要塞な加納家
夕方になり、龍介達が無事に帰って来ると、早速夕食を囲みながら、作戦会議。
「その蜜柑のアレを使うのは最終手段にした方が良くねえかな…。」
龍介が言うと、蜜柑のほっぺが風船の様に膨らんだ。
「なによお、にいにい…。」
「だって、蜜柑…。お前の作るもんは、一々規模がデカ過ぎんだろ?他の家に迷惑掛けたりしたら…。」
「よそのお宅にはご迷惑おかけしないでちっ!」
「またでちになってるし…。」
真行寺が笑いながら、蜜柑の頭を撫でつつ、避けてあった人参を蜜柑の口に入れながら言った。
「俺も竜朗から頼まれてるし、蜜柑ちゃんのアレは最終手段にとっておいた方がいいかなと思うなあ。」
「グランパがそう言うならいいでちけど…。」
あまり納得行っていない様だが、蜜柑も承諾したので、話はこちらから仕掛けるかどうかに戻った。
「しずかちゃんはどう思う?」
「私は…。性格的には待っているより、仕掛けてさっさと終わらせた方がいいですけど、正直、向こうの出方が分かりません。自衛隊内の裏切り者に関しても、何人、誰がというのはまだ分かっていません。こちらから仕掛けて、待ってましたとばかりに、大勢で襲撃されたら、持たないかもしれない。」
「そう言う時に、アレを使えばいいんでち…。」
「みかーん?おかたんがお話ししてるのー。」
「はーい…。ごめんなしゃーい。」
「仮に蜜柑のアレが、ご近所にご迷惑にならないとしても、結構な騒ぎにはなる。そうなったら、後始末の隠蔽工作が大変。だから、それは、龍やお義父様がおっしゃる通り、最終手段にすべき。となると、結構一か八かな所があるという事で、相手の出方を待つか、裏切り者がある程度判明してからの方がいいのではないかと思いますが。」
「うん。龍介は?」
「へ?俺え?」
「司令官は俺。中隊長はしずかちゃんと龍介なんだから、言いなさい。」
「あ、はい…。確かに、相手の出方は母さんの言う通り、何も分からない。どこがどう援護に来るのかも。敵の出方がある程度すら分からない以上、やきもきはするけど、こっちから動くのは危険かと思います。」
「うん。反対意見はあるかね?」
誰も手を挙げない。
大体、1番『打って出ようぜ。』と言いそうな2人が慎重論になっているのだから、他のメンバーが打って出ようとは思わないかもしれない。
「実は私も2人と同意見だ。では緊張は強いられるが、臨戦態勢で待っている事にしよう。今夜からは、長岡君、優子ちゃん、きいっちゃん親子、拓也君、苺ちゃんと蜜柑ちゃん、ポチとミケは、シェルターで寝る事。3部屋あるから狭くはない筈だ。」
「あらあ!?ちょっとお待ち下さい!私もですか!?」
優子がビシッと手を挙げて聞くと、真行寺はその手を優雅に取って宥める様に言った。
「優子ちゃんは最後の砦だ。宜しく頼むよ。」
「ううーん…。」
「ね?」
例の魅惑の微笑。
実は優子、昔から真行寺のこの魅惑の微笑に弱い。
「はい…。」
気がつくと、うんと言ってしまっているので、後で落ち込むらしいが。
「寅と悟君、しずかちゃん、俺、龍介、朱雀は2人組で交代で起きて、監視カメラを監視。異常があったら、直ぐに全員を起こす。
作戦本部は昨日に引き続き、そこのリビング。
仮眠を取るのは、寅の部屋。しずかちゃんは隣の客間にしよう。」
「あ、いいですよ。起こす時面倒ですから、一緒で。みんな小さい時から知ってる我が子の様なもんですから。お義父様は父ですし。」
「ではそうしようか。寝る時は寝る、起きる時は起きる。寝なきゃ3日も持たねえからな。意地でも仮眠は取る様に。」
加納家を正面から見た時、大まかに3つに分けられる。
先ず外側は、門の内側に駐車場と、金魚が泳ぐ池、枝垂れ桜。
左側は裏庭になっており、枯山水風の大きなスペースがある。
右側はその半分位の庭で、子供達が小さい頃に遊んだ箱ブランコや、小さなプラスチック製の滑り台やおうちがあり、これは未だに苺と蜜柑の遊び場になっている。
