あっけない対決
竜朗が、台車に載せた証拠品を武部達に運ばせながら、安藤家と繋がる地下通路からやって来た。
「はー、こりゃどうなってんのかね、首相。」
「わ、私は知らない!」
「この後に及んでまだそんな事言えるとは、あんた馬鹿なのかい。」
「なにい!?」
「お坊ちゃんが過ぎて、誰かがなんとかしてくれると骨の髄まで染み込んでんのかね。そんじゃ、試しにコレ掛けてみようか。」
竜朗が一枚のDVDを出すと、武部がパソコン上で掛けた。
大鳥居の部屋で録画されたもので、大鳥居と安藤首相が映っている。
「八咫烏の方はどうにかならないのか!?ちっともスパイが送り込めないようじゃないか!」
「あそこは結束が堅いんですよ。加納竜朗の求心力が半端じゃないんでね。無理でしょうね。あそこをこちら側につけるのは。」
「だったら早く消せ!」
「誰をです。」
「加納竜朗と加納龍太郎だ!それに加納龍介もだ!高校生のくせに、どこからか嗅ぎ付けて、爺さん同様邪魔をする!あいつらが居るお陰で、なかなか浄化計画がすすまないじゃないか!」
「浄化計画、本当に進めるおつもりで?」
「当然だろう!安保の改正はした!今度は憲法だ!そして、中国、ロシア、韓国との戦争に備える!その為には、税金の無駄遣いとなるような国民は要らないんだよ!」
「うちの親父など、無駄の極致だと思いますが。」
「かっ、彼は我が家に尽くしてくれた…。」
「高齢者を持つ一般庶民も、皆、そういう思いで、必死に辛い状況の中、介護しているんじゃないんですか。」
「ー今、そんな事は関係ないだろう!いいから、私の言う通りにしなさい!」
「まあ、そっちは計画しています。
だけど、加納龍太郎を消したら、宇宙開発はどうなります。戦争控えてるなら、武器も必要なのでは?彼の開発する武器は、他の誰も作れませんよ?」
「そんなものは、他の科学者でもなんとかなる!どっち道、あいつは誰の言う事も聞かないじゃないか!
国防会議の席でも、自衛官のくせに、直ぐ戦争反対みたいな事言う腰抜じゃないか!」
「腰抜ですかねえ。自衛隊ってのは、専守防衛でしょう。憲法があるんですから。
好戦的な自衛官の方が、今の法律では問題なんじゃ…。」
「だから変えるんだよ!君は大鳥居の人間なんだから分かるだろう!?何を今更!」
「大鳥居の人間は、安藤家の家長の仰る事に従うのみですから、私には憲法改正推進とか、よく分かりません。」
「嘘をつけ…。あの馬鹿げた夕陽新聞をお前が朝夕刊とも取ってるの位知ってるぞ…。
憲法や法律に関しては、司法試験合格する位の知識があるのもな…。だから私に偉そうに意見するんだろ…。」
「夕陽新聞は馬鹿げてませんよ。御用新聞と化している読買新聞や経産新聞なんかより、ずっとマトモな事を書いています。あなたの批判もずっと載せている。あなたの脅しにも屈服せずにね。」
「何故、夕陽新聞に手を打たないんだ!」
「1つ位、政権批判する新聞が無いと、海外から第2次世界大戦中の日本に戻ったと思われてしまうでしょう。そうしたらあなたが必死に擦り寄っているアメリカにも、そっぽを向かれますよ?」
「私は擦り寄ってなどいない!アメリカの支配下というのを失くす為に、私は!」
「安保改正して、9条改正したら、アメリカは助けてくれなくなる。自衛隊が全てやる羽目に。自衛隊は軍になって、それで?」
「アメリカと一緒に中国を…。」
「はあ。成る程。」
「馬鹿にしているのか!?」
「いいえ。では今度のイギリスで加納親子はカタをつけます。長岡和臣はどうしますか。」
「一緒にやっとけ。あいつは切れたら、加納龍太郎よりタチが悪い。加納龍介もだぞ。」
「承知しました。」
そして、安藤が出て行くと、カメラが切り替わり、安藤がこの通路を使って、安藤家に戻るまで撮影されていた。
顔色も言葉も失くし、倒れそうになっている安藤に畳み掛ける竜朗。
「まだまだありますよ。この襲撃が失敗した後のなんて、あんたもっとみっともなかったな。
