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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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悪党の最期

同じ頃、龍彦は安藤家に顔を出していた。

安藤家側から必死に通路を壊して、無いものにしようとしていたところだった。


「外務省情報局の真行寺です。

イギリスでの顧問襲撃事件の絡みで、調べに同行しています。

首相、これはどういう事です。ここと地続きの大鳥居という家は、戦争が起こせる様な武器を、不法に所持し、令状を持って入った我々を殺しにかかって来ました。

そんな家と地下で繋がっているとは。」


安藤首相は真っ青になって、ヒステリックに言い返した。


「知らない!私は知らん!」


「知らないなら、なんで隣家に家宅捜索が入った途端、急いで、この出入り口を塞ごうとしていたんですか。

この証拠写真もしっかり撮らせて頂いてますよ。

まあ、直ぐ、あなたと隣家の繋がりを示す証拠も出てくるでしょう。

ここで顧問を待たせて頂きます。あなた方は重要参考人だ。身柄は拘束させて頂きます。」


安藤は真っ青になったまま、何も言えなくなった。

もう、身を守ってくれる大鳥居達は居ない。

どうしたらいいのかも分からず、ただ愕然としている様に、龍彦には見えた。





竜朗の話を聞き終えた大輔は、否定する事も無く、ただ笑った。


「八咫烏の加納竜朗、矢張り面白い男だ。お前の息子も面白い奴だがな。」


「龍太郎に直接会って、顔を見せたのはなんだい。あんな奴だが、会いたかったか。」


「あんたは嫌いかもしれないが、あの男は肝が座ってる。どんな拷問をされようが、妻子を人質に取られようが、情報は漏らさない。いい男だ。自衛官としてもな。」


「フン。そうかい。」


竜朗がこの部屋に入ってから、初めて面白く無さそうな顔で目を逸らし、口を尖らせると、大輔は面白そうに笑った。


「さて、話は終わった。夏目の倅、射撃の腕はいいんだろうな。」


竜朗の顔色がサッと変わった。

竜朗が何か言おうとしたその瞬間、大輔は銃を出し、竜朗に向けて構えた。


「達也、撃つな!」


竜朗が夏目の銃身を抑えようとしたが、夏目は素早く竜朗の前に盾となり、大輔と夏目は同時に引き金を引いた。

しかし、心臓から血を噴き出して倒れたのは、大輔だけだった。

竜朗は泣き出しそうな顔で、大輔に駆け寄った。

倒れた大輔から銃を取った竜朗は、夏目に弾倉を見せた。


「ほら…。空だ…。」


「な…。」


呆然とする夏目に、大輔が虫の息で笑いかけた。


「いい腕だな、小僧…。楽に死ねそうだ…。」


「あんた、殺されるのが目的だったのか!」


「悪いな、嫌な役回りをさせた…。しかし、お前は自分の仕事をしただけだ…。稀代の悪党を顧問を守って殺した…。それだけの事だ…。」


竜朗は大輔を抱き起こし、心臓に止血パットを当てた。


「何も、死ぬ事あねえだろうがよ…。」


「加納竜朗…。この部屋に全てある…。お前なら見つけられるだろう…。」


「なんか他に言う事あ無えのかい?龍治にとかよ…。」


「無い。死ぬ間際だけいい人になって死ぬなど、くそくらえだ。」


大鳥居大輔はニヤリと不敵な笑みを残し、死んだ。




しずか達が大輔の部屋の前に駆け付けた時、既に大輔は事切れていた。


「親父…。」


駆け寄った謙輔は、暫く、その死に顔を見て涙を流していたが、不意に顔を上げ、大輔を抱きかかえたままの竜朗を、真剣な眼差しで見つめた。


「親父はみっともない死に方はしませんでしたか。」


「しなかったよ。立派だった。」


「親父は…、親父は最期まで悪党でしたか。」


「ーで…居ようとしたかな…。」


謙輔は泣きながら笑った。


「親父らしいや…。何かお手伝いできる事はありませんか。」