正面から見て真裏は、キッチンの勝手口があり、1.5メートル程度の幅の通路の様な庭がある。
ここはキッチンから出られ、しずかが気まぐれを起こして、ハーブを植え、殆どを枯らしてしまい、残ったローズゼラニウムだけが、何故か繁殖してしまい、ローズゼラニウムの素敵なお庭になっている。
隣とくっ付いているのは、このローズゼラニウムの庭だけで、両隣はどちらも少し離れて建ち、尚且つ、2メートルの塀に覆われている。
この塀は、一見、ちょっとおしゃれな石を積み上げた感じの塀だが、実際は、CーBDーTが中にたっぷりの厚さで入っており、石が崩れても、盾は残る様になっている。
勿論、家の外壁も全てその仕様。
窓は勿論、防弾ガラス。
雨戸もCーBDーT。
建物の中、左側3分の1は、手前から竜朗用の客間。これは仕事場でもある。続き間で、書斎、寝室とあり、小さな廊下を隔てて、風呂や洗面所、トイレがある。
真ん中は手前から、リビング、ダイニング、キッチンと続く。
シェルターは、この真ん中部分の下にあり、出入りは、リビングテーブルの下の階段から。
右側は手前から応接室に客間が3つ、トイレ2つとなっている。
客間の1つには、寅彦が暮らしている。
二階。
左側3分の1は、龍太郎の書斎及び研究室、元夫婦の寝室、二階にも風呂場とトイレ。
真ん中は龍介の部屋と苺と蜜柑の部屋にしずかの部屋。
右側は、以前は4つの部屋全てが客間だったが、今はしずかと龍彦の寝室、龍彦の書斎、暗室と3つを使っている。そしてトイレ2つ。
岡野が来たら、しずかの部屋を譲り、しずかの部屋は、右側ゾーンの余っている部屋に移す予定だ。
CーBDーTは、外からのセンサーも一切通さないので、こちらの中の様子は全く見えない筈だが、侵入して来るとしたら、竜朗の部屋などがある、左側の裏庭からというのが妥当だろう。
というのも、左側の隣は、今は空き家なのだ。
金魚を狙いに来る、山田さんちの猫というのは、右側の家から来ており、左側の家は持ち主の老夫婦が亡くなり、実質廃墟と化している。
防犯上危険なので、加納家で買い取ろうかと言っていた所だった。
正面の立派な木の門には監視カメラが2台も設置してあるし、この木の門もCーBDーTに木を被せているという優れもので、しかも、閉めると、中から30桁の暗証番号のロックがかかり、その番号は毎日変えるので、静かに侵入しようとするのは、実質不可能に近い。
加納家の正面の真ん前は夜中も車通りがある広めの通りである。
目立った事をやったら、直ぐに分かってしまうし、警察関係の防犯カメラも設置されている。
矢張り、正面からは厳しいという事で、左側からの侵入が妥当と思われた。
それでも襲撃を受けた場合の備えは、竜朗としずかが庭にリモートコントロールで撃てる機銃を埋め込んでいたり、屋根からも事が起これば、スイッチ1つで屋根から機銃が出て来て、滅多撃ちに出来るようにしてある。
従って、龍介は、
「お手伝いするでち!」
と、龍介の顔を見れば言う蜜柑が可哀想になって、思わず言ってしまったのだ。
「うちの左側の爺ちゃん部屋とかがある方から敵は来るだろう。だから、そこに集めて一気に敵を片付けられる様な物があったら便利かもしれない。」
蜜柑は嬉々として作業に入った。
全貌は教えてくれないが、アレとはつまり、左側の攻撃装置の事なのである。
しかも、苺を巻き込んで、ある細工も出来る様にしていた。
それは午前3時。丁度、しずかと寅彦が当番で起きている時だった。
「寅ちゃん…。なんかトラック来たわよ…。」
左隣の廃墟に、トラックが5台も入って行く。
「全部人間入ってたらやべえな…。あ、親父から緊急連絡…。しずかちゃん!これ!」
「ふおおおお…。こりゃ凄い…。長岡君、そんなに恨まれちゃってんの…?」
「そういう問題もあんのかね…。」
「みんな起こすわ。寅ちゃん、先に準備に入って。」
「了解。」




