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龍介くんの日常 2  作者: 桐生 初
113/174

最終日

龍彦達が出た一時間後、岡野達の迎えが図書館から来た。


扉が開き、足かせを外された途端、岡野は素早く身を屈ませ、迎えの男に体当たりを食らわし、かなり回復している御本家の男に駆け寄った。


「止まれ!撃つぞ!」


迎えの男が叫び、銃を構えたが、岡野は怯まず、早口で男に言った。


「おい!俺は戸籍もらって、自由の身になるんだ!そしたら先ずあんたが計画漏らしたって、頭領に言うぜ!?」


図書館の男性が岡野を拘束しようとしたのを、青山が止めた。

岡野は必死という形容が相応しい、真剣な目をしていた。朝の会話もあるし、龍彦を信頼仕切った、まるで父親と慕う様な目で見ていたのも、青山は見ている。

逃げようとか、何か企んでいるようには思えなかったのだ。


「待って下さい。ちょっとだけ待ってあげて…。」


驚いた様な、怯えた様な目をした御本家の中年男に、岡野は更に言った。


「ファイヤードラゴンは優秀だ!お前らがどんな計画を練ろうが、命に代えて絶対に阻止する!そして俺が頭領に、灯篭良純が喋ったって言う!あんたどうなる!?あんたの子供や女房は!?頭領は情け容赦の無え男だ!この間だって、裏切ろうとしたらしいってだけで、鳥居の分家根絶やしにしたじゃねえか!」


話の流れから行くと、頭領とは、大鳥居大輔の事だろう。


「な…何が望みだ…。」


灯篭良純と呼ばれた男が、震える声で聞いた。


「それでも、計画は知りたい!犠牲は少なくしてえからな!今回のここだけの事じゃない!全部喋るんだ!そしたら、それはしないでおいてやる!」


「わ…分かった…。話すから…。」


「全部だぞ!全部!知ってる事全部だ!」


「さ…、最後の計画は、BD-58971-D51を使う。

あいつらには、局長とデビット・ラングという凄腕スナイパーに、ファイヤードラゴンもスナイパー並みのスキルだから…。

だから残りの13人の内、6人でビルの屋上から立て続けにBD-58971-D51をぶっ放す。残りの7人は地上部隊だ…。ランチャー攻撃が終わったら、合流して止めをさす…。」


「どこに配置してんだ、構えてる奴らは。」


「それは分からない…。状況に応じて個々の判断に任されている…。止めるなら急いだ方がいい…。今日の会議は1時間で、終了予定なんだろ…。

まぁ、もう間に合わんかもしれんがな…。」


BD-58971-D51で撃たれたら、いくら何層にも防弾を施した警護車両でも一発でオシャカになる。

竜朗と龍太郎の身の危険は勿論、守ろうとする龍彦達の命は風前の灯火に等しい。


青山は、急いで龍彦に連絡を取り、図書館から来た人間も応援に向かおうとすると、岡野が言った。


「俺も連れてってくれ!あんたら並みの訓練は受けてる!絶対役に立つ!あいつらの考える事も、ある程度分かる!」


「しかし…。」


真行寺と連絡していた青山が言った。


「連れてってあげてくれませんか…。本部長の許可も下りましたし、人手も足りてませんから…。」


図書館から来た第二中隊長の武部は、渋々頷いた。




龍彦は早口で無線で指示を飛ばした。


「奴らが狙うとしたら、空軍基地の手前1キロの倉庫街の大通りだ。ここなら見晴らしもいいし、車も少ない。そこの屋上を重点的に探せ。

運転は俺、夏目、堺に代わる。

耳を澄ませ。

BD-68971-D51は、発射された時に、ヒュンと一際高い音がする。その音聞いたら、対向車にぶち当たってもいいから、避けろ。

絶対止まるな。空軍基地まで逃げ切れ。」


龍彦の指令により、車を走らせながら運転を代わる。




その頃、武部は岡野と監視を兼ねて組み、指示された屋上を探していた。

情報官が監視カメラや、カメラ付きのラジコン飛行機を飛ばして、まばたきもせずに敵の姿を探すが、一向に見つからない。


「スタンバイして構えてたら、監視カメラだけじゃなく、ドラゴンや局長に目ざとく見つけられる。昨日一昨日でそれは学習してる筈だ。

だとしたら、狙いは少々ぶれるかもしれないが、屋上の出入り口に潜んで、来たって報告を受けたら飛び出して撃つ。多分、その作戦だ。だから、ビルの中から探した方がいい。」


