蜜柑のアレ、その全貌
敵は予想通り、左側の塀を登り、続々とやって来て、一応いい動きで、配置に着いた。
「ラジコン飛行機カメラで、こっちが気付いてるのはバレてる。却って都合がいいから、軽くあしらってやろう。しずかちゃん。」
「はい。」
リビングに置いてある、100型という巨大テレビは、切り替えるだけで、加納家の外に設置されている全ての監視カメラ映像が映り、テレビ台の引き出しはコントロールパネルである。
しずかはコントロールパネルの赤いボタンを2つ押した。
建物左側の庭の、建物の直ぐ側の地面と、屋根から小さな扉が10個づつ位開くなり、機銃が出て来て、撃ち始めた。
敵は慌てて盾を用意し、機銃を狙って撃ち返しているが、もう既に何人かは倒れている。
「お粗末だなあ。」
龍介が青ざめた顔のまま、そう言った司令官の真行寺のシャツの袖を引っ張った。
「グランパ…。こんな程度の低い奴ら、俺たちだけでなんとかなるんじゃないかな…。」
「龍介、しずかちゃんもさっき言ってたろ?まがいなりにも大人として、高校生の君達に銃撃戦なんかやらせたくないんだ。他に方法が無い訳でなし。な?」
「うう…ん…。」
返事なんだか、唸ったんだか分からない声を出す龍介。
機銃をなんとか撃ち、機能不全にすると、盾に覆われた部隊が、龍介が持っているビームサーベルと同じ物を出し、家の壁を切り始めた。
出力最大にすれば、CーBDーTでも切れるのだ。
「んまっ。龍太郎さんの自信作を悪用するなんてっ。」
「全くだな。じゃあ、アレ、行こうか、しずかちゃん。」
「ーはい…。」
しずかは丸でお葬式の様な暗い顔になって、返事をすると、目を閉じて、やけの様に叫びながら、ドクロマークの付いたボタンを押した。
「お父様、龍太郎さん!ごめんなさい!!!」
その瞬間、ビリビリと電気が走る様な音がし、生き残ってそこに居た敵、50人が、青い光の糸の様な物に絡め捕られ、苦しみ、身動きが取れなくなり始めた。
「これは苺だな…。こんだけでいい気がすんだけどな…。」
「そう思うんだけど、押したら最後、途中で強制終了出来ないのよ…。」
「みか~ん…。」
龍介としずかは肩を落とし、泣きそうになっているが、いい感じの出だしに、真行寺他のメンバーは、期待して見ている。
その青い電磁波の様な光の糸は、無尽蔵に広がり、動く物、生体と思われる物、全てを絡め取って行き、捕らわれた方は、なんの抵抗も出来ない様だ。
切っても撃っても、それは消える事が無い。
そして、全ての敵が青い電磁波に絡め捕られ、全く身動き出来なくなると、ウィーンと何かが回り出す音がし始めた。
「来る…。」
頭を抱えて、殆ど泣いている龍介としずか。
そして…。
ードカーン!!!
と物凄い音量の衝撃音と共に、頑丈な加納家がガタガタ揺れた。
監視カメラも、肉眼でも、物凄い土けむりで何も見えない。
そして漸く煙が収まった時、6人が目にしたのは、何にも無い、空き地の様な庭だった。
リビングの直ぐ横が庭。
これはあり得ない。
「ああああ~!!!お父様のお部屋があああ!!!」
しずかが叫び、全員で、リビングの端っこに行き、辺りを見回す。
最早、死体さえ消え去っている。
庭の枯山水なんか勿論無い。
二階も無い。
建物の左側全てが切り取った様になくなってしまったのだ。
「龍太郎さんの研究室まで…。書斎には貴重品がいっぱいあったのに…。」
泣き崩れるしずか。
言葉を失くす真行寺達。
龍介はというと、がっくりと肩を落とし、珍しくブツブツと呟いている。
「蜜柑…。だから信用しちゃダメなんだよ…。一体何使ったら、こんな一瞬にして消えるもんが出来んだよ…。CーBDーT使った家だぞ…。もう遊んでないで、さっさと父さんの所に行って、物には限度があるって事を学んで来い…。大体、人間はなんで消えてんだ…。」
ハッと気がつくと、龍介の横には、ちんまりと、蜜柑がパジャマのまま立っていた。
「それは企業秘密でち。」
「みか~ん!!!企業秘密とか言えるレベルじゃねえだろ!どおすんだ、コレ!」
「それは知らないでち!因みに人体などの生命体は急速分解されたんでち。苺との共同制作の成分のお陰でち。では。」
それだけ早口で捲し立てる様に言うと、捕まえようとする龍介の手をすり抜け、シェルターの方に逃げて行ってしまった。
「みか~ん!!。待ちなさい!コラあ!」
「いやあよ~だ、ぴょん!亀一にいに助けて~!」
シェルターにぴょんと足から飛び込んでしまった。
「うおっ。」
と小さく亀一の呻き声がした所を見ると、下で蜜柑を受け取らされたのだろう。
「全く…。だから言ったのに…。どうすんの、グランパ…。」
真行寺はイケメン爺さん台無しの薄ら笑いを浮かべていた。
「は…はははは…。どうすっかな…。竜朗、泣くな、こりゃ…。あいつのお宝も全部無くなっちまったもんな…。」
真行寺の目の端には涙が。
6人は深い深いため息をついた。
「ツー事らしい…。」
飛行機の中での竜朗の話を聞いていた龍太郎は、涙目になって、竜朗に訴えた。
「俺の研究データも…。ちっちゃい龍と作ったフランス車のプラモも…。龍と旅行に行った時に作った卵の殻細工の絵も、しずかとの思い出の物も、新婚旅行の写真も、結婚式の写真も…全部?」
「うちの左側にあったもんは全部だよ…。俺のコレクションのアンティーク時計も全部だああ!!。」
竜朗も怒りつつ泣いている。
いち早く冷静さを取り戻した佳吾が、話を逸らして、気を紛らわせようとしたのか聞いた。
「それで、今はどこに住んでいるのかね…。」
「取り敢えず、顧問のうち…。うちは大急ぎで建て直してくれてるとさ…。俺も、暫くあそこに住む事に…。」
言いながら、竜朗と龍太郎は大きなため息をつき、窓の外を虚ろな目で見た。
今日は天気がいいらしい。
「ああああ…。」
飛行機が横田に到着するまで、2人はそれしか言わなかった。




