのトマト煮とキティちゃんの小鉢に盛られたサラダをそっと出した。


「なぬ!?」


「だって、蜜柑、お食事はこれでするでちって言ったじゃないの…。」


蜜柑はスプーンをくわえたままハッとした顔をしたが、直ぐにまた食べ始めた。


「中身変わらないしね。いいの、今日はこれで。」


「蜜柑、にいにが良くねえんだけど!?」


「いやいや、中身変わらないから。」


「蜜柑!なんで18にもなって、きっちーちゃんの食器で食わねえとなんねえんだよ!スプーンとフォークまできっちーちゃんじゃねえかああ!」


「しらないでち。たまにはいいんじゃないでちか?」


にこっ!


「にこじゃねえ!」


もう爆笑の渦。

しずかが自分の食器と変え、漸く食事にありついた龍介だった。





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