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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
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一体何が…?

龍彦は岡野を空軍基地の医務室に運び入れ、治療を頼み、竜朗に頭を下げた。


「申し訳ありません…。残らせて頂いていいですか…。」


竜朗は笑って、龍彦の肩を叩いた。


「そうしてやってくんな。酷え生い立ちの上、俺たちを守ってくれたたっちゃんを守ってくれたんだ。俺たちを守ってくれたも同じだよ。医者脅してでも何でもして、しっかり治して貰ってくれ。」


「有難うございます。」


「ーうん…。本とに、酷え事しやがる…。いくら酷え生活させられてたとは言え、目の前で親から買い取って、兵隊にする訓練だけさせんなんてな…。

たっちゃんをあれだけ信用して懐いてんだ。たっちゃんが付いててやったら、きっと良くなるよ。」


「はい…。」


「岡野の手術が終わったら、連絡くれよ?」


「はい。」


岡野の状態は悪く、五分五分だと言われた。

龍彦は祈るしかない状態で、竜朗達を見送り、手術室の前で待った。




「何いい!?風間あ!なんで報告しねえんだあ!」


飛行機に乗るなり来た風間からの連絡に、竜朗は真っ青になって怒鳴った。


「も、申し訳ありません!しずかさんと龍介さんが、向こうが無事終わるまで、絶対報告しないでくれって仰るもんですからああ!」


「ああ、もう!そんでっ!?みんな無事なんだろうな!?」


「はい!皆さんお怪我も無く、ご無事です!」


電話の様子から何かあったと察した龍太郎が、竜朗を突く様に、説明を求めた。

佳吾も真っ青になって、無言で心配している。


話し終えて、電話を切った竜朗が、汗を拭きながら説明し出した。


「ー龍の予想通りっつーか…。うちが…。」


「何!?どうしたの!?襲撃!?みんな無事なの!?」


せっつく龍太郎に沈痛な面持ちで答える竜朗。


「ーああ、全員無事らしいんだが…、うちが半分無くなってるらしい…。」


全員が固まった。

夏目でさえ固まっている。

そして、全員の脳裏には、ある人物が不敵な笑みを浮かべてVサインをしている姿が…。




竜朗達がイギリスに発ち、初日を乗り越えた翌日の朝の事だった。

いつも和臣の護衛に付いている自衛官が5人全て休み、代わりの男が5人入った。

全員腹をくだし、トイレから出られないらしい。


「胃腸炎流行ってますから…。申し訳ありません。」


確かに、陸自の間では、今、胃腸炎は流行ってはいる。

しかし、龍介達にはピンと来た。

彼らは下剤を盛られたのだ。

つまり、いつもの護衛してくれている彼らは信用していいという事になるが、問題はこいつらである。


「ーいや。慣れてる人間じゃないと困る。君達は帰っていい。」


真行寺が言うと、隊長の梶井と名乗った自衛官は困った顔をした。


「それでは我々が絞られます。」


「君の上司には俺から言っておく。帰ってくれ。長岡君の護衛はこっちでやる。」


「いや、しかし…。」


真行寺は未だに女の子が引っかかりそうな魅惑の微笑を浮かべると、梶井にズイと近付いて、梶井の階級章を手に取った。


「曹長かあ…。君、俺が誰だか知ってるんだよねえ…。」


梶井の顔色が急激に悪くなった。


「も…元国防長官であります!」


「そうなんだよ。今の統合幕僚長は飲み友達でねえ…。」