「これから宝探しだ。」


「安藤と繋がる証拠ですね。それなら俺、知ってます。」


謙輔は涙を拭きながら立ち上がると、大きなデスクの下に手を突っ込み、レバーの様な物を引いた。

すると、ギギギと重いものが動く音がし、本棚が横にズレ、小部屋のドアが出て来た。

謙輔はそのドアのキーパネルに大輔の親指を当てて開けた。指紋認証式になっているらしい。

中は棚だらけで、その中には書類や録画、録音したテープやDVDなどがギッシリ詰まっており、死体も3つあった。


「部屋の床や壁を掃除した跡はこれか…。先に殺してくれてたんだな…。」


竜朗は、武部達に調査に入らせると、無表情の裏側で、相当動揺している様子の夏目の肩を抱いた。


「お前は大鳥居が言った通り、自分の仕事しただけなんだよ。弾倉が入ってねえなんて思わねえよ。俺がお前の立場で、顧問守ってたって、同じ事やるぜ。」


「ーはい…。」


「ほれ、気分変えて仕事だ。主だったもん持って、安藤の所行かねえと。たっちゃんが待ちくたびれちまう。」


「はい…。」


竜朗はまだ浮かない顔をしている夏目の背中を、笑いながら強く叩いた。


「ほらあ!どこまで優しく出来てんだい!しょうがないね、もう。たっちゃんトコ先行ってな。」


「え…。」


「たっちゃんなら愚痴れるだろ。ここは完全に制圧した。もう俺を警護する必要は無え。早く行きな。命令。」


夏目は行く前に、謙輔の前に立った。


「俺が射殺した。弾倉は空だったのに、顧問はそれに気付いてたのに、それに気付かず、撃ち殺した。申し訳ない。」


謙輔は驚いた顔の後、微笑んだ。


「あなたは加納顧問を守ったんだ。自分の仕事をしただけでしょう。

親父は、撃ち殺される最期にしたかったんですよ。悪党として。

あなたは利用されてしまっただけだ。気にする事じゃない。」


「ーごめん…。」


夏目は頭を下げ、命令通り立ち去った。

心配そうな龍介に、龍治が声を掛けた。


「真面目なんだな。お前の憧れの男は。」


「うん…。多分、それを見破れなかったっていう事で、自分を責めてるんだと思う。思慮が足りないって…。そんな事無えのに…。」


「ああ。そんな事は無い。だけど、そう考えて更に精進しようとする。未来の顧問かもな。」


「そう思う。」





竜朗が事のあらましを伝えておいてくれたのか、夏目が行くと、龍彦は他の人間に監視を任せ、夏目の肩を抱き、秘密通路の方へ引っ込んだ。


「読めなかった事を責めてるの?」


「はい…。浅はかでした。」


「そりゃ違う。あの段階で弾倉が空なんて、一か八かだろう。」


「でも、顧問の話に、大鳥居は肯定も否定もしなかった。様子から気付くべきでした。顧問は分かってらしたのに…。」


「そこだ、夏目君。」


「は…。」


「だから顧問なんだよ、加納さんは。

だから加納さんは死なせちゃいけない。

未来がボロボロになるかならないかは、あの人の生死にかかってるのは、そこなんだ。」


「あ…。」


夏目が何かに気づいた様子で少し笑った。


「そ。今の段階で顧問になろうとしてどうすんだ、この若造が。」


「そうでした…。でも、真行寺さんも気付いてらしたのでは?」


「まあね。でも、五分五分だった。確信掴めたのは、やっぱり加納さんだけだろう。俺だって、その状況じゃ、疑念は持ってても、大鳥居は射殺したよ。警護してる以上、賭けには出られない。」


「はい。」


「納得行った?」


「はい。行きました。有難うございます。この非常時にご迷惑お掛けしました。」


「いや、暇だから大丈夫。証拠来るまでの見張りなだけだもん。

ああ、今夜のマッカランは美味いぜ、きっと。飲もうね、I.Wハーパーも買ってあるから。」


「はい。」


「ん。じゃ、鬼の夏目、2人で安藤に睨みを利かせていよう。」


「はい。」













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