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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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敵の全貌

加来からの緊急連絡は、自衛隊の裏切り者の内、階級職以外が大体割れたというものと、もう1つ、その自衛隊員の全員、つまり54名が一斉に朝霞駐屯地から居なくなっているというものだった。

全員、休暇申請を出しているが、調べた所、自宅や寮には居ないし、旅行している形跡も無い。




「なんだって朝霞駐屯地に集中してんだ、親父…。」


シェルターに居ても、一応上の動きはモニターで入って来るので、未だ起きていた亀一は和臣と優子だけ起こして聞いた。


「朝霞…。ああ…。俺、凄え絞ってしまった…。」


「ええ!?親父が!?」


「そう…。空自との合同演習でさあ…。どうせ戦争になんかなんねえのにって、タラタラやってんのがアリアリ分かったもんだから、キレちゃってさあ…。」


和臣は、普段はのほほんと穏やかで、優しい人柄だが、キレたら大変な性癖を持っている。

亀一との喧嘩が刃物沙汰になるのは、その一端である。


「そのまま、お前をしごくように、過酷訓練させちゃったんだよね…。」


「あの殺すぞなテンションで、あのしごきをやったのか…。」


「うん。形式だけの訓練の筈だったんだけど…。」


すると優子が言った。


「でも、そんな事当たり前じゃないの。特殊部隊の方は皆さん、あれぐらい、毎日やってらっしゃるでしょう?形式だけの訓練なんて、税金の無駄遣いよ。ちゃんとやらなきゃ。」


「そうなんだけどさ…。まあ、今時の若い奴に多い、アレじゃねえかな。自分のしたいようにさせてくれない奴はみんな悪い奴。逆恨みするっていう。」


「まあ嫌だ!」


「実際、なんで朝霞で、俺まで行ってやったかというと、朝霞はちょっとそういうしまってねえ若い奴が多くて、そこ管理してるニ佐が困って、応援求めて来たってのもあってさ。」


「じゃあ、形式的なものでやるつもりは、上層部には無かったのね。」


「そう。朝霞はちょっと問題有りの自衛官を集める所化しちまってた。まあ、ちゃんとしたのも勿論居るんだが。」


「どうしてそんな事に…。辞めさせるまで行かないの?」


「うーん…。人手不足ってのがあってね…。

そいつら全員、陸自高校出た訳でも、防衛大出た訳でもなくて。

勿論、そういう連中でも、真面目にきっちりやってる奴は沢山居るんだけど、その中でも、いわば、銃を撃ちたい、銃火器オタクってだけで入って来ちまったのが居て、そういうのはさ、災害援助と、辛い訓練ばっかだって、段々腐って行く訳だよ。

でも、自衛隊出たって、就職も面倒だからってんで、自衛隊に居る。

そんなのが集団の中に居ると、士気が下がるって事で、朝霞に集めだしたんだよ。

辞めさせる様な悪事も働かねえし、命令されりゃ一応なんでもやるから、どうしようもねえんだよ。

で、隔離されてるもんだから、余計捻くれるし、武器オタクは加速し、戦争やりたいになって行って…って図式かもしれない。」


和臣の言った事を整理しながら、亀一が聞いた。


「つまり、外にはその銃火器オタクが朝霞から大挙して来たと?」


「何人つった?」


「54人。」


「ああ、全員だな。俺が更に絞りあげたのも、54人だ。」


「その馬鹿の銃火器オタク共が親父への逆恨みをしてるって事で、安藤側に戦争させてやる、その為には親父が邪魔だ。金や武器は出してやるから、襲撃してみねえかと持ち掛けられて、恨み重なる長岡ならと、大挙して押し寄せたって訳か。」


「そうなるなあ。」


「龍に伝えとく。」




亀一からの報告を受け、真行寺は全員を集め、作戦会議に入っていた。


「なるほど。しかし、馬鹿だけで仕損じても困るだろうから、Xの配下の人間は居るだろう。寅、加来君は未だ、階級職の奴らの実態は掴んでないよな?」


「はい。結構手間取ってるようです。手伝おうかと思いましたが、余裕が無く…。すみません。」


「いや。寅はこっちの護衛に集中して欲しいから、それでいい。

そうなると、昼間の梶井がXへの点数稼ぎに来て、指揮をするって可能性もあるが、まあ、あいつはたかがしれてる。もうちょっとマシなのが来てるだろう。

何せ、イギリスは失敗続き。こっちまで失敗じゃ、損失が大き過ぎる。

で、何人居るかだな…。悟君、どう?」


悟は加納家の屋根の上の銃の出る所から、カメラ付きのラジコン飛行機を飛ばしていた。


「こんな感じで、先ほど飛行機は撃ち落とされたんですが…。」


悟はパソコンの画像を全員に向けて見せた。


「自衛隊のコンバットスーツを着た人間が56人。他、図書館風の真っ黒いコンバットスーツを着た人間が10人。でも、肩の所の八咫烏のワッペンはありません。」


真行寺も龍介達も笑みを浮かべた。

そこまできっちりチェックするとは大したものである。


「万が一、図書館の人が居たら嫌だなと思って、ワッペン確認しようと近づけ過ぎちゃって、撃ち落とされちゃったんですけど。すみません。」


「いやいや。お手柄だ。悟君。師匠がいいと違うね。

あのワッペンは持ち出し禁止だし、複製は難しい物になってる。混戦の時に暗闇でも見分けが付くように、特殊な塗料を入れていてね。でも、それは図書館の人間しか知らないから、複製は無理なんだ。

コンバットスーツも特注品で、他には無い仕様になってる。その分重いが、通弾性は格段に下がるから、他のスーツは着られない。図書館の人間が入ってたら、アレはどんな時も着るだろう。かと言って、ワッペンは剥がせない。剥がそうとしたら、本体が破ける。つまり、図書館には裏切り者は居ないと見て間違い無いだろう。

お陰でちょっと安心したよ。有難う。」


「はい。」


悟が嬉しそうに笑うと、周りも嬉しそうにニヤーっと笑った。

真行寺は悟の頭を撫で、続ける。


「という事は、つまり66人。ここは厚木基地が近い。加納家で目立った事をやったら、厚木から米軍が応援に来るという手筈になってるのは、内調を牛耳ってるなら分かっているだろう。いきなりドッカーンとはやらんだろうし、ドッカーンとやられたくらいじゃ、この家はビクともせんが…。となると、行くか、アレ。」


しずかと龍介の表情が一瞬にして強張った。


「グランパ…。グランパは蜜柑の恐ろしさを知らねえから…。」


「そう言うなよ。顔あんな可愛いんだし、女の子だぜ?」


「いや、通常の女の子って概念からは、とっくの昔に逸脱してんだって…。」


「まあまあ、いいじゃないか。やってみよう。」


しずかが青い顔のまま頷いた。


「ー正直、未だ高校生のこの子達に、銃撃戦なんかさせたくありません。それに、図書館や米軍に助けを求めても、今度はその方達が銃撃戦で命を落とす可能性があります。

クズの集まりでも、敵の数があまりに多いから。

ここは…、涙を飲んで、蜜柑のアレを使いましょう…。」


涙を飲んでというくだりに引っかかる朱雀と、寅彦、悟は顔を見合わせた。

この段階では、この3人も、真行寺も、蜜柑のアレが及ぼす影響が、あそこまでとは思わなかったのである…。





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