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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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帰国

岡野は医者も驚く驚異的な回復を遂げ、10日もすると動かせる様になったので、帰国出来る事になった。

日本大使館で新しい名前の正式なパスポートも作り、丁度来ていた真行寺の友人である中国人の黄さんのプライベートジェットに乗せて貰える事になり、帰路の安全も確保出来た。


「ちんぎょーじさんの結婚式行ったけど、本と幸せそうだったね!ちんぎょーじさんは元気!?」


そう、黄さんとは、あの、ちんぎょーじさんを連発する、陽気な中国人である。


「お陰様で元気です。当分死なねえんじゃねえかな。」


「そうなの!それはいいね!ちんぎょーじさんには長生きして貰わないとね!」


「そ、そうですね…。」


龍彦も笑いを堪えるのに必死だが、岡野ー改、真行寺龍治も笑いを堪えて、傷が痛み、二重の苦しさである。


「龍治、傷に障るから眠ってなさい…。」


「う…うん…。」


龍治のツボらしく、そうは言っても、まだ笑っている。


「真行寺龍治。なんか強そうでいい名前ね。どういう由来なの?」


「うちの龍介はやんちゃだろ?」


「いい子だけど、確かに危なっかしいわね。ジュニアの小さい時みたいね。」


黄さんは、龍彦が子供の時からの知り合いなので、龍彦がいい年のオッサンになっても、ジュニアと呼ぶ。


「だから、その龍介を治めてくれるといいなという願いを込めてつけたんだ。龍介の兄貴だから。」


「成る程。大変ね、龍治。」


「いや…。楽しみでたまんねえんだ。」


「そうなの。いい兄弟になりそうね。ところで、ちんぎょーじさんの家に暫く住むんでしょ!?うち近いから遊びに来てね!?」


また始まるちんぎょーじさんに、やっぱり笑いが止まらない。




羽田に到着すると、しずかと龍介は勿論、双子も出迎えに来ていた。

竜朗と夏目まで居る。

双子が掲げる、龍太郎譲りのバカでっかい横断幕には、


「おっきいにいに!お帰りなさい!」


と、ピンクの背景に水色で書かれ、しずかと龍介、双子の似顔絵が描かれていて、相当恥ずかしく、龍介としずかも、心なしか距離を取っていたが、龍治は嬉しそうだった。


「有難う…。よろしくな…。」


担架に乗せられたまま、恥ずかしそうに双子に言う龍治の目は真っ赤だった。

相当感激しているらしい。


ーいい人だ…。こんな恥ずかしいのに…。


龍介はそう思いながら、ニヤリと笑って、龍治と堅い握手を交わした。


「龍介です。宜しく。兄貴。」


「うん…。」


龍治に掛かっているブランケットを直しながらしずかも言う。


「お母さんとお呼び。」


いきなりそれなので、笑ってしまいながらも頷く龍治。


「本とありがとな。たっちゃん助けてくれて。」


「いや、そんな…。」


そして珍しく夏目も言った。


「あの時、俺は真っ白になっちまった。本と有難う。」


「いや、だってあんた、両手がランチャーで塞がってたじゃん…。」


「いや。ランチャー放り投げて、真行寺さんを突き飛ばすなり、庇うなりすべきだったんだ。なのに、真っ白になって何も出来ないなんて…。お前が助けてくれなかったら…。」


竜朗が苦笑しながら、夏目の頭を小突いた。


「こいつは猛反省しちまって、訓練の鬼通り越して閻魔大王とか呼ばれてるんだぜ。」


「ーえ…、閻魔大王…。凄えぴったりだな…。」


「あん?」


夏目の片眉が上がってしまったので、龍彦が慌てて作り笑いを浮かべつつ、既に担架を押しながら言った。


「未だ安静が必要なんで、病院に急いで行かないとだから。」


「おう。そうだ。長旅で疲れたろ?陸自病院にはしっかり話通してある。あそこなら安全だ。まあ、地下ってのが気が滅入るかもしれねえけどよ。

しずかちゃんと龍が護衛がてら着いてくっつーから、俺はふたごっち連れて帰ってるから。」


「はい。わざわざ有難うございます。夏目君、そんな事は気にせんでいいから、気をつけて。」


「はい。有難うございます。龍介、無理すんな。」


仏頂面で龍介にそう言うと、もう竜朗の護衛に戻っている。





龍介は竜朗達の予想通り、謙輔を助ける話を龍治としたかった。

だが、見舞いに行くとなると、しずかと苺が付いて来る。

亀一にも話した所、それは是非とも協力したいと言ってくれたのだが、亀一が行こうとすると、蜜柑と龍太郎がセットでくっ付いて来てしまうのだと言う。

蜜柑は兎も角、龍太郎も多分監視要員である事は間違いない。


「母さん…。なんで毎日一緒に来るんだよ。」


「いいじゃないの。大体、あんたがあたしのRB7乗って行っちゃったら、私が家に残ってたって、買い物も出来ないじゃない。」


「グランパの家は都会のど真ん中なんだから、車無くたって、買い物出来るだろ?」


「おうちの建て直しでお金掛かるんです。少しでも安い所でお買い物すんのっ。」


しずかも絶対、監視要員である。


ー2人にもなれねえじゃん…。


寅彦と悟は図書館で仕事を手伝っているし、朱雀は修行の旅だかなんだかに出てしまった。

中国だと言っていたから、佳吾に継ぐ、伝説のスナイパー、一本杉に教えを請いに行ったのかもしれない。

龍介の苦悩を知ってか知らずか、龍治は申し訳なさそうに言った。