岡野はそう言いながら、もう動き始めていた。

真剣に、焦りつつも、身を潜めながら的確に探して行く様子は、確かに訓練を受けている事を感じさせるし、裏は無いと、武部にも思われた。




猛スピードで車を走らせている最中、ヒュンという甲高い音を3人同時に捉えた。


「来るぞ!」


龍彦の掛け声と同時に、3人は神業の様な運転テクニックで、殆どカンで、弾を避けた。

ドカーンと激しい爆発音が後ろの路上でする。

間髪を容れずにまた甲高い音。

再び避ける3人。




岡野は漸く1人を捕えていた。

武部もいるので、捕獲には苦労しなかったが、男はまた青酸カプセルを噛もうとした。

もう、歯の奥に仕込んであるらしい。

岡野が指を突っ込んでそれをさせまいとしたが、男は歯を食いしばって抵抗し、岡野の指からは血が流れている。


「離せ!食い千切られるぞ!」


武部が止めると、岡野は叫んだ。


「こいつ、御本家なんだ!頭領のナンバー2だ!さっきの灯篭の知らない事知ってんだよ!」


「しかし!」


幸い、岡野の指が食い千切られる前に、男は意地で青酸カプセルを噛み砕き、こと切れた。


「クソッ!」


悔しそうな岡野は、それでも直ぐに動こうとした。

その辺りも、訓練の徹底ぶりが窺える。

こういう時、直ぐに次の行動に移せなければ、話にならない。

2人が次のビルに向かっている最中、デビットの無線が全員に入った。


「1人確保よ!死んじゃったけど!」


岡野は更に走るスピードを上げながら言った。


「あと2人だ!」


屋上へ出る扉が開いているビルに到着した岡野と武部は、丁度男が走ってBD-58971-D51を構えようとしている所に出くわした。

直ぐさま駆け寄る岡野と武部。

岡野が寸分早く、男にタックルをかわし、倒れさせた時、男は引き金を引いてしまった。

弾は狙いを大幅に外し、3人がいるビルの屋上に当たった。

屋上は3分の1が倒壊。

男と岡野はビルから落ちた。


「岡野〜!」


武部が駆け寄ると、岡野は右手で壊れかけたビルの縁を掴んでいた。

武部がすかさずその手を掴み、急いで引き上げる時に、下を見ると、BD-58971-D51を撃った男は下に落ちて死んでいた。


その瞬間、最後のBD-58971-D51が放たれた。

なんとか逃げ切る龍彦達だったが、その放たれた方向は、岡野達が居るビルの真向かいであった為、弾は岡野達が居るビルに当たり、下からも上からも崩れていく形になった。


「飛び降りた方がいい!あそこに!」


岡野は機転も利くらしく、下にある、ゴミが一杯入った、ゴミ箱を指差した。


「そうしよう!」


武部とゴミ箱に飛び降りると、今度は銃撃戦の音が聞こえ始めた。

ランチャー攻撃が終わったら、次は7人とランチャー部隊が合流しての地上攻撃となるという話だったから、それが始まったのだ。

岡野は迷わず、音の方向に走り出した。


「待て!」


武部が呼び止める。

振り返った岡野が目にしたのは、差し出された銃だった。


「生身で行ったら、真行寺さんはお前まで庇って危ねえ。持ってけ。」


「ー有難う…。」


岡野は真面目な顔で礼を言ってから受け取った。

信用して貰えたのが嬉しかったのだと、武部は感じた。

龍彦達は、車両を囲まれる様にぶつけられて、退避路を絶たれた状態での銃撃戦になっていた。

車を盾にして、竜朗達を守りつつ応戦しているが、気掛かりなのは、BD-58971-D51を持っている奴だ。

こんな至近距離で撃ったら、向こうも無傷では済まないが、元より死を覚悟して挑んで来ている連中である。