「は…はいっ!」


「因みに今の防衛相は、リークしたら一発でアウトな秘密を俺に握られてる。だから、なんでも言う事聞いてくれるんだよなあ。」


「は…。」


梶井は返事も出来なくなってしまった。


「俺の言う事聞いてくれないとなると、もう自衛隊じゃ生きて行けなくなるかもね。でも、天下りも厳しいね。」


「しっ、しっ、失礼致しました!」


梶井達を追い払い、真行寺が振り返ると、龍介が既に寅彦に今来た自衛官に付いて、調べさせていた。


「どう?寅。」


「梶井は微妙です。龍がセオリー通りに調べても何も出ない様にしてるだろうって言うので、通話やSNSの個人的なやりとりを洗ってみました。

梶井が連れて来た4人は安保改正賛成。自衛官であるという身分は隠していますが、中韓、ロシアはぶっ潰せと、何かある度に威勢のいい事呟いてますね。

ツイッターのグループがあって、4人と他にも合わせて10人からなる、そういった過激な発言をしているグループです。ただ、これ、兵卒クラスなんです。梶井の様な階級職の人間はまた別にあるのかもしれないし、用心して、ネット上のやり取りはしていないのかも。」


「有難う。でも、今の感触だと、梶井は確かに微妙だな。俺に脅されて引き下がったんじゃ、Xに殺されちまう。」


「だね。」


「寅、龍介、よくやった。ではしずかちゃんと優子ちゃん、佐々木君はここに残って。俺、龍介、朱雀、寅で護衛だ。」


和臣は景虎を目に入れて泳がせる位に可愛がっている。栞や景虎を人質にという可能性は無いわけでは無い。

全員頷いたが、亀一だけは、不服そうに真行寺の黒の麻のシャツの袖を引っ張った。


「グランパ、何故俺は護衛の頭数に入ってないんです?」


「きいっちゃん。万が一、俺たちが仕損じて、長岡君や龍太郎君が亡くなる様な事になったら、君にかかってるんだ。つまり、君も長岡君達同様、護衛される立場である。」


「そんな…!龍達だけ危険な目に遭わせるなんて出来ません!」


龍介が亀一の肩を掴んで笑った。


「きいっちゃんは、んな事気にすんな。あんた達の代わりは居ない。」


「お前らだって、代わりなんか居ねえよ!」


「俺たちがまんまと殺られるタマかよ。いいからほら、さっさと行く。」


和臣は公用車は使わない。

安全も考え、自分で管理し、防弾加工を施した方が安心だからだ。

和臣の車を総出で細工が無いか点検し、和臣のAMGには真行寺が乗り、運転。

同様に防弾加工を施してある真行寺のカイエンには龍介が運転で、亀一と朱雀が乗り込む。

龍介は誕生日のその日に、試験場へ行って、実技も試験も一発合格で免許を取ってきていた。

寅彦もそうしており、誕生日が遅い朱雀と悟は未だだが、もう取れるだけの技術は習得している。

亀一は忙しくて試験場に行く時間が取れず、出遅れたが、この間自衛隊内で漸く免許取得に至った。


「せめてドライバー位させてくれりゃいいのに。」


後部座席でボヤく亀一を龍介が笑った。


「ドライバーは、いの一番に狙うってのがセオリーだろ?何言ってんだ。まあ、俺たちの予測では蔵の行き帰りは大丈夫だろうってなってるから、そう気を揉むなよ。」


「なんで?米軍キャンプの直ぐ横の道通るから?」


「そ。米軍キャンプ沿いの道しか通らないし、米軍キャンプ入って、蔵に入るから。」


「蔵…。変わり者は多いが、居るのかね…。安藤側…。」


「この間の河本達で終わりだといいんだけどな。今、加来さんがさっき寅がやってくれた方式で、調べてくれてる。もっと個人的なやり取りも全て、そして深くだから、結構信憑性は高いんじゃねえかな。」


「しかし、寅まで戻って来ちまって…。申し訳ねえな…。」


寅彦は話を聞くなり、一緒に帰るという鸞を置いて、悟と一緒に帰国して来てくれた。

京極も直ぐに帰れと言ってくれたそうだ。


「気にしねえの。はい着くよ〜。朱雀、ちょっと気合入れていこう。」


「了解、親分。」


ずっこける龍介。

どうも朱雀は緊張してしまうと、組長でなく、親分と言ってしまうらしい。


「あれ?ごめん。また親分て言っちゃった?」


「バッチリ…。んな、緊張せんでいい…。」


「ごめんね、組長。」


地下の蔵と地続きになっている、駐車場に到着。

龍介達は周辺に目を配らせつつ、寅彦のチェックしている監視カメラとセンサーの結果を待つ。


「他に人間は居ません。人体サーモ、火薬サーモ、共に反応無し。」


「よし、行こう。」


真行寺の掛け声で、車から降りる。

勿論、和臣と亀一は最後に、護衛しながら降ろす。

全員、防弾ベストに防弾ヘルメットを着用し、和臣と亀一を囲んで進みだした。




「しずかさん、さっきからこの車、ずっと停まってます。」


加納家の周囲に設置してある監視カメラを見ていた悟がそう言って、しずかを呼んだ。

しずかは景虎を抱いていたので、栞に返し、一緒に覗いた。


「あら。素性は何かしら?」


「盗難車ですね。持ち主は割れません。運転手と助手席に1人。後部座席には2人いる様ですが、ガラスが真っ黒なんで見えませんが、運転手と助手席の男は、調べた所、戸籍がありません。」


「ーイギリスにも行ってるXの配下ね…。お手柄。悟君。」


「あ、有難うございます。でも、こいつら、警察の巡回も、ものの見事に交わしています。どうしますか。」


「ーこっちの様子監視して、どっかに穴はないかと探ってるんでしょうね…。自衛隊の安藤サイドも送り返してしまったし。イギリスも失敗してる。焦ってるはず…。逆に仕掛けるという手もありだけど…。」


横で珍しく大人しくしていた蜜柑がニヤリと笑って、しずかに言った。


「だったら、アレを使うんでちよ…。おかたん…。」


「蜜柑…。そもそも、おかたんもにいにも、アレとやらの全貌が掴めてないんだけど、後で爺ちゃんが泣く様な事には…。」


蜜柑は身体までクルッと向きを変え、顔を背けた。


「それは知らないでち!」


「し…知らないじゃあ困るのよ?蜜柑?」


「ま、ある事はお伝えしとくでち。」


蜜柑はそれだけ捨て台詞の様に言うと、部屋に上がって行ってしまった。


「でちになってるし…。怪しいなあ…。」


悟が不思議そうな顔をした。


「でちになってると、怪しいんですか?」


「そうなの。小さい時の癖のでちが付く時は、大抵、ものすごい悪企みしてる時なのよ…。」


「そうなんですか…。」


「仕掛けるかどうかは、夕方次第かな。あの人達戻って来たら、作戦会議ね。」


「はい。」




龍彦は岡野の病室で岡野の手を握り、ずっと見守っていた。

今夜、意識が戻れば、助かると言われている。

必死に祈って、その時を待っていると、岡野が目を開けた。


「気付いた!」


龍彦はベットのベルで看護士に知らせながら、岡野を見て、嬉しそうに笑った。

でも、目からは涙が落ちている。

岡野は照れくさそうに笑った。


「ほら。龍介からだ。」


龍彦は岡野の目の前に携帯をかざし、龍介からのメールを見せた。


『兄貴、待ってるぜ!早く元気になれ!龍介』


『お母さんも待ってるわよん。勿論双子も。にいにがもう1人と、手ぐすね引いて待ってます。しずか。』


たったそれだけ。

なのに、岡野は、涙が止まらなくなる程嬉しかった。


「な?早く元気になって、帰ろう。お前の家族が待ってる。」


「うん…。うん…。」


「但し、暫く仮住いの家らしいけどな。はははは。」


岡野の涙が止まってしまった。


「え…。まさか、大鳥居達が…。」


「いや…。うーん…。まあ…。大丈夫だろう…。」


「えっ!?本当か!?無事なんだろうな、みんな!」


「いや、死人はこっちには出てねえんだが…。ううーん…。加納さん泣いてんだろうな…。いくら一佐でも泣くだろうな…。」


「ええっ!?何!?」


「はははは…。」


スパイの中のスパイと言われた男が悲しげな空笑い…。

一体、何が起きたのか…。












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