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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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爺ちゃんのカン

龍介が高校生活最後の部活を終え、駅前のキングバーガーを借り、後輩達が開いてくれた追い出しコンパで、


「主将、行かないで下さい。」


と泣かれ、有難く思いながら宥めて帰って来ると、直ぐに竜朗の部屋に呼ばれた。


てっきり謙輔救出を反対されるのかとばかり思っていた龍介にとって、それは意外な提案だった。


「一緒に突入だ。俺も行く。謙輔の救出最優先でな。」


「へっ?爺ちゃんまで?」


「どうも大鳥居に待たれてるようなんでな。」


「んん!?」


「まぁ、龍はまだ分かんなくていいよ。とはいえ、多少の銃撃戦は覚悟しなきゃなんねえ。本当にいいんだな?」


「はい。」


「よし。じゃ計画を言う。」


「はい。あ、ちょっと待って。その前に、母さんが病院に一緒に来てたのって、監視要員じゃなかったの?」


「なんだ、監視要員て…。ああ、龍が龍治に謙輔助けようって持ちかけねえかって?

それやってたのは龍太郎だけだよ。珍しく俺の言う事聞きやがった。

しずかちゃんがやる訳ねえだろ。逆に、『なんで未だ言わないのかしら。どーしたのかしら、龍らしくも無い。』ってブツブツ言って、全然やってくんなかったぜ。」


「そうだったんだ…。どうりで率先して一枚噛ませろって言って来た訳だ。」


「そ。『優子ちゃんがそんな目にって考えただけで涙が止まらない。』って言ってたぐれえだもの。やっぱ、親友助けなきゃ、男が廃るって…。」


「お、男が…?」


竜朗は頭を抱えて、悲しそうに言った。


「ーそう言った…。俺、なんか育て方間違えちまったのかねえ…。」


「かもな…。」


「ーんじゃ、計画言う。」


「はい。」





大鳥居大輔が頭領になったのは、真行寺が顧問をしている時代。今から20年前だった。

まだ30そこそこだったが、父親の大鳥居吉輔が、50歳で若年性認知症にかかり、言動がおかしくなってきた事から代替わりしたらしい。

つまり、竜朗の父や妻、京極の母と妹、祖父、しずかの両親の命を奪ったのは、吉輔だった。

敵対政治家やその秘書も、安藤の益にならないとなれば、自殺に見せかけて、確実に殺していった。

彼は安藤家の忠実な僕であり、数々の悪行を平気で成し遂げていった。

その吉輔は、今ではより認知症が進み、もう廃人同然だそうだが、安藤家の方で手厚くみているらしい。

吉輔の時代と大輔の時代になってからを比べると、歴然と違う事がある。

まず暗殺だ。

大輔になってからは、安藤の秘密を握る者は巧妙に自殺に見せかけて殺害はしているが、敵対政治家にしても、図書館関係者にしても、暗殺というのは全くしていない。

敵対政治家に関しても、スキャンダルをリークするという、竜朗達もよく使う手しか使っていない。

そして、Xという名はそこかしこで聞かれるようになる。

つまり、今までは全く姿を現さなかった組織を徐々に喧伝しているかの様にもとれる。

龍太郎拉致は、龍治も言う通り、やたら勿体つけた、遠回しなやり方で、まるで龍太郎に大輔が会いたかったのではないかとも思えた。

龍太郎を拉致した際、大輔は顔を隠すどころか、しっかり見せている。

最近、関わる事件は多いが、その度に大輔は、手掛かりや証拠を残している。

いくらこっちの手際が良かったにしても、大輔側は半歩先を行きながら、結局はこちらの勝ちで終わっている。

大輔側の余裕と捉えていたが、どうも違うと竜朗は感じ始めていた。

やる気が全く無いという訳では無いのだが、大輔の力量と組織力なら、そんな証拠は残さずに済むはずだ。

大輔の裏工作や、引き起こす事件は、当初の計画の緻密さが突然消える、そんな印象がある。

そのまま行けば完璧な計画だったのに、いつもどこかで破綻している。

大輔に能力が無い訳ではないのは、龍治から聞いた数々の暗殺の話で分かる。

こちらは首尾一貫して緻密で、未だに自殺と信じられているし、安藤の弱みも表沙汰になっていない。中には竜朗達も把握していない事案もあった。

その調子で行けば、竜朗や龍太郎の暗殺だって出来たはずである。

それなのに、わざわざイギリスで仕掛けてきた。

考えてみれば、それも妙ではある。

何も、物資の調達などが不便な海外で企てずとも、慣れ親しんだ日本での方がやりやすいに決まっているのに。

しかも、派手な銃撃戦を仕掛けてきている。

それだけ先んじていたのに、この所の失敗続きと、ヤケにも思える和臣襲撃はなんだったのか。

龍治と話した竜朗は、どうも、それも全て、大輔の思惑に思えた。

その理由は、はっきりとは分からない。

今の所、竜朗の頭の中だけに留めているカンでしかない。

だったら直接話すしかない。

竜朗はそう思っていた。




竜朗は、敢えて大っぴらにやる事にした。

大鳥居の敷地の周囲に警官隊と機動隊を配置し、令状を持って竜朗自ら門の前に立った。

応対に出て来た男は、竜朗自らやって来た事に驚いた様子だったが、形式通りに言った。


「ご用件は。」


「児童福祉法違反、児童虐待、監禁容疑、銃刀法違反並びに武装の疑いありという事で、捜査令状が出てる。速やかに開けて貰おう。」


ここまで書類を揃えて準備して来ているのだから、大輔の耳にも、とうの昔に入っているはずだ。

なのに、阻止の手は全く打って来ておらず、安藤家の方は慌てた様子でバタついている。

後ろの方で、安藤の秘書が、なんの捜査だとか聞きに来ている様だが、関係無いと突っ撥ねられているのが聞こえて来る。

大鳥居の敷地は、名目上は、安藤とは無関係の赤の他人の土地になっているので、安藤の秘書はそれ以上突っ込めず、スゴスゴと帰って行った。

安藤も知らなかった様だ。

しかし、大鳥居の敷地は、地下では安藤家と繋がっている。

安藤は生きた心地がしないだろう。

竜朗が正式な手続きを踏んで踏み込んだ以上、法相を使っても、内調を使っても、それを止めさせる事は出来ない。

何故なら、竜朗の地位は、総理大臣の次。

総理大臣に何かあって、それが戦時であったら、暫定的に竜朗が総理大臣を兼務する事になっているのだ。

大輔はそんな事は十分、分かっている。

その上で、竜朗の突入を阻止しなかった。

竜朗の予想は、確信に変わった。


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