ああ、それと、あんたがファックスやメールで指示した事。
例えば、大家議員の秘書を消しておけとか。そういうのの記録も全部残ってたよ。」
「ーわ…私を…、どうするつもりだ…。」
「取り敢えず、今は俺が保管しといてやろうか。
だが、これ以上、浄化計画なんてもんを進めようとしたら、全部明るみに出して、あんたは逮捕だ。
けどまあ、時の首相が一大犯罪組織と連んで、一般の日本人殺そうとしてただの、あの人もこの人も首相の指示で殺されてたってなったら、株価は大暴落、国債も地に堕ちるだろうし、日本の信用度はゼロになって、また経済が振るわなくなる。
それも困るんで、今の所は、徐々にご退場と願おうか。
まずは、組閣仕直しな。で、閣僚はこっちで決める。その通りにやれ。」
「ーはい…。」
安藤はガックリと肩を落とし、それ以上何も言う事は無かった。
「さあて、お前さん、どうするね。戸籍は勿論取るが、名前だの、親だの。そもそもいくつだい。」
竜朗が家具しか無い、元の相模原の加納家の竜朗の部屋で、謙輔に聞いた。
なんと責任を感じた真行寺が、毎日見張りに来るという急ピッチの工事で、加納家は恐ろしい速さで、元に戻っていた。
「年は23です。名前はそのままで取れますか。」
「大鳥居謙輔のままでいいのかい。」
「はい。あんな只管悪い事しかしなかった親父ですが、俺にとってはいい親父でした。
龍治と兄弟と聞いて、初めはびっくりしたけど、よくよく考えてみると、本家の子と、連れてこられた子は一緒に遊ばせたりしなかったのに、龍治だけは俺と遊ばせてくれていました。
今思い出すと、親父が龍治を俺の部屋に連れて来てくれたんです。
パソコンも、今思うと、親父にしては甘いセキュリティーで、龍治と2人で使えたのは、わざとかなって気もします。」
「だと思うぜ、俺も。」
謙輔の隣に座っている龍治も言った。
「ーそう。俺は、他の奴らに、『贔屓されてる』って言われる事はありました。訓練とかで、やたらみっちり仕込まれるんで、俺本人は、そうは思えなかったけど、頭領自らってのは、謙輔だけって決まってるのにって…。」
「大鳥居の中じゃ、龍治も息子って扱いだったんだろう。」
「優しい言葉は掛けられた事はありませんが…。」
「そこが奴の意地なんだよ。不幸な目に遭わせちまった子。最愛の女性も不幸に死なせちまった。
どっかで自分を罰する為に、厳しい頭領として恨まれていたかったのかもしれねえ。
いい親父になってやりたかったろうが、恨まれる事で罪を償いたかったんだろう。」
「複雑過ぎて、よく分かりません。元は、大鳥居の家のせいじゃないんですか。」
「そうでもさ。だからかもしれねえ。
大鳥居の家からは逃れられねえ。大鳥居の家、組織を解体しねえ限りはな。
だから、お前ら2人には、組織から離れる様に、組織の矛盾を、安藤の間違いを分からせたかった。そして、その時が来たら、組織を裏切る様に仕向けた。
その為には、いい親父じゃあ、優しいお前らは残っちまう。だから敢えて冷たくしたんじゃねえのかな。本当は可愛がりたかったはずだぜ。こんな出来のいい、優しい子なんだもの。」
2人は顔を見合わせ、照れ臭そうに笑った。
「じゃあ、謙輔は、大鳥居謙輔な。龍治はこのままでいいのかい。」
「勿論です。」
「ん。じゃ、謙輔。暫くうちに下宿しな。」
「え…。それはご迷惑じゃないですか。もう大鳥居の残党は全部思想犯の刑務所に入ってるんでしょう?危険は無いんじゃ…。」
「大したのは来ねえだろうが、安藤が相当逆恨みしてるぜ?刺客が来ねえとも限らねえ。ちゃんと大学生になるまではうちに居な。幸い、うちの龍は勉強見れるしよ。」
龍治が嬉しそうに謙輔に言った。
「凄え頭いいんだぜ?」
「あんな顔がいいのにか?それにあの腕前だろ?なんかズルいな。」
「彼女も可愛いんだ。完全無欠だぜ。」
「お前が自慢してどうすんだよ。」
2人は未だ、龍介が超天然な事も、煩悩を失くし、ある一部分に置いて、かなり変な青年である事も知らない。