「あの…、ここ来るのも大変なんじゃ…。東京から相模原って遠いだろ…?」


しずかは笑顔で答える。


「それが大丈夫なの。直通道路があるのよ。」


「直通道路?」


「そう。グランパの家と蔵、図書館、情報局、これ、全部地下で直通道路にして繋げてあるの。制限速度もないわ。だから20分もあれば、余裕で着けるの。」


「そうなんですか…。」


「龍治。敬語なんか要りませんよって何回言えば分かるんですか。お母さんが嫌なら、母ちゃんでもお袋でもいいから、ちゃんとお呼び。」


「いや、なんか悪くて…。」


「なんでよ。」


「あんま若くて可愛いから…。」


途端に頬に手を当てて、にやけるしずか。


「いや~ん。もっと褒めてえ~。」


龍介は情けなくて頭を抱えてしまったが、龍治は楽しそうに笑っている。


ー退院して来てからなら、時間作れるかな…。


今は、龍介でも諦めるしかなさそうだ。

仕方がないので、龍彦に頼まれていた、大学に行く為の試験について話す事にする。


「兄貴、高校卒業程度認定試験ていうの調べたんだけど、1回目は出願が終わってて、2回目の11月の試験のならまだ間に合うんだけど、どうする?一応、出願だけしとく?」


「有難う…。もう調べてくれたのか…。でも、11月までに間に合うかな、勉強…。」


龍介は龍彦としずかに、余裕がある時でいいからと、龍治の勉強を見る事を頼まれていた。

龍治が帰国してから、身体に障らない様、1日1教科という感じで、学力がどの程度あるのかテストしてみたが、龍治は国語と日本史や現代社会、化学、政治経済の成績は、若干知識の偏りはあるものの、かなり良かった。

その代わり、数学と英語、古文、漢文はあまり良くない。

数学は中学生レベルまではクリアしているが、英語、古文、漢文は酷い。

小学生レベルだった。

これを高卒程度まで持ち上げるのが、どれ位時間がかかるのか、龍介には検討もつかない。

ただ、他の出来る教科から行くと、龍治は龍彦が言った通り、元の頭は良さそうだし、飲み込みも良さそうな気はしている。

11月の試験は満更無茶でも無い様な気がしていた。


「兄貴は他の出来過ぎ位の教科から言って、お父さんが言う通り、頭いいと思うんだ。

問題は数学と英語、古文、漢文だけだし、みっちりやれば、どうにかなるかもしれない。

取り敢えず受けても、全教科の合計点で合格が決まるんじゃなく、合格点に達した教科は随時単位が取れるみたいな感じらしいから、出願して受けて、ダメだったのは、また来年でもいいんじゃねえかな。」


「そっか…。分かった。やってみるよ。でもいいのか?龍介は大学受験控えてんだろ?そっち優先にしてくれよ?」


龍介はニヤリと笑って、踏ん反り返った。


「何言ってやがんだ、水臭い。兄貴なんだから、もっと威張ってろ。俺は大丈夫だから。

じゃ、一応、この問題集とか参考書を置いて行くから、具合がいい時にやってみて。分かんねえ所があったら、また来た時に聞いて。」


「うん…。有難う…。」




翌日はしずかだけが来た。


「今日は、龍達は登校日なのよ。」


「登校日って何?」


「夏休みなんだけど、学校に行かないといけない日なの。」


「へえー。そんなのがあるんだ。面倒だな。」


「そうね。私も子供の時はそう思ってたわ。でも、大人になって分かった。」


「何が?」


「登校日は親へのご褒美。」


「え?どういう事?」


「普段は学校行って居ない子供が、一日中うちに居る訳よ。そうすっと、昼ごはんだ、おやつだ、なんだかんだと。

それに、居たら居たで、なんか掃除とかも自由にできないでしょう。ああ、地獄の夏休みだああって、親が腐り始めた所で、登校日よ。」


しずかの嬉しそうな笑顔で、龍治にも、その天国度合いが理解出来た。


「そっか。でも、折角気ままに出来る日なのに…。」


「龍治。お母さんは好き好んで来てるの。ほっといて頂戴?」


ニッと笑って、そう言いながら、龍治の洗濯物を新しい物に取り替えたり、焼いて来たケーキを出してくれるしずかを見ていたら、龍治の目頭はまた熱くなって来てしまった。


「いいのかな、俺、こんな幸せで…。」


しずかは龍治を見て、頭を撫で、その内泣き出してしまった。


「お…母さん…?」


「幸せって思ってくれるのね…。良かった…。幸せにならなきゃダメ、あなたは。

今までしなくていい苦労ばっかりしてきて、感じなきゃいけない幸せが、借金の様に溜まってるんだから、全部昇華しないと、死ねないんだからね?」


「そ、そうなの…?」


「そうなの。これから先は、遠慮しないで、ずっと幸せでいなきゃダメ。」


「うん…。」


龍治は、今まで、龍彦家族の様な、裏の無い、いい人間など見た事が無かった。

だから、人間を見る目が鍛えられたのかもしれないが、こんな人達の家族になれて、本当に、心から幸せだと思った。

竜朗も、言われて来た人物像とは真逆だった。

極悪非道な汚い人間の極致の様に聞いていたが、全く逆で、それは、安藤や大鳥居の事であると、改めて思った。

世の中には裏の無い人間など居ないと思って生きて来た。

だから、いくら、大鳥居達が言う、竜朗や龍彦達の人物像に疑惑を持っても、まさかここまでいい人間だとは思っていなかったのである。

だから、やれる事は全てやるのが恩返しな様な気がしていた。












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