理想のお母さんは…
その頃、龍介達は、座敷牢のある、別の建物の鍵を開けるのに四苦八苦していた。
そこは小さめの平屋の一軒家風で、龍治の話だと、牢屋代わりの建物で、中には同じ部屋が3つほどあるらしい。
龍治もイギリスに行く直前までここに入れられ、鍵は大輔だけが持っており、食事を運ぶのも大輔自らやっていたそうだ。
外から龍治が声を掛けた所、謙輔の元気な返事は聞こえたものの、電子ロックではない鍵が1つのドアに付き、10個はついていて、今漸く2つ目のドアに差し掛かっていた。
玄関の先にもう1つのドア。今開けているのは、このドアだ。
その奥の廊下沿いに、部屋が3つ並んでいるそうで、矢張りそこにも鍵が5個ついているらしい。
窓からとも考えたが、窓の鉄格子は防弾。
窓も防弾ガラス。壁はというと、なんと、外壁の全てが加納家と同じ様に、CーBDーTの壁だ。
とてもじゃないが、窓も壁も壊せない。
BD-58971-D-51を使っても無理な上、中の謙輔まで危ないし、レーザーソードで切るにも、龍介の一本しか無いから、出力最大で使ったら、多分すぐに電力切れになって止まってしまう。
というわけで、ネチネチと工具を使って鍵を開けていたのだが…。
「ああ、嫌んなってきたわ…。なんだって、この牢屋の小屋だけ、こんなに凄まじい防犯に、頑丈さなんだろうか。」
しずかがブツブツ言い始め、龍介も既にこめかみに青筋を立てて、負けず劣らず嫌になって来ている。
「母さん、コレ、鍵だけ撃ったらどうなんだよ。」
「やれたら最初からやってるわよ。この鍵は壊すと絶対開かなくなる仕掛けがある鍵なの。イギリス時代にマフィアの家で見たわ。」
「ああああああ…。」
「うぐぐぐぐ…。」
龍治は申し訳なくなってしまい、思わず謝ってしまった。
「ふ…、2人共ごめん…。」
「いいのよ!?違うのよ、龍治!」
「兄貴のせいじゃねえだろ。謝るな…。」
言いかけて止まった龍介は、龍治の頭を抱えてしゃがみ込み、しずかは2人の前に盾になる様に立って、特殊作戦用ライフルを構えた。
ドアには銃弾がめり込んでいる。
丁度龍治の頭のあった辺りだ。
3人の目の前には、灯籠真一が立っていた。
「この裏切り者!死ね!」
しずかが寸分早く真一の銃を持つ手を撃ち、弾は天井に当たった。
真一は指をなくし、うずくまり、龍介が直ぐに真一の銃を蹴り飛ばす。
それでも真一は腰から銃を出そうとしたが、しずかが足払いを食らわせて倒れさせ、その手を踏みつけた。
「裏切り者はどっちだか、その足りない頭でよく考えな。あんた達は日本国憲法も、法律も全て破って、国と国民を裏切り、陥れて来たんだからね。」
「うるせえ!慎也!お前のせいだろ!お前のせいで親父は…。親父は裏切ったりしない!きっとお前のせいなんだ!」
龍治は真一の前にしゃがんだ。
「そうだ。俺がお前の親父を脅して喋らせた。日本に帰ったら、頭領に、あんたが全部喋ったって言う。そしたら、頭領はお前達を殺すだろうってな。」
「やっぱり!」
「だけど、あの人は、俺たちには捕まりそうになったら直ぐに自決カプセル飲めって言ってたけど、飲まなかったぜ。震えちまって、飲むのためらってる内に捕まっちまったんだ。」
「うるせええ!黙れ、このっ…!」
するとしずか、何かの構えをしながら怒鳴った。
「うるせえのはてめえだ、このバカタレがあ!うちの子に難癖つけてんじゃねええ!!!」
そして、ボコッという音と共に、真一が突然静かになった。
しずかが真一の顎を思い切り蹴り、気絶させてしまったからである。
「龍。」
「はいよ。」
龍介は言われるまでもなく、真一が他に武器や、例の自決カプセルを持っていないか確認し、手足を拘束して柱に括り付けた。
「全く…。あたしゃ虫の居所が悪いのよ…。この馬鹿…。さ、がんばろ。」
龍治はしずかの剣幕が有難い反面、内心思考停止になるほど驚いていた。
ーあのお母さんが…。いつも可愛くて優しい、料理上手のお母さんが…。お父さんと少女の様にイチャイチャしているお母さんが…。
そんな理想のお母さんは、ただのヤクザだった…。