「夏目君、あの奥から撃って来てる奴3人。俺、アレ始末して、ランチャー回収して来る。援護して。」


「真行寺さん、いくらあなたが見かけによらない怪力だって、あのランチャーは20キロあるんですよ。3つも持って走れないでしょ。俺も行きます。」


「いやあ…。それはいかんな。」


「いえ。行きます。」


龍彦はニヤリと笑った夏目と目を合わせ、苦笑して頷いた。

2人は軽く佳吾に耳打ちするなり、自動小銃を乱射しながら走り出した。

当然、一斉攻撃を受ける。

堺、佳吾達に並び、岡野達も必死に援護する。

しかし、敵の中を抜けて、ランチャーを持つ男達を撃ちに行き、尚且つ、そのランチャーを回収して来るのだ。

危険度は極めて高い。

正に決死の覚悟である。

岡野は見るからに、ハラハラとした様子で、2人を見ていた。

2人は佳吾とデビットの的確な射撃に助けられつつも、弾丸の雨の中、自動小銃を撃ちながら走っている。

しかし、2人が飛び出した事で、敵側に隙が出来たのも、また事実だった。

こっちが倒す人数は格段に上がり、残り1人になったものの、ランチャー部隊はまだ先。

しかも、3人居て、2人を只管狙い撃ちして来ているし、向こうは用意のいい事に、防弾の盾を使っている。

こちらの弾はなかなか当たらない。


「夏目君、飛んでみよう。」


夏目は苦笑して、ハイと返事をした。

2人は銃を撃つ手を緩める事無く、更に加速すると、助走をつけるが如く防弾盾を飛び越え、着地しながら、各自1人づつ、顎を蹴り上げ、残りの1人を直ぐさま撃った。

倒れている2人に止めを刺し、ランチャーを背負って戻る時には、最後の1人も倒れていた。

やっと終わった、誰もがそう思った時だった。


「真行寺!後ろ!」


あれ程出て来るなと言ったのに、いつの間にやら銃撃戦に加わっていた龍太郎が叫ぶと同時に、銃撃戦の最中、死んで倒れたと思った敵の1人が最期の力で、龍彦に向けて撃った。

避ける暇などなかった。

誰もが龍彦が撃たれると思ったその瞬間、龍彦の後ろに飛び出して来て、庇う形で倒れたのは岡野だった。

夏目が岡野を撃った男を撃ち殺し、龍彦は岡野を抱き起こした。


「なんで!?駄目だろ!出てきちゃあ!」


岡野はいつもの寂しげな笑みを浮かべた。


「ー俺を信用して…、人間扱いしてくれたの…、あんたが初めてだったからさ…。」


「馬鹿あ!戸籍取って、学校行くんだろ!?お前の頭なら、直ぐ資格取って、大学行けるよ!」


「ーでも、俺さ…。人殺してんだ…。命令でだけど…。自殺に見せかけてさ…。安藤の秘密握ってる奴とか…。そいつの方がいい奴だったし、今思うと、日本の為になったのに…。1人や2人じゃない…。もう7人は殺してる…。だから…。」


「だから幸せになっちゃいけないなんて思うんじゃない!それはお前のせいじゃねえだろうが!」


「そうでもさ…。その人達には、家族が居て…。今までそんな事考えなかったけど、あんたや息子の事知ってから、考える様になった…。」


「ーお前が嫌じゃなかったら、戸籍取る時に俺の養子にって思ってる…。どうだ…。」


龍彦が目に涙を一杯に浮かべて、微笑んでそう言うと、岡野は初めて寂しげでは無く、幸せそうに笑った。


「うん…。あんたの息子…。なってみてえな…。」


「だから死ぬな!死ぬなよ!?命令だからな!?」


「うん…。」


岡野は目を閉じた。













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