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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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一応解決

龍介は愛玩動物化してしまった。

竜朗と真行寺が奪い合う様に膝に乗せる。

寝る時は、真行寺に抱きかかえられて寝る。

翌日起きれば、朝っぱらから瑠璃がやって来て、ご飯、歯磨き、お着替えと全部世話を焼き、一々写真を撮る。


「りゅり!てんめえ、おぼえてりょよ!」


でも、やっぱり迫力は全く無いので、可愛いと抱きしめられる。


「瑠璃って言えないのね。可愛いんだからもおおお~。うん、忘れる訳ないわよ。こんな可愛い龍の事。」


ーちっがーう!!!俺が言ってんのは、この仕打ちだああ!


「俺はごしゃいじじゃねえっ!16しゃいだああ!」


「5歳なのよ、龍。うふふ。」


「そうそう。」


そしてまた真行寺の膝の上…。


ー違うっつーのにいいいいー!


しかし、確かに出来ない事は山程ある。

5歳児はこんなに不便なのかと改めて思うが、ボタンを嵌めるにも時間はかかるし、手が今よりずっと上手く動かない。

それに、一生懸命手足を動かして歩いても、自分でもイライラする程のチマチマぶりで、加納家の中を動くにも大冒険だ。

そういう意味では、真行寺や竜朗に抱っこされているのは、助かるという側面はあるのだが、それにしても、プライドはズタズタ。

そもそも、龍介が自分の名前を『かのーりゅうちゅけ』としか言えず、しずかと竜朗にしか分からない言語を話していたというのは、彼にとっては封印しておきたい過去である。

特に、誰が相手でも論破できる程の口達者になった今しか知らない人間には、絶対知られたくなかった。

それを思いっきり白日の下に晒し、瑠璃のみならず、鸞やまりもにまでばれてしまった。

かなり辛い。


そして、龍介にとって、もう一つ辛い事がある。


ポチが龍介を認識してくれないのだ。

でも、龍介っぽいとは思い、ポチも困惑している様ではあるのだが、警戒しまくって、呼んでも側に来てくれない。


ー寂しい…。


思わずしょんぼりしてしまうと、爺様2人と瑠璃がこぞってあやしにかかる。


「どうした、どうした。龍。爺ちゃんが高い高いしてやろうか?」


「肩車はどうだ、龍介。」


「龍、クッキー食べる?ほら。ポチとセーラ型にしてきたのよ?」


完全に5歳児扱い。

中身は立派な16歳なのに。


ー誰か早く治してくれええええー!!!


心の叫びが爆発した時、龍介のiPhoneからLINEの着信音がした。


「ちいらぎだっ!」


3人にクスッと笑われ落ち込みつつ、まりもからのLINEを読み上げる。


「キャチャリン、起きたら元に戻りまちた。かのーくんはどうでちゅか。キャチャリン、元もどったって!俺も時間が経ったりゃ、元戻れりゅんじゃねえの!?」


「そうだな。」


「そうね。」


やはり子供扱いで、ニコニコされながら、頭を撫でられる。

ずっとせせら笑っている寅彦を睨みつけるが、寅彦にまで、


「超~可愛いぞ、龍。」


と言われ、処置なし状態。

そこに、鸞がやって来た。

一応、作戦本部は、加納家になっているからだ。


「柊木さんからのLINE、来た?」


鸞は龍介に普通に聞いた。

今のところ、普通に接してくれるのは、鸞だけだ。


「来ちゃっ!」


「良かった。キャサリンが元に戻ったのは、推定2日と半日。つまり50時間位。

龍介君が5歳になってからまだ20時間だから、もう暫くの辛抱ってところかしらね。」


「鸞ちゃんは俺がこのじょーたい、ちゅらいってわかってくりるんだ…。」


感動しながら言うと、鸞はアッサリ言った。


「分かるわよ。だって、そんな変な日本語、16にもなって喋ってんの、恥ずかしいでしょう。

そもそも、5歳の段階で、それっていうのも、かなり恥ずかしい過去でしょうし。」


気遣ってくれるのではなく、グサグサと突き刺さる事実を言いたい放題なだけだった。

更に打ちひしがれているところに、真行寺のところに亀一から電話がかかって来た。

亀一は夜通し分析していた様だ。

スピーカーにして、真行寺が出る。


「寝てないのか、きいっちゃん。大丈夫かい?無理しない様にね。」


「大丈夫です。意外と眠くありません。途中で止められなかったんで、ユキとやっちゃうかってそのまま…。

でも、大体分かったんで、これから寝ます。」


「うん。そうしなさい、それで分かったかい?」


「はい。あの花は、今迄自然界には存在していなかった品種です。

大麻とか、なんか色々な薬効のある植物がかけ合わさっちゃって、出来た物で、あの草のトンネル内以外には存在していません。

その効果は見て分かる通り、若返り。

花の花粉を吸い込むと、ざっと、10年前後若返ります。

但し、元が麻薬なだけに、常用は危険な物の様で、これを利用して若返り薬を作るとか、軍用に使うとかは厳しそうです。」


「何い!?危険だあ!?龍は大丈夫なのか、亀一!」


竜朗が顔色を変えて怒鳴り、真行寺と瑠璃にも動揺が走る。


「いや、一回こっきりなら大丈夫です。

毒素としては微量ですし、体内に残らないタイプの物ですから、代謝されてなくなります。

ただ、ひっきりなしに使い続けたら、その毒素は溜まって行き、死に至ります。

でも、この毒素が、若返りの成分なので、毒素を取り除いて薬として作るという事も出来ませんので。」


「本当に?龍介は検査させた方がいいんじゃないか?」


「とも思ったんですが、ラットで実験したところ、何も出ませんでした。検査しても、何も出ないんですよ。」


「しかし、きいっちゃん、毒と言ったし、死に至ると…。」


「例えば、ヒ素です。海中の魚にも、微量には含まれています。

でも、それを食べ続けているからと言って、ヒ素中毒にはなりません。

ヒ素中毒には、相当量のヒ素を摂取しないとならない。それと同じです。」


「じゃあ、相当回数摂取しない限り、死には至らないんじゃ…?」


「いや、それが、元の植物が麻薬なところの恐ろしさですね。

言わば、この花は、合成麻薬みたいなもんです。

ですから、効果を出す為の摂取量が増えて行っちまうんですよ。

次の時は、5倍じゃないと、効果が出ない。

次は10倍と、増やして行かないと効かないんです。

そうすると、毒素の摂取も多くなってしまい、死に至るという事です。

10年以上生きてるラットというのが居なかったので、実際実験したわけじゃないので、絶対とは言えませんが、一回摂取すると、言わば、耐性みたいなもんが出来ちまうんですね。」


「なるほどな…。じゃあ、龍介は心配ないのか。」


「無いと思われます。ただ、関係無いかもしれませんが、今後龍は、麻薬の類いを摂取しても、ラリったりしない可能性が。」


「麻薬の耐性が出来たって事なのか?」


「あの花の成分は麻薬ですから。」


「なるほどなあ。まあ、それ位ならいいか…。」


「ですね。因みに、もしかしたら、若返っているのでは無く、ものすごく強い幻覚を起こしているとも考えられるんです。

本当に若返っているのではなく、幻覚があまりに凄くて、見た目まで変わっちまったと…。

まあ、その辺は、正直俺たちも分かっていません。

実際、若返った龍とか猫とか見てる訳ですし、両方とも、若返ると幻覚にしては一致しているのも妙かもしれませんから。

ただ、本人に強い幻覚が起きると、周囲にまでそう見える作用があるのかどうかというのは、今後、寅次郎さんが研究されるそうですが、無いわけでは無いかもしれません。」


「成る程。分かった。報告書は後でいいから、まずはゆっくり休んでくれ。寅之君も有難う。」


一応の解決は見た。

キャサリンは治ったし、龍介も、あと30時間もすれば、元に戻れるし、取り立てて健康障害も出ない様だし。


ーでも、あと30時間もこの調子かよ~!!


周りはあと30時間しかないと言い、5歳児龍介をこぞって可愛がる。

勿論、5歳児として。


ーもう嫌ああああー!!!誰か助けてええええー!!!!




そして、それは突然訪れた。

この状態では仕方が無いと、学校を休ませて、竜朗まで仕事を休んで、所在無げにしている龍介を構わず、真行寺と交代で抱っこしていた時の事。


「いちゃい!なんかきちゅい!」


「痛い?きつい?どした、龍。」


龍介は竜朗の膝から飛び降り、やおら服を脱ぎ出し全裸になってしまった。

確かに、目に見えて大きくなり始めている。

そして脱ぎ終わると、気絶する様に、その場に大の字になって眠ってしまった。


固唾を飲んで、龍介を見守る爺さん達。

龍介は早送りの様に大きくなって行き、とうとう今の大きさに戻ってしまった。


思わず2人で深い溜息を吐く。


「あーあ、戻っちまいましたねえ…。」


「本とだなあ…。あんな可愛かったのに…。龍彦にも見せてやりたかった…。」


「ですよね…。」


また2人揃って大きな溜息。

毛布を掛けてやり、ガッカリしていると、ポチがぶっ飛んで来て、龍介の顔を舐めまくり始める。

目覚める龍介。


「ポチい!分かってくれたのか!」


「くうんくうん!」


喜び合う2人に、ガッカリする爺様達。


「なんでそんなガッカリしてんだよ。失礼な。」


「だってさあ。ねえ、顧問。」


「だよな、竜朗。」


2人の落胆ぶりを見て、若干納得は行かなかったが、期せずして復讐は遂げられた様だ。













